場面緘黙の高校生の支援事例-iPadとアプリを活用して- | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

場面緘黙症の学生に対する支援事例がオンライン上で読めます。この学生は長野県若槻養護学校高等部3年生(当時)でした。ただし知的障害を合併しているとのことです。入院も常態化しているようです。iPadやアプリを活用して、「表情や頷きだけでコミュニケーションを取っていた」生徒の行動が改善していく過程が描写されています。

URLは本記事下部の参考URLにある『森本高久氏(長野県若槻養護学校)による活動報告書(記録日:2013年2月21日)』を参照してください。

○具体的な支援法と行動の改善

この学生は「電車の乗り換えや乗車時刻に不安を持ってい」ましたが、iPadによる時刻表のサイトチェックで、「不安なく電車での登校ができるよう」になりました。

場面緘黙があるだけでなく、文字を書くことに苦手意識を持っているため、Hitsudan Patto(筆談パット)を利用。朝、放課後のホームルーム時に筆談パットによる発言を促しました。すると、ホワイトボードに漢字を書く行動が増加しました(あくまで主観的印象)。

また、Math drillsというアプリを数学の勉強に使っています。苦手な繰り上がり計算もスムーズに行えるようになりました。

その他、【報告者の気づきとエビデンス】という項目で詳細な結果が読めます。

それにしてもこの活動報告書、問題の背景・支援活動の目的・結果(生徒の変化)と順序立てて書いているだけでなく、主観的気づきとエビデンス(具体的数値など)を分けて記述するなど、科学論文を意識しているように見受けられます。

知的障害があるとはいえ、今後様々なアプリを利用した緘黙児支援の試みが行われる可能性もあるので、記事にしました。もっとも緘黙で話せないので、ウェクスラー(ウィスラー)知能検査などにおいて、知的能力が低く出てしまった可能性もあり、本当に知的障害があるかどうかは分かりません。もしかしたら、逆で知的障害で言語能力が低いため、緘黙しているのかもしれません。

ちなみに、この活動報告書の著者、森本高久氏はgoogle+を利用しています。Twitterにも同姓同名で長野県で教員をしているというアカウント@morimottoがあります。 いずれも2013年7月18日現在。

○緘黙児支援に情報技術を駆使した海外の例

海外ではITテクノロジーを活用した支援事例が報告されていますが、日本ではあまり聞きません。もっとも私が知らない、見聞きしても記憶から抜け落ちている、あるいは実際に行われているけれどもレポートをオンライン上で公開していないだけで現場では盛んに行われているのかもしれません。

具体的な海外の事例としては、アプリではないのですが、場面緘黙症の治療にコンピュータ補助の認知行動療法を実施した研究がシンガポール衛生&生医学学術大会における最優秀ポスター発表賞(銅賞)に輝いています(2011年)。受賞者はSharon (Cohan) Sungという方で現在シンガポール精神衛生研究所(Institute of Mental Health in Singapore)に勤務しておられます。

この研究は2012年にシンガポールの医学雑誌、Singapore Medical Journalに掲載されました。現在、誰でも無料で読むことが可能です。

Ooi, Y. P., Raja, M., Sung, S. C., Fung, D. S., & Koh, J. B. (2012). Application of a web-based cognitive-behavioural therapy programme for the treatment of selective mutism in Singapore: a case series study. Singapore Medical Journal, 53(7), 446-450.

シンガポールの研究が発表される前(2002年)に、すでにWeb-based CBT(ウェブに基づく認知行動療法)に関する事例研究が報告されています。

Fung, D. S., Manassis, K., Kenny, A., & Fiksenbaum, L. (2002). Web-based CBT for selective mutism. Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 41(2), 112-113.

