アセトアミノフェンで社会的痛みに伴う社交不安が低下 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクトだけ読んだ、社交不安(障害)に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが最新の研究成果です。

なぜ、社交不安(障害)なのかというと、場面緘黙児(選択性緘黙児)は社交不安(社会不安)が高いか、もしくは社交不安障害(社会不安障害,社交不安症)を併存していることが多いという知見があるからです。また、米国精神医学会(APA)が発行するDSM-5(精神疾患の分類と診断の手引き第5版)では場面緘黙症が不安障害(不安症)になりました。

今回は、解熱鎮痛薬のアセトアミノフェンで社会的排斥による社会的痛みが低下し、社交不安が弱まるという研究です。

なお、社交不安(障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事1⇒コンピューター上のやり取りでマインドフルネスは逆効果
最近の記事2⇒自己理解は他者理解を深める
↑「自己理解は他者理解を深める」という研究は、実は自己理解が他者理解を深めたという解釈だけでなく、自己理解と他者理解に共通する第三の潜在変数「人間理解」の向上効果と解釈することも可能ですが、リンク先の記事ではあえてふれていません。ただ、それだけだと自己理解の内、特にネガティブな自己の側面を理解することが高次の心の理論の成績向上と関連するという結果を説明できません。

Fung, K., & Alden, L. E. (2017). Once hurt, twice shy: Social pain contributes to social anxiety. Emotion, 17(2), 231-239. doi:10.1037/emo0000223.

カナダのブリティッシュコロンビア大学バンクーバー校心理学研究室の研究者2名による共著論文です。

〇序論と目的

社会的排斥は社交不安の発達と関連しています。

参考記事⇒注意バイアスでCyberballによる社会的排斥で不安が高まりやすくなる

しかし、社会的排斥と社交不安が関連するメカニズムは明らかでありません。そこで、本研究では排斥後の社会的痛みが、その後の社交不安の発達を促進するかどうかを検証しました。

〇実験1

研究1(Study 1)では大学生を参加者として、サイバーボール実験を行いました。参加者は、サイバーボールでの社会的状況を2種類、2日間の間隔をあけて経験しました。

*サイバーボールとは、コンピュータ上でキャッチボールをする課題のことです。サイバーボール課題ではキャッチボールを3人以上でするので、ボールがこないことがあります。このボールがこないことが多い状況が社会的排斥経験になります。反対に社会的内包とは、ボールがくることが多いことです。

その結果、初めの状況で社会的内包を受けた大学生と比較して、社会的排斥を受けた大学生は2回目の状況の前と最中で高い社交不安を示しました。この効果は初めの社会的痛みの強さによって完全に媒介されていました。

〇実験2

研究2(Study 2)では、全ての参加者が初めに社会的排斥を受けました。参加者を、アセトアミノフェン(カロナール・パラセタモール)を服用する群とプラセボシュガーを摂取する群にランダムに割り当てました。二重盲検法を用いました。アセトアミノフェンとは、解熱鎮痛薬のことです。

その結果、アセトアミノフェン服用群は2回目のサイバーボール課題前と最中の社交不安が低くなりました。この効果のおよそ半分は社会的痛みの減少によって生じました。アセトアミノフェンの即時的効果は、社交不安よりも社会的痛み特異的なものでした。

〇コメント

本研究は、少なくとも社会的排斥からくる社交不安は社会的痛みによって媒介されており、解熱鎮痛薬のアセトアミノフェン服用によって緩和できるということを示唆しています。

なぜ、解熱鎮痛剤のアセトアミノフェンで社会的痛み、ひいては社交不安が低下するのか?アセトアミノフェンの鎮痛作用は中枢神経系への効果で、社会的排斥に伴う社会的痛みや身体的痛みの感情要素を担う領域(背側前帯状皮質、前島)の活動が低下するとされています(DeWall et al., 2010)。要するに、社会的排斥に伴う社会的痛みと身体的痛みに伴う感情とでは共通して賦活する脳部位が存在し、その活動を下げることでアセトアミノフェンは社会的痛みを弱めると考えられるわけです。

ただ、サイバーボールによる社会的排斥や恋人との望まない破局(関係崩壊)で、疼痛に関わる脳領域(pain matrix)と同じ領域が必ずしも賦活しないというメタ解析研究もあります(Cacioppo et al., 2013)。

*pain matrixとは、一次体性感覚野、二次体性感覚野、島皮質、背側前帯状皮質、視床、中脳中心灰白質等の領域のことです。

また、社会的排斥での脳活動には年齢による違いがあります。脳イメージング研究のメタ分析(Vijayakumar et al., 2017)によれば、前青年期から後期青年期の7~18歳では腹外側前頭前野が、後期青年期からヤングアダルトにかけては内側前頭前野が、活性化しやすいそうです。 特に右腹側線条体の社会的排斥への関りは7~18歳でしか生じません。しかし、身体的痛みに伴う脳活動に年齢差があるかどうかは私は知りません。

コンピュータプログラムによる非意図的な援助よりも、匿名のパートナーからの意図的援助(身体的痛みの分かち合い)の方が、痛みを弱く感じ、第一次感覚野や前島の活動が低くなるという別の研究成果(Yu et al., 2017)は、社会的排斥を受けた人への他者からの支援でも社会的痛みやそれに関わる脳活動を弱めるかどうかという興味を喚起します。ちなみに、この研究によれば、身体的痛みの分かち合いを意図的にした他者に対して、参加者は金銭でお返しをし、対人的親密性を強く感じたそうです。相手が援助してくれると決めた時には報酬処理に関わる腹内側前頭前野の活動が高く、腹内側前頭前野の活動が互恵的行動を、後帯状皮質の活動が感謝を予測したとのことです。さらに、中隔/視床下部という親和感情や社会的絆、価値に関わる脳構造の活動で、非意図的援助条件と意図的援助条件の識別ができたようです。

