緘黙の診断基準の1つ、継続期間には科学的根拠がない? | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

米国精神医学会(American Psychiatric Association:APA)が発行するDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:精神障害の診断と統計の手引き)では、場面緘黙症(Selective Mutism)の診断基準に以下の要件を上げています。

・家など他の状況では話すことができるにもかかわらず、学校などある特定の状況では、一貫して話すことができない。

・このような状態が、少なくとも一ヶ月以上続いている(これは、学校での最初の一ヶ月間に限定されない)。

*その他、3つの要件は省略します。

特定の場面で話せなくなるのはともかくとして、私には持続期間がなぜ1ヶ月必要なのか分かりません。

もちろん、入園/入学直後は寡黙でしゃべらないのに、後々、自然に話せるようになるケースを除外し、不必要なレッテル貼りや介入を避ける意図があるのでしょう。もちろん、対人関係のトラブルやその他精神病性の疾患による「一時的沈黙」を除外する目的もあると私は理解しています。

○なぜ1ヶ月なのか?

しかし、なぜそれが1ヶ月なのか、明確な科学的根拠(エビデンス)を示した人を見聞きした覚えはありません。教育現場の方々や臨床家の経験則から導き出された期間であるとの印象を受けます。

本来ならば、普通の子ども、シャイな子ども、不安が高い子どもが入園/入学時にどのような「発話プロセス」をたどるのか、調べる必要があります。そうしないと、いつまでに話さないと場面緘黙症が疑われるのか説得力のある診断はできないでしょう。

○6ヶ月持続することが緘黙症の要件になる?

話は変わりますが、2013年5月に、第4版改訂版であるDSM-IV-TRから第5版のDSM-Vへと改訂される予定です。場面緘黙症Journal(SMJ)によれば、その際に「緘黙は社交恐怖(社会不安障害)の特定用語とされる可能性があります」(ブログ管理者様はあくまで「可能性」であると慎重に供述されています)。

その他にも、インターネット百科事典であるWikipedia(英語版)でも、DSM-Vで場面緘黙症が社交不安障害(社会不安障害)の特定用語(下位分類)になる根拠としてBögels et al.(2010)という論文があげられています。

注意:最後に述べるように、私自身は2013年のDSM改訂で緘黙症が社交不安障害の「仲間入り」を果たすという意見に懐疑的です。

○社交不安障害の特定用語になった場合、6ヶ月は妥当か?

仮に場面緘黙症が社交不安障害の下位グループに入って、「継続期間は少なくとも6ヶ月」との診断要件が入った場合、その根拠をどこに置けばいいのか分からなくなります。それは、本記事の前半でも述べたように、緘黙症ではない子どもでも入園/入学などを機に一時的に話さなくなることがありますが、その期間が科学的に不明だからです。

もし、仮に6ヶ月以上を継続期間として要件に入れるのなら、6ヶ月未満まではたとえしゃべっていなくても、後に話せるようになることがあるという経験則なりデータなりを表明しなければなりません。社交不安障害の持続要件が6ヶ月だから場面緘黙症でも機械的に6ヶ月を適用するというのは理解しがたい行為です。

注意:私は別に緘黙症が社交不安障害になったら早期診断、早期介入が遅れるという理由で持続期間に反対しているのではありません。科学的根拠が不明瞭だからこんなことを書いているのです。

○本当に緘黙症は社交不安障害の下位グループに入るのか?

私自身は緘黙症が社交不安障害の下位グループになる可能性は思ったほど高くないと考えています(あくまで「可能性」の話です)。その根拠は、DSMの発行元である米国精神医学会(APA)が2013年2月26日に告知した"Highlights of Changes from DSM-IV-TR to DSM-5"という文書です。

理由1.この文書内にある社交不安障害の項目には場面緘黙症の記載がなく、逆に場面緘黙症の項目には社交不安障害への言及がない。つまり、まるで、独立した障害/症状のように記述されている。

理由2.場面緘黙症の項目にThe diagnostic criteria are largely unchanged from DSM-IV.(診断基準はDSM-IVと大して変わらない)とある。もし場面緘黙症が社交不安障害の特定用語になるのなら、緘黙の診断基準に社交不安障害の診断基準(6ヶ月云々が問題になるのもこのため)が入ることになり、大きく変わると記載するはず。

