悪気がない他者の行動を自分と関連付ける社交不安障害 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

今回は全般性社交不安障害(全般性社会不安障害)に内側前頭前野が関わっているというお話です。なお、内側前頭前野の内でも背側領域は他者の心の理解に、腹側領域は自己情報の処理を担っています。

Blair, K. S., Geraci, M., Hollon, N., Otero, M., DeVido, J., Majestic, C., Jacobs, M., Blair, R. J., & Pine, D. S. (2010). Social norm processing in adult Social Phobia: Atypically increased ventromedial frontal cortex responsiveness to unintentional (embarrassing) transgressions. American Journal of Psychiatry, 167, 1526-1532.

★概要

健常者16名、全般性社交不安障害の人16名が参加しました。

様々なストーリーを読ませている間にfMRI(機能的磁気共鳴画像法)による脳スキャンを実施しました。

ストーリーは3種類用意しました。

1.マナー違反を含まない文(例:第3者が食物を飲み込む)

2.故意でない社会的なマナーの逸脱に関する文(例:第3者が食事でむせて、吐く)

3.意図的な社会的マナー違反を含む文(例:第3者が食物を不味いとして吐き出す)

これらの物語は友人の家などの社会的状況で発生した物語で、被験者にもしその場にいたらどう感じるか想像してもらいました。

結果、健常者と比較して、社交不安障害の人は故意でないマナー違反に対する当惑度を高く見積もりました。また、社交不安障害の人(vs. 健常者)はどちらのマナー違反も不適切だと強く感じました。

fMRIでは、健常者は非故意よりも故意によるマナー違反に対して左腹内側前頭前野が高い活動を示す傾向にありました。対照的に社交不安障害の人は逆の反応、つまり故意よりも非故意によるマナー違反に対して左腹内側前頭前野が活発に働きました。また、故意によるマナー違反よりも故意でないマナー違反に対する脳活動の方が社交不安障害の人と健常者の間の差異が顕著でした。

さらに、どのストーリーに対しても社交不安障害の人は健常者よりも右扁桃体と両側島皮質が活発に反応しました。

★コメント

腹内側前頭前野は自己参照情報の処理に関与しています。自己参照情報とは自分に関わりがある情報のことで「マーキュリー2世(本ブログの管理人)は…だ」という表現に接するとたちまち内側前頭前野(特に腹側領域)が活性化するのです。分かりやすく言えば、腹内側前頭前野が活発になりやすい人は「自意識過剰」であるといえます。

社交不安障害(社会不安障害)の人が他者の悪意のないマナー違反に対して腹内側前頭前野の活動亢進を示したのは、たとえ故意でなくても「自分に関わりがある」と考えてしまうことを反映しているのだろうと本論文を執筆した研究グループは考えているようです。

意図的な違反行為(例:不味い料理を吐き出す)ならば、一時的にせよ自分と関連付けて考えるのが自然です。それは悪意は誰かに向けるものであり、1人だけの状況で悪意による行動を起こす人はいないからです。実際に、健常者は非故意よりも故意によるマナー違反に対して腹内側前頭前野の活動が亢進していました(もっとも論文にあるグラフによれば、健常者はどのストーリーに対しても活動が低下しているように見えますが…)。

○Blair et al.(2008)との比較-腹内側前頭前野と背内側前頭前野

実は自己参照と内側前頭前野の関係に関する研究論文は過去に本ブログでとりあげたことがあります。今回と同じく全般性社会不安障害の人は相手に「あんたは馬鹿だ」などと罵られる文を読むと、扁桃体だけでなく、内側前頭前野も活発になるという報告(Blair et al., 2008)があります。しかし、Blair et al.(2008)は腹内側前頭前野よりも背内側前頭前野の方に活性化が認められていることから、課題の違いが脳活動に反映されていると思われます。

*以下、心の理論という言葉が登場しますがこれは「他者が自分とは違う考えをもち、推論することを理解する能力」のことです。

背内側前頭前野は心の理論を担う神経回路の一部で、腹内側前頭前野は自己参照情報の処理に関わる領域です。今回の実験は具体的な社会的文脈における他者の不躾な行動を含む分を被験者に読ませていますが、Blair et al.(2008)は単に「あなたは馬鹿だ」といった文を読ませているだけで、具体的な状況設定をしていません。これが、Blair et al.(2008)で背内側前頭前野、つまり心の理論系が活性化した理由かもしれません。というのも、具体的な場面もないのに、他者から罵られるのは相手の心情(信念)を理解しようとする営みがより必要になると思われるからです。

内容が似ているなと思ったら同じ研究グループでした(笑)。どうやら、社交不安障害で内側前頭前野の異常性を強調したい研究者の集まりのようです。もっとも、腹内側前頭前野が関与するのは自己参照処理の時だけで、今回の論文でも扁桃体と島皮質が社会的コンテキストに関わらず、社交不安障害の人で活性化しています。

ちなみに健常者、社交不安障害者ともにやけにIQが高いです(平均値117~119:標準偏差8~10)。やはり同じ研究グループの論文でもIQがやたら高くなっています(Blair et al., 2008)。したがって、IQが低い人でも同様の結果が得られるかどうかはわかりません。

扁桃体と島皮質は社交不安障害の人で活動亢進が認められる領域ですが、それが社会的でない刺激にも当てはまるかどうかは今後の検証を待たなければならないとの考察で論文が締めくくられています。

○緘黙症が持続するのは内側前頭前野が一因?

よく緘黙症が改善できない理由として「普段しゃべらない私が話したら、みんなどう感じるだろう?変に思われないかな?」という話を見聞きすることがあります。実は私も完全に緘黙していた頃はそのような考えをもっていた記憶があります。

今回の論文と過去に私が読んだ論文から憶測するに、これは腹内側前頭前野が活性化して、自意識過剰になっていることが原因ではないのか?と考えることができます。

さらに、心の理論系の1つである背内側前頭前野も関与しているのかもしれません。周囲の人が「私(緘黙児のこと)はまったくしゃべらない人だ」という信念をもっていることを理解している緘黙児だからこそ、「突然話し出したら、どうなるのだろう?」という懸念を抱くと思われるからです。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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