行動抑制+線条体の興奮→物質使用(薬物乱用・薬物依存) | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

ハーバード大学名誉教授のJerome Kagan氏が提唱した行動抑制。統計的分析がなされた複数の研究を分析するメタ分析によれば、乳幼児期の行動抑制は社交不安障害のリスクを7.59倍高めるといわれています(Clauss et al., 2012)

なお、Jerome Kagan教授による行動抑制についてはこちらをご覧ください⇒行動抑制の概念 by Jerome Kagan

ところで、社交不安障害(社会不安障害)は物質使用障害(Substance Use Disorder)のリスク因子です。そして、本論文によれば行動抑制も物質使用のリスク要因であるとのことです(ただし、行動抑制が低すぎても物質使用のリスクになり得る)。

事実、乳幼児期に抑制気質のあった思春期の少年/少女は自身の行為が金銭の獲得を左右すると信じ込まされている(報酬随伴性課題)と、側坐核が活発に働きます(Bar-Haim et al., 2009) 。ここでの行為とは1番のボタンを押すのか、それとも2番のボタンを押すのかに関する選択のことです。

側坐核は線条体の一部で、脳の報酬系の一端を担っています。具体的には、中脳腹側被蓋野からドーパミン作動性ニューロンが側坐核に投射しています。腹側被蓋野-側坐核回路は脳の報酬系回路として重要であり、薬物乱用や薬物依存にも関与しています。

そこで、行動抑制児が大人になった時に物質使用問題が生じるメカニズムの解明に挑んだ研究があります。

*注釈

:抑制気質の経歴がある青少年は報酬そのものではなく、自らの行為が報酬を貰えるかどうかの結果に影響する状況で側坐核が活性化することに注意(Bar-Haim et al., 2009)。

2:通常、線条体とは尾状核と被殻のこと。尾状核と被殻は新線条体(背側線条体)とも呼ばれます。側坐核は腹側線条体です。

3:物質使用障害とは薬物依存や薬物乱用など嗜好品の使用障害のことです。米国精神医学会発行の精神疾患の診断・統計マニュアル第4版(DSM-IV)では物質使用障害は依存(dependence)と乱用(abuse)に分けられていたのですが、第5版のDSM-5においては物質依存と物質乱用が統合されたようです。

Lahat, A., Pérez-Edgar, K., Degnan, K. A., Guyer, A. E., Lejuez, C. W., Ernst, M., Pine, D. S., & Fox, N. A. (2012). Early childhood temperament predicts substance use in young adults. Translational psychiatry, 2, e157, doi:10.1038/tp.2012.87.

★概要

4ヶ月齢でのスクリーニング検査で選別した参加者が、14ヶ月齢、2歳、4歳、7歳になった時に気質調査を実施しました。気質の評価は実験室で観察した結果と母親の評定をすべて合算して算出しました。

実験室での観察では、見知らぬ物や人物に対する反応(14ヶ月齢、2歳)や見知らぬ同世代に対する無口度(4、7歳)を評価しました。

同世代に対する沈黙行動の評価はRubinの遊び観察尺度(Rubin's Play Observation Scale)によりました。

気質質問紙は14、24ヶ月齢では乳幼児用行動評定質問紙(Toddler Behavior Assessment Questionnaire)で社会恐怖を、4、7歳ではコロラド子ども気質質問紙(Colorado Child Temperament Inventory)でシャイネスを定量化しました。どちらも母親が回答しました。

子どもたちが平均して16歳(範囲10.74~21.00歳)、つまり思春期になってからMonetary Incentive Delay(MID)課題中に脳活動を計測しました。Monetary Incentive Delay taskは金銭報酬遅延課題とでも訳せますが、決まった日本語訳がありません。

MID課題の流れは次の通りです。

手がかり刺激の呈示(250ミリ秒)→注視点(2000~2500ミリ秒)→標的刺激(160~260ミリ秒)→フィードバック情報(1650ミリ秒)

手がかり刺激は丸、四角、三角の三種類でした。丸は金銭報酬が得られることを、四角は金銭が損失してしまうことを、三角は金銭獲得も損失もないことを示しました。

丸、四角の中には線があり、その数で報酬・損失の大きさを表しました。線の数により報酬額・損失額が異なるのですが、一緒くたに分析されているので詳述することは控えます。

時間内に標的刺激に反応すれば報酬を獲得したり損失を回避することができました。標的刺激への反応はボタンを押すことでした。

標的刺激が消えると、反応の結果とこれまでの累積獲得金額を被験者に報せました(フィードバック)。

MID課題中の脳活動の計測はfMRI(機能的磁気共鳴画像)で実施しました(ただし、エラー試行のデータは分析に用いず)。脳活動は報酬獲得試行または報酬損失試行と無報酬試行の対比により分析しました。

