『幽霊のような子』( トリイ・ヘイデン著)の感想 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
HOME   »   緘黙症の本、書籍  »  『幽霊のような子』( トリイ・ヘイデン著)の感想

問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

トリイ・ヘイデン(Torey Hayden)著『幽霊のような子―恐怖をかかえた少女の物語』(早川書房)を読みました 。『幽霊のような子』は『Ghost Girl』(1991年)の邦訳で、 1998年に翻訳(入江真佐子訳)されたものを読みました。やはりノンフィクションです。文庫本もありますが、単行本の方を読みました。



最初は『檻の中の子』(トリイ・ヘイデン著)にだけ、緘黙症が登場するのかと思っていたのですが、どうやらその他のノンフィクション作品でも緘黙児が登場するようです。それが、『幽霊のような子』を読んだ動機でもあります。

トリイ・ヘイデン氏の正式な略歴をご紹介します(私が独自に書くと誤りが生じるため、本書から引用します)。略歴ではふれていませんが、トリイ・ヘイデン氏は20世紀後半に、場面緘黙症の研究、緘黙児の治療を行っていた方です。

○トリイ・ヘイデン氏の略歴(『幽霊のような子』から引用)

1951年5月21日モンタナ州生まれ。教育心理学者。大学時代に低所得者層の未就学障害児を世話するボランティアをして以来、教員や精神医学研究者としての資格を取得しながら情緒障害児教室、州立精神病院、福祉施設などで働き、そこでの体験を綴ったノンフィクションを多数著している。処女作『シーラという子』は世界22ヶ国語に翻訳され、TV映画化された。現在は夫と娘とともにスコットランドに住み、執筆活動のかたわら農業を営み、児童心理学の研究を続けている。

~引用終わり~

巻末の「解説にかえて」が斎藤由貴さんという女優さんでした。同じトリイ・ヘイデン著の『檻の中の子―憎悪にとらわれた少年の物語』では斎藤学氏が解説を担当しており、偶然名字が一致したのかそれとも親族なのかよく分かりません。

英語版では『Ghost Girl: The True Story of a Child in Peril and the Teacher Who Saved Her』という副題が付いているバージョンもあります。しかし、日本のAmazonでは副題付きの書籍が見当たりません。ちなみに、画像検索してみると、多様な表紙を見ることができます。さすが、多くの言語に翻訳された世界的ベストセラー作家といった感じです。

○当時としては緘黙児の特徴をよくとらえている

ジェイド・エクダール(ジェイディ)という少女が選択性無言症です。

ジェイディには「家ではしゃべると報告されているものの、彼女は学校ではだれにも一言も口をきかなかった。実際、しゃべらないだけではなく、泣きも笑いもしなければ、咳もげっぷもしゃっくりもせず、鼻をすすることさえしない」(p.12)という描写がされています。

檻の中の子』のケヴィンは緘黙以外にも極度の恐怖症があったのですが、ジェイディの場合は姿勢が普通とは異なり、「ほとんど二つ折りといっていいほどに体を前かがみにして、まるで持ち切れないほどの本をかかえようとしているように、体の下で両腕を組んでい」(p.13)ました。

檻の中の子』では選択性無言症に対するトリイ・ヘイデン氏の認識や治療法に関する記述がほとんどありませんでした。しかし、本書には「こういう子どもたちの多くは、自分がふたたびしゃべりはじめるときにみんなの注意を引いてしまうということを何よりもおそれていて、そのために沈黙を守っている」(p.31)という見方や「ジェイディがいままでずっとしゃべっていたかのように彼女に接すること」(p.30)が緘黙症からの脱却に必要な対応法だという彼女の認識が明示されています。

したがって、『檻の中の子』よりも『幽霊のような子』の方が選択性無言症に対する理解を深める上で役立ちます。ただし、21世紀になった現代では、場面緘黙症に関する書籍が続々と出てきているので、当時としては参考になるという意味です。

