CO2吸引によるパニック発作、恐怖に扁桃体は必要ない | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

扁桃体は二酸化炭素(CO2)吸引によるパニック発作/恐怖に必ずしも必要でないことが分かりました。考察を一歩進めたアイオワ大学の研究グループは、CO2起因性のパニック発作を抑制する機能が扁桃体にあるかもしれないと邪推しています。

なお、パニック障害の患者はCO2吸引によってパニック発作を起こす頻度が高いといわれています。健常者でもCO2を吸い込むことでパニック発作に見舞われることがあります。

また、パニック障害の病態には窒息誤警報仮説という仮説があります。窒息を防ぐための防御メカニズムが必要以上に働くことでパニック発作が起こるとの説です。

Feinstein, J. S., Buzza, C., Hurlemann, R., Follmer, R. L., Dahdaleh, N. S., Coryell, W. H., Welsh, M. J., Tranel, D., & Wemmie, J. A. (2013). Fear and panic in humans with bilateral amygdala damage. Nature Neuroscience, 16, 270-272.

★概要

ウルバッハ・ビーテ病(Urbach-Wiethe disease)で左右両半球の扁桃体に損傷があるSM(女性)さんとAM・BG両姉妹(一卵性双生児)が実験に参加しました。双子もウルバッハ・ビーテ病で両側扁桃体に局所的損傷がありました。

CO2が35%含まれる空気とそうでない空気を被験者に吸わせました。扁桃体損傷患者だけでなく、パニック発作の経験もなく、健康な女性12名も実験に参加しました。

その結果、扁桃体損傷患者3名全員がCO2吸引でパニック発作/恐怖(DSM-IV基準:visual analog scalesにより評価)を引き起こしました。心理学的指標(visual )だけでなく、生理的指標までも「恐怖」を示唆しました。

生理的指標:扁桃体損傷患者でもCO2吸引により①心拍数②呼吸速度③皮膚コンダクタンス反応が増加しました。

扁桃体損傷患者とパニック発作をおこした健康な女性の方がパニック発作を起こさなった健康な女性よりも有意に高かった指標

1.恐怖2.パニック発作3.心拍数4.呼吸速度

*皮膚コンダクタンスを測定した患者はAMのみで、パニック発作をおこさなかった健常女性及びパニックをおこした健常女性より高い反応だった。

これらの結果は、扁桃体損傷患者にもう一度実験をして再現されました。

健康な女性でCO2によりパニック発作/恐怖が起きたのは12人中3人(25%)でした。

★コメント

ちなみに上記以外にも扁桃体が損傷された3人は一度パニック発作を起こしたにも関わらず、実験者がC02吸引の準備をしているのを見ても、心拍/皮膚コンダクタンスの増加が健常女性より低いことも明らかにされています。

扁桃体はCO2誘発性のパニック発作に必ずしも必要でないが、視覚的、聴覚的な刺激を受けての予期不安には重要だということです。

研究グループは扁桃体が損傷していると恐れの表情や恐怖を呼び起こす声の知覚が苦手になるのに、CO2ではパニック発作/恐怖を引き起こすことができることに注目しています。つまり、外界からの視覚的、聴覚的な恐怖情報には扁桃体が積極的役割を果たすが、CO2といった内的な情報による「窒息の恐怖」は扁桃体だけでは十分な説明がつかないのです。

今回の実験は扁桃体を損傷した者が3名だけで、なおかつ女性のみです。男性にも同じことが生じるかどうかは不明です。

これまで大きな恐怖を経験したことのないSMらが果たして「恐怖」というのを理解できるのかどうかという批判もあります。ただ、生理学的指標がネガティブな情動を示し、論文の付録にある実験の様子が生々しいことも事実です(「助けて!」や「窒息死する恐怖」など)し、扁桃体損傷患者でも日常生活で不安や恐怖を感じるという研究もあります。

論文の著者は1.パニック障害の患者で扁桃体が委縮し、活動も低いこと2.扁桃体中心核から抑制性の神経線維が脳幹に向かって伸びており、脳幹がパニック様発作の生成に関わることから扁桃体はパニック発作を抑制する機能をもっている可能性を指摘しています。

つまり、扁桃体はパニック発作/恐怖を抑制する「平常心の中枢」であるかもしれないのです。しかし、これはあくまでも推論にすぎず、今後の実験的検証を待たなければなりません。

○扁桃体がCO2吸引によるパニック発作に必要でないとする実験に対する反証

実は一見すると今回の結果と矛盾するような実験もあります。

扁桃体は酸感受性イオンチャネル(Acid-sensing ion channel:ASIC)1aという酸性に反応するイオンチャネルの発現部位であり、ASIC1a欠陥マウスはCO2吸引でパニック様行動を引き起こしにくいのです(Ziemann et al., 2009)。つまり、扁桃体は酸を検出し、パニック発作を引き起こす部位だというのです。

