緘黙症の新しい治療法?-授かり効果の応用- | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

授かり効果が緘黙症の治療に応用できるのではないかと思いつきました。そこで、そもそも授かり効果とは何なのか書き記し、緘黙症の改善にどのように役立つか考察しました。

○授かり効果とは何ぞや?

行動経済学では授かり効果(endowment effect)と呼ばれる現象が知られています。これは授かり物効果ともいいます。

授かり効果とは自分が持っている物を手放したくないという心理により、購入時の価格よりも高い価格を、譲り渡す際に過大に要求する認知バイアスを指します。

人間には確実な損失を回避しようとする傾向(loss aversion:損失嫌悪)があります。物品の購入時はあくまでもgain(獲得)文脈で、金銭と交換するのですが、いったん入手してしまうと、それを手放すことはloss(損失)になるのです。この損失が心理的に嫌悪されるため、授かり効果が生じます。

ハーバード大学のRoland G. Fryerらが行った実験をご紹介します。これは、私自身が緘黙症の治療に授かり効果が応用できるかもしれないと考えたきっかけとなったものです(授かり効果自体は以前から知っていました)。以下はテクノロジーメディア、TechCrunchからの引用です。


ハーバードが行った学校の実験では、ランダムに選んだ教師たちに1年の始まりまたは終わりにボーナスを与える。始めに与えられたほう(治験グループ)は、生徒の成績が期待値まで上がらなければボーナスを返却する。もっとも良い結果に対してはボーナス総額が8000ドルで、治験グループは最初に4000ドルもらい、年の終わりに、結果に応じて一定額を返金する、または上乗せされる。

結果は劇的で、最大10%の成績向上が達成された(標準偏差では0.33)。



引用終わり

○緘黙症の治療に授かり効果を応用できるか?

緘黙児になんらかのご褒美を与えて喋らなかったら返してもらうという方法で適用できるかもしれません。ゲーム機なら使用禁止期間を設けるという方法でも実践できそうです。

○注意点

ただし、いくつか注意点があります。

1.完全に緘黙状態の人ではかえって逆効果となる危険性があります。実際に行う状況を想像すると、なんだか緘黙児を脅迫しているような図が浮かんできます。

そこで、ある程度話せるが、いざとなるとためらってしまう状況や場面で使うのはどうでしょうか? あるいは、声が小さくなってしまう状況で声を大きくする練習にも活用できるかもしれません。

2.あくまでも、ハーバード大学の実験は教育成績に対して有効であることを示しただけであって、緘黙症の治療にも応用が効くかどうかは不明な点にも注意が必要です。

*私は実際に緘黙児に試して有効性を確認した研究を知りません。授かり効果を応用した緘黙児の治療は私の単なる思い付きにすぎないため、実際にやってみて症状が悪化したので賠償してほしいなどという要請には答えられません。

3.この実験は教師に与えるボーナス額を増減することで成績が変化することを示しているだけであり、生徒自身に対する報酬を操作しているのではないことに留意しましょう。

*緘黙児の親や担任の先生、通級指導教室(通級)の指導員などにボーナスをあらかじめ与えておく手もありますが、焦って緘黙症の子にプレッシャーを与える恐れがあるので、あえて緘黙症に苦しむ本人を対象とした方法に的を絞っています。

4.もしかしたら、応用行動分析などではすでにこの方法が取り入れられているかもしれず、その場合は本記事は「ダメ記事」です。

*私は応用行動分析等には詳しくありません。もし、授かり効果を活用した治療法がすでに存在していればコメントしていただければ幸いです。

○引用URL(2013年5月14日現在)

報奨(ごほうび)は結果に対してより“事前に”与えたほうが効果的–ハーバード大の研究より

http://jp.techcrunch.com/2012/08/11/20120810harvard-researchers-find-a-creative-way-to-make-incentives-work

○ハーバード大学の実験は以下の論文のことです(私はアブストラクトしか読んでいません)

Fryer, R. G., Jr, Levitt, S. D., List, J., & Sadoff, S. (2012). Enhancing the Efficacy of Teacher Incentives through Loss Aversion: A Field Experiment. National Bureau of Economics Research, NBER Working Paper No. 18237.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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