しかし、この告知文書は全てを余すところなく記載しているわけでもなく、今後、変更される可能性もあるので、やはり正式な発表を待った方が無難でしょう。ちなみにDSM-IVは5月18日から22日(米国現地時間)に正式公開される予定です。この期間にはサンフランシスコ(カリフォルニア州)で米国精神医学会(APA)の年次総会が開催されるので、その席上で発表されるはずです。

いずれにせよ、この予告文書に従うと、場面緘黙症は現在の「幼児期、小児期、または青年期に初めて診断される障害 (Disorders Usually First Diagnosed in Infancy, Childhood, or Adolescence)」から不安障害(anxiety disorder)に移行することだけは間違いないことだと思われます。

追記(2014年9月2日現在):DSM-5の場面緘黙症に関する詳細が判明しました。詳しくはこちらをご覧ください⇒DSM-5での選択性緘黙(場面緘黙症)の詳細

○参考文献(2013年4月8日現在)

Highlights of Changes from DSM-IV-TR to DSM-5

http://www.psychiatry.org/File%20Library/Practice/DSM/DSM-5/Changes-from-DSM-IV-TR--to-DSM-5.pdf

○引用文献(要約と場面緘黙症の項目だけ読みました)

Bögels, S. M., Alden, L., Beidel, D. C., Clark, L. A., Pine, D. S., Stein, M. B., & Voncken, M. (2010). Social anxiety disorder: Questions and answers for the DSM-V. Depression and Anxiety, 27, 168–189

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Comment
120
宣伝コメントから参りました(^ ^)
科学的にはそうだろうなあと感じました。
機械的に6か月とするのならば、なんとなく官僚的な決め方である印象を受けてしまいます。

また、この発病の時期が一番統計的研究がしづらそうですよね。
そこが悩ましいです。研究にあたっては、シャイな子の定義もはっきりとさせなくてはいけない・・・また、遺伝子やそのほかの身体的特徴まで調べたうえで調査するのか、ただの聞き取りで済ますのか・・・


一方、実際の運用となるとこれまたむずかしそうです。

緘黙の診断は「特定の場面」を前提としていますが、
その場面と接する機会が絶たれている場合、非常に判断がしづらいのではと…

たとえば、不登校の子がいたとする。その子は現在学校に通っていない。外では若干喋れるけれども、学校に通っていないので、緘黙の診断における「場面」がない・・・
こうなると、SAD(社交不安障害)の診断のほうが疑われやすくなりそうです。

かんもくが治ったのか治っていないのかいまいちわかりづらいのも、こういった緘黙特有の特徴によるものでもあるのかなと思います。

また、社会的場面を「学校以外」に広げる場合、何をもって緘黙とするのかよくわからない感じもする・・・このあたりがSADとの鑑別の難しいところです。この場合、臨床現場ではSMとする人とSADとする人とに分かれそうです。

社会全般では、だれに対面するか、どのくらいの頻度で会うかも流動的で、一定していない場合が多いので。治りつつある状況下であえて緘黙(ほぼ絶対的に喋っていない状態)という診断を下す意義があるのかということも考えてみてもよいのかも・・・

治療上SADのほうが便利ということはないのでしょうか? SMとすると、より重症であるとみなしているようにも思えるのですが、この場合、患者にどのような心理的影響を与えるのかも研究してみてもよさそうだと感じました。

********

こういったケースの場合どうすればいいのだろうなと思いました。
実際の運用ではこういうケースも多いような気がしますので。
高年齢での発症例もありますしいろいろと難しいです。

(このフォーム欄、小さくて、なかなか文章がまとめにくいですね。支離滅裂だったらすいません)

121
Re: タイトルなし
>研究にあたっては、シャイな子の定義もはっきりとさせなくてはいけない・・・また、遺伝子やそのほかの身体的特徴まで調べたうえで調査するのか、ただの聞き取りで済ますのか・・・

シャイネスに関しては研究の蓄積があるのでそれほど心配することはないだろうと思います。いきなり、あらゆることを調べるのはさすがに金銭的にも労力的にも厳しいので、聞き取りからスタートでしょうね。

> たとえば、不登校の子がいたとする。その子は現在学校に通っていない。外では若干喋れるけれども、学校に通っていないので、緘黙の診断における「場面」がない・・・
> こうなると、SAD(社交不安障害)の診断のほうが疑われやすくなりそうです。

ん~。難しい。しかし、そもそも不登校の人にアクセスできますかね?

