情緒障害特別支援学級に通う子どもの内、緘黙は約2%以下 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が行った非常に大規模な自閉症・情緒障害等の調査があります。

情緒障害特別支援学級や通級指導教室に在籍する自閉症・情緒障害等の児童生徒の人数を把握し、指導・支援の実情、卒業後の進路等を調査した研究です。この調査に選択性緘黙が含まれています。

膨大な調査の為、情緒障害特別支援学級(情緒障害特殊学級)編と通級指導教室編の2回に分けます。本記事では情緒障害特別支援学級を対象とします。

通級指導教室編はこちらです⇒通級児童生徒(小中学生)の内、選択性緘黙は114人(2%以下)

笹森洋樹・廣瀬由美子(2008). 小・中学校における自閉症・情緒障害等の児童生徒の実態把握と教育的支援に関する研究-情緒障害特別支援学級の実態調査 及び自閉症、情緒障害、LD、ADHD通級指導教室の実態調査から- 国立特別支援教育総合研究所. 1-49.

★概要

○背景

自閉症等発達障害と心因性の選択性かん黙等がある子どもは情緒障害教育の対象で、情緒障害特殊学級に通う子どもたちもいます。

発達障害児や選択性かん黙児等には通常学級や特別支援学級、通級指導教室で指導を受けている児童生徒もいます。特に通級指導教室での教育指導を「通級による指導」といいます。通級による指導では個々の状態に応じた指導を行うこととされています。

近年、文部科学省も自閉症と選択性かん黙などの情緒障害とを区別する方針を明確にしてきていることが本研究の背景にあります。たとえば、2006年(平成18年)、文部科学省の省令、学校教育法施行規則第73条の21が改正され、これまで自閉症等と選択性かん黙等が一括りにされてきた情緒障害者が選択性かん黙等に限定されました(自閉症等は独立して第2号へ、情緒障害者は第3号へ)。

○調査方法

2006年(平成18年)度時点で情緒障害特殊学級を設置していた全国の小学校及び中学校7,940校(小学校5,849校、中学校2,091校)に質問紙を送付。回収率は58.1%(小学校58.8%、中学校56.3%)。

*「文部科学省特別支援教育課が発行している特別支援教育資料(2007)では、平成18年度の情緒障害特別支援学級数は小学校で8247学級設置されているのに対して、中学校は半分以下の3257学級」。

回答期間は平成18年9月~平成18年11月。ただし、情緒障害特殊学級の担任に求めたのは平成18年5月1日時点での状況。

回答を求めたのは「自閉症または自閉的な傾向」、「高機能自閉症、アスペルガー症候群」、「選択性緘黙」、「神経性習癖」、「学習障害(LD)」、「注意欠陥多動性障害(ADHD)」、「知的障害」、「不登校」、「その他」。

「その他」はパニック障害、思春期神経症、鬱病、統合性失調症、虐待、言語障害、肢体不自由、弱視、病虚弱等。

○結果(2006年の実態であることをお忘れなきよう)

選択性緘黙(場面緘黙)に関する記述を中心にまとめたいところですが、情緒障害教育の実態を理解することも大切ですので、その他の内容も記載しています。必要でないと思われた方は適宜読み飛ばして下さい。

選択性緘黙及び神経性習癖の児童生徒が小学校で131人(1.3%)、中学校で68人(2.1%)。

*注意:医師からの診断があったのは小学生で8,523人(80.3%)、中学生で2,242人(69.0%)、平均診断率は77.7%。実診断の児童生徒はその状態像から推測したケースもあり。未記入もあります。

「自閉症スペクトラムやLD等の発達障害と、不登校などの心因性の問題を併せている児童生徒の割合は、小学校が1.5%で中学校は5.0%で」した。直接的な言及はないものの、発達障害と緘黙を合併しているケースも含まれている可能性があります。

●選択性緘黙等や発達障害以外のこと

情緒障害特別支援学級は小中ともに、1学級1担任が全体の90%以上を占める。

「小学校の平均在籍児童数は2.7人、中学校の平均在籍生徒数は2.5人」。

「個別の指導計画」を作成している小学校は90.2%、中学校では39.7%。

「個別の教育支援計画」を作成している小学校は34.9%、中学校では18.2%。

*個別の教育支援計画とは「障害のある子どもにかかわる教育、医療、福祉等の関係機関や保護者など関係者が、子どもの障害の状態等の情報を共有化し、生涯にわたって支援する視点から、教育的支援の目標や内容、関係者の役割分担などについて策定する計画」のこと。進路に関する情報も関係者で共有し、連携します。

『「自立活動」を特設の時間として設定していない学校が、小学校は56.7%、中学校では76.1%』。

自立活動の内容は「基本的生活習慣の獲得、ソーシャルスキルの習得、コミュニケーション能力の向上等」や「手先を使う活動(ビーズのひも通し等)、買い物ごっこ、人とかかわって遊ぶゲーム」など。しかし、「教科・領域との混同」もあり、自立活動の理解は徹底していないとのこと。