このように、本書ではトリイ・ヘイデン氏(当時は特殊学級の教師)の緘黙症に対する見解や対応法が垣間見れます。しかし、それだけでなく、彼女との対話を通じて、その他の教師や心理学者(サイコロジスト)、緘黙児の家族さらにいえば、「口が悪く、攻撃的な男の子」のジェイディに対する見方も示されており興味深いです。それらは現代の「緘黙界」にも通じる見解です。もっとも、これはあくまでもトリイ・ヘイデン氏の記憶に基づく述懐なので、歪みや誤解があるのかもしれません。それにいくらノンフィクションだからといって、すべてが事実とは限りません。

(性的)虐待と緘黙症との間に何らかの関係があることを仄めかす記述もありますが、現在では受け入れられないでしょう。もっとも、受け入れられないからといって、必ずしも虐待が緘黙症とは無関係であるとの証拠にはなりません。というのも、もしかしたら緘黙児の中には少数ながらも虐待が何らかの要因となっているケースもあるかもしれないからです。

煮え切らない終わり方をしていると感じる方もいらっしゃるでしょうが、ノンフィクションですから仕方ありません。

トリイ・ヘイデン公式ウェブサイトによれば、元緘黙女児ジェイディに「ページに寄稿をお願いしましたが、断られてしま」ったそうです。連絡がとれる状態で、行方不明というわけではないようですね。

○緘黙児が自分の意思で話さないという描写がされている

しかし、「選択性無言症の子たちって相手を操る天才」(p.32)、「自分の意思で口をきかない」(p.41)など現在からみると許容できない表現が散見されるのもたしかです。一方、緘黙児が話さないのは「すべて」不安や恐怖によるものであることを証明することは難しいことも認めなければなりません。少なくとも緘黙児の一部には、意図的、反抗的にしゃべらない子もいるのかもしれません。

あるいは、たとえ初めは不安障害としての緘黙症だったとしても、軽快した後では「自分の意志で話さないで相手を操る戦術」に巧みになっている可能性があります。

ただ、「反抗的な緘黙児」の場合、不安障害というラベルを当てはめることの妥当性が問われます。しかしながら、反社会的行動を繰り返す反抗挑戦性障害(oppositional defiant disorder)の子どもや人は不安障害を合併していること(Boylan et al., 2007)もあり、必ずしも反社会的だからと言って不安障害ではないとは言い切れないところが複雑です(ただし、緘黙には反抗的に口をきかない反社会的側面と人と交わらない非社会的側面の両方がある)。

反抗挑戦性障害の若者が不安障害を合併していると、合併がない者と比べて全体的障害、内在化症状(不安や抑うつ)が重篤で、介助者のストレスも高く、親子関係の問題が深刻であるとの報告もあります(Cunningham et al., 2013)。

ただし、上に引用した論文のアブストラクト(要約)は単に不安障害と述べているだけでその内訳を示していません。もしかしたら、PTSD(心的外傷後ストレス障害)のことかもしれません。さらに、この研究は反抗挑戦性障害の人に不安障害が多いことを示したデータであって、不安障害の患者に反抗挑戦性障害との合併が多いことを示した研究ではないことにも注意が必要です。いずれにせよ、緘黙児に反抗挑戦性障害が多いとの推論の根拠としては弱いです。

次は中強度の根拠をあげましょう。

社会不安が高ければ高いほど、他人に対して敵愾心を抱き、他者の敵意も強く感じるとの研究(DeWall et al., 2010)もあります。ただし、この研究によれば、社会不安が高いほど、パートナーに対する暴力的振る舞いをポジティブに捉える度合いが低かったそうです。また、仮想の敵に対して、攻撃的な行動をすることが少なかったようです(相手に与える騒音強度とその時間が攻撃行動の指標)。

Kashdan et al(2010).は社会不安が高い人の中には攻撃的で、衝動的、リスク行動が多い者が部分的にせよ含まれているという最新の研究成果を総括しています。これは社会不安に対する従来の見方、すなわち(シャイで)、従順、抑制され、リスクを嫌がるとの見解に対する部分的反証となっています。

したがって、場面緘黙症の子ども/人はそうでない人と比較して反抗挑戦性障害の合併率が高いまたは、敵愾心/敵意や攻撃性が強い、リスク行動を好むというような研究結果が出たとしても驚くに値しません(ただし、場面緘黙症の子、人は不安が高いという認識が正しいことが前提条件)。

