不安が高い人は眼窩前頭葉の化学物質濃度が高い | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

これまでは(社会)不安が高い人の脳活動をfMRI(機能的磁気共鳴画像)で測った研究ばかり話題にしてきました。

しかし、脳の活動を支える神経伝達物質や神経ペプチド等、化学物質の役割も見逃すことはできません。

そこで、今回は不安の高低による化学物質(神経伝達物質・代謝産物等)濃度の差を検討した論文です。

Grachev, I. D., & Apkarian, A. V. (2000). Chemical mapping of anxiety in the brain of healthy humans: An in vivo 1H‐MRS study on the effects of sex, age, and brain region. Human Brain Mapping, 11(4), 261-272.

★概要

被験者は19名の若者(平均年齢22.8歳、範囲19~31歳)と16名の中高年の人(平均年齢46.6歳、範囲40~52歳)でした。若者では男性が11人、女性が8人で、中高年では男性が12人、女性が4人でした。

参加者全員が身体的にも精神的にも健康でした。
不安レベルの得点化には状態-特性不安尺度(State-Trait Anxiety Inventory:STAI)を用いました。高不安群と低不安群の区別は中央値以上か、以下かで行いました。よって、2群に人数の差はありません。

クレアチン・クレアチンリン酸濃度と比較した各神経伝達物質/代謝産物の濃度を計測しました。クレアチン・クレアチンリン酸濃度が基準なのは調査対象として選んだ脳領域での濃度が安定しているためでした。

生化学物質濃度の計測には1H-MRS(プロトン核磁気共鳴スペクトロスコピー)を用いました。

◎結果

以下でいいところの不安レベルとは状態-特性不安尺度(STAI)の状態不安スコアと特性不安スコアを合わせた総得点のことです。ちなみに、状態不安と特性不安の相関係数は0.90と非常に高く相関していました。

○性別ごとの不安の影響(カテゴリカルな分析)

不安が高い男性は不安が低い男性と比較して、左眼窩前頭葉におけるN-アセチルアスパラギン酸(NAA)濃度が28.0%、γ-アミノ酪酸(GABA)濃度が28.7%、グルタミン酸濃度が26.4%、グルタミン濃度が37.5%、ミオイノシトール・シロイノシトール複合体濃度が20.6%、乳酸濃度が44.7%高まっていました。

女性では不安が高い群は不安が低い群と比較して、 左眼窩前頭葉におけるミオイノシトール・シロイノシトール複合体濃度のみ有意な増加を示し、その増加割合は26.7%でした。

○年齢ごとの不安の影響(カテゴリカルな分析)

平均年齢46.6歳の中高年層では、不安が高い群は不安が低い群と比較して、左眼窩前頭葉におけるN-アセチルアスパラギン酸(NAA)濃度が43.3%、γ-アミノ酪酸(GABA)濃度が32.9%、γ-アミノ酪酸+グルタミン酸濃度が26.0%、グルタミン濃度が46.6%、ミオイノシトール・シロイノシトール複合体濃度が45.2%、グルコース濃度が34.4%、コリン濃度が19.7%高まっていました。

平均年齢22.8歳の若年層では、高不安群は低不安群と比較して、左眼窩前頭葉におけるN-アセチルアスパラギン酸濃度が14.6%、γ-アミノ酪酸+グルタミン酸濃度が18.9%、乳酸濃度が27.6%高まっていました。

ただし、これらはあくまでも若年層・中高年層、高不安群・低不安群といったカテゴリ(離散変量)に基づく分析です。年齢や不安水準は数直線上に連続した値として表現できる連続変量です。したがって、連続変量としての分析も行っています。

○連続変量としての分析(相関関係)

左眼窩前頭葉のN-アセチルアスパラギン酸(NAA)濃度と不安スコアの相関係数は男性で0.85、中高年層で0.64、若年層で0.63、女性で-0.23でした。ちなみに、NAAは神経細胞の密度と相関します。

他の化学物質濃度との相関は分析されていません。

眼窩前頭前野以外にも背外側前頭前野、感覚運動野、島皮質、帯状皮質、視床内の化学物質濃度を調べましたが、有意な結果は得られませんでした。いずれも左半球でした。

★コメント

研究チームはニューヨーク州立大学のUpstate医学校を拠点としています。

先行研究では、中高年の方が若年者よりも、男性の方が女性よりも眼窩前頭葉において化学物質濃度が低下していたと、本論文にあります。そして何よりも不安が高い人ほど眼窩前頭葉内の化学物質濃度が高まっているのです(いずれも健康な人が被験者)。

これらの研究は、中高年の方が若者よりも、男性の方が女性よりも不安障害の罹患率が低いことと合致します。

○逆説的な結果

本研究では、特に「不安が高い」男性や中高年で、NAAやGABA、グルタミン酸、グルタミン、ミオイノシトール・シロイノシトール複合体、乳酸の濃度が高まっていました。

本来ならば男性や中高年は眼窩前頭葉にある化学物質濃度が低いはずなので、一見すると齟齬があるように見えます。そのことに関する考察が論文中で展開されています。たとえば、化学物質濃度の増加は適応反応である等の説が展開されています。

いずれにしろ、女性を除く3群(男性、若年層、中高年層)で不安とNAA濃度の間に0.63~0.85という中強度の相関関係が発見されたことから偶然の一言で済ますことはできません。

ちなみに社交不安障害に関しては、ドーパミン受容体であるD2受容体の結合能が線条体で低下しているとの報告(Schneier et al., 2000)線条体におけるドーパミントランスポーターの密度が低下しているとの報告(Tiihonen et al., 1997)があります。

*上の2つは私のホームページ『緘黙・社会不安研究室』へのリンクです。途中で放り出して自棄になり、広告を貼り付けまくって…と大変なことになっています。

○限界

しかし、本研究だけで、左眼窩前頭葉にあるこれらの化学物質が不安の原因であると断定することはできません。不安の結果かもしれませんし、代償作用の結果かもしれないからです。

中高年女性は4人だけで、被験者数が少ないので追試が望まれます。

左半球に焦点を当てた研究なので右半球については不明のままです。背外側前頭前野、感覚運動野、島皮質、帯状皮質、視床内の濃度も調べましたが、それ以外の脳部位については分かりません。

あくまでも健常者を対象とした研究ですから、不安障害患者のことは分かりません。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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