「週当たりの交流及び共同学習の時間」は『小学校では、「10~20時間」(32.2%)がもっとも多く、「5~10時間」(24.8%)と合わせると60%近くになる。

これに対し、中学校の場合は、「週当たりの交流及び共同学習の時間」が「なし」から「20時間以上」まで割合はほぼ同じ。

特別支援学級以外の在籍児童生徒に対する指導は47.9%の小学校が実施しているのに対し、中学校では22.0%。
 
小学校の情緒障害特別支援学級に在籍していた児童の進路を調査したところ、中学校でも「特別支援学級」に進学する児童は、65~70%。「特別支援学校」への進学は21~23%。

「通常の学級」に変更する児童が約5%、「通常の学級」に変更するものの「通級による指導」を利用する児童も2%前後存在。

中学校の情緒障害特別支援学に在籍していた生徒の進路を調査したところ、『男女ともに「高等養護学校・養護学校の高等部」に進学する割合が、60~70%程度』存在。

「全日制の高校ならびに定時制・通信制」の高校への進学は約20%。就職も若干ながら存在。

「学級担任としての課題」に関する自由記述での回答は省略。

★コメント

やたら引用が多くなってしまいましたが、国立特別支援教育総合研究所は独立行政法人ですから、著作権の対象にはなりません。著作権法の規定が電子情報に適用されるか私には分かりませんが、法律の趣旨に則れば、オンライン上の情報も著作権の対象にはならないと解釈できます。

調査票の回収率は60%を切り低いものの、これほど大規模な調査は他に例がなく、貴重な資料です。しかも普通の学校ではなく、情緒障害特別支援学級での調査です。

自閉症と選択性緘黙を区別した調査ですので、古い文献よりも信頼性が高いです。しかし、実際に質問紙に回答した先生が違いを認識していなければ、たとえ調査報告書をまとめた調査者が理解していても無意味です。

○「自閉症または自閉的な傾向」+「高機能自閉症、アスペルガー症候群」と場面緘黙症の比較

発達障害や心因性の情緒障害等がある児童生徒しか在籍していない情緒障害特殊学級でも場面緘黙児・生徒の割合が小学校で1.3%、中学校で2.1%という数字に驚きました。「自閉症または自閉的な傾向」は小学校で5,547人(53.9%)、中学校で1,492人(46.9%)、「高機能自閉症、アスペルガー症候群」は小学校で2,128人(20.6%)、中学校で416人(13.1%)なんですよ。

近年、自閉症スペクトラム障害の発生率は認知度の向上や診断基準の変化、晩婚化や体外受精などで増加傾向にあると言われます。しかし、それでも1.14%、つまり88人に1人が自閉症であるとされています。

*注意1:「88人に1人が自閉症」という数字は米国疾病予防管理センター (Centers for Disease Control and Prevention:CDC)の2008年の調査で8歳児を対象としたものです。これと2002年のデータを根拠に「ここ10年で自閉症が78%増加」というニュースが一時世間を騒がせました。

*注意2:21世紀以降、英国では米国と違って自閉症発生率が増加していないとの報告があります(Taylor et al., 2013)。Taylor et al.(2013)によれば、2004年から2010年にかけて、自閉症と診断された8歳児は男児で1000人に3.8人(0.38%)、女児で1000人につき0.8人(0.08%)、新しく自閉症と診断された2~8歳児は男児で1000人に1.5人(0.15%)、女児で1000人に0.2人(0.02%)です。

*注意3:晩婚化が自閉症のリスクをあげるのは高齢になると親の生殖細胞に突然変異(de novo突然変異)が生じやすくなるからです。de novo突然変異は卵子よりも精子で生じやすいことから、父親の年齢が重大因子です。その他、晩婚化だけでなく、環境汚染物質も自閉症の原因だという研究があります。

本題に戻りましょう。自閉症と緘黙症の比較です。

少なくとも米国では自閉症の出現率は1.14%。対して場面緘黙症は0.71%(米国ロサンゼルス)という説をよく見かけます。

*注意:0.71%という調査での場面緘黙児は幼稚園~小学2年生(Bergman et al., 2002)。

それにもかかわらず、情緒障害特殊学級在籍児童数(率)には「自閉症または自閉的な傾向」と「高機能自閉症、アスペルガー症候群」を合わせて比較すると、選択性緘黙及び神経性習癖のある小学生・中学生とは何千人という規模で違いがあるのです(割合でいうと小学生が73.2%、中学生が57.9%の差)。

これっておかしくないですか?選択性緘黙には神経性習癖も加わっているのに、このような差が表れるのはなぜなのでしょうか?

