中学校教師の約24%は選択性緘黙という言葉さえ知らない | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

中学校の教師で、選択性緘黙(場面緘黙)の認知度を調べた研究があります。選択性緘黙に特化した研究ではないのですが、発達障害やうつ病、強迫性障害、過敏性腸症候群などと一緒に分析してあります。

小学校の先生や保健室の先生における認知度を調べた杉森・石原(2011)と違って、養護教諭(保健室の先生)を除く一般教師が対象です。舞台も小学校ではなく、中学校です。教師の性別、年齢ごとの分析もあります。

成田絵里・斉藤ふくみ (2012). 子どものメンタルヘルスに関する研究―― 教師の理解を中心に―― 茨城大学教育実践研究 31, 213-226.

★概要

○方法

「I県の公立中学校3校の一般教諭(管理職・養護教諭を除く)110名を対象とした。有効回答数は85名(男性46名、女性39名)、有効回答率は77.3%」。ただし、「Ⅳ 考察」によれば「中学校3校のうち2校には、情緒障害等の特別支援学級があり、日常的に発達障害のある生徒とのかかわりがあ」りました。

*I県は茨城県の可能性が高いです←著者の2人が茨城県立北茨城特別支援学校と茨城大学教育学部教育保健教室に所属しているため。

質問紙留置調査法。社会調査工房オンラインHPによれば、留置調査法とは「調査者が調査票を配布し、調査対象者自身が記入し、一定期間後にそれを回収する」方法です。

質問紙の回答は「症状を説明できる」、「症状を知っている」、「名前は知っている」、「全く知らない」の4件法によりました。

「対象としたメンタルヘルスに関する問題および疾患は、文部科学省の『教師のための子どもの健康観察の方法と問題への対応』、日本学校保健会の『子どものメンタルヘルスの理解とその対応―心の健康つくりの推進に向けた組織体制づくりと連携―』に掲載されている問題および疾患の中から選択」。これに選択性緘黙が入っています。

一般教諭の属性は以下の通り。

20歳代~30歳代が35人(41.1%)、40歳代~50歳代以上が50人(58.8%)。

男性が46人(54.1%)、女性が39人(45.9%)。

教職経験年数は5年未満が19名(22.4%)、5年以上10年未満が11名(13.0%)、10 年以上20年未満が18名(21.2%)、20年以上30年未満が21名(24.7%)、30 年以上が16名(18.8%)でした。

○結果(選択性緘黙)

1.全般的結果

2011年10月~11月の調査ということを、頭の片隅に入れておいて下さい。

選択性緘黙の「症状を説明できる」中学教師が約19%、「症状を知っている」中学教師が約38%でした。合わせると、約57%の中学教諭が選択性緘黙を理解している/知っていることになります。

選択性緘黙の「名前は知っている」教師の割合は約19%、選択性緘黙を「全く知らない」教師の割合は約24%でした。

*注意:以上の数字は本文の記述にはなく、グラフから視認したものです。そのため、誤差があります。

2.教師の性差

選択性緘黙の症状認識度について、中学教諭を男性と女性に分け、独立したサンプルのt検定を行ったところ、有意差は検出されませんでした。つまり、教師が男性だろうが女性だろうが緘黙に関する認識度に差があるとはいえないということです。

もっとも、過敏性腸症候群を除く全疾患、症状について有意差は検出されませんでしたので、選択性緘黙だけが男女で認識度に違いがないということではありません。過敏性腸症候群は女性教諭のほうが男性教諭よりも認識度が高かったようです。

3.教師の年齢

年齢についても「20歳代~30歳代」と「40歳代~50歳代以上」に分けて分析したところ、選択性緘黙の認識度に差異があるとはいえませんでした。

起立性調節障害と心因性頻尿については40歳~50歳以上の教師のほうがよく知っていました(その他の疾患、症状では有意差なし)。

○選択性緘黙以外の症状/障害について(緘黙との比較のために)

選択性緘黙以外の症状/障害も比較のために書いておきます。

「全く知らない」と回答した教諭が半数以上なのは、トゥレット障害54名(64.3%)と 双極性障害47名(55.3%)でした。

「症状を説明できる」または「症状を知っている」教諭は「円形脱毛症が80名(94.1%)、注意欠陥多動性障害が78名(91.8%)、自閉症が77名(90.6%)、学習障害が77名(90.6%)、うつ病が75名(90.4%)、アスペルガー症候群が76名(89.4%)で、ほとんどの中学教師が理解しているといえます。

「症状を説明できる」または「症状を知っている」と回答した一般教諭が半数を切ったのは、過換気症候群40名(47.1%)、強迫性障害36名(43.4%)、双極性障害11名(13.0%)、トゥレット障害8名(9.5%)でした。

○その他

教師の信念・価値観を測るために「教師特有の指導行動を生むイラショナル・ビリーフ尺度」(河村・國分, 1996)を中学校用に修正した「ビリーフ尺度」(河村・鈴木・岩井, 2004)を用いた調査もありますが、選択性緘黙に関する言及が直接ないため、ここでは記述を控えます。

文部科学省の『教職員のための子どもの健康観察の方法と問題への対応』に則って、「メンタルヘルスに問題のある子どもに対して生じる教師の感情」も調査していますが、選択性緘黙への直接的な言及がないため、記述を控えます。

★コメント(ここからは私が好んで使う場面緘黙症という名称に改めます)

「Ⅰ はじめに」にある「日本学校保健会の調査によると、メンタルヘルスに関する問題で養護教諭が必要と判断し、直接支援した子どもがいた学校の割合は、小学校78.0%、中学校95.3%、高等学校95.1%1)」という記述が気になります。

どうやら、小学校では養護教諭の介入が少ないようです。小学生はメンタルヘルスの問題を抱えることが少ないのでしょうか?それとも、小学校の養護教諭は介入の必要性を強く感じないのでしょうか?あるいは介入の体制が整っていないのでしょうか?

