全般性不安障害患者は恐怖表情に対する扁桃体の活動が低い | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

全般型の社交恐怖症の症状は社会的場面にだけ過剰な不安を抱くことなのに対し、全般性不安障害の症状は社会的場面以外のあらゆる状況にも不安や心配を抱くという違いがあります。

しかし、社交恐怖症全般型(社交不安障害全般型)と全般性不安障害は合併することがあります。全般性不安障害の患者の心配が社会的場面にも及ぶためであるというのが一つの解釈です。この仮説に基づけば、純粋な全般型社交恐怖症と全般性不安障害を合併している全般型社交恐怖症はその発症メカニズムが異なると考えられます。

それでは、社交恐怖症全般型と全般性不安障害には神経学的な違いが認められるのでしょうか?これが今回の主題です。

なお、以下では社交恐怖症全般型のみの患者をGSP(generalized social phobia)、全般性不安障害のみの患者をGAD(generalized anxiety disorder)、両者の合併者をGSP+GADとします。

Blair, K., Shaywitz, J., Smith, B. W., Rhodes, R., Geraci, M., Jones, M., McCaffrey, D., Vythilingam, M., Finger, E., Mondillo, K., Jacobs, M., Charney, D. S., Blair, R. J., Drevets, W. C., Pine, D. S. (2008). Response to emotional expressions in generalized social phobia and generalized anxiety disorder: evidence for separate disorders. American Journal of Psychiatry, 165(9), 1193-1202.

★概要

健常者17名、GSP患者17名、GAD患者10名、GAD+GSP患者7名が参加しました。統計的分析はGAD+GSP患者をGAD患者の方に含める形で行いました。その他の不安障害がある人は排除しました。

実験課題は表情の認識でした。顔刺激は無表情、恐れ、怒りの3種類を用いました。ただし、無表情とはいっても25%強度の幸せな表情でした。

顔刺激の呈示は2500ミリ秒で、刺激間間隔は500ミリ秒でした。

被験者の注意を維持するために、顔刺激の性別を判断させました。

脳活動はfMRI(機能的磁気共鳴画像)により計測しました。

結果、GSP患者は健常者/GAD患者と比較して、恐れの表情に対する扁桃体、中前頭回、前頭極、外側前頭葉、吻側前帯状回、上側頭回、下側頭回、小脳山頂の活動が亢進していました(無表情が統制条件)。健常者とGSP患者の比較において扁桃体は有意傾向にとどまりました、

対照的にGAD患者は健常者/GSP患者と比較して、恐れの表情に対する扁桃体の活動が減退していました(無表情が統制条件)。これは無表情に対する反応の差が原因ではありませんでした(統計的に確認)。
その他の領域では健常者との有意差は検出されませんでした。

GSP患者は不安が高ければ高いほど、怒り/恐れの表情に対する右扁桃体活動の増加が大きい結果となりました(正の相関)。不安レベルはBeck Anxiety Inventoryで評価。ただし、Liebowitz Social Anxiety Scaleや-Trait Anxiety Inventoryでは有意な相関なし。 前頭葉との相関もなし。

一方、GAD患者は健常者と比較して、怒りの表情に対する中前頭回外側部、下側頭回、小脳山頂の活動が賦活していました(無表情が統制条件)。ただし、中前頭回外側部、下側頭回に関してはGSP患者も怒りの表情に対する活動亢進が生じ(無表情が統制条件、健常者との比較)、GAD患者との有意差は検出されませんでした。

不安が強いGAD患者ほど怒り表情に対する中前頭回の賦活度が大きい結果となりました(扁桃体は有意でない)。不安レベルはSpielberger State-Trait Anxiety Inventoryの特性項目で評価。ただし、Liebowitz Social Anxiety ScaleやBeck Anxiety Inventoryでは有意な相関なし。

GAD+GSP患者を抽出して分析しても、GAD患者と同じ結果でした。

表情をすべてこみにすると、健常者群は他の2群と比較して舌状回の活動が高くなりました。

★コメント

本研究は全般性不安障害と社交恐怖症全般型が神経レベルで異なることを示しています。最近、実用レベルには至らないものの、脳スキャンで精神疾患の(鑑別)診断を下せるとする研究報告が相次いでおり、それに寄与する成果です。

関連記事1⇒精神疾患を脳イメージングで診断できる時代へ(海外の研究)

関連記事2⇒精神疾患を脳イメージングで診断できる時代へ(日本の研究)

そして、社交恐怖症全般型を合併している全般性不安障害患者は神経レベルでは全般性不安障害の範疇に入ることになります(ただしサンプル数が少ないのが問題)。

全般性不安障害患者では恐れの表情に対して扁桃体活動が減少していたのに対し、社交恐怖症全般型患者では扁桃体活動の亢進が認められました。真逆の結果です。

全般性不安障害では扁桃体よりも中前頭回の方が重要なようです。それは、不安レベルとの相関は扁桃体ではなく、中前頭回で認められたからです。

今回もGuyer et al.(2008)Blair et al.(2010)と同様にIQがやたら高い参加者ばかりで、IQが低い人にも同様のことが当てはまるかどうかは分かりません。