英国でもITテクノロジーを使った臨床試験が計画されていました。LexionとChoose and Tellというソフトウェアを使用し、緘黙児が学校で自信をもって話せるようにしようという実験です。Michael Jonestという教育コンサルタントの方が主導しています。かんもくネットフォーラムによれば、イギリスの支援団体、SMIRA(Selective Mutism Information & Research Association)が主催した全国親の会(2009)でも彼のスピーチが行われたようです。

Lexionはスウェーデンで開発されたプログラムで、読み書きに困難を感じる子どもやティーンエイジャー向けです。スピーチ(話す)の練習もできるようです。英国でも学校で一般的に使われています。

Choose and Tellは英国で開発されました。中強度の学習障害児の言語能力を向上させることが本来の目的です。英国の特別支援教育で一般的に使用されています。

なお、これらはあくまでも事例報告で、支援を受けない治療待機対照群または別の活動をする群を設けていないので、本当に支援/介入の結果なのかどうかは不明です。最近では緘黙児への介入にIntegrated Behavior Therapy for Selective Mutism(IBTSM)を用いた初の無作為化試験が実施され、Behaviour Research and Therapyという雑誌に報告されました。少なくともネット上では、この研究に言及しているのは私のTwitterと本記事だけなので、「現時点では」知る人ぞ知る論文です。

論文の第一著者、R. Lindsey Bergman氏は以前から場面緘黙症の研究を精力的に行っている方です。 John Piacentini氏やMelody L. Keller氏もR. Lindsey Bergman氏と共著論文を発表したことがありますが、Araceli Gonzalez氏に関しては私の知る限り今回が初登場です。

R. Lindsey Bergman氏はカリフォルニア大学ロサンゼルス校のSemel Institute for Neuroscience and Human Behaviorという研究機関に所属しています。他にも色々な肩書があるそうです。

なお、この臨床研究はアメリカ国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health)が運営するClinicalTrials.govに以前から登録されていたものです。ClinicalTrials.govは人間を対象とした世界中の臨床試験のデータベースです。

個人的には非常に重要な論文と思っていますが、どうも統制群が治療待機群となっているところがいただけないですね。これでは完全にプラシーボ効果(偽薬効果)を排除できません。

●追記(2015年1月5日):R. Lindsey Bergman氏による場面緘黙児へのIntegrated Behavior Therapy for Selective Mutismの効果を検証した論文については「場面緘黙症のRCT行動療法の効果」で詳しく解説しましたので、参考にしてください。

Bergman, R. L., Gonzalez, A., Piacentini, J., & Keller, M. L. (2013). Integrated Behavior Therapy for Selective Mutism: A Randomized Controlled Pilot Study. Behaviour Research and Therapy, 51(10), 680–689. doi:10.1016/j.brat.2013.07.003.

参考URL(2013年8月5日現在)

かんもくネットフォーラム 臨床心理士の雑記帳

http://bb2.atbb.jp/kanmokunet/viewtopic.php?p=2624

森本高久氏(長野県若槻養護学校)による活動報告書(記録日:2013年2月21日)

http://maho-prj.org/2012PRJ/report/sources/%E9%95%B7%E9%87%8E%E8%8B%A5%E6%A7%BB%E9%A4%8A%E8%AD%B7%E5%AD%A6%E6%A0%A1/%E3%80%90%E8%8B%A5%E6%A7%BB%E9%A4%8A%E8%AD%B7%E3%80%91%E6%9C%80%E7%B5%82%E6%88%90%E6%9E%9C%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8%20%20%E6%A3%AE%E6%9C%ACNEW.pdf

Children with selective mutism: Using computer software to develop and support confidence in speaking at school

http://euroguide.se/lexion/pdf/AACT_Selective_Mutism.pdf

http://www.aact.org.uk/content/using%20computer%20software%20to%20develop%20and%20support%20confidence%20in%20speaking%20at%20school.pdf

Integrated Behavioral Therapy for Treating Children With Selective Mutism(ClinicalTrials.govのサイトより)

http://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT00458198?term=mutism&rank=1

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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