認知行動療法の方略1つ、現実性チェックで脳活動が減少 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
HOME   »   感情調整(感情制御)、認知的再評価  »  認知行動療法の方略1つ、現実性チェックで脳活動が減少

問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

認知行動療法の方法の一つに現実性チェック(reality checking)があります。これは、感情を制御するために、現在の状況を現実的にとらえ、その脅威度を弱めようとするものです。

今回は現実性チェックが脳に与える影響についてのお話です。

Brühl, A. B., Herwig, U., Delsignore, A., Jäncke, L., & Rufer, M. (2013). General emotion processing in social anxiety disorder: neural issues of cognitive control. Psychiatry Research: Neuroimaging, 212(2), 108-115.

★概要

実験協力者は社交不安障害のgeneralized(全般)型の外患患者で、28名のデータが最終的に分析に用いられました。健常者は参加しませんでした。患者さんたちは認知行動療法の経験がありませんでした。
28名の患者の内、半数(14名)を統制群に、半数を現実性チェック群に割り当てました。そして、対応する訓練を施しました。統制群の内5人が、現実性チェック群の内4人が反応性うつ病(reactive depression)のため、抗うつ薬を服用していました。

実験手続きは1.刺激の予期(1000ms(ミリ秒)+6920ms)2.写真刺激(7920ms)3.fixation(中央の点をみつめるベースライン:15840ms)で構成しました。

1.刺激の予期の前半1000msでは、様々な幾何学図形を呈示しました。この幾何学図形の種類で、のちに続く写真が感情的にポジティブなのか、ネガティブなのか、中性的なものなのかが分かりました。ただし、後続する写真の種類が分からないという条件も設定するため、「不明手がかり」も呈示しました。 不明手がかりの後にはポジティブな写真かネガティブな写真が半々の確率で登場しました。

筆者によれば、写真は社会的なものではないそうです(詳細はコメント欄を参照のこと)。

1.刺激の予期の後半6920msでは、3.fixationと同じく、中央の点を見つめさせました。

写真刺激はInternational Affective Picture System(IAPS)から選出しました。IAPSは心理学や実験精神医学の論文を読むのなら押さえておきたい刺激セットです(脱線)。

統制群では手がかりとそれから推察される写真刺激の感情価に注意し、予期するよう指示を出しました。現実性チェック群ではネガティブな写真を予期した場合と不明手がかりの場合だけ認知的制御を行い、ポジティブ写真や中性的な写真を予期した場合は行わないという教示を出しました。

論文には現実性チェックの例が示されています。これが面白く、「私はスキャナー装置の中にいて…」などと、本当に現実しか述べられていません。

fMRI(機能的磁気共鳴画像法)で刺激写真の予期フェーズ、知覚フェーズ中の脳活動を計測しました。

結果、現実性チェック群は統制群と比較して、ネガティブ写真(中性写真が統制条件)の予期フェーズにおいて、左扁桃複合体、左島皮質中部、左背外側前頭前野、両側頭頂側頭葉の活動が低くなりました。

ネガティブ写真(中性写真が統制条件)の知覚段階では、現実性チェック群は統制群と比較して、左前頭前野、両側側頭葉、両側頭頂葉、左視床、左視床枕、海馬傍回-扁桃体領域、左喫前部、小脳の活動が低下しました。

両群とも、ネガティブ写真の予期、知覚で内側前頭前野が賦活しました(中性的な写真との比較)。しかし、内側前頭前野での有意差は群間で検出できませんでした。

さらに、統制群と比較して、現実性チェック群で活性化した脳部位は見いだせませんでした。

また、現実性チェック群と統制群はfMRIスキャン後の刺激写真の評定値が有意に異なりませんでした。

★コメント

本論文によれば、研究チームは以前にも同じ課題で健常者を対象とした実験をしたことがあるようです。その時は内側前頭前野が認知的制御により亢進したので、社交不安障害患者を対象とした今回の研究でも内側前頭前野に関心を持ち、ROI(Region Of Interest)分析、つまり関心領域の分析を行いました。しかし、上述のように結果はネガティブでした。

比較対象となる健常者が参加しなかったので、全般性社交不安障害の人の脳活動(BOLD反応)が異常かどうかは不明です。しかし、否定的な自己信念に対する反応と認知的再評価(Goldin et al., 2009)の時や怒りと侮辱が混在した表情に対する反応や認知的制御(Goldin et al., 2009)時に、患者群の脳活動が健常者と異なるといった研究報告があります。

