サイコパスは社交不安障害と対極にある-嫌悪条件づけ時の脳 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

サイコパスは恐怖心に乏しいとされ、不安障害と対照的です。そこで、今回は社交不安障害(社会不安障害)とサイコパスの比較を行った研究です。

なお、通常、社交不安障害はsocial anxiety disorderなのですが、本論文ではsocial phobiaとなっています。そのため、以下では社交恐怖症(社会恐怖症)と呼んでいますが、同じ意味です。

Veit, R., Flor, H., Erb, M., Hermann, C., Lotze, M., Grodd, W., & Birbaumer, N. (2002). Brain circuits involved in emotional learning in antisocial behavior and social phobia in humans. Neuroscience letters, 328(3), 233-236.

★概要

健康な人7名、犯罪性サイコパス4名、社交恐怖症患者4名が参加しました。全員が男性でした。犯罪性サイコパス4名の内、3名が反社会性人格障害でした。
彼らに嫌悪刺激を用いた分化遅延条件づけ(付け)を施しました。ここでの条件づけとはいわゆる古典的条件づけのことで、刺激の対呈示により被験体の反応が変化することです。

●条件づけとは何ぞやー学習心理学の基本原理ー

以下は初歩的な心理学のお話なのでもうすでにご存じの方は読みとばしてください。

え、条件づけって何?という方のために自らの復習も兼ねて基本的な心理学講座を開くことにしましょう。

条件づけには古典的条件づけ(レスポンデント条件づけ)とオペラント条件づけの2種類がありますが、ここでは古典的条件づけに関する講釈です。古典的条件づけには無条件刺激と条件刺激という2種類の刺激が登場します。

無条件刺激(US)は生体に生得的反応を引き起こす刺激のことで、条件刺激(CS)とは本来ならば生体にとって中性なのに、USとの対呈示を繰り返すことにより、USと同じような反応を引き起こす刺激のことです。たとえば、食物を食べると唾液が出るのは生得的な反応なので、食物はUSです(この場合、唾液反応は無条件反応という)。それに対して、食物とベルの音を反復して対呈示することにより、ベルの音を聞いただけで唾液がでるようになった場合、ベルの音がCSとなります(この場合の唾液分泌は条件反応と呼ばれる)。

馴化は刺激に慣れさせること、獲得はCSとUSの対呈示、消去は対呈示を止めることです。

●学習心理学講座、完了

はてはて、何のお話でしたっけ? そうそう、実験課題に関する話題でしたね。

男性の無表情をCS、USを人差し指への痛みとしました。痛みは圧力によるものでした。常にUSが随伴するCS+と常にUSが随伴しないCS-は口髭の有無で識別可能にし、被験者間でランダムに割り当てました。CSの呈示時間は7.05秒でした。

条件づけは馴化(16試行)、獲得(32試行)、消去(16試行)の順序で行いました。

fMRI(機能的磁気共鳴画像)による脳活動(BOLD反応)の計測、皮膚コンダクタンス反応の記録を行いました。

結果、CS+がCS-より嫌悪され、覚醒水準が高く、怖いとの報告が被験者から得られました。また、社交恐怖症患者の方が犯罪性サイコパスの人よりもCS+が怖く、覚醒されると回答しました。

健常者は、獲得段階でCS+の方がCS-よりも皮膚コンダクタンス反応が高くなりました(≒弁別能力習得)。しかし、犯罪性サイコパスの人と社交恐怖症の人は区別ができていないようでした(皮膚コンダクタンス反応が指標)。

USに対する主観的評価と皮膚コンダクタンス反応は群間で異なりませんでした。

*注意:fMRIの計測データの大半に多重比較の補正がされていないので、以下の結果はどこまで信用できるか疑問です。

健常者では、CS+とCS-の差が反映されている脳領域は前帯状皮質、両側島前部、右眼窩前頭前野、右小脳、左背外側前頭前野、右二次体性感覚野でした。扁桃体活動はすぐに順化しました(←CSの種類による活動の違いが前半で生じたが、後半では有意差を検出できなかったことが根拠)。

社交恐怖症の人は他の2群と比較して、消去中に右眼窩前頭前野の、CSの種類による活動の差が大きくなりました。

社交恐怖症の人は他の2群と比較して、順化と消去中にCS+とCS-の両方に対して左眼窩前頭前野、左島皮質前部、左背外側前頭前野が興奮しました。右島皮質前部、前帯状皮質、右扁桃体は有意傾向でした。これらの脳部位において、社交恐怖症患者が最も強く活性化し、犯罪性サイコパスの人の活動が最も低くなりました(獲得段階と消去段階)。

社交不安障害の人はCSに対する扁桃体の賦活が馴化段階においてすでに生じていました(健常者との比較)。対して犯罪性サイコパスの人はCSの種類による脳活動の差は検出できませんでした。

★コメント

研究チームは以上の結果を受けて、前頭葉-辺縁系の活動低下が犯罪性サイコパスの特徴で、 前頭葉-辺縁系の活動亢進が社交恐怖症の特徴であると考察しています。ただし、今回の嫌悪条件づけ課題ではという条件つきです。

健常者ではCSの種類による皮膚コンダクタンス反応や脳活動の差が認められるのに対し、社交不安障害患者とサイコパスの人はCSの種類の区別が苦手なようです(皮膚コンダクタンス反応が指標)。

ただし、社交不安障害患者は痛みが伴うCS+だけでなく、痛みが随伴しないCS-に対しても眼窩前頭前野や外側前頭前野、島皮質、扁桃体が興奮しており、嫌悪刺激が生じない刺激にも過敏になっている可能性があります。一方、サイコパスの人は脳活動でもCSの差に鈍感なようです。

USに対する主観的評価と皮膚コンダクタンス反応に関して、群間で有意差が検出できなかったことから、CSに対する主観的評価や皮膚コンダクタンス反応、脳活動の群間の差は痛み刺激そのものへの反応の違いでは説明できません。

○問題点

被験者数が少ないのが問題です。それにすべて男性です。

社交不安障害の人は顔刺激に対して、たとえそれが無表情であったとしても、扁桃体を含む辺縁系領域の活動が高いとされており、CSに顔を使ったことが適切なのかどうか、検討の余地があります。実際、今回の実験でも、社交不安障害の人は健常者と比較して、CS、つまり男性の顔に対する扁桃体の賦活が馴化段階においてすでに生じていました。

はたして、条件づけ手続きは十分だったのでしょうか?サイコパスの人は単に条件づけの獲得が苦手なだけだという解釈も成立します。つまり、健常者、社交不安障害患者、犯罪性サイコパスの人で嫌悪条件づけが成立するのに必要な期間が異なる可能性もあります。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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