もしも、小学校の養護教諭が介入の必要性を感じていなったり、支援体制が整っていなかったりしたら、場面緘黙児にとっても由々しき事態です。

なお、日本学校保健会の調査とは以下の文献のことです。

財団法人日本学校保健会 (2007). 子どものメンタルヘルスの理解とその対応―心の健康つくりの推進に向けた組織体制づくりと連携― 日本学校保健会, 12-13.

中学校教師の約24%が選択性緘黙という名前を知らないとのことですが、もしかしたら場面緘黙という名前なら聞いたことがある教師がいるのかもしれません(質問紙に場面緘黙という呼称も書かれていなかったことが前提)。

○場面緘黙症より認知/理解されている発達障害、円形脱毛症等

円形脱毛症や注意欠陥多動性障害、自閉症、学習障害、うつ病、アスペルガー症候群の「症状を説明できる」または「症状を知っている」中学教諭が約9割(またはそれ以上)と比較的高いのに対して、場面緘黙症は約57%の一般教諭が「症状を説明できる」または「症状を知っている」状態でした。

その他にも、摂食障害やネグレクト、チック障害、PTSD、睡眠障害は場面緘黙症より認知度が高い結果でした。

もっとも、ここでいうところの「症状を説明できる」または「症状を知っている」というのはあくまでも教師自身の自己評価です。一般的に人間にはポジティブ幻想があり、自身のことを楽観的に考える癖があります。だから、たとえ教師でも自分の知識を客観的に認識できるのか疑問です。

○場面緘黙症よりも、認知/理解されていない症状がある

トゥレット障害を全く知らない教師が64.3%、双極性障害を全く知らない教師が55.3%と、場面緘黙症の約24%よりも低いです。

「症状を説明できる」または「症状を知っている」との回答でも、トゥレット障害では9.5%、双極性障害では13.0%と、場面緘黙症の約57%よりも低いです。

ただ、双極性障害に関しては以前は躁うつ病という名称だったため、認知度が低い可能性を著者は指摘しています。

その他にも過換気性症候群や強迫性障害は発達障害やうつ病、摂食障害、ネグレクト、チック障害、PTSD、睡眠障害、円形脱毛症と比較して認知されていないようです。

○先行研究との比較

杉森・石原(2011)の調査では、98.9%の小学校教諭、養護教諭が場面緘黙症という言葉を知っており、症状を知っているのが96.7%との結果でした(ただし、調査の回答率は50%未満)。

杉森・石原(2011)の調査の詳細⇒95%以上の小学校・養護教諭は場面緘黙を知っている

今回は場面緘黙症の言葉さえ知らない中学校の教諭が約24%と、杉森・石原(2011)よりも約23ポイント高くなりました。もしかしたら、中学校教師の方が場面緘黙症を知らないのかもしれません。

ただ、杉森・石原(2011)は小学校教諭と養護教諭の比率を明示していないため、今回の結果と直接比較することはできません。養護教諭はいわゆる「保健室の先生」で、場面緘黙症に関する知識が一般教諭より豊富であったとしても不思議ではありません。

杉森・石原(2011)は2010年8月~9月の調査だったのに対し、今回は2011年10月~11月の調査でした。この間にかんもくネットやかんもくの会の啓発活動の影響が現れた可能性があります。仮にI県が茨城県だった場合、その周辺で場面緘黙症に関する催しが行われたかどうかチェックしたいところです。

あるいは、杉森・石原(2011)は愛知県と静岡県が調査地域なので、先にこちらで講演等があったかもしれません。いずれにしろ、小学校の先生よりも中学校の先生相手の講演は少ないだろうとは思いますが。

杉森・石原(2011)は小学校教諭と養護教諭で支援方法を知っているのが40.9%であることを示しましたが、今回はその点に関する調査はありませんでした。ただし、年齢や性別による認識度の違いを統計的に検討しており、その点は独特であるといえます。

教職経験年数に関する情報も収集しているのに、症状や障害等の認識レベルとの関係の分析に生かされなかったのは残念です。

なお、本記事タイトル「中学校教師の約24%が選択性緘黙という言葉さえ知らない」でがっかりした人は「中学校の教師の約76%が選択性緘黙という言葉ぐらいなら知っている」と読みかえてください(ただし、症状まで知っているのは約57%)。すると、選択性緘黙って結構有名かも?と感じることでしょう(フレーミング効果)。

*記事タイトル及び本文の一部を部分的に修正し、追記を施しました(2013年9月4日)。

○参考URL(2013年9月3日現在)

成田絵里・斉藤ふくみ (2012). 子どものメンタルヘルスに関する研究―― 教師の理解を中心に―― 茨城大学教育実践研究 31, 213-226.

http://center.edu.ibaraki.ac.jp/doc/kiyou/31_2012/2012_213_226.pdf

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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