自閉症持ちの第一度近親者がいる場面緘黙児が約半数(愛) | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

今回はPubMedやGoogle Scholarにも未収録の希少な文献です。しかもネット上で言及しているサイトは他にありません。なお、PubMedとは米国国立生物工学情報センターが運営する医学・生物学文献のデータベースのことで、Google ScholarとはGoogle社が提供する学術文献検索サービスのことです。

この論文はアイルランド共和国における場面緘黙児の出現率を調べた世界初の研究です。アイルランドは漢字で愛蘭(土)、愛倫、愛爾蘭などと書きますので「愛」です。

Sharkey, L., & McNicholas, F.(2012). Selective Mutism: A prevalence study of primary school children in the Republic of Ireland, Irish Journal of Psychological Medicine, 29(1), 36-40.

★概要

対象学区は都会。社会経済的地位は低い地域(実際に正式な診断が下されたすべての緘黙児の社会経済的地位も低水準でした)。始業開始から6ヶ月経過以上した時点での調査。

DSM-IVに基づく場面緘黙症に関する説明を書いた用紙を各学校に配り、該当する児童の有無を尋ね、該当者がいた場合は場面緘黙質問票(SMQ:Selective Mutism Questionnaire)への回答を求めました(回答者は教師)。

SMQに引っ掛かった児童に対して児童精神科医による診断、臨床評価を実施(DSM-IVによる)。

○結果

●基礎データと緘黙児の特徴(健常児との比較なし)

該当地区にあるすべての小学校39校から回答を得ました(返答率100%)。学区内の全小学生10,927人の中で、20人が教師の目に留まり、SMQに回答しました。その内、14人(70%)が精神科医による正式な診断手続きに臨みました。全児童において場面緘黙症が確認されました。Clinical Global Assessment Scaleによって全緘黙児に中強度の機能障害が認められました(臨床家による評価)。

・小学校での緘黙児の出現率は0.18%。ただし、小学生に対応する年齢、4歳から12歳すべてをこみにした数字。
 
・場面緘黙児の平均年齢は6.9歳、範囲は5.2~10.6歳。

・男女比は1:4。バイリンガルが3名(21%)。

・失行(dyspraxia)の治療を受けている緘黙児が3名(21%)。

・9名の緘黙児が言語発達遅延を示した(64%)。

・21%の緘黙児が臨床閾値内に入る重篤な不安を示した(社交恐怖症と分離不安障害が多い)。評定者は子どもまたは親で、尺度はSpence Children's Anxiety Scale(SCAS)。

・緘黙児の内8人が情動問題(57%)、5人が友達との交流の問題(36%)、2人が行動障害(14%)を示した。ただし、臨床閾値に達するのは4人のみ(29%)。Strengths and Difficulties Questionnaire(SDQ)が尺度。回答者は親。

●家族の病歴(専門家による正式な診断が保証されているが、一般家庭との比較なし)

※注:論文中には家族数に関する記述がなく、百分率表示も分母が緘黙児14名のままです。よって、親族の人数が多くなればなるほど、割合は高く出るので、論文に書かれている百分率表示は信頼性が低いです。

つまり、論文中の数字は場面緘黙児の約○%に何らかの家族歴がある親族が少なくとも1人はいると言うことを意味し、場面緘黙児の親族の約○%に何らかの家族歴があるということを意味するのではないことに注意する必要があります。

調査時点では両親ともに健全だったとの記述があるため、人数が自明の母親・父親を元に私が独自に算出した%も書き記します。各項目の末尾にある両親○%(母○%,父○%)というのがそれです。

・場面緘黙症の経験がある家族5名:36%(母親3名、第一度近親者2名)。両親11%(母21%,父0%)。

・社交不安障害(社会不安障害,社交恐怖症,社会恐怖症)の経験がある家族5名:36%(母親3名、父親1名、第一度近親者1名)。両親14%(母21%,父7%)。

・極端な恥ずかしがり屋(シャイ)な家族は14名:100%(母親11名、父親3名)。すべての緘黙児のどちらか片方の親がシャイ。両親50%(母79%,父21%)。

・言葉の遅れ・言語遅延・構音障害のある家族9名:64%(母親1名、父親1名、兄弟姉妹3名、第一度近親者4名)。両親7%(母7%,父7%)。

・自閉症スペクトラム障害の家族6名:43%(兄弟姉妹が1名、第一度近親者は5名)。両親0%(母0%,父0%)。

★コメント

クリニックに通う児童ではなく、学校に存在する緘黙児の割合を調べたところが利点です。ただし、あくまでも学校場面での緘黙症の割合であり、学校以外の場面の緘黙症の出現率は不明です。もっとも、臨床家によって場面緘黙症の診断が正式に下された児童が少なくとも14人いるので、学校場面だけ緘黙していると断言することはできません。

