場面緘黙症が突然治ることはあるのだろうか? | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
HOME   »   緘黙を(臨床)心理学の研究等から考察  »  場面緘黙症が突然治ることはあるのだろうか?

問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

臨床心理学者や精神科医らの研究によると、ある日突然うつ病や不安障害などの精神疾患が寛解する患者がいることが分かっています。といっても私はセラピストでも何でもない一般人なのですが、少なくとも文献上では突然治癒する精神疾患の患者が報告されています。

たとえば、ドイツで心理療法を受けた外来患者1500人の内、28.9%が突然症状が軽快(Sudden gains)したり、悪化(Sudden losses)したりする患者でした(Lutz et al., 2013)。この患者たちはうつや不安に苦しめられていました。

認知行動療法のトレーニングクリニックでも、急激に症状が改善した患者が23~29%を占めます(Greenfield et al., 2011)。

そこで、この記事では突然精神疾患の症状が緩和した先行研究に言及し、続いて場面緘黙症が突然治ることがあるのかどうかや予後との関係を考察することにします。

予後との関係について考察するのは、複数の研究成果を分析するメタ分析によれば、不安障害や大うつ病の患者に対する心理療法で急激に症状が緩和した人は治療終了直後もその後も状態が良好(Aderka et al., 2012)だからです。

認知行動療法が最も突然の寛解の恩恵を受けやすい治療形態です(Aderka et al., 2012)。

●先行研究

○社交不安障害(社会不安障害、社会恐怖症、社交恐怖症)

社交不安障害で集団認知行動療法や暴露療法中に突然、症状が改善したことが報告されています(Hofmann et al., 2006)。967あるセッション間隔の内、22回(2.3%)唐突に症状が改善しました。もっとも頻繁なのはセッション5でした。

67人の社交不安障害患者のうち、22.4%が突然の症状改善を果たしたとの報告(Bohn et al., 2013)があります。それによれば、個人認知療法、対人関係療法中に突然、症状が改善した人はそうでなかった人に比べて予後が良好です。

○うつ病

対人関係療法で反復性うつ病が突然寛解した患者が33.5%存在したとの研究があります(Kelly et al., 2007a)。

認知療法中にうつ病が突然改善した後、逆戻りし、また回復した患者も10人中6人いたとの報告があります(Manning et al., 2010)。もちろん突然の改善がそのまま持続する人もいます。

うつ病の認知治療療法で急激に症状が軽快した患者の内、2年以内に再発するのは33%で、突然の症状改善を経験しなかった患者よりも再発リスクが低いとの報告があります(Tang et al., 2007)。

Tang et al.(2007)によると、症状寛解が継続したうつ病患者の73%が突如とした症状寛解を体験しました。

大うつ病がある大学生の内、60%が突然の症状軽快を示し、その内の半数以上が逆戻りすることもあります(Kelly et al., 2007b)。 

Kelly et al.(2007b)によると、治療前の自尊心が高い患者は突然症状が軽快しやすいようです。社会比較(他者との比較)の減少後、1週間たってから、突如症状が緩和するようです(Kelly et al., 2007b)。

うつ病で認知行動療法を受けた患者の内、41.9%が突然の症状軽快を示したとの研究では早期の"Sudden gains"が特に重要でした(Kelly et al., 2005)。

大うつ病に対する行動活性化療法(Behavioral activation)でも突然の症状緩和が生じることがあります(Hunnicutt-Ferguson et al., 2012)。

○PTSD(心的外傷後ストレス障害)

子どもや青少年のPTSD(心的外傷後ストレス障害)でも長時間曝露(prolonged exposure)療法によって突然症状が改善した患者が49.2%存在したとの研究(Aderka et al., 2011b)があります。

Aderka et al.(2011b)によると、突如回復したPTSD患者は1年後の症状も軽い結果となりました。

長期曝露療法を受けた慢性PTSD患者の42%、抗うつ薬を受けた患者の31%が急激な症状の寛解を経験したとの報告があります(Jun et al., 2013)。用いた抗うつ薬はセルトラリン(サートラリン、商品名:ゾロフト、ジェイゾロフト)というSSRIでした。

