社交不安障害とパニック障害の鑑別診断がfMRIで可能 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

社交不安障害(社会不安障害)患者と健常者だけでなく、社交不安障害患者とパニック障害患者の鑑別がfMRI(機能的磁気共鳴画像)でできるとの論文が公表されました(初め見た時には興奮しました)。

今回ご紹介する論文が社交不安障害の診断をfMRIで実施した初めての研究です(ただし、ほとんど同時期に安静時機能的結合による鑑別診断の論文が公表されている)。

その他の精神疾患、発達障害の「脳科学的診断」に関しては以下の参考記事をご参照ください。

参考記事⇒精神疾患を脳イメージングで診断できる時代へ(海外の研究)

参考記事⇒精神疾患を脳イメージングで診断できる時代へ(日本の研究)

*参考記事をご覧になれば分かるように、大うつ病は2008年、自閉症スペクトラム障害や注意欠陥/多動性障害などの発達障害は2011年、2012年にはすでに論文が公刊されています。ゆえに、2014年から論文が公刊された社交不安障害、パニック障害の「脳科学的診断」は遅れています。

Pantazatos, S. P., Talati, A., Schneier, F. R., & Hirsch, J. (2014). Reduced anterior temporal and hippocampal functional connectivity during face processing discriminates individuals with social anxiety disorder from healthy controls and panic disorder, and increases following treatment. Neuropsychopharmacology, 39(2), 425-434. doi:10.1038/npp.2013.211.

★概要

健常者19名、全般性社交不安障害患者16名、パニック障害患者16名のデータが有効になりました。年齢は18~50歳でした。

被験者は意識下に呈示された顔と意識上に呈示された顔の色を答える行動課題を行いました。表情は恐怖と無表情を用いました。

行動課題中にfMRIで脳活動(BOLD信号)を計測しました。

各実験条件ごとに、248ノードの組み合わせ、30,628個の機能的結合のデータをサポートベクターマシンに投入し、最も鑑別精度が高い脳活動を調査しました。

☆再現実験(えっ!何の再現かって?それは後ほど)

再現実験では健常者17名と全般性社交不安障害患者14名のデータが有効になりました。年齢は20~52歳でした。その内、健常者7名と患者12名が8週間後のfMRIスキャンに参加しました。

8週間の間に患者にはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)のパロキセチン(パキシル)を服用してもらいました。

再現実験では被験者はfMRIスキャン中に顔の性別を回答しました。用いた表情は怒り、幸福、無表情でした。

☆結果

*以下、感度とは標的患者を患者と正しく診断できる割合、特異度とは標的疾患がない人を疾患がないと正しく識別できる割合のことです。

健常者と社交不安障害患者の鑑別診断が機能的結合でできました。2つの機能的結合が鑑別に有効(無表情条件で感度88%:特異度89%)であり、それ以上の結合を用いると、鑑別精度が落ちました。

その機能的結合とは左海馬と左側頭極、右中側頭回前部と左眼窩前頭葉でした(両方とも患者の方が結合が低下)
。特に、左海馬と左側頭極の結合の方が鑑別能力が高い結果となりました。

健常者と社交不安障害患者の鑑別は年齢と性別の影響を取り除いても可能でした。

パニック障害と社交不安障害の鑑別も左海馬と左側頭極、右中側頭回前部と左眼窩前頭葉を用いると、できました。鑑別精度は無表情条件で感度が81%、特異度が81%でした。

ただし、健康人とパニック障害患者の識別はできませんでした。

☆結果(再現実験)

上の実験とは異なるサンプルで再び結果を再現できました(健常者と社交不安障害患者の鑑別診断)。

*サポートベクターマシンの学習に用いたのは最初の実験データ(無表情条件)であることに注意

怒りの表情での機能的結合が最も精度が良くなりました(感度71%:特異度71%)。幸せ表情や無表情では有意な鑑別ができませんでした。

健常者「群」と比較して社交不安障害患者「群」は左海馬と左側頭極の結合が弱まっていました(特に憤怒顔条件)。ただし、機能的結合は症状レベルとは有意な相関を示しませんでした。

*社交不安障害の症状はLiebowitz Social Anxiety Scale(リーボウィッツ社会不安尺度)で評価。

健常者と社交不安障害患者の群間比較では、右中側頭回前部と左眼窩前頭葉の結合に有意差が検出できませんでした。

8週間のパロキセチン(パキシル)服用で社交不安障害患者「群」の症状が改善しました。そして、SSRI服用後、左海馬と左側頭極の結合が強まりました(特に憤怒表情条件)。

ただし、SSRI服用で怒り表情と無表情に対する左海馬の活動が「低下」し、左側頭極の活動も「低下」する傾向にありました(結合ではないことに注意)。

★コメント

本論文の考察によれば、海馬と左側頭極の結合が高まるのは顔と名前の連合記憶を検索するのに成功した時だそうです。簡単にいえば、頭の中で顔と名前が一致した場合には海馬と左側頭極が同時に活動するということになります。

側頭極とは顔認識や心の理論といった社会的機能に関与している脳部位のことです。側頭極は側頭葉前方の一番先端にあります。ちなみに、前頭極も前頭葉の一番前方にある脳領域のことです。

左側頭極損傷患者は。マザーグースの歌、『Pop Goes the Weasel(イタチがぴょんとはねてでる!)』のメロディを聞いても名前を正しく答えることが苦手です(Belfi et al., in press)。ただし、メロディを聞いたことがあるという実感(再認)は生じます。

