トリプトファン枯渇で脅威に対する扁桃体/海馬の反応が増強 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

セロトニンの原料となるトリプトファンを薬剤により枯渇させる実験方法があります。今回はトリプトファン枯渇により怒った表情に対する扁桃体/海馬の活動が亢進することを示した研究です。それも脅威に敏感な人で扁桃体が活発になりました。

なお、以下に登場するGrayの行動抑制系(Behavioral inhibition system:BIS)というのは罰に対する感受性の個人差に関する概念です。中隔・海馬系が行動抑制系の神経システムです。

行動抑制系以外にも行動賦活系(Behavioral activation system:BAS)というのもあって、こちらは報酬に対する感受性を指しています。中脳辺縁系のドーパミンシステムが行動賦活系を支える神経系です。

Grayの行動抑制系はハーバード大学名誉教授のJerome Kagan氏がいう行動抑制(Behavioral inhibition)とは違います。Jerome Kagan氏が提唱した行動抑制についてはこちらをご覧ください⇒行動抑制の概念 by Jerome Kagan

Cools, R., Calder, A. J., Lawrence, A. D., Clark, L., Bullmore, E., & Robbins, T. W. (2005). Individual differences in threat sensitivity predict serotonergic modulation of amygdala response to fearful faces. Psychopharmacology, 180, 670-679.

★概要

12人の健康な男性が協力しました。

トリプトファンを枯渇させる薬剤またはバランスアミノ酸(プラセボ:偽薬)を服用させました。

sex categorization taskという性別判断課題を行わせました。表情は恐怖、幸福、無表情を用いました。ただし、無表情とはいっても25%は幸福成分が入っていました。顔刺激の呈示時間は960ms(ミリ秒)、刺激間間隔は1440msでした。

課題中の脳活動はfMRI(機能的核磁気共鳴画像法)により計測しました。

不安/罰感受性はGrayの行動抑制系に則った質問紙、BIS/BASで評価しました

結果、トリプトファン枯渇による扁桃体/海馬の表情に対する反応には恐怖と幸福で有意差が検出されませんでした。しかし、罰に敏感な人ほど、トリプトファン枯渇で右扁桃体/海馬が恐怖(vs.幸福)表情に対して活発になりました。

その他の脳部位でのfMRI活動(BOLD信号)及び幸福表情(無表情/注視点)に関しては有意な結果はでませんでした。

★コメント

Grayの行動抑制系(BIS)とトリプトファン枯渇による扁桃体の活動の関係を調べたことで、他の先行研究との差別化がはかられています。

行動抑制系に関する論文は以前にも読んだことがあります。それによれば、安静時において、左側よりも右側の背外側前頭前野後部が活発に働く人は行動抑制得点が高い(Shackman et al., 2009)ということでした。

行動抑制系以外に扁桃体活動に影響する要因としてセロトニントランスポーター遺伝子多型(5-HTTLPR)があります。

たとえば、社交不安障害患者で短い5-HTTLPRをもつ人は不安が高く、人前でのスピーチをしている時に扁桃体血流が増加します(Furmark et al., 2004)

なお、不安障害の治療にも用いられるSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)は5-HTTLPRというセロトニントランスポーター関連遺伝子によって影響される(Stein et al., 2006) 可能性があります。

プラセボ(偽薬)で社交不安障害の症状が緩和し、扁桃体の活動も低下することがありますが、この現象には5-HTTLPRが関与しているとの報告(Furmark et al., 2008)もあります。セロトニン合成酵素に関わるTPH2遺伝子もプラセボ効果に影響するかもしれません(Furmark et al., 2008)

*今回の実験に参加したのは男性だけだったという点に注意。サンプルサイズが少ないことも欠点ですが、神経科学実験で標本数を増やすのはコスト的にも労力的にも厳しいものがあります。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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