高機能自閉症でも社交不安障害と同程度の恥や拒絶への恐怖を感じ、反抗挑戦性障害や行為障害と同程度の攻撃性を示す子どもがいるとの報告(Pugliese et al., 2012)があります。また、臨床閾値以下の大学生でも自閉症スペクトラム障害の症状と言語的、身体的攻撃性の関係を社会不安が強めているとの研究(White et al., 2012)もあります。なお、自閉症スペクトラム障害は社交不安障害との合併率が高いとされています。

いずれにせよ、場面緘黙症児・人の多くが強い(社会)不安を抱いているならば、場面緘黙児・人には攻撃的で、衝動的、リスクをとる行動を好む者がサブタイプとして存在する可能性があります。ただし、これはKashdan et al(2010).の見解が正しいことが前提です。また、社会不安が高いほど(配偶者または恋人に対する)攻撃的態度を容認しない、仮想の敵に対する攻撃行動が弱い(DeWall et al., 2010)との研究結果もあり、社会不安と攻撃性の関係に関しては現在でも論争中です。

2007年4月16日に発生したバージニア工科大学銃乱射事件におけるチョ・スンヒ容疑者は場面緘黙症があったとされますが、もしかしたら不安が高い集団の中でも攻撃的なサブタイプに属していたのかもしれません(私の勝手な妄想です。お気になさらずに)。

関連記事⇒反社会性人格障害と社会不安障害の合併患者は多い

参考URL(2013年8月1日現在)

トリイ・ヘイデン公式ウェブサイト-著作『幽霊のような子』紹介ページ

http://www.torey-hayden.com/japan/ghost_girlj.htm

引用文献(本来なら許されないことですが、「要約だけ」読みました)

Boylan, K., Vaillancourt, T., Boyle, M., & Szatmari, P. (2007). Comorbidity of internalizing disorders in children with oppositional defiant disorder. European Child & Adolescent Psychiatry, 16(8), 484-494.

Cunningham, N. R., Ollendick, T. H., & Peugh, J. L. (2013). Phenomenology of Clinic-Referred Children and Adolescents with Oppositional Defiant Disorder and Comorbid Anxiety. Journal of Psychopathology and Behavioral Assessment, 35(2), 133-141.

DeWall, C. N., Buckner, J. D., Lambert, N. M., Cohen, A. S., & Fincham, F. D. (2010). Bracing for the worst, but behaving the best: Social anxiety, hostility, and behavioral aggression. Journal of anxiety disorders, 24(2), 260-268.

Kashdan, T. B., & McKnight, P. E. (2010). The Darker Side of Social Anxiety When Aggressive Impulsivity Prevails Over Shy Inhibition. Current Directions in Psychological Science, 19(1), 47-50.

Pugliese, C. E., White, B. A., White, S. W., & Ollendick, T. H. (2012). Social anxiety predicts aggression in children with ASD: clinical comparisons with socially anxious and oppositional youth. Journal of autism and developmental disorders, 43(5), 1205-1213.

White, S. W., Kreiser, N. L., Pugliese, C., & Scarpa, A. (2012). Social anxiety mediates the effect of autism spectrum disorder characteristics on hostility in young adults. Autism, 16(5), 453-464.

スポンサードリンク

Comment

スポンサードリンク

Trackback
Comment form
カテゴリ
ランキング
Twitter
スマートフォンサイト
Amazon書籍
場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

リンクについて
このサイトはリンクフリーです。リンクの取り外しはご自由になさって下さい。個別ページのSNSでの共有やブログ、サイトへのリンクも自由です。
プライバシーポリシー
当ブログはGoogle Adsense広告を掲載しています。Google Adsenseでは広告の適切な配信のためにcookie(クッキー)を使用しています。ユーザーはcookieを無効にすることができます。

なお、Google Adsenseで上げた収益は将来のホームレス生活を見越し、すべて貯金にまわしています。
免責事項
ブログ記事の内容には万全の注意を払っていますが、管理人はその内容の正確さについて責任を負うものではありません。

PAGE TOP