> 治療上SADのほうが便利ということはないのでしょうか? SMとすると、より重症であるとみなしているようにも思えるのですが、この場合、患者にどのような心理的影響を与えるのかも研究してみてもよさそうだと感じました。

緘黙するというコーピングスキルを身に着けてしまっているという意味ではSADよりもやっかいでしょうが、SMの症状がSADよりも重篤かどうかは判断できません。

122
>緘黙するというコーピングスキルを身に着けてしまっているという意味ではSADよりもやっかいでしょうが、SMの症状がSADよりも重篤かどうかは判断できません。

たしかに、・・・。SMが軽くなった場合はSADのほうが重篤かもしれないし。どこまでSMとSADがかぶっているのかも今の研究段階では明確に答えられそうにないし・・・

130
かんもくは防げるの?
そういえば、緘黙を「未然に防ぐ」という観点からの論文って聞いたことがないですが、あるのかなあ。

かんもくと言うのは「防ぎようがないもの」なのでしょうかね??

131
Re: かんもくは防げるの?
> そういえば、緘黙を「未然に防ぐ」という観点からの論文って聞いたことがないですが、あるのかなあ。

> かんもくと言うのは「防ぎようがないもの」なのでしょうかね??

この件に関しては黙秘します(笑)企業秘密に抵触しますから。

ちなみに、緘黙が社交不安障害になる可能性が思ったよりも低いという記事を書こうと思い立ったのは虹橋さんに情報を漏らした後です。最初は自信がないので、DSMの改訂版が発表されるまでは静観しようと思っていましたが、コメントをきっかけに吹っ切れた感じです。

132
なんだか地震があったそうですよ。
黙秘ですか(笑)いろいろ隠し持ってそうですね^^
そうですか、自信なかったんですね、意外です(笑)
これで5月に「社交不安に統合されました!」
なんてニュースになったら大笑いですね(笑)
せっかく吹っ切れたのに。

そういえば、なんだか近畿で地震があったとか。
おまけに、近畿の地震としては阪神大震災以来最大とか!

全然知らずにのんきにしてました
東北関連の地震なら頻繁に感知してましたが、近畿であるとは意外です。


133
発症
いつも自分が変なこと言ってないかなあと不安になる…><

ふと思ったことがあるので書いてみます。

SM発症の様子ってたいていの人は記憶がないじゃないですか。(私もありません!)ということは子供の時点でリアルタイムに聞き出すか、ある程度高年齢でなった人からその過程を聞き出すかしたほうが分かりやすそう・・・

134
Re: なんだか地震があったそうですよ。
> そうですか、自信なかったんですね、意外です(笑)
> これで5月に「社交不安に統合されました!」
> なんてニュースになったら大笑いですね(笑)

最近、Highlights of Changes from DSM-IV-TR to DSM-5以外にもアメリカ精神医学会からの情報を入手できた(Twitter参照)のですが、それを見てみるとやはり別々になりそうな予感が強まりました。6~8割方は私の予想通りになると思っています。

> そういえば、なんだか近畿で地震があったとか。

そのようですね。被災者には申し訳ないのですが、東北とは違って被害が少なかったのが幸いです。

135
Re: 発症
> いつも自分が変なこと言ってないかなあと不安になる…><

私もブログを書きながらこれでいいのだろうか?と不安になりますよ。

> SM発症の様子ってたいていの人は記憶がないじゃないですか。(私もありません!)ということは子供の時点でリアルタイムに聞き出すか、ある程度高年齢でなった人からその過程を聞き出すかしたほうが分かりやすそう・・・

その場合問題となるのは、子どもの表現能力ですね。

140
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143
Re: なぞ・・・・
I don't know the reason (機械音-ピーー) you want to know.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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