場面緘黙児の親は子どもの気持ちがどの程度分かるか? | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
HOME   »   (社会)不安研究から緘黙症を考える  »  場面緘黙児の親は子どもの気持ちがどの程度分かるか?

問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

以前書いた『ミスイングランドでも場面緘黙症から逃れられない』という記事の後半では、親には子どもの心配や不安感情を低く考える癖があり、子どもの楽観傾向を高く考えてしまうとの研究(Lagattuta et al., 2012)をご紹介しました。

しかし、Lagattuta et al.(2012)の研究は英語圏の臨床閾値以下の家庭が対象でした。じつは他にも興味深い研究があるので、それらについてあらましを書きます。ついで場面緘黙症との関わりにも言及します。

○子どもと両親の意見に矛盾+親の不安と過保護

Ishikawa et al.(in press)は子どもと両親とで子どもの不安レベルの報告の一致率(相関係数)が低いことを見出しました。この研究は9~12歳の子どもがいる日本の家族が対象でした。

Clarke et al.(2013)は子どもの母親の不安が過保護レベルと相関することを見出しました(子どもの不安と過保護は相関せず)。子どもは7~12歳でした。もしかしたら子どもの不安ではなく、母親の不安が過保護の一因なのかもしれませんが、あくまで相関関係なので結論付けることはできません。

○場面緘黙症の治療が開始されただけで親が安心するという解釈も可能

Lagattuta et al.(2012)は親による子どもの不安、楽観傾向の評価が親自身の不安や楽観傾向に影響される可能性を示しましたが、これを拡大解釈して以下の考察を進めます。

*ただし、Lagattuta et al.(2012)等の研究はあくまでも相関関係で、因果関係ではないことに注意。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校のR. Lindsey Bergman氏などによるBehavior Therapy for Selective Mutism (IBTSM)という場面緘黙症の治療プログラムを用いた研究成果(Bergman et al., 2013)は別の解釈が可能です。

Bergman et al.(2013)は24週間のIBTSMで場面緘黙児のスピーキングが向上したと報告しています。これは教師や両親、第三者の評価で確認されました。

ところが、場面緘黙児の社会不安が、教師による評定では減少していないのに、親の評価では減少したという結果も得られました。これは単に親が緘黙児への介入開始で安心してしまい、実際には社会不安が低下していないのに、低下したと思い込んだという解釈が成立可能です。

あるいは場面緘黙児の症状が改善したのがほんの少しでも、親が子どもの不安レベルの減少を大きくとらえてしまうという考え方もできます。

ただし、学校よりも安心できる「家」のほうが社会不安の減少の観察が容易との解釈も可能なので、断定はできません。この場合の家とは「比較的安心できる環境」という意味で、文字通りの家だけではありません。

●追記(2015年1月5日):Bergman et al.(2013)による場面緘黙児へのIBTSMの効果を検証した臨床研究については「場面緘黙症のRCT行動療法の効果」で詳しく解説しましたので、参考にしてください。

○子どもの不安・うつが臨床レベル以上だと母親は子どものスピーチを正確に予測できる?

両親が子どもの不安レベルを認識できないとの研究ばかり述べましたが、これらは健康な親子を対象とした研究です。日常生活に支障を来すほどの不安・うつをかかえた子どもがいる家庭ではどうなのでしょうか?

Udy et al.(in press)は8~14歳の子どもとその母親を対象に研究を行いました。その結果、不安やうつが低い子どもの母親は研究者の観察と比較して、自分の子どものスピーチに過剰に期待することを発見しました(ポジティブバイアス)。しかし、不安やうつが強い子どもの母親はポジティブバイアスを示さず、同世代の子どもと比較してもしなくても自身の子どもは劣ることを予期しました。

ここでの不安やうつは臨床的介入が必要なほど重いものでした。

スピーチパフォーマンスの予測は不安の質問紙調査と異なるものの、不安・うつが高い子の母親は子どもの能力を適切に評価できるのかもしれません。ただし、あくまでも予測で実際のスピーチの評価ではありません。

○引用文献(本来ならば許されないことですが、要約だけ読みました)

Bergman, R. L., Gonzalez, A., Piacentini, J., & Keller, M. L. (2013). Integrated Behavior Therapy for Selective Mutism: A Randomized Controlled Pilot Study. Behaviour Research and Therapy, 51(10), 680–689. doi:10.1016/j.brat.2013.07.003.

Clarke, K., Cooper, P., & Creswell, C. (2013). The Parental Overprotection Scale: Associations with child and parental anxiety. Journal of affective disorders. 151(2), 618–624. doi:10.1016/j.jad.2013.07.007.

Ishikawa, S. I., Shimotsu, S., Ono, T., Sasagawa, S., Kondo-Ikemura, K., Sakano, Y., & Spence, S. H. (in press). A Parental Report of Children’s Anxiety Symptoms in Japan. Child Psychiatry & Human Development, DOI:10.1007/s10578-013-0401-y.

Lagattuta KH, Sayfan L, and Bamford C (2012). Do you know how I feel? Parents underestimate worry and overestimate optimism compared to child self-report. Journal of experimental child psychology, 113(2), 211-232.

Udy, C. M., Newall, C., Broeren, S., & Hudson, J. L. (in press). Maternal Expectancy Versus Objective Measures of Child Skill: Evidence for Absence of Positive Bias in Mothers’ Expectations of Children with Internalizing Disorders. Journal of Abnormal Child Psychology, doi:10.1007/s10802-013-9793-1.

○参考URL(2013年10月14日現在)

Parents underestimate their children's worry levels and overestimate their optimism(Research Digestより)

http://www.bps-research-digest.blogspot.co.uk/2012/09/parents-underestimate-their-childrens.html#.UGQRke3cKM0.twitter

スポンサードリンク

Comment

スポンサードリンク

Trackback
Comment form
カテゴリ
ランキング
Twitter
スマートフォンサイト
Amazon書籍
場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

リンクについて
このサイトはリンクフリーです。リンクの取り外しはご自由になさって下さい。個別ページのSNSでの共有やブログ、サイトへのリンクも自由です。
プライバシーポリシー
当ブログはGoogle Adsense広告を掲載しています。Google Adsenseでは広告の適切な配信のためにcookie(クッキー)を使用しています。ユーザーはcookieを無効にすることができます。

なお、Google Adsenseで上げた収益は将来のホームレス生活を見越し、すべて貯金にまわしています。
免責事項
ブログ記事の内容には万全の注意を払っていますが、管理人はその内容の正確さについて責任を負うものではありません。

PAGE TOP