ところで、どのような人が社会的排斥を受けやすいのでしょうか?Van der Lee et al.(in press)によると、無能な人よりも不道徳な人の方が集団とは違うと感じられ、排斥されやすいそうで、そのメカニズムは不道徳な人は集団にとって脅威と感じられ、排斥されやすいことにあるようです。不道徳な人はアセトアミノフェンを内服すると良いかもしれませんね。

ただ、妊娠18週、32週目のアセトアミノフェンの使用は出産した子供が7歳になった時の素行問題、多動性症状のリスク、妊娠32週目のアセトアミノフェンの使用は子供の情動症状、子どもの強さと困難さアンケート総合得点の高さのリスクであるとされます(Stergiakouli et al., 2016)。妊娠中のアセトアミノフェン使用は子供の多動性/衝動性、コナーズ幼児用持続的注意集中力検査(Conner’s Kiddie Continuous Performance Test,K-CPT)でのコミッションエラーの多さ、注意深さ(detectability)の低さ、男児だと自閉症スペクトラム症状が重いことと関連するとの結果もあります(Avella-Garcia et al., 2016)。 さらに、妊娠中に発熱を経験せずアセトアミノフェンも服用しなかった母親の子供と比較して、発熱がなくてもアセトアミノフェンを服用した母親の子供は平均動作性IQが3.4ポイント低く(95%信頼区間: 0.30, 6.6)、この効果は妊娠第一期や妊娠第二期に強かったとの報告もあります(Liew et al., 2016)。ただ、アセトアミノフェンを服用しなくても妊娠中に発熱を経験した母親のもとに生まれた子供は平均動作性IQが4.3ポイント低かったようですが(95%信頼区間: 0.30, 8.3)、アセトアミノフェンで発熱に対処すると、IQは低くならなかったようです。

鎮痛効果があるのはアセトアミノフェンだけではありません。アルコールにも鎮痛効果があるとされます。たとえば、侵害刺激による痛覚にアルコールが及ぼす影響を実験的に検証した研究を集めてメタ分析した論文(Thompson et al., 2017)によれば、少なくとも血中アルコール濃度が約0.08%ならば、痛覚閾値が少し上昇し、痛みをそんなに強く感じなくなり、血中アルコール濃度が高いほど、痛覚閾値が高く疼痛強度が低下します(用量依存性)。したがって、アルコールでも社会的痛みの低減効果があるのかどうか気になるところです。

関連記事⇒飲酒後2~4時間以内に社交不安が低下する

関連記事⇒ほろ酔いで異性からアイコンタクトをもらう時間が増加する

〇引用文献(アブストラクトだけ読みました)
Avella-Garcia, C. B., Julvez, J., Fortuny, J., Rebordosa, C., García-Esteban, R., Galán, I. R., Tardón, A., Rodríguez-Bernal, C. L., Iñiguez, C., Andiarena, A., Santa-Marina, L., & Sunyer, J. (2016). Acetaminophen use in pregnancy and neurodevelopment: attention function and autism spectrum symptoms. International Journal of Epidemiology, 45(6), 1987-1996. doi:10.1093/ije/dyw115.

Cacioppo, S., Frum, C., Asp, E., Weiss, R. M., Lewis, J. W., & Cacioppo, J. T. (2013). A quantitative meta-analysis of functional imaging studies of social rejection. Scientific Reports, 3:2027. doi:10.1038/srep02027.

DeWall, C. N., MacDonald, G., Webster, G. D., Masten, C. L., Baumeister, R. F., Powell, C., Combs, D., Schurtz, D. R., Stillman, T. F., Tice, D. M., & Eisenberger, N. I. (2010). Acetaminophen reduces social pain: Behavioral and neural evidence. Psychological Science, 21(7), 931-937. doi:10.1177/0956797610374741/.

Liew, Z., Ritz, B., Virk, J., Arah, O. A., & Olsen, J. (2016). Prenatal use of acetaminophen and child IQ: a Danish cohort study. Epidemiology, 27(6), 912-918. doi: 10.1097/EDE.0000000000000540.

Stergiakouli, E., Thapar, A., & Smith, G. D. (2016). Association of acetaminophen use during pregnancy with behavioral problems in childhood: evidence against confounding. JAMA Pediatrics, 170(10), 964-970. doi:10.1001/jamapediatrics.2016.1775.

Thompson, T., Oram, C., Correll, C. U., Tsermentseli, S., & Stubbs, B. (2017). Analgesic effects of alcohol: A systematic review and meta-analysis of controlled experimental studies in healthy participants. Journal of Pain, 18(5), 499-510. doi:10.1016/j.jpain.2016.11.009.

Van der Lee, R., Ellemers, N., Scheepers, D., & Rutjens, B. T. (in press). In or Out? How the perceived morality (vs. competence) of prospective group members affects acceptance and rejection. European Journal of Social Psychology, DOI:10.1002/ejsp.2269.

Vijayakumar, N., Cheng, T. W., & Pfeifer, J. H. (2017). Neural correlates of social exclusion across ages: A coordinate-based meta-analysis of functional MRI studies. NeuroImage, 153, 359-368. doi:10.1016/j.neuroimage.2017.02.050.

Yu, H., Cai, Q., Shen, B., Gao, X., & Zhou, X. (2017). Neural substrates and social consequences of interpersonal gratitude: Intention matters. Emotion, 17(4), 589-601. doi:10.1037/emo0000258.

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ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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