また、左側頭極損傷患者は有名人の声を聴いているという認識ができるのですが、誰の声なのか思い出すことができないのです(Waldron et al., 2014)。

ゆえに、左側頭極は特定のメロディや有名人の名前を想起するのに関与していると考えられています。その他にも有名人の顔を見たときに、その名前を想起するのに左側頭極が関与しているとされますから、聴覚刺激だけでなく、視覚刺激からのネーミングを行っている部位であると考えられます。

海馬はエピソード記憶(自伝的記憶)に関与しています。したがって、海馬と左側頭極の結合は記憶と社会的能力の統合を反映しています。

書きませんでしたが、先行研究で指摘されていた島皮質前部-背側前帯状皮質や扁桃体-背側前帯状皮質、扁桃体-背外側前頭前野の結合は鑑別精度を高めることはありませんでした。

社交不安障害の鑑別診断に役立った機能的結合を用いると、社交不安障害とパニック障害の鑑別はできても、パニック障害患者と健康人の識別はできませんでした。このことから、左海馬-左側頭極、右中側頭回前部-左眼窩前頭葉の異常は社交不安障害だけに当てはまる特徴だといえます。

再現実験では鑑別精度が低くなりましたが、そもそも別の課題、表情条件のデータを用いているので仕方ありません。サポートベクターマシンの訓練も最初のサンプルを用いているため、鑑別精度が落ちるのは致し方ないことです。

○治療成果のバイオマーカー

再現実験ではSSRIによる薬物療法で社交不安障害患者の左海馬と左側頭極の結合が高まりました。プラセボ効果の可能性を排除できませんが、それでも有意義な結果です。

社交不安障害以外の精神疾患の「脳科学的診断」研究では単に診断するだけに終わる論文がほとんどです。それに対して、本研究は薬物療法で診断に役立った脳の機能的結合が改善するという結果が得られており、評価できます。

左海馬と左側頭極の結合は診断のバイオマーカーだけでなく、治療のバイオマーカーになる可能性を秘めています。予後を予測するバイオマーカーも必要です。

○認知行動療法や薬物療法の効果を事前に予測するバイオマーカー

社交不安障害の認知行動療法の予後を集団レベルで予測した研究はあるものの、個人レベルでの予測はありません。ただし、大うつ病に関してはEEGや(f)MRIで薬物療法や認知行動療法の予後を個人レベルで予測できると主張する論文が多数あります。

参考記事⇒認知行動療法や薬物療法の効果を脳イメージングで予測できる時代へ

*注釈:社交不安障害の認知行動療法の効果を集団レベルで予測したfMRI研究は少なくとも2つあります。

Doehrmann, O., Ghosh, S. S., Polli, F. E., Reynolds, G. O., Horn, F., Keshavan, A., Triantafyllou, C., Saygin, Z. M., Whitfield-Gabrieli, S., Hofmann, S. G., Pollack, M., & Gabrieli, J. D. (2013). Predicting Treatment Response in Social Anxiety Disorder From Functional Magnetic Resonance ImagingTreatment Prediction in Social Anxiety Disorder. JAMA psychiatry, 70(1), 87-97. doi:10.1001/2013.jamapsychiatry.5.

Klumpp, H., Fitzgerald, D. A., & Phan, K. L. (2013). Neural Predictors and Mechanisms of Cognitive Behavioral Therapy on Threat Processing in Social Anxiety Disorder. Progress in Neuro-Psychopharmacology & Biological Psychiatry, 45(1), 83–91. doi:10.1016/j.pnpbp.2013.05.004.

パニック障害・全般性不安障害に関してはfMRIによる予後の予測が個人レベルで可能との論文が2014年に公刊される予定です(下の論文がそれ)。

Ball, T. M., Stein, M. B., Ramsawh, H. J., Campbell-Sills, L., & Paulus, M. P. (in press). Single Subject Anxiety Treatment Outcome Prediction using Functional Neuroimaging. Neuropsychopharmacology, doi:10.1038/npp.2013.328.

○後続する研究

本研究が社交不安障害の神経科学的診断を報告した初めての論文となります(ただし、ほとんど同時期に安静時機能的結合による鑑別診断の論文が公表されている)。

後には安静時機能的結合や表情課題中の脳活動、灰白質体積で診断できるとの研究が発表されました。

参考記事⇒社交不安障害と健常者を鑑別診断できる安静時機能的結合

参考記事⇒健常者と社交不安障害の鑑別診断がMRI、fMRIで可能

表情課題時には扁桃体や海馬、前帯状皮質、島皮質、頭頂葉から構成される恐怖ネットワークが鑑別に重要ですが、安静時機能的結合や灰白質体積を用いた場合には脳の広範な領域のデータを用いることで鑑別できます。

○限界

社交不安障害とパニック障害の合併患者についてはどのような分類になるのか不明です。

私の知る限り、健常者とパニック障害患者の脳科学的鑑別診断に関しては論文が公開されていません。パニック障害に関する診断も研究を進めてほしいところです。

○引用文献(要約だけ読みました)

Belfi, A. M., & Tranel, D. (in press). Impaired Naming of Famous Musical Melodies Is Associated With Left Temporal Polar Damage. Neuropsychology, doi:10.1037/neu0000051.

Waldron1, E. J., Manzel1, K., & Tranel, D.(2014). The left temporal pole is a heteromodal hub for retrieving proper names. Frontiers in Bioscience, 6(1), 50-57. DOI:10.2741/S413.

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ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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