表情以外の社会的刺激あるいは非社会的刺激でも同じような結果が出るかどうかは分かりません。

○全般性不安障害に関する脳科学的研究

Yassa et al.(2012)は不意に金銭を失うギャンブル課題において、全般性不安障害患者は健常者よりも扁桃体活動が低く、 分界条床核の活動が高いことを見出しました。なお、分界条床核とは拡張扁桃体(extended amygdala)とも言われる領域で扁桃体と視床下部の間にあります。

しかし、Palm et al.(2011)は潜在的な表情課題において全般性不安障害の女性と健康な女性では扁桃体活動の有意差が検出できなかったと報告しています。恐れ、悲しみ、怒り、幸せの表情に対する前頭前野の活動が低く、幸せや恐れの表情に対する前帯状皮質の活動も低かったようです(Palm et al., 2011)。

また、17ミリ秒の怒り表情の呈示では全般性不安障害患者の右扁桃体活動が高く、これが不安レベルと正の相関を示た研究(Monk et al., 2008)や嫌悪写真や中性写真に先行する予期手がかりに対して両側背側扁桃体が活性化したとの報告(Nitschke et al., 2009)もあります。

以上のように、全般性不安障害の人の扁桃体活動については一貫した結果が得られていません。おそらく、課題の性質や被験者の特性、計測法の影響を受けているのでしょう。それに対し、社交恐怖症患者においては一貫して扁桃体の賦活が認められています。たとえば、スピーチの予期不安に関するfMRI研究(Lorberbaum et al., 2004)スピーチ中の脳活動を計測したPET研究(Tillfors et al., 2001)「あなたは馬鹿だ」といった自己に関する否定的評価を示す文を読ませたfMRI研究(Blair et al., 2008)パーティという社会的場面をコンテキストとした文を読ませたfMRI研究(Blair et al., 2010)怒りの線画を見せたfMRI研究(Evans et al., 2008)恐怖の表情を見せたfMRI研究(Labuschagne et al., 2010)において社交恐怖症患者における扁桃体の賦活を認めています。

*注意:社交恐怖症患者で扁桃体が活発になった論文ばかり読み、たとえそうでなくても、有意差が検出されなかった論文は忘却しているだけかもしれません(確証バイアス)。

もっとも扁桃体だけに注目するのは近視眼的です。実際には全般性不安障害患者で、怒り表情を17ミリ秒見た時の扁桃体-腹外側前頭前野の機能的結合が弱まっている(Monk et al., 2008)、安静時でも内側前頭前野・島皮質・小脳-扁桃体の機能的結合が異常(Roy et al., 2013)、鉤状束の構造的異常(Tromp et al., 2012)など扁桃体を含む脳ネットワークの異常が指摘されています。

なお、鉤状束とは扁桃体を含む側頭葉と前頭葉を結ぶ白質線維です。社交恐怖症全般型の患者においても同白質を調べた研究があります。それによれば、社交恐怖症全般型の患者は右の鉤状束の軸索や髄鞘が減少していました(Phan et al., 2009)。

脳白質線維群の測定に用いる技術は拡散テンソル画像法(Diffusion Tensor Imaging)という一般の方には馴染みのない方法ですが、脳研究ではよく使われます。MRIの一種です。"Diffusion Tensor Imaging"と画像検索すると、美しい脳の画像が表示されます。拡散テンソル画像法による脳画像を一度も見たことのない方は脳イメージング技術の進歩に驚かれることでしょう。

Google画像検索"Diffusion Tensor Imaging"

○引用文献(本来なら許されませんが、要約だけ読みました)

Monk, C. S., Telzer, E. H., Mogg, K., Bradley, B. P., Mai, X., Louro, H. M., Chen, G., McClure-Tone, E. B., Ernst, M., & Pine, D. S. (2008). Amygdala and ventrolateral prefrontal cortex activation to masked angry faces in children and adolescents with generalized anxiety disorder. Archives of General Psychiatry, 65(5), 568-576.

Nitschke, J. B., Sarinopoulos, I., Oathes, D. J., Johnstone, T., Whalen, P. J., Davidson, R. J., & Kalin, N. H. (2009). Anticipatory activation in the amygdala and anterior cingulate in generalized anxiety disorder and prediction of treatment response. 166(3), 302-310.

Palm, M. E., Elliott, R., McKie, S., Deakin, J. F., & Anderson, I. M. (2011). Attenuated responses to emotional expressions in women with generalized anxiety disorder. Psychological Medicine, 41(5), 1009-1018.

Roy, A. K., Fudge, J. L., Kelly, C., Perry, J. S., Daniele, T., Carlisi, C., Benson, B., Castellanos, F. X., Milham, M. P., Pine, D. S., & Ernst, M. (2013). Intrinsic functional connectivity of amygdala-based networks in adolescent generalized anxiety disorder. Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 52(3), 290-299.

Tromp, D. P., Grupe, D. W., Oathes, D. J., McFarlin, D. R., Hernandez, P. J., Kral, T. R., Lee, J. E., Adams, M., Alexander, A. L., & Nitschke, J. B. (2012). Reduced structural connectivity of a major frontolimbic pathway in generalized anxiety disorder. Archives of General Psychiatry, 69(9), 925-934.

Yassa, M. A., Hazlett, R. L., & Stark, C. E., (2012). Hoehn-Saric R.Functional MRI of the amygdala and bed nucleus of the stria terminalis during conditions of uncertainty in generalized anxiety disorder. Journal of Psychiatric Research, 46(8), 1045-1052.

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ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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