オキシトシンで恐怖の表情に対する扁桃体の興奮が収まる | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

神経ペプチドホルモンのオキシトシンで社交不安障害(社会不安障害)の人の過剰な扁桃体の興奮が抑えられるようです。今回のテーマはメディアで愛情ホルモンだの信頼ホルモンだのといわれているオキシトシンが治療薬となり得るか?です。

Labuschagne, I., Phan, K. L., Wood, A., Angstadt, M., Chua, P., Heinrichs, M., Stout, J. C., & Nathan, P. J. (2010). Oxytocin attenuates amygdala reactivity to fear in generalized social anxiety disorder. Neuropsychopharmacology, 35, 2403-2413.

★概要

全般性社交不安障害(generalized social anxiety disorder:GSAD)の男性17名、健常者男性17名のデータが最終的に分析に用いられました。ただし、広場恐怖症やパニック障害、転換障害、疼痛性障害、心気症、強迫性障害、特定恐怖を合併している人が混在していました。

オキシトシンスプレー(シントシノン点鼻薬)を鼻腔から注入し、45分後にfMRI(機能的磁気共鳴画像法)での脳スキャンを実施しました。つまり、慢性投与ではなく、急性投与の実験です。

1週間の断薬期間をおいて別の薬(偽薬 or オキシトシン)に挑戦する、いわゆるcross-overデザインでした(×の形を想像してみてください)。

fMRIはemotional face matchingテスト中に行いました。上に表示された1つの表情が下の左右に表示された2つの表情のどちらと同じか判断させました。表情写真は恐怖、怒り、幸せの3種類を用いました。ただし、下に表示される表情の内1つは必ず無表情でした。

三角形、四角形、円形を用いて同様の課題も行い、感覚運動による脳活動(BOLD信号)の変化を統制しました。

Google画像検索でイメージを膨らませましょう⇒Google画像検索”emotional face matching”

結果、GSAD患者は健常者(コントロール群)よりも恐怖の表情に対して両側の扁桃体が活性化しました(プラセボ条件)。また、怒りや幸福の表情に対する扁桃体の活動にはGSAD群とコントロール群で有意差は検出されませんでした。

今回の目玉、オキシトシン鼻腔内投与でGSAD患者の恐怖表情に対する扁桃体の興奮が健常者と同じ水準まで落ち着きました(オキシトシン投与は健常者の扁桃体に効果なし)。

GSAD患者はオキシトシン投与により冷静さが増しました(visual analogue mood scaleによる自己報告)。

★コメント

SSRI急性投与とは対照的な結果で興味深いものがあります。つまり、先行研究では、SSRIのシタロプラムを急性服用した男性は扁桃体の活動が高まった(Bigos et al., 2008)のでした。

もっとも、fMRIによる「賦活」は興奮性ニューロンのものなのか、抑制性ニューロンのものなのか分からないので、結果の解釈には慎重であるべきです。

オキシトシンは扁桃体内にあるGABA系の抑制性介在ニューロンを介して、出力系である扁桃体中心核の興奮を鎮めていると研究グループは考えています。

先行研究では社会不安障害(社交不安障害)患者で怒りの表情に対して扁桃体が過剰に興奮したという報告もあるそうで、今回の結果と一致しません(注:恐怖表情に関しては一貫した結果が得られています)。今後の検討課題でしょう。本論文でもGSADかどうかにかかわらず、怒り表情の認識率(正解率)が約86%で幸福(約97%)や恐怖(約94%)と比較して有意に低かったので、このことが影響している可能性があります。

あくまでも社交不安障害患者の扁桃体の興奮が健常者と同等になったというだけで、社交不安が顕著に減少したという結果ではないので、本当にオキシトシンが有効かどうかは分かりません。長期的な服用で社交不安の症状が減少するかどうか検討する必要があります。

今回の実験は男性だけでした。もしかしたらオキシトシンの効果には性差があるのかもしれませんから、女性でも同じ結果が出るかどうかはわかりません。

オキシトシンは経済ゲームを用いた研究も進んでいますから、信頼ゲーム(trust game)などを使って実験してみるのも面白いかもしれません。「えっ!なんで、経済ゲームが登場するの?」と疑問に思われるかもしれませんが、心理学や精神疾患の研究に経済ゲームを活用することはよくあることなんですよ。

愛情や信頼を司るホルモンとも喧伝されるオキシトシンにはダークサイドがあって、外集団に対して利己的になるともいわれており、その辺の副作用が気になります。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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