学校が始まってから、6ヶ月経過した時点での調査です。米国精神医学会発行のDSM-IV(精神障害の分類と診断の手引き)やWHO(世界保健機関)が作成したICD-10(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)によれば、場面緘黙症そのものは1ヶ月の持続期間だけで診断を下すことができます。もしも、1カ月から6カ月の間に喋り始めた子がいたとしたら、診断基準に基づいた場面緘黙症の出現率はもっと高くなっていた可能性があります。

また、小学校の学年をすべて合算しているので、緘黙児の出現率を低めている恐れがあります(著者も指摘)。それが、本当だとすると、6ヶ月以上場面緘黙症の症状が持続するものの、数年経てば、介入をしなくても緘黙から脱出する児童が存在することになります(大半の緘黙症が「自然に」治ったことが前提)。もしそうならば、やはりDSMやICDに記載されている持続期間には何ら科学的根拠がないことになります。

参考記事⇒緘黙の診断基準の1つ、継続期間には科学的根拠がない?

ただし、出現率が安定する時期を持続期間の要件にするにしても、「安定」とは何ぞや?というやっかいな問題がのしかかります。やはり、何もかも科学的に決めるのは無理なようです。「科学という宗教」に染まってしまってはいけません。

場面緘黙質問票(SMQ)はあくまでも幼稚園や学校、その他の状況で話すかどうかや、学校の先生や同級生と話すかどうかに回答するものです。声の大きさに関する質問項目は含まれていません。もしも、蚊の鳴くような声の児童がいたとしたら、それは場面緘黙症に該当するのでしょうか?該当しないとしても、もしも蚊の鳴くような声の生徒の身の上に何らかのトラウマティックな出来事が生じ、緘黙症になる可能性が高いのだとしたら、SMQだけでは、緘黙症の「リスク」がある子どもを発見することは困難です。つまり、SMQでは学期途中から緘黙症になるリスクがある子を発見できません。

失行の治療を受けている緘黙児が3名(21%)いたとのことですが、もしかしたら緘動なのかもしれません。失行について詳しくないので何とも言えませんが(そもそも、専門家でもない人が論文のことをあれやこれや言うこと自体、おかしいです)。

アイルランド共和国における第一度近親者(first-degree relative)とはいったい誰のことなんでしょうか?論文中では第一度近親者と母親・父親・兄弟姉妹を区別して書いているのでどうも日本とは意味が違うような気がします。第一度近親者の定義を詳しく書いてほしかったです。

自閉症スペクトラム障害の人が親戚にいる場面緘黙児が6名(43%)いました。また、緘黙児の64%が言語発達遅延を示し、言葉の遅れ・言語遅延・構音障害がある親族がいる場面緘黙児が9名(64%)いました。

*注意:緘黙児14人が分母なので、親戚数が増えればそれだけ、偶然自閉症スペクトラム障害や言語障害の家族歴を有する割合が高くなります。したがって、43%や64%という数字は本来よりも高いものである可能性があります。親戚数を統制した上での健常児家族との比較が望ましいです。

これらはStein et al.(2011)が主張するところの場面緘黙症、行動抑制、社会的交流の不安に関わるリスク遺伝子CNTNAP2を発見し、CNTNAP2遺伝子が自閉症スペクトラム障害、言語障害にも関わっているという報告と一致します。ただし、遺伝子研究は後から「いや、あれは間違いだった」というようなことが頻繁に起こる分野で、今後の追試を見ていかなければなんともいえません。

なお、CNTNAP2遺伝子は場面緘黙症や自閉症スペクトラム障害、言語障害以外にも統合失調症、知的障害、ディスレクシアとの関連性が疑われています(Rodenas-Cuadradoet al., in press)。中国の漢民族ではうつ病と関連するとの報告(Ji et al., 2013)もあります。精神医学の世界でよくある「様々な精神疾患に共通のリスク遺伝子がある」というやつですね。

ただし、同じ遺伝子に変異があったとしても同じ場所に変異(または多型)があるとは限りません。そもそも遺伝子とは意味のある塩基配列のことです。もしかしたら「意味のない」塩基配列にも緘黙児・人とそうでない児童・人に出現頻度上の差があるのかもしれません。

