行動抑制の持続要因 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

なじみのない人や物に対して不安を抱き、容易に近づかない傾向のことを行動抑制といいます。詳しくは『行動抑制の概念 by Jerome Kagan』を参照してください。

今回は行動抑制の持続要因を調べた結果、ある環境因子と脳活動が重要であることが明らかになった研究です。抑制気質をほったらかしにしておくと社会(社交)不安障害やうつ病になりやすいといわれており、持続因子の特定は大切です。

Fox, N. A., Henderson, H. A., Rubin, K. H., Calkins, S. D., & Schmidt, L. A. (2001). Continuity and discontinuity of behavioral inhibition and exuberance: psychophysiological and behavioral influences across the first four years of life. Child Development, 72, 1-21.

★概要

乳児が4ヶ月齢の時に気質を調査(スクリーニング)し、4歳まで追跡した研究です。4ヶ月齢でのスクリーニングでは新奇な音や物に対して手足を動かす運動反応や笑う、泣くといった感情反応を測っています。その結果、①運動反応が大きく、ポジティブな感情を示す<ポジティブ>群②運動反応が大きく、ネガティブな感情を示す<ネガティブ>群③運動反応も感情反応も小さい<低反応>群に分けられました。

1歳2ヶ月と2歳の時に行動抑制の指標として実験室での様子(ロボットやピエロに扮した実験者に対する反応など)を観察しています。脳波(EEG)はビンゴ抽選器などで注意を促している時に測定しました。

4歳でも行動観察を実施しているのですが、行動抑制ではなく、behavioral reticence(直訳:行動上の無口)という用語を用いています。これは年長児で行動抑制が発展したものです。なぜ行動抑制以外の言葉を使うのかという理由が本論文の序論で述べられています。それによれば、年齢による抑制行動の違いが用語の選択に反映しているそうです。具体的に申しますと、比較的幼い頃は新奇な物や状況に対する反応が行動抑制の指標となるのに対して、成長するとそれだけでは行動抑制が現れず、見知らぬ他者との積極的な相互作用の程度で抑制気質が測られるからということです。

今回は、他の子との自由遊び中、なにもせず傍観していることをbehavioral reticence(行動上の無口)の指標としました。まるで、緘動ですね…。

結果、ネガティブ群(4ヶ月齢)はその他の2群に比べて行動抑制(1歳2ヶ月)が高く、ポジティブ群(4ヶ月齢)は他の2群と比べて行動抑制(2歳)が低いことが分かりました。ただし、4ヶ月齢での気質と4歳時点での行動抑制との関連は小さい結果となりました。

…と、ここまでは前半戦でまだまだ論文は続きます。研究者は行動抑制が高いままの子とそこから脱する子がいることに気づき、さらなる分析をしています。

14・24ヶ月齢~4歳の間で行動抑制が持続した幼児は前頭葉において右半球優位の脳波(9・14・48ヶ月)を示していました。対照的に、同期間中に抑制気質から脱した子は前頭葉左半球優位の脳波パターンでした(14・48ヶ月)。ちなみに14ヶ月から4歳まで行動抑制的ではなく、むしろ社交的であり続けた子も前頭葉で左半球有意の活動(9ヶ月)がありました。

行動抑制から脱した子は持続した子に比べて2歳になるまでに両親以外の第3者に他の子とともに面倒をみてもらっていました。しかし、4ヶ月齢時点では気質に差が認められませんでした。

母親に様々な質問紙に様々なタイミングで回答してもらった結果、行動抑制持続群と脱出群の間に行動や精神的差異が現れるのは9ヶ月齢から14ヶ月齢の間からとの結果も得られました。

一方、4ヶ月齢の時点でポジティブな情動を示していた子が後に行動抑制的になることは滅多になかったことも示されています。つまり、行動抑制から脱する子が少なからず存在するのに対し、ポジティブな気質から行動抑制になる子は稀であるといえます。

●要約

1.新奇な音や物に対する反応気質(4ヶ月)→物や人、状況に対する行動抑制(2歳)→他者との交流時のbehavioral reticence (4歳)と抑制気質が連続する。

2.14・24ヶ月齢~4歳の間、行動抑制が持続する要因として右前頭葉の過活動と2歳までに両親以外からケアをされることが少ないことがある。

★コメント

4ヶ月齢での気質と4歳時点での行動抑制との関連は小さいとの結果は序論の中で言及されている研究と一致します(ただし、2歳以降では関連が強くなる)。4ヶ月の時点で馴染みのない刺激に対してネガティブな反応をしていても、それほど心配する必要はないと言えます。特に、両親以外の人が世話をしてくれる場合には抑制傾向から脱する可能性があります。

脳波に関しては右前頭葉の活性化がネガティブな感情と関連しています。たとえば、スピーチが差し迫っていると社会不安障害の人は前頭前野の右側が活性化します(Davidson et al., 2000)。反対に左半球優位の活動はポジティブな感情、接近行動と関連しています。

行動抑制が持続するかどうか、行動から明確に分かり始めるのは14・24ヶ月齢~4歳の間です。対して、持続群では前頭葉で右半球優位の脳波がすでに9ヶ月齢の時点で生じています。また、両親以外からのケアというのも2歳までのことです。

行動抑制が持続した子とそこから脱した子で4ヶ月での気質に差が認められなかったことからも家族以外の人からの養育と脳波の重要性が推察されます(因果関係までは踏み込めませんが…)。

なお、行動抑制とは別に4ヶ月齢の時点でポジティブな情動を示していた幼児が抑制気質とはまるで反対、つまり社交性が高い傾向を表すようになるとの結果は意味深です。というのも、抑制気質だけでなく、高い社交性も持って生まれた気質だということを暗示しているからです。彼らは9ヶ月の時点ですでに左前頭葉優位の活動を示すことも社交性が先天的な気質だという推論を裏付けます。

●余談

14/24ヶ月に行われた実験室での観察では抑制気質が持続した子と脱した子の差が現れないのに、親の報告では現れるのは親の観察眼の賜物であるとの考察が書かれています。しかし、どうもそれだけではないような気がします。というのは、実験室環境は見知らぬ大人や緊張場面に接するために脱出群でも不安が高まった結果、差が検出できなかったとも考えられるからです。これだけで「親は子どもをよく観ている」と結論づけるのは慎重にした方がよさそうです。

なおこれ以上長くなるのを避けるため、行動抑制を測るため用いた具体的方法を書きませんでした。また、本論文の序論(イントロダクション)には行動抑制研究の当時の動向がよくまとめられており参考になります。興味のある方は論文を読んでみてください。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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