脳活動(BOLD信号)は線条体(側坐核、尾状核、被殻)領域に焦点を当て、報酬試行と損失試行及び報酬額と損失額、左右の脳半球を「平均化」して算出しました。

fMRIでMID課題中の脳活動を計測した5年後に、物質使用問題のレベルをインタビューや質問紙により評価しました。この時の平均年齢は20歳で、範囲は18.10歳~21.18歳でした。

インタビューはCustomary Drinking and Drug Use Record (CDDR)に則り、お酒や薬物、タバコに関する問題を使用、離脱症状、心理的/行動的依存とその結果に分けて質問しました。

質問紙は青少年危険行動調査(Youth Risk Behavior Survey)や簡易青少年アルコール結果質問紙(Brief Young Adult Alcohol Consequences Questionnaire)で飲酒、薬物使用、リスキーな性的活動、飲酒関連の帰結に関する質問を実施しました。

◎実験デザインのまとめ:行動抑制の評価(4ヶ月齢~7歳)→MID課題中のfMRI(平均年齢16歳の思春期)→物質使用問題の調査(平均年齢20歳の大人)

*これらすべての調査に参加し、データが有効になったのは65人(男性30人)でした。

結果、Monetary Incentive Delay(MID)課題中の線条体活動が活発だった被験者で、行動抑制が高いほど物質使用の問題が強かった(正の相関)のに対し、線条体活動が低かった被験者では行動抑制と物質使用の間に有意な相関関係は見い出せませんでした。

また、行動抑制が高かった被験者では、MID課題中の線条体活動が高いほど物質使用の問題が深刻だったのに対し、行動抑制が低かった被験者では線条体活動と物質使用の間に有意な相関関係は認められませんでした。

◎要点

乳幼児期の抑制気質+思春期の線条体活動の高さ(MID課題)→成人期の物質使用(薬物乱用・薬物依存)という関係が示されました。

★コメント

以上の結果は乳幼児期の行動抑制が強く、かつ金銭報酬や損失に対する思春期の線条体活動が高いほど、成人期に物質使用の問題が強くなることを示しています。

ただし、線条体活動に関しては金銭獲得そのものではなく、報酬の期待、金銭損失そのものではなく、損失の予期に対する反応の可能性もあります。

逆にいえば、たとえ幼少期に抑制気質であったとしても思春期の線条体が鈍感であれば、成人後の物質使用問題が深刻にならないのです。

また、物質使用障害のリスク要因である線条体の興奮の強さが思春期にあったとしても、乳幼児期に行動抑制が弱ければ成人期の物質使用問題は軽いといえます。

○気になる点と限界

思春期の年齢の範囲が10.74~21.00歳で成人も含まれているのが気になりました。

先行研究では乳幼児期の行動抑制が高いと、思春期に側坐核活動が活発であった(Bar-Haim., 2009)のですが、今回はそのような単純な関係ではありませんでした。ただ、抑制気質と脳の報酬系との関係は21世紀に注目されてきた分野なので、研究の進捗はまだまだです。

男性の方が女性よりも行動抑制得点が高い結果となりました。私の知る限り抑制気質の性差を直接調べた研究はないので、今後の研究課題です。

今回はあくまでも物質使用(薬物乱用・薬物依存)の話で物質使用「障害」の話ではありません。しかし、後述するように社交不安障害は物質使用障害のリスク要因です。ゆえに、社交不安障害のリスク要因である行動抑制も物質使用「障害」のリスク要因である可能性があります。

*注意:本論文で引用されている研究(Williams et al., 2010)の要旨を読んだところ、抑制気質が強くても物質使用問題が生じるのは男性またはリスク引受(risk-taking)傾向が強い人で、女性やリスク引受傾向が弱い人だと逆に行動抑制が強いと物質使用問題が低いとの結果でした。

○場面緘黙症と物質使用(障害)

もしも、場面緘黙症の主因が行動抑制であったならば、場面緘黙症の大人は物質使用の傾向がある、または物質使用障害の合併率が高いとの調査報告がでてきてもおかしくありません。特に線条体活動が活発な人は要注意です。

しかし、場面緘黙症から回復した成人の方が場面緘黙症が治らないままの人よりも、アルコール依存症や大麻依存症、ニコチン依存症などになりやすいかもしれません。というのも、後述するように社交不安障害患者もしくは社会不安が高い人は社会的場面からくる不安に対処するために薬物を使用するからです。

*注意:緘黙が社会的不安の低減策であることやそもそも場面緘黙症が社会不安(障害)の表れであるとの学説が正しいことが前提条件。

いずれにしろ、場面緘黙症の背景に抑制気質があるとの説が確認された場合、場面緘黙症の大人、または経験者を対象として物質使用障害の罹患率あるいは物質使用問題の強さを一般集団と比較した研究が望まれます。

