ネガティブ写真を認知的に再評価すると、扁桃体の活動が変化 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

ネガティブな感情(負の感情)を制御する方法として認知的再評価があります。今回はその神経基盤についてのお話です。

序論(Introduction)によれば、当時は感情を抑制することばかり研究されてきたようです。今回は反対に、感情を強める場合も実験しました。

Ochsner, K. N., Ray, R. D., Cooper, J. C., Robertson, E. R., Chopra, S., Gabrieli, J. D., & Gross, J. J. (2004). For better or for worse: neural systems supporting the cognitive down- and up-regulation of negative emotion. Neuroimage, 23, 483-499.

★概要

24名の女性(平均年齢20.6歳)が参加しました。

以下の実験手続き中の脳活動をfMRI(機能的磁気共鳴画像法)で計測しました。

1.教示画像(2秒)→2.写真(10秒)→3.感情評価スケール(4秒)→4.リラックスの文字(4秒)の順で画像を被験者に呈示しました。

1.の教示画像では次に出現する写真に対して単に傍観するか、それとも写真によって誘発される感情を増加させるか減少させるかの指示を単語(それぞれlook, increase, decrease)で出しました。傍観条件では、自然な応答を求めました。

2.で見せる写真はネガティブなものか中性的なものでした。

3.感情評価スケールでは写真に対する感情制御または傍観の結果、感じたネガティブ感情の強度を報告してもらいました。

感情制御の方略としてはself-focus(自己焦点)型とsituation-focus(状況焦点)型に被験者を群分けしました。写真(10秒)呈示中に感情を制御してもらいました。

自己焦点型では写真の個人的関連性を考えてもらいました。つまり、ネガティブ感情を増加させるため、写真に映し出された状況に自分もしくは愛する人が関わっているところを想像してもらいました。ネガティブ感情を減少させるには、写真の状況が第三者的なもので、被験者自身と無関係であるかのように想像するよう求めました。

状況焦点型では写真に映し出された出来事の解釈を変えてもらいました。つまり、ネガティブ感情を高めるために事態が悪化することを想像し、ネガティブ感情を弱めるには事態が良くなるという解釈をしてもらいました。

これらの感情制御方略は数日前から被験者に訓練させていました。

○結果(多重比較の補正は扁桃体だけ)

認知的再評価は成功しました。つまり、look(傍観)条件よりもincrease(増加)条件でネガティブ感情が高く、またlook(傍観)条件よりもdecrease(減少)条件でネガティブ感情が低くなりました。これは感情制御方略に関わらず、有意でした(統計用語でいえば、交互作用がないということ)。

感情を強めた場合は左扁桃体活動が増加し、感情を弱めた場合は左右の扁桃体の活動が減少しました(傍観条件との比較)。これらの反応は活動がピークのボクセル(左扁桃体)において写真刺激呈示(+認知的再評価)後、2秒以内に生じました。ただし、fMRIには時間分解能の限界があることも忘れてはなりません。

さらに、increase(増加)条件では写真呈示後ほぼすべての時間にわたって左扁桃体が活性化したのに対し、decrease(減少)条件では初めの2秒と写真呈示終了の2、3秒前でしか左扁桃体の興奮の減少が認められませんでした(look条件との比較)。

感情の弱化の際には両側島皮質の活動も低下傾向にありました。

ネガティブ感情を強める時と弱める時に共通して働く脳部位が同定できました。それは前頭前野、前帯状皮質、側頭頭頂接合部、中側頭回、尾状核、視床、小脳でした。

ただし、ネガティブ感情を強める場合だけ、左吻側内側前頭前野や後帯状皮質(感情に関する知識の想起に関与)が活性化し、ネガティブ感情を弱める際に特異的に働く領域として右背外側前頭前野(行動の抑制に関与)や右外側眼窩前頭前野(刺激価の逆転に関与)が活動しました。どちらもlook条件との比較でした。

decrease条件におけるネガティブ感情の減少と左右の扁桃体の活動減少および右眼窩前頭葉の活動亢進が相関していました(ただし、感情の増強条件では相関なし)。

以上の結果は自己焦点型、状況焦点型の認知方略をすべてこみにした分析です。次に、方略による違いについて述べます。

●方略の効果

decrease条件において自己焦点型の方略では右内側前頭前野が活性化し、状況焦点型では左外側前頭前野が賦活しました(look条件との比較)。これは内側前頭前野が自己参照に関与し、外側領域が外界情報の処理に関与するという知見と一致します。ただし、自己焦点型特異的にincrease条件(look条件との比較)で賦活した脳部位なし(状況焦点型では側頭葉、頭頂葉が活性化)。

★コメント

前帯状皮質は葛藤やモニタリングに関与しており、外側前頭前野(特に背側領域)はワーキングメモリに関わっているとされます。これらの部位がネガティブ感情を強める際にも弱める際にも共通して働いたので、認知方略の維持や監視が共通要素といったところでしょうか。

ネガティブ感情を弱める際に右外側眼窩前頭前野が活性化したことは興味深いです。この領域は刺激価(valence)の評価に関与しており、ネガティブ刺激の感情価を変えることで扁桃体の興奮を収めること(≒刺激強度を主観的に低めること?)に成功したといえるかもしれません。

※扁桃体はarousing(覚醒)刺激に反応する脳部位で覚醒水準が高いのなら恐れの表情だけでなく、幸せな表情などポジティブ刺激にも興奮することに注意。

扁桃体の中でも左半球側は言語的な感情刺激、右側は視覚情報など非言語的な感情刺激に反応するとの考察が論文中でなされていますが、学術的な結論はまだ出ておらず、今後の検討課題です。

○限界

写真にはポジティブな種類がないことから、ポジティブ感情の制御に関しては本実験から判明することはありません。

被験者も女性だけです。平均年齢も20.6歳なので、それ以外の世代でも同じ結果になるかどうかは不明です。

感情評価の後に、RELAXの指示が出るとはいえ、本当にリラックスしているのかは分かりません。

なんといっても一番問題なのは前頭前野を含むほとんどの脳領域で多重比較の補正がなされていないことでしょう。多重比較の補正を行わないと、「嘘の結果」が出現するリスクが高まります。

ネガティブ感情の増強や弱化のどちらかに特異的に働く脳部位が見出されていますが、単に労力の違いを反映しているのかもしれません。それはネガティブ感情の減少の方が増加よりも労力がいると、脳スキャン後に被験者が評定しているからです。

考察(discussion)は前頭前野と扁桃体を軸にされていますが、実際には多重比較の補正がされていないため信頼できませんが、小脳や楔(前)部、側頭頭頂接合部、中側頭回、尾状核、視床も同定されています。前頭葉と辺縁系だけに注目するのは単純化のしすぎだと思われます。

○(社会)不安の神経科学的研究に疑問が生じる

認知的制御によるネガティブ感情の弱化だけでなく、強化に対しても扁桃体の活動が変化するというのは興味深いです。というのも、認知的にネガティブ感情を強める習慣がある人は日頃から扁桃体の活動を強めている可能性を示唆しうるからです。それも、前頭前野や帯状皮質を用いて、です。

もしくはネガティブ感情が弱い人は意識的あるいは無意識的に、何らかの認知的方略を駆使しているのかもしれません。

ただそうなると、(社会)不安もしくは社会不安障害の神経科学的研究結果は単に健常者とのデフォルトな違いというよりは、認知的方略の差異を反映しているだけかもしれません。

ただし、これは刺激の呈示時間が長い場合です。短い呈示時間では再評価をする余裕もないことから、認知的な差異に由来する問題を排除した研究ができそうです。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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