ただ、抗うつ薬による突如とした回復は早期に出現するものの、逆戻りするリスクが長期曝露療法よりも高い結果となりました(Jun et al., 2013)。

○摂食障害、全般性不安障害、パニック障害、強迫性障害、解離性同一性障害

摂食障害の認知行動療法で突然、症状が軽快した患者もいます(Cavallini et al., 2013)。Cavallini et al.(2013)によれば、認知の変化とモチベーションが摂食障害患者の突然の回復を予測しました。

全般性不安障害(小児では過剰不安障害)でも力動的精神療法の流れを汲む支持的表現的心理療法で突然、症状が改善した患者もいます(Present et al., 2008)。ただし、その後症状が逆戻りした患者もいました。

パニック障害の集団認知行動療法でも急激な症状改善が生じることがあります(Clerkin et al., 2008)。Clerkin et al.(2008)では、セッション2以降に起こった唐突な回復がパニック障害の症状緩和と認知バイアスの変化を予測しました。

認知療法や暴露療法またはフルボキサミンとの組み合わせで強迫性障害が改善した患者が34.1%存在し、症状軽減の内、65.5%が急激な回復によるものだった(Aderka et al., 2011a)との報告があります。

フルボキサミンとは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の一種です。商品名はルボックス、デプロメールです。

解離性同一性障害(多重人格障害)でも認知分析療法で突然の症状改善がみられることがあります(Kellett., 2005)。

○診断横断的な治療プロトコルによる突然の寛解

ボストン大学のデイビッド・バーロウ博士(Dr. David Barlow)はうつや不安に関する診断横断的な認知行動療法を開発しています。独立行政法人国立精神・神経医療研究センターによれば、デイビッド・バーロウ博士は不安障害の世界的権威です。

デイビッド・バーロウ博士がボストン大学不安関連障害センター(The Center for Anxiety and Related Disorders at Boston University:BU CARD)を設立しました。ボストン大学不安関連障害センターでは場面緘黙症の行動療法プログラム、Brave Buddiesも行っています。

その診断横断的な集団認知行動療法で不安障害患者の17.3%が急激な症状の改善を経験したとの報告があります(Norton et al., 2010)。

○その他

退役軍人病院でのカップルセラピーでクライエントの25%に夫婦関係の満足度の急激な改善が生じたとの報告があります(Doss et al., 2011)。

日常的臨床現場でも突如とした症状の改善が認められます(Adler et al., 2013)。Adler et al.(2013)によれば、私的な物語の意味付け(具体的には処理と一貫性)をしたクライエントほど急激な症状寛解が生じたそうです。

コミュニティの小学生でも治療的介入で20-42%が突然の問題改善を示し、そのような子どもほど治療後の問題も軽いのです(Dour et al., 2013)。突然の問題改善は介入早期に生じ、特にリラクゼーションが鍵でした。

ただ、治療成果の予測には徐々に進む寛解(gradual change)の方が重要であり、突然の症状緩和を追加しても治療後の症状予測に役立たないとの意見もあります(Thomas et al., 2013)。

ちなみに、うつ病・不安障害の治療成果は最初の1~3セッション(指導付きセルフヘルプや認知行動療法の原則の心理教育)で予測できます(Delgadillo et al., in press)。

●場面緘黙児・人は突然緘黙から脱出するか?