*注意:最近では意味のない塩基配列(ジャンクDNA)にも新たな機能があることが発見されてきています。

もっとも、詳細な家族歴を調べたのは14人で、サンプル数が少ないという欠点があります。緘黙児・緘黙人のサンプルを増やせば、家族歴に関しても様々なことが判明するはずです。そもそも一般人との比較さえされていないので、家族の病歴がどれだけ多いのかは不明のままです。

この研究だけを見ると場面緘黙症は社交不安障害よりもむしろシャイネスと関係しそうです。ただし、社交不安障害は精神科医による厳密な診断により有病率が低く抑えられている可能性もあるので、結論付けることはできません。

英語論文を読んでいると時々、緘黙児の不安は自己評定だとそんなに高くないけれども、臨床家が評価すると不安が高くなるというような研究成果に遭遇することがあります(うろ覚えです)。もしかしたら、シャイネスだと自己評定でも高くなるかもしれません。シャイネスに関する質問紙として(Revised)Cheek and Buss Shyness ScaleやMcCroskey Shyness Scaleがありますから、緘黙児や緘黙人に回答してもらうと面白いでしょう。結果次第では、(場面)緘黙症は不安障害というよりも「シャイネスの障害」になるのかもしれません。

関連記事⇒シャイネスと社会不安の違いは脳構造と脳活動にも表れている

場面緘黙症がシャイネスの障害だった場合は、極端なシャイネスは周囲からは(社会)不安/恐怖の表れとして認識されるけれども、緘黙児・人自身は不安/恐怖をそんなに感じていないということになるのでしょう。

あるいは最初は極度のシャイネスで(社会)不安は正常レベルだったけれども、緘黙症の発症の結果、他者と交流する機会が減少し、高い(社会)不安を示すようになったと考えることもできます。なにせ、緘黙症の発症直前/直後に不安レベルを定量化した研究がない以上は、緘黙児・人の極度の不安は緘黙症の結果であって原因ではないとする解釈を否定することはできませんからね。

この説の問題点はしゃべれない状況にどのぐらいの期間置かれたら高い(社会)不安を示すか、または(社交)不安障害になるのかということです。十数年以上もかかる場合には場面緘黙症の小学生でも社交不安障害が多いとの研究結果(うろ覚え)と矛盾しますから。

ただし、緘黙症の発症前・発症直後にあった中程度の不安が緘黙症の結果、強度な水準まで上昇したと考えることも可能です。また、緘黙症の結果高まった不安が症状の持続因子として働いている可能性も考えられます。

緘黙児の不安が自己報告だと低くなる要因として考えられることはシャイネス以外にも

1.緘黙児には自己報告するだけの言語能力(認知能力)がない。

2.緘黙児にはアレキシサイミア(alexithymia)傾向がある。 アレキシサイミアは失感情症とも呼ばれ、自分の感情への気付きが苦手な状態のことです。「なぜ、しゃべれないのか分からない」という緘黙児はもしかしたらアレキシサイミア傾向が強いかもしれません。

3.緘黙児はしゃべらないことで、話すことに対する不安から自身の身を守っている。

4.そもそも緘黙児の不安レベルは正常であって、周囲から不安が強いように見えるだけ。

5.そもそも私の記憶違いで緘黙児は自己評価でも不安を高く報告している。

引用文献:Ji et al.(2013)及びRodenas-Cuadrado et al.(in press)は要約のみ読みました。Stein et al.(2011)は全文読んだことがあります

Ji, W., Li, T., Pan, Y., Tao, H., Ju, K., Wen, Z., Fu, Y., An, Z., Zhao, Q., Wang, T., He, L., Feng, G., Yi, Q., & Shi, Y. (2013). CNTNAP2 is significantly associated with schizophrenia and major depression in the Han Chinese population. Psychiatry Research, 207(3), 225-228.

Rodenas-Cuadrado, P., Ho, J., & Vernes, S. C. (in press). Shining a light on CNTNAP2: complex functions to complex disorders. European Journal of Human Genetics.

Stein, M. B., Yang, B. Z., Chavira, D. A., Hitchcock, C. A., Sung, S. C., Shipon-Blum, E., & Gelernter, J. (2011). A Common Genetic Variant in the Neurexin Superfamily Member CNTNAP2 Is Associated with Increased Risk for Selective Mutism and Social Anxiety-Related Traits. Biological psychiatry, 69(9), 825-831.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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