もっとも、そもそも自閉症と選択性緘黙症とでは情緒障害特殊学級に入れるかどうかの判断基準が違うでしょうから、単純比較は禁物です。そのことを念頭に以下の考察をお読みください。

選択性緘黙児は自閉症スペクトラム障害児と比較して、情緒障害特殊学級に入るほど問題視されていないのかもしれません。あるいは先生にあてられたらしゃべる緘黙児童・生徒の場合だと、その必要がないと判断されているのかもしれません。

それとも、自閉症や知的障害と場面緘黙が混同されているのでしょうか?医師からの正式な診断がない児童生徒がいたので、その可能性は否めません。あるいは学級担任は緘黙自体を知らないので「その他」に入れたのかもしれません。

ただ、情緒障害特殊学級の担任による報告なので間違うことは少ないと思われます。念のため杉森・石原(2011)や成田・斉藤(2012)も合わせて読んでおいたほうがいいのかもしれません。

杉森・石原(2011)⇒95%以上の小学校・養護教諭は場面緘黙を知っている

成田・斉藤(2012)⇒中学校教師の約24%は選択性緘黙という言葉さえ知らない

自閉症スペクトラム障害を診断できる医者数が場面緘黙症を診断できる医者数と比べて、少ないというのもありそうなことです。診断できるお医者さんが少なければ、それだけ場面緘黙児・生徒の発生率が低くなりますからね。

情緒障害特別支援学級以外の通級指導教室や適応指導教室、ことばの教室、言語障害通級指導教室等に場面緘黙児が通うケースが多いのかもしれません。

とにかく、これらをはじめとする複数の要因が組み合わさって、場面緘黙児・生徒と自閉症スペクトラム障害児・生徒の在籍率に差異が生じたのでしょう。

自閉症と知的障害、自閉症とADHDは合併することが多いので、自閉症と一口にいっても知的な遅れだけでなく、多動性や注意欠陥が併存する場合もあります。その場合の区分はどのようにしたのでしょうか?「自閉症スペクトラムやLD等の発達障害と、不登校などの心因性の問題を併せている児童生徒の割合」は調べられているものの、発達障害と発達障害の合併については調べられていません(知的障害を除く)。

○知的発達が遅れている児童生徒が多い

結果には書きませんでしたが、情緒障害特別支援学級に在籍する児童生徒で、知的発達の障害の程度が標準なのは小学校で21.3%、中学校で25.3%でした。残りは、軽度が小学校で36.9%、中学校で42.0%、中度が小学校で27.4%、中学校で23.0%、重度が小学校で12.5%、中学校で7.8%と、約4分の3の児童生徒に知的発達の障害がありました。

もしかしたら、場面緘黙児・生徒の中にも知的発達が障害されていると判断された子どもがいたのかもしれません。

○その他

情緒障害特殊学級の「在籍以外の児童生徒の指導について」という項目で「校内委員会等で特別な教育的支援が必要と判断しても、本人や保護者の了解が得られなければ支援が始められないという話を現場ではよく耳にする」という文言が気になりました。場面緘黙児・生徒は他人の目線や考えに敏感という話がネット上によくありますが、保護者だけでなく、緘黙児・生徒本人が了承しない事例もあるかもしれません。

情緒障害特殊学級の数字は場面緘黙症と神経性習癖を合わせた数字なのが残念です。

小中ともに、情緒障害特殊学級に在籍する児童生徒が5人以下の学校が90%以上を占め、仮に場面緘黙症の児童生徒が在籍していたとすると、そのほとんどが少人数で教育指導を受けていることになります。

○文部省の特別支援教室(仮称)構想

特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議が2003年(平成15年)3月28日に答申した「今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)」では「小・中学校に在籍しながら通常学級とは別に、制度として全授業時間固定式の学級を維持するのではなく、通常の学級に在籍した上で障害に応じた教科指導や障害に起因する困難の改善・克服のための指導を必要な時間のみ特別の場で教育や指導を行う形態」として特別支援教室(仮称)の具体的検討が必要とされています。

文部科学省構想の特別支援教室(仮称)はまだ一部の学校での試行にとどまっており、全国展開されていませんが、実現すれば、場面緘黙症が特別支援教室の中でどのような位置づけになるのか興味があります。

○引用文献:Taylor et al.(2013)は要約だけ読みました。

Bergman, R. L., Piacentini, J., & McCracken, J. T. (2002). Prevalence and description of selective mutism in a school-based sample. Journal of American Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 41(8), 938-946.

Taylor, B., Jick, H., & MacLaughlin, D. (2013). Prevalence and incidence rates of autism in the UK: time trend from 2004–2010 in children aged 8 years. BMJ open, 3(10), e003219, doi:10.1136/bmjopen-2013-003219.

○参考URL(2013年10月25日現在)

笹森洋樹・廣瀬由美子(2008). 小・中学校における自閉症・情緒障害等の児童生徒の実態把握と教育的支援に関する研究-情緒障害特別支援学級の実態調査 及び自閉症、情緒障害、LD、ADHD通級指導教室の実態調査から- 国立特別支援教育総合研究所. 1-49.

http://www.nise.go.jp/kenshuka/josa/kankobutsu/pub_b/b-230_all.pdf

特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議:今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/018/toushin/030301.htm

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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