場面緘黙症で突然症状が軽減したという報告は私の知る限りありません。なので、思弁的考察をします。

場面緘黙症の克服にはスモールステップの原則と言って、少しづつ発話や会話ができる相手、場所、活動を広げていく行動療法的アプローチがとられることがあります。なので、一見すると突然緘黙から克服するということは起こらなさそうに見えます。

しかし、各段階(各ステップ)を飛び越えるのに必要な期間や労力はそれぞれ異なるでしょうから、一概に場面緘黙児・人に"Sudden gains"(突然の回復)が生じないと断言することはできません。

スモールステップといいながら、段階を超えて緘黙から脱出する事例もあるかもしれません。あるいは逆に突然緘黙症状が悪化したり、突然回復したのに逆戻りする可能性もあります。

転校や進学などで環境が変わったら、緘黙症が治ったというケースをネット上で見かけることがあります。その場合は突然の回復といえるかもしれません。

先述した精神疾患に関する先行研究によれば、突然症状が軽快した患者の方が予後が良好であるとの結果が得られています(特に認知療法や認知行動療法)。ゆえに、突然緘黙症状が軽快した人の方がそうでない人よりも予後が良いかもしれません。

先述した精神疾患に関する先行研究によれば、突如とした症状寛解が心理セラピーの早期に生じた患者も予後が良好です。ゆえに、場面緘黙症の場合も治療早期の"Sudden gains"(突然の症状寛解)が重要なのかもしれません。

臨床家の方には緘黙症が突然回復したよという報告を、事例研究でもいいですからあげてもらいたい次第です。

○引用文献(本来なら許されないことですが、要約だけ読みました)

Aderka, I. M., Anholt, G. E., van Balkom, A. J., Smit, J. H., Hermesh, H., & van Oppen, P. (2011a). Sudden gains in the treatment of obsessive-compulsive disorder. Psychotherapy & Psychosomatics, 81(1), 44-51.

Aderka, I. M., Appelbaum-Namdar, E., Shafran, N., & Gilboa-Schechtman, E. (2011b). Sudden gains in prolonged exposure for children and adolescents with posttraumatic stress disorder. Journal of Consulting & Clinical Psychology, 79(4), 441-446.

Aderka, I. M., Nickerson, A., Bøe, H. J., & Hofmann, S. G. (2012). Sudden gains during psychological treatments of anxiety and depression: a meta-analysis. Journal of Consulting & Clinical Psychology, 80(1), 93-101.

Adler, J. M., Harmeling, L. H., & Walder-Biesanz, I. (2013). Narrative meaning making is associated with sudden gains in psychotherapy clients' mental health under routine clinical conditions. Journal of Consulting & Clinical Psychology, 81(5), 839-845.

Bohn, C., Aderka, I. M., Schreiber, F., Stangier, U., & Hofmann, S. G. (2013). Sudden gains in cognitive therapy and interpersonal therapy for social anxiety disorder. Journal of Consulting & Clinical Psychology, 81(1), 177-182.

Cavallini, A. Q., & Spangler, D. L. (2013). Sudden Gains in Cognitive-Behavioral Therapy for Eating Disorders. International Journal of Cognitive Therapy, 6(3), 292-310.

Clerkin, E. M., Teachman, B. A., & Smith-Janik, S. B. (2008). Sudden gains in group cognitive-behavioral therapy for panic disorder. Behaviour Research & Therapy, 46(11), 1244–1250.

Delgadillo, J., McMillan, D., Lucock, M., Leach, C., Ali, S., & Gilbody, S. (in press). Early changes, attrition, and dose–response in low intensity psychological interventions. British Journal of Clinical Psychology, DOI:10.1111/bjc.12031.

Doss, B. D., Rowe, L. S., Carhart, K., Madsen, J. W., & Georgia, E. J. (2011). Sudden gains in treatment-as-usual couple therapy for military veterans. Behavior therapy, 42(3), 509-520.

Dour, H. J., Chorpita, B. F., Lee, S., & Weisz, J. R. (2013). Sudden gains as a long-term predictor of treatment improvement among children in community mental health organizations. Behaviour Research & Therapy, 51(9), 564–572.

Greenfield, M. F., Gunthert, K. C., & Haaga, D. A. (2011). Sudden gains versus gradual gains in a psychotherapy training clinic. Journal of clinical psychology, 67(1), 17-30.

