社交不安障害の人は暴力シーンに対する脳の反応が正常 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

社交不安障害(社会不安障害)の人は感情制御が苦手とされています。感情制御の失敗が不安障害の一因である可能性すらあるでしょう。それにもかかわらず、これまで感情反応ばかり研究されてきて、感情の制御に関する論文は乏しいのが実情です。

また、社交不安障害患者は社会的脅威にだけ障害がみられるのか、それとも社会的脅威以外の脅威にも過敏に反応するのか不明です。これらの問題をうけて、社会的刺激だけでなく、それ以外の身体的暴力刺激についても、患者の感情反応/認知的制御に関する実験をした研究グループがいます。

Goldin, P. R., Manber, T., Hakimi, S., Canli, T., & Gross, J. J. (2009). Neural bases of social anxiety disorder: emotional reactivity and cognitive regulation during social and physical threat. Archives of General Psychiatry, 66(2), 170-180.

★概要

社交不安障害の患者15名(女性9名)、健常人17名(女性9名)が実験に参加しました。

本格的な実験の前に、被験者に感情制御の訓練を施しました。

実験の流れ(1試行)は1.傍観または感情制御の指示(3秒)2.写真の呈示(6秒)3.ネガティブ感情の評定(3秒)でした。

2.写真の呈示(6秒)の時の脳活動(BOLD信号)が主な分析対象でした。なお、脳活動はfMRI(機能的磁気共鳴画像法)により計測しました。

1.傍観または感情制御の指示では、傍観(just look)条件の時に感情のコントロールを禁じ、感情制御(regulate)条件の際には写真刺激の解釈を変え、ネガティブ感情を弱めるよう教示しました。その際には言葉を用いるように指示しました。

刺激としたカラー写真は3種類で、社会的含蓄のない中性的な景色、怒りと侮辱の入り混じったharshな表情、棍棒や銃、鋭利な刃物による暴力場面を用いました。なお、harshとは酷いとかひどいといった意味の英単語です。論文にはharshな表情の例があるのですが、本当に人を馬鹿にしたような顔です…。

中性的な景色では感情制御の条件を設けませんでした。

●感情制御を行わなかった場合

まずは、認知的な感情制御を教示しなかった場合、つまり傍観条件の結果です。

社交不安障害の人は健常群と比較して、harshな表情でも暴力シーンでもネガティブ感情を高く感じました(中性シーンとの比較)。

社交不安障害の人と健常者はともに、harshな表情で両側の背側扁桃体や拡張扁桃体、後頭葉外側部にある顔領域が活性化しました(中性シーンとの比較)。ただし、社交不安障害の人でだけ紡錘状回顔領域が活性化しました。

暴力シーンでも両群はともに、背側扁桃体や拡張扁桃体、後頭葉外側部、両側紡錘状回が興奮しました(中性シーンとの比較)。

しかし、社交不安障害の人は健常者と比較して、harshな表情で感情(内側眼窩前頭葉、前帯状回膝下部、両側海馬傍回)、視覚の背側/腹側経路(舌状回、下後頭回、上後頭回、中後頭回、喫部、上頭頂葉)、顔認識(後頭葉外側部)、感覚(中心後回)に重要な脳部位が活性化しました(中性シーンとの比較)。

健常者は社交不安障害の人と比較して、harshな表情で注意に関与する脳領域(内側喫前部、左下頭頂葉、右縁上回)が活性化しました(中性シーンとの比較)。

患者群で社会不安(Liebowitz Social Anxiety ScaleやBrief Fear of Negative Evaluation Scaleで得点化)が重篤であるほど、harshな表情に対する左背側扁桃体/拡張扁桃体の活動が高く、健常者では社会不安が高いほど、これらの脳領域の活動が低い結果となりました。

しかし、身体的脅威(暴力シーン)では群間の差異が検出できませんでした(中性シーンとの比較)。

●認知的制御の効果

社交不安障害の有無、刺激の種類に関わらず、傍観条件と比較して、感情制御条件ではネガティブ感情が低くなりました(認知的制御は成功)。

社交不安障害の人と健常者はともに、harshな表情に対する認知的制御で背内側前頭前野が活性化した人ほど、ネガティブ感情が減少しました(相関係数は-0.52から-0.54)。