○社会不安(障害)と各種物質使用(障害)

行動抑制と物質使用(障害)の関係に関する調査はなかなか見当たらないのですが、社会不安(障害)に関しては多数の報告があるので、そのいくつかをあげたいと思います。

Cooper et al.(in press)はアルコール使用障害の入院患者は社交不安障害を合併していると、社会的不安のために飲酒すること、社会恐怖を和らげるために飲酒することを報告しました。

Windle et al.(2012)も思春期の青少年を対象とした研究で社交不安障害の罹患者は対処方略(コーピング)のために飲酒すること、大うつ病や他の不安障害も飲酒の動機づけを予測することを発見しました。

Buckner et al.(2012)はアメリカ保健研究所(NIH)の国立アルコール乱用・依存症研究所(NIAAA)が実施した大規模な疫学調査、National Epidemiological Study of Alcohol and Related Conditions (NESARC)を分析しました。

その結果、社交不安障害がある患者は大麻乱用よりも大麻依存の方が多いことが判明しました。乱用を繰り返すと、止めるという自己制御が効かなくなる依存状態になるので、依存の方が深刻です。社交不安障害と大麻使用障害が合併している患者では、社交不安障害の方が大麻使用障害に先行するケースが大多数です(Buckner et al., 2012)。

Buckner et al.(2011)は社会不安とマリファナ渇望の関係を実験的に検討しており、説得力があります。それによれば、健康な女性でも社交不安障害患者でもスピーチ課題で社会不安を高めると、マリファナ欲求が高まりました。しかし、男性や社交不安障害がない人では渇望の増加が見出せませんでした(Buckner et al., 2011)。

Henry et al.(2012)は喫煙経験がある高校生を対象に調査を行いました。その結果、社会不安が高い高校生は喫煙行動が少ないものの、友人との交流に近い時間帯に喫煙欲求が高まることを発見しました。

Watson et al.(2012)は社会不安の症状が強いほど、社会的場面に対処するために必要だと考えるタバコの本数や喫煙頻度が多いことを示しました。ニコチン剥奪中には社会不安とコーピングとしての喫煙がニコチン欲求を予測しました(Watson et al., 2012)。

このように社交不安障害患者や高い社会不安がある人は物質使用問題が強いことが示されています。また、社会不安に対処するために薬物/物質に手をだすことが物質使用の動機のようです。さらに、実験的にも社会不安をあおると、薬物欲求が高まることが確認されています。

○引用文献(本来なら許されないことですが、要約だけかじりました)

Buckner, J. D., Heimberg, R. G., Schneier, F. R., Liu, S. M., Wang, S., & Blanco, C. (2012). The relationship between cannabis use disorders and social anxiety disorder in the National Epidemiological Study of Alcohol and Related Conditions (NESARC). Drug and alcohol dependence, 124(1), 128-134.

Buckner, J. D., Silgado, J., & Schmidt, N. B. (2011). Marijuana craving during a public speaking challenge: Understanding marijuana use vulnerability among women and those with social anxiety disorder. Journal of behavior therapy and experimental psychiatry, 42(1), 104-110.

Clauss, J. A., & Blackford, J. U. (2012). Behavioral inhibition and risk for developing social anxiety disorder: a meta-analytic study. Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 51(10), 1066-1075.

Cooper, R., Hildebrandt, S., & Gerlach, A. L. (in press). Drinking motives in alcohol use disorder patients with and without social anxiety disorder. Anxiety, Stress & Coping: An International Journal, DOI:10.1080/10615806.2013.823482.

Henry, S. L., Jamner, L. D., & Whalen, C. K. (2012). I (should) Need a Cigarette: Adolescent Social Anxiety and Cigarette Smoking. Annals of Behavioral Medicine, 43(3), 383-393.

Watson, N. L., VanderVeen, J. W., Cohen, L. M., DeMarree, K. G., & Morrell, H. E. (2012). Examining the interrelationships between social anxiety, smoking to cope, and cigarette craving. Addictive Behaviors, 37(8), 986-989.

Williams, L. R., Fox, N. A., Lejuez, C. W., Reynolds, E. K., Henderson, H. A., Perez-Edgar, K. E., Steinberg, L., & Pine, D. S. (2010). Early temperament, propensity for risk-taking and adolescent substance-related problems: a prospective multi-method investigation. Addictive behaviors, 35(12), 1148.

Windle, M., & Windle, R. C. (2012). Testing the specificity between social anxiety disorder and drinking motives. Addictive Behaviors, 37(9), 1003–1008.

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ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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