歌唱場面での緘黙(SMS)が流行(豪) | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

去年(2012年)の暮れも間近な時期、Selective Mutism for Singing (SMS)というフレーズをネット上で発見し大変驚きました。訳すると、「歌唱場面での緘黙」といったところでしょうか。いったいこの「緘黙」は何だろうと思って、最初にこの表現を生み出した論文を読んでみました(記事最後の参考文献参照)。

○前口上:Selective Mutism for Singing (SMS)が誕生した経緯

オーストラリアでは音楽、特に歌唱に参加する人が少ないそうです。この現状に対して懸念を抱いた人がいます。オーストラリア国立大学のSusan West博士(音楽教育が専門)です。余談ですが彼女はオーストラリアで数々の賞を受賞しています。

West(2009)によれば、音楽活動は人間にとって基本的なものでコミュニティに含まれる人たちの間をつなぐ「接着剤」の役割を果たしているそうです。したがって、音楽活動に積極的にかかわらないのは絆が壊れることだと主張し、社会に悪影響をもたらすだろうと述べています。

…というのが前置きで、突然場面緘黙に言及し、いよいよ歌唱場面での緘黙(SMS)なる概念が登場するわけであります。

○本題:Selective Mutism for Singing(SMS)って何?

名前から察することができますが、人前で歌ったり、その歌を聞かれたり、リズムをつけたりしない(できない?)ことがSMSに当たります。ただし、本来の場面緘黙症とは異なる点が2つあります。

・SMSの特徴

1.「症状」が子ども時代に少なく、年を取るにつれて「発症率」が増加、症状が定着する(本来の場面緘黙症は年少児に多い。また、この点に関しては論文中にある表現が面白い。「教師は子どもと歌えるだろうが、他の大人の前では歌えない」と書かれているのだ。)

2.個人の症状というよりは社会的な病理として概念化している(本来の場面緘黙症は社会的病理ではなく、個人の症状である)

さらにいうならば1.や2.のためにSMSは大人の多く(正確な数字は不明)が持つ症状であるといえます。

もちろん、お遊びでWest博士が歌唱しない大人たちという社会問題にSMSなる特別な名称を与えていないはずです。博士は場面緘黙症という問題を歌唱分野に持ち込むことでSMSに対する処方箋を提示しています(詳細は省略)。

○結論:緘黙が認知され始めたら、他の分野にも影響する

West博士が場面緘黙症をいかに知ったか、私には知る由がありません。しかし、この例から推測できるのは、緘黙という言葉の認知が高まるにつれて、他の分野にもその語彙が使われるようになるかもしれないということです。

例えば、いつか友人や恋人、家族の間で会話が乏しくなる時期を「緘黙期」と称するようになるかもしれません。会社でしゃべり、家では話さなくなる退勤緘黙症なる表現もウェブ上で見かけたことがあります(朝日新聞デジタルなど)。

本来の意味から離れて様々な文脈で緘黙という言葉が使用されると、元来の「場面緘黙症」自体に対する誤解が生じるのではないかと私は危惧しています。

最後に、論文中で見つけた格言じみた言葉を恣意的な省略をまじえて引用します。SMSを本来の場面緘黙症(Selective Mutism;SM)に置き換えてみてください。

Treating or preventing SMS is not an end point(中略);it defines a point at which we can begin.

拙訳 SMSの治療や予防が(中略)最終点ではない;そこから始まるのだ。

○参考文献

West, S. (2009). Selective Mutism for Singing (SMS) and its treatment: Conceptualising musical disengagement as mass social dysfunction. In W. Baker (Ed.), Musical understanding: National Conference, Australian Society for Music Education, Tasmania, 212-219.

下記のURLでPDFファイルが手に入ります(2013年1月17日現在)。

http://music.anu.edu.au/sites/default/files/mep_west_sms.pdf

○参考URL(2013年1月17日現在)

朝日新聞デジタル 会社でよくしゃべり、家では無口 8割が「自分は退勤緘黙症」と回答

http://www.asahi.com/business/news/xinhuajapan/AUT201212210116.html

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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