社交不安障害の人は健常群と比較して、harshな表情に対する感情制御で(harshな表情に対する傍観条件との比較)、認知的制御(背外側前頭前野、背側前帯状皮質)、視覚注意(内側喫部、後帯状皮質)、注意(両側背側頭頂葉)、顔など特徴的な物体の処理(両側紡錘状回、上側頭回)を担う脳部位の活動が弱いという結果になりました。

社交不安障害の人は健常群と比較して、暴力シーンに対する感情制御で(暴力シーンに対する傍観条件との比較)、右背外側前頭前野中間部、両側レンズ核、尾状核が活性化し、右中前頭回や左上側頭回の活動が弱い結果となりました。

★コメント

今回の研究の優れた点は社会的脅威(harshな表情)だけでなく、身体的脅威(暴力シーン)に対する反応も調べた点です。社会的脅威だけだと、身体的脅威さらにいえば、非社会的脅威に対する反応も異常なのかどうかが分からないからです。

したがって、社交不安障害の人と健常者の違いは社会的刺激に対する脳活動でだけ生じ、身体的脅威に対する脳活動では生じないという今回の結果は重要です。もっとも、認知的制御では身体的脅威でも脳活動の差が検出されており、解釈は難しいものがあります。

あとは傍観条件で、harshな表情だけでなく、暴力シーンに対しても社交不安障害患者の方が健常者よりもネガティブな感情が強かったのに、神経活動では社会的に厳しい表情にのみ有意な結果が得られたことをどう解釈するかです。たとえば、ネガティブ感情の評定は4件法だったので、もっと選択肢を多くして10件法にすると、有意差が検出されるかもしれません。あるいは、方法論的問題ではなくて、本当に感情と脳活動の分離がみられるのかもしれません。

先行研究では、ネガティブな自己信念に対する感情制御中に、全般性社交不安障害の人は、認知的制御や視覚処理、内臓感覚に関与する脳活動の賦活タイミングが遅れているといった結果でした。もしかしたら、今回も神経活動のタイミングが群間で異なるかもしれませんが、脳活動(BOLD信号)を「平均化」しているため、不明のままです。

○問題点

社会的意味のない中性的な景色がharshな表情の対照刺激としてふさわしいのかどうか検討の余地があります。

暴力シーンに人が登場する以上、社会性がまったくないとは考えられません。人がいない脅威刺激(災害による建物の崩壊など)を用いて実験するのも面白いでしょう。

上述しませんでしたが、健常者と社交不安障害患者はともに、harshな表情よりも暴力シーンを見ている方が、ネガティブ感情を強く感じています。したがって、暴力シーンで群間の差が生じないのはいわゆる「天井効果」であって、健常者と社交不安障害患者に差がないわけではないと解釈することも可能です。ネガティブレベルをマッチングさせた刺激による実験が望まれます。

感情制御の訓練が十分でなかった可能性もあります。認知的制御の徹底的な訓練により社交不安障害の人でも健常者群と同じような脳活動になるかどうか、なったとしたら必要な期間等を今後の実験によって明らかにすべきでしょう。健常者と比較して、社交不安障害患者の方が傍観条件でのネガティブ感情が高かったことから、認知的制御に必要な脳資源が異なる可能性も考えられます。

比較対象の健常者のうつ症状が軽いのも問題です(得点化はBeck Depression Inventoryによる)。端的にいえば、「健常者が健康すぎる」のです。本来ならば、うつ得点が同じ程度の統制群と比較すべきでしょう。

今回のように社交不安障害の人に表情を見せる実験がよく行われていますが、これは実際どれぐらい現実的なのだろうか?といぶかることもできます。それは、実際の社会的交流場面で社交不安障害患者が相手の顔を見ない可能性があるからです。

今回は文字で感情制御の教示を出していますが、日常生活で実際に行うのはその人自身で、指示もありません。自発的な感情制御に関しても研究の余地があります。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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