扁桃体や島皮質の活動を低下させるのに前頭前野を駆動させる必要があると主張する先行研究とは対照的に、今回の実験では前頭前野の活動増加がなくても、脳の「情動あるいは感情領域」の活動低下が認められました。また、全般性社交不安障害の患者においては、認知的制御による前頭前野のピーク活動は扁桃体活動の減少の3~6秒後に起こったという報告(Goldin et al., 2009)もあり、前頭前野が扁桃体や海馬傍回、島皮質の活動を抑えると断定するには無理があります。もっとも、認知的再評価により全般性社交不安障害患者でも、健常者と同様に3秒以内に背内側前頭前野や左背外側前頭前野、左腹外側前頭前野等の賦活が生じていた(Goldin et al., 2009)ので、あくまでも健康人と比較した場合の話です。

少なくとも社交不安障害の患者では、もしかしたら、扁桃体や島皮質の活動を低下させるのに前頭前野は必ずしも必要ではないのかもしれませんが、少数の論文だけで結論付けることはできません。

研究グループは写真刺激が社会的なものでないと言っていますが、実際には人間の顔や姿が含まれています。したがって、完全に非社会的なものだと、断言できません。

被験者は外患クリニックで募集しており、コミュニティサンプルとは違う特性をもっているはずです。クリニックに行かない社交不安障害の患者にも同様のことが当てはまるかどうかは不明です。

反応性うつ病で抗うつ薬を服用していたのが、28人中9人(32%)で結果に何らかの影響を与えたのかもしれません。しかし、群間での薬物の服用者数は1人しか違わないので、研究チームはこの可能性を否定しています。ただし、認知行動療法の一環である現実性チェックと抗うつ薬との間に何らかの相互作用がある可能性も頭の片隅に置いておくべきです。

現実性チェックの訓練を特別に実施した慣れが脳活動に影響した可能性もあります。したがって、疑似訓練のようなものを統制群に行うべきです。特に現実性チェックは認知行動療法で用いられる技法なので、要注意です。

写真刺激の評定に関しては、現実性チェック群と統制群の有意差が検出できませんでした。認知的制御によりネガティブ感情の減少を報告した先行研究(Goldin et al., 2009; Goldin et al., 2009)では、刺激を1つ呈示するごとに感情の評定を求めており、本実験とは異なります。本実験では、fMRI後にまとめて、写真の感情評定をさせていました。ゆえに、認知的制御は一時的な効果しかないのかもしれません。しかし、認知行動療法などの訓練を長期間行うことで、本実験のような手続きでも刺激価の評定は低下するかもしれず、今後の検討課題でしょう。

この研究は実際に現実性チェックを行っている場合で扁桃体や島皮質、視床の活動が低下したというものです。対して、Furmark et al.(2002)は9週間にわたる認知行動療法で社交不安障害の症状が軽減し、扁桃体や海馬への脳血流も低下したと述べています。しかも、Furmark et al.(2002)は人前でのスピーチを実験課題として被験者に与えただけで、現実性チェックなどの認知的制御方略を一切指示しなかったのです。もしかしたら、Furmark et al.(2002)では無意識的あるいは意識的に認知行動療法の技法を患者が使っていたのかもしれません。

写真刺激を見る前、つまり予期の段階から扁桃体や島皮質、視床の活動が低下していたというのも重要です。不安障害の人は実際の出来事が起こる前からネガティブな思考をする「認知のゆがみ」があるとされ、それを予期段階から防止できる可能性を示唆しているからです。もっとも、本研究で計測した感情評定は予期段階のものではないので、感情強度に与える影響に関しては不明のままです。

スポンサードリンク

Comment

スポンサードリンク

Trackback
Comment form
カテゴリ
ランキング
Twitter
スマートフォンサイト
Amazon書籍
場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

リンクについて
このサイトはリンクフリーです。リンクの取り外しはご自由になさって下さい。個別ページのSNSでの共有やブログ、サイトへのリンクも自由です。
プライバシーポリシー
当ブログはGoogle Adsense広告を掲載しています。Google Adsenseでは広告の適切な配信のためにcookie(クッキー)を使用しています。ユーザーはcookieを無効にすることができます。

なお、Google Adsenseで上げた収益は将来のホームレス生活を見越し、すべて貯金にまわしています。
免責事項
ブログ記事の内容には万全の注意を払っていますが、管理人はその内容の正確さについて責任を負うものではありません。

PAGE TOP