社会恐怖症は脳コミュニケーションの障害? | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

どうやら社会不安障害の人は扁桃体だけでなく、もっと広範な神経ネットワークに異常が認められるようです。そのことを「脳コミュニケーションの誤り(mis-communication)」による障害と記載した論文を読みました。

以下、論文に即して社会恐怖症(Social Phobia)と言う言葉を使いますが、私は社会不安障害(Social Anxiety Disorder:SAD)や社交不安障害(SAD)と同義であると理解しています。

Danti, S., Ricciardi, E., Gentili, C., Gobbini, M. I., Pietrini, P., & Guazzelli, M. (2010). Is Social Phobia a “mis-communication” disorder? Brain functional connectivity during face perception differs between patients with Social Phobia and healthy control subjects. Frontiers in Systems Neuroscience , 4:152. doi:10.3389/fnsys.2010.00152

★概要(今回は難しいですよ)

以前公刊された研究データを再分析した論文です。

社会恐怖症患者8人と健常者7人が参加しました。

呈示された顔の人物が1つ前に見た顔と同じかどうか判断させる課題を行いました。表情は怒り・恐怖・嫌悪・幸福・無表情のいずれかでした。

統制課題は無意味写真を用いました。

刺激呈示時間は2000ミリ秒でした。刺激呈示の合間に1500ミリ秒の応答時間が与えられました。

以下、結果を詳述しますが、その前に予備知識を仕入れておきましょう。
予備知識1:紡錘状回は顔知覚に、上側頭溝と扁桃体は表情認知に重要。

予備知識2:デフォルト・モード・ネットワーク(Default Mode Network:DMN)とは何らかの課題を実施している時よりも何もしていない安静状態の方が活発になる神経ネットワークの総称のこと。DMNを構成する代表的な脳領域は喫前部、後帯状皮質。

○結果

健常者(vs. 社会恐怖症患者)で、左感覚運動野、右帯状皮質、右喫前部が右紡錘状回と負の機能的結合を示しました。なお、紡錘状回は左半球でも結果は同じでした。

健常者(vs. 社会恐怖症患者)で左頭頂間溝、左下前頭葉、左喫前部が右上側頭溝と負の機能的結合を示しました。また、社会恐怖症患者(vs. 健常者)で右上側頭溝と下前頭回が正の機能的結合を示しました。

健常者(vs. 社会恐怖症患者)で、右感覚運動皮質が左扁桃体と負の機能的結合を示しました。他には、社会恐怖症患者(vs. 健常者)で左扁桃体と正の機能的結合を示したのは右下前頭回、負の機能的結合を示したのは右下頭頂葉、右上側頭溝、右第二次感覚運動野、右内側前頭葉前部でした。

これらの結果はすべて多重比較の補正がなされていませんでした(コメント参照)。

課題の成績では社会恐怖のあるなしで有意差は認められませんでした。これは課題が簡単だったからでしょう(両者ともに正解率90%以上)。

★コメント

機能的結合に関する論文を読むのは初めてで、正直、難解で戸惑ってしまいました。誤った記述がある可能性が高いので、十分にご注意ください。

機能的結合と聞くと難しそうですが、簡単に言うと、ある脳部位と別の脳部位が同時に活動しているかどうかという意味です。正の機能的結合は2つの脳部位の活動が同時に亢進すること、負の機能的結合は一方の脳部位が活発になると、もう一方の活動が弱まることを示します。

筆者は紡錘状回/上側頭溝と喫前部の負の機能的結合が社会恐怖症で弱まっていることを次のように推測しています。喫前部は自己注目に関わる脳領域であり、社会恐怖症の人は表情課題中に十分な喫前部の活動低下を示せない。だから、表情課題中に顔処理ネットワークの活動亢進と同時に生じるはずの喫前部の活動低下が弱まっているのだ(喫前部がデフォルト・モード・ネットワークの一端を担っていることに注意)。

社会恐怖症で左扁桃体と下前頭回(島皮質が存在)との間に正の相関が認められたのは、どうやら体感覚に関わる島皮質と扁桃体のコミュニケーションが必要以上に高まった状態にあると考察されています。

社会恐怖症と聞くと情動に関わる扁桃体だけが関与しているかのように語られがちです。しかし、実際にはそんなに単純な話ではありません。本論文以外にも、表情判断課題において、社交不安と扁桃体の関係は紡錘状回の影響を受けることを示唆した研究(Pujol et al., 2009)もあります。

なお、機能的結合で活動(正確にはBOLD信号)に相関がみられた各領域は、必ずしも解剖学的に結びついていません。

○多重比較の補正について

多重比較の補正が行われていないと本当は有意差がないのに差ありと判断してしまう「偽陽性(False positive)」が高まるので、結果の解釈は慎重になされるべきです。

というのも、多重比較の補正をしないで、死んだ鮭を視覚刺激呈示中にfMRI解析しても「脳活動」がみつかったという研究があるのです。死んだ鮭の脳内には当然、動的な血流変化が見られないわけで、明らかに偽陽性です。この論文の研究者ら(Bennett, C. M., Baird, A. A., Miller, M. B., & Wolford, G. L.)は2012年度のイグノーベル賞を受賞しています。

もっとも、私はfMRIデータの解析法に詳しくないので、機能的結合に関しても同じことがいえるのかどうか知りません。

○参考URL(2013年4月24日現在)

鮭の脳は研究者の夢を見るか(お脳のあたり痛くないですか)

http://onouno.blogspot.jp/2012/07/blog-post.html

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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