Hofmann, S. G., Schulz, S. M., Meuret, A. E., Moscovitch, D. A., & Suvak, M. (2006). Sudden gains during therapy of social phobia. Journal of Consulting & Clinical Psychology, 74(4), 687-697.

Hunnicutt-Ferguson, K., Hoxha, D., & Gollan, J. (2012). Exploring sudden gains in behavioral activation therapy for Major Depressive Disorder. Behaviour Research & Therapy, 50(3), 223–230.

Jun, J. J., Zoellner, L. A., & Feeny, N. C. (2013). Sudden gains in prolonged exposure and sertraline for chronic PTSD. Depression & Anxiety, 30(7), 607–613.

Kellett, S. (2005). The treatment of dissociative identity disorder with cognitive analytic therapy: Experimental evidence of sudden gains. Journal of trauma & dissociation, 6(3), 55-81.

Kelly, M. A., Cyranowski, J. M., & Frank, E. (2007a). Sudden gains in interpersonal psychotherapy for depression. Behaviour Research & Therapy, 45(11), 2563-2572.

Kelly, M. A., Roberts, J. E., & Bottonari, K. A. (2007b). Non-treatment-related sudden gains in depression: The role of self-evaluation. Behaviour research & therapy, 45(4), 737-747.

Kelly, M. A., Roberts, J. E., & Ciesla, J. A. (2005). Sudden gains in cognitive behavioral treatment for depression: when do they occur and do they matter? Behaviour Research & Therapy, 43(6), 703-714.

Lutz, W., Ehrlich, T., Rubel, J., Hallwachs, N., Röttger, M. A., Jorasz, C., Mocanu, S., Vocks, S., Schulte, D., & Tschitsaz-Stucki, A. (2013). The ups and downs of psychotherapy: Sudden gains and sudden losses identified with session reports. Psychotherapy Research, 23(1), 14-24.

Manning, P., Hardy, G., & Kellett, S. (2010). Reversals of sudden gains made during cognitive therapy with depressed adults: A preliminary investigation. Behavioural & cognitive psychotherapy, 38(4), 491-495.

Norton, P. J., Klenck, S. C., & Barrera, T. L. (2010). Sudden gains during cognitive-behavioral group therapy for anxiety disorders. Journal of Anxiety Disorders, 24(8), 887–892.

Present, J., Crits‐Christoph, P., Connolly Gibbons, M. B., Hearon, B., Ring‐Kurtz, S., Worley, M., & Gallop, R. (2008). Sudden gains in the treatment of generalized anxiety disorder. Journal of Clinical Psychology, 64(1), 119-126.

Tang, T. Z., DeRubeis, R. J., Hollon, S. D., Amsterdam, J., & Shelton, R. (2007). Sudden gains in cognitive therapy of depression and depression relapse/recurrence. Journal of Consulting & Clinical Psychology, 75(3), 404-408.

Thomas, C., & Persons, J. B. (2013). Sudden Gains Can Occur in Psychotherapy Even When the Pattern of Change Is Gradual. Clinical Psychology: Science & Practice, 20(2), 127-142.

スポンサードリンク

Comment

スポンサードリンク

Trackback
Comment form
カテゴリ
ランキング
Twitter
スマートフォンサイト
Amazon書籍
場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

リンクについて
このサイトはリンクフリーです。リンクの取り外しはご自由になさって下さい。個別ページのSNSでの共有やブログ、サイトへのリンクも自由です。
プライバシーポリシー
当ブログはGoogle Adsense広告を掲載しています。Google Adsenseでは広告の適切な配信のためにcookie(クッキー)を使用しています。ユーザーはcookieを無効にすることができます。

なお、Google Adsenseで上げた収益は将来のホームレス生活を見越し、すべて貯金にまわしています。
免責事項
ブログ記事の内容には万全の注意を払っていますが、管理人はその内容の正確さについて責任を負うものではありません。

PAGE TOP