SAD患者にネガティブな自己信念を認知的に再評価させると… | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

社交不安障害(社会不安障害:social anxiety disorder,SAD)患者はネガティブな自己信念を持ち、これが過度の感情反応を招き、社会機能を低下させる一因だと考えられています。

今回は否定的な自己信念を変えるために用いられる認知的再評価を実施する際の神経基盤に、健常者とSAD患者の間で違いが認められるというお話です。

Goldin, P. R., Manber-Ball, T., Werner, K., Heimberg, R., & Gross, J. J.(2009). Neural mechanisms of cognitive reappraisal of negative self-beliefs in social anxiety disorder. Biological Psychiatry, 66(12), 1091-1099.

★概要

27名(女性12名)の健常者と27名(女性12名)の社交不安障害の全般性サブタイプの人(GSAD)が参加しました。ただし、GSAD患者の中には全般性不安障害(3人)や特定恐怖症(3人)を合併している人がいました。

ネガティブな自己信念がどれだけ、自分にあてはまるか考えてもらうreact条件とネガティブな自己信念の解釈を変えてもらうreframe条件を設定しました。reframe条件では刺激の再解釈により、ネガティブな感情を低下させる効果が見込めました。

被験者にはあらかじめ、不安や恥ずかしさを伴う社会的場面に関する過去の体験情報を提供してもらいました。その社会的経験にまつわる1文を複数作成し、呈示しました。この文にはネガティブな自己信念やその時の感情、思考が含まれていました。しかし、実験者が作成した中性的な文を刺激とした実験を先に行いました。

全体として1セッションを1.再評価するかどうかの指示(6秒)2.文の呈示(3秒)3.ネガティブな自己信念文の呈示(9秒)4.ネガティブ感情のレベルを評定(3秒)で構成しました。

fMRI(機能的磁気共鳴画像)で焦点としたのは、特に3.のネガティブな自己信念刺激の呈示中の脳活動(BOLD反応)です。というのも3.の段階で認知的再評価が行われたからです。

結果、健常者もGSAD患者も認知的再評価によりネガティブ感情が減少しました。ただし、認知的再評価をしてもGSAD群は健常者と比較してネガティブ感情を高く報告しました(認知的再評価を指示しなかったreact条件でも同じ結果)。

GSAD患者で社会不安が重篤であればあるほど、認知的再評価によるネガティブ感情の減少が弱い結果となりました(reactーreframe条件が指標)。

ただし、中性的な文では健常者とGSAD患者との間にネガティブ感情レベルの有意差は検出できませんでした。

react条件では両群ともに左背側扁桃体のピーク活動がネガティブな自己信念刺激呈示から3秒以内に生じました。

react条件で、健常者は両側背外側前頭前野、左上側頭回、右縁上回が早期に活性化したのに対し、GSAD患者群では同領域で早期の活動が低く、両側下頭頂葉が遅れて活性化しました。

○認知的再評価の効果

認知的再評価(reframe)条件では、健常者でもGSAD患者でも3秒以内に左背側扁桃体、背内側前頭前野、左背外側前頭前野、左腹外側前頭前野、上側頭回後部、中側頭回、縁上回、喫部、喫前部が活性化しました。6~9秒では両側吻側中前頭回、背側前帯状皮質、両側島前部が活性化しました。

reframe条件はreact条件と比較して、健常者でもGSAD患者でも左扁桃体背側部のピーク活動が減少しました。これはネガティブな自己信念刺激の呈示から3秒以内に生じました。

reframe条件はreact条件と比較して、健常者で認知的制御(背側前帯状皮質や前頭前野)、言語(左下前頭回)、視覚処理(内側喫前部、両側下頭頂葉)に関わる脳領域が3秒以内にピークの活動を示したのに対し、GSAD患者では認知的制御や視覚処理、内臓感覚(両側島皮質)に関わる脳部位のピークが遅い(6~9秒以内)ことが分かりました。

健常者では認知的性評価のself-efficacy(自己効力感)が背側前帯状皮質の早期活性と正の相関を示しましたが、GSAD患者ではそうではありませんでした。

GSAD患者では再評価後のネガティブ感情レベルが高いほど、右背外側前頭前野の早期活動が低くかったですが、健常者ではそうではありませんでした。

GSAD患者では社会不安が高いほど、右下前頭回、左視床、左下頭頂葉の早期活動が高い結果となりました。

reframe条件で、両群ともに左背側扁桃体の活動が高いほど、両側背外側前頭前野の活動が低いという結果も得られました。ただし、健常者と比較してGSAD患者は、左背側扁桃体と前頭前野や注意制御に関わる下頭頂葉の間に生じる負の機能的結合が弱くなっていました。

また、両群ともに、左背側扁桃体の活動が高ければ、右扁桃体、視床、被殻、両側側頭回、両側海馬傍回の活動も高くなりました。

★コメント

長くなりましたが、この研究のハイライトは、ネガティブな自己信念で高まったネガティブ感情を減少させる(認知的再評価)のに、健常者は3秒以内に認知的制御、言語、視覚処理を担う脳部位が活性化したのに対し、GSAD患者では6~9秒以内と遅れているという点にあります。

特に、認知的再評価が上手くいったかどうかの自己効力感には背側前帯状皮質が、ネガティブ感情の減少には右背外側前頭前野が早期に活動する必要性が示唆されています。ただし、fMRIには時間分解能が低いという問題があります。

react条件では、ネガティブな自己信念がどれだけ自分にあてはまるか考えてもらいました。統制条件としては、ただ単に刺激文を「傍観」させるといった設定も必要になってきます。react条件だと、内側前頭前野(特に腹側領域)を活性化させ、差異が検出されにくくなる可能性があるからです。

認知的再評価の訓練が、健常者を対象としたネガティブ感情の減少、増加に関する研究(Ochsner et al., 2004)ほど徹底していません。ただ、どちらもネガティブ感情の弱化と扁桃体活動の減少とを見出しています。

意図的にネガティブ感情を強める際のGSAD患者と健常者の間の違いについても気になるところです。

個人的な出来事の記憶(自伝的記憶)に基づいてネガティブな自己信念文を作成しているので、GSAD患者のほうが健常者よりも刺激強度が強かった可能性があります。実際、GSAD患者のほうが過去の出来事に現在でも恥を強く感じると回答しており、それが脳活動に影響した可能性があります。

つまり、ここで見られた群間の差はGSADの特徴そのものではなく、主観的刺激強度の差が原因だと主張することも可能です。おっと、今、論文の末尾を読んだら同じ指摘がありました…。

とはいえ、今回の研究は従来とは違って、実際にGSAD患者が経験した不安、恥辱にまつわる刺激での実験で、個人に特有の社会経験に関わる神経基盤を明らかにできるという利点があります。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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