ASIC1a欠陥マウスにASIC1aを扁桃体に与えると、再びCO2吸引でパニック様行動が復活します(Ziemann et al., 2009)。

ちなみに、同じ論文中で扁桃体内のpHを直接低下させても、CO2によるパニック発作と似た行動が出現したとの報告がなされています。

*CO2でpHが低下することに注意。

したがって、少なくともマウスにおいては、扁桃体は酸性、ひいてはCO2を検知する能力を有し、酸性を知覚するとパニック恐怖様行動が出現するのです。ただし、扁桃体以外にもCO2を検出できる化学受容器が存在する脳部位があることが分かっています。

いずれにしろ、本当にSMさんと双子(AMとBG)が扁桃体を損傷しているのなら、人間には扁桃体以外にCO2によるパニック発作/恐怖を引き起こす部位(あるいはネットワーク)が存在するといえそうです。

もっとも、扁桃体損傷患者では、扁桃体の抑制が外れているため、パニック発作/恐怖が生じやすくなると考えることもできますが、その場合でも酸を検知する能力は必要だと考えられます。

○引用文献(要約だけ読みました)

Ziemann, A. E., Allen, J. E., Dahdaleh, N. S., Drebot, I. I., Coryell, M. W., Wunsch, A. M., Lynch, C. M., Faraci, F. M., Howard, M. A. III., Welsh, M. J., & Wemmie, J. A. (2009). The Amygdala Is a Chemosensor that Detects Carbon Dioxide and Acidosis to Elicit Fear Behavior. Cell, 139(5), 1012–1021.

○参考URL(2013年6月17日現在)

In the Brain, Acidity Means Anxiety(Neuroskepticより)

http://neuroskeptic.blogspot.co.uk/2009/12/in-brain-acidity-means-anxiety.html

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Comment
152
あの無敵のSMさんが「恐怖」ですか!!
恐怖というより「苦しい→嫌ダァ!」なのかな?
恐怖を覚えない人でも「死にたくない」という気持ちはあるからなのでしょうかね。
じゃあ首を絞められたら偏桃体が機能しなくても恐怖を覚える可能性はあるのか・・・入水しても・・・。
「私、死んでも平気よ!」・・・とはならないのですね。
本能的な欲求が絡んでいるのでしょうか?

でも、広場恐怖の場合は「視覚情報」になるからSMさんにはおこらないのかも・・・

*********************
ところで、サイコパスに関しての正確そうな情報があれば気になるのですが、ないのでしょうか?

153
Re: タイトルなし
> あの無敵のSMさんが「恐怖」ですか!!

私は今回の論文だけでは、扁桃体がパニック発作/パニック恐怖の生成に積極的に関わらないとは断定できないと思っています。二酸化炭素による窒息恐怖は死に直結するので、脳の可塑性が視覚、聴覚的情報よりも強く働くと考えることも可能だからです。つまり、扁桃体の機能を代償した脳部位やネットワークが存在する可能性も捨てきれません。

扁桃体損傷患者といえば、以下の文献も興味深いです。私はまだ本文を読んでいませんが、別に扁桃体を損傷していたって、ポジティブ感情やネガティブ感情(怖い、神経質)を日常生活で感じているという論文です。

Is the human amygdala critical for the subjective experience of emotion? Evidence of intact dispositional affect in patients with amygdala lesions.(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12167256)

> ところで、サイコパスに関しての正確そうな情報があれば気になるのですが、ないのでしょうか?

最新の研究は私のTwitterにあります。

Twilog(http://twilog.org/uranus_2/search?word=%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%B3%E3%83%91%E3%82%B9&ao=a)

本当は心理学、脳科学の最新研究ニュース(http://www.google.co.jp/cse?cx=partner-pub-2327253589259170%3A8343527960&ie=UTF-8&q=%83T%83C%83R%83p%83X&sa=%8C%9F%8D%F5#gsc.tab=0&gsc.q=%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%B3%E3%83%91%E3%82%B9)の方を使っていただきたいのです(広告でお○が入るため)。

あとはWisdom of psychopathsの翻訳書サイコパス 秘められた能力(http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%B3%E3%83%91%E3%82%B9-%E7%A7%98%E3%82%81%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%9F%E8%83%BD%E5%8A%9B-%E3%82%B1%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%80%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%B3/dp/4140816023/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1371694175&sr=1-1&keywords=%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%82%B3%E3%83%91%E3%82%B9)でしょうか。この本に当たれば、巻末に文献情報がわんさか載っていると思います。

あとは、レビュー論文を探すか、サイコパス研究で有名な国内外の研究者を見つけだし、彼らのホームページを訪問するかでしょうね。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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