社交不安障害と健常者を鑑別診断できる安静時機能的結合 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

従来、社交不安障害(社会不安障害)に関する脳科学的な知見はあくまでも「集団としての平均」でした。

しかし、今年(2013年)、中国の電子科技大学(University of Electronic Science and Technology of China)が社交不安障害患者と健康人をfMRI(機能的磁気共鳴画像法)で鑑別診断できるとの論文を公開しました(Liu et al., in press)。指標は安静時機能的結合で、精度は82.5%(感度85.0 %、特異度80.0%)です。

感度とは患者を正しく患者だと特定できること、特異度とは疾病がない人を正しく健康だといえることです。

そこで、社交不安障害患者は安静時機能的結合が異常だと報告した先行研究を振り返ってみたいと思います。

Liao, W., Chen, H., Feng, Y., Mantini, D., Gentili, C., Pan, Z., Ding, J., Duan, X., Qiu, C., Lui, S., Gong, Q., & Zhang, W. (2010). Selective aberrant functional connectivity of resting state networks in social anxiety disorder. Neuroimage, 52(4), 1549-1558.

★概要

社交不安障害患者20名(年齢22.90±2.99歳)と健常者20名(年齢21.65±3.57歳)が参加しました。ただし、健常者1名のデータは頭の動きが激しかったため分析に用いませんでした。

健常者は親類にも精神疾病がないことを確認しました。研究当時、社交不安障害患者は心理療法や薬物療法を受けていませんでした。

安静時のfMRIで脳活動(BOLD信号:Blood Oxgenation Level Dependent信号)を計測しました。閉眼状態でした。

☆焦点となった安静時ネットワーク

安静時脳活動でも行動課題の時と同じような脳領域がまとまって活動しています。これを安静時ネットワークとよびます。以下に本研究で調べた安静時ネットワークをあげます。

・目標志向性のトップダウン処理に関与する背側注意ネットワーク(dorsal attention network:DAN):左半球優位で、脳の上側を周回している領域(中後頭回、上後頭回、頭頂回、下頭頂回、上頭頂回、中前頭回、上前頭回)。

・中央実行ネットワーク(central executive network:CEN):背外側前頭前野と頭頂葉後部。

・エピソード記憶や自己投影に関与するデフォルト・モード・ネットワーク(default mode network:DMN):後帯状皮質/喫前部、両側下頭頂回、角回、中側頭回、上前頭回、中前頭回。

・タスク制御機能に関与するコアネットワーク(core network:CN):前帯状皮質、両側島皮質、背外側前頭前野。

・自己参照ネットワーク(self-reference network:SRN):腹内側前頭前野、内側眼窩前頭皮質、直回、前帯状回膝前部。

・体性運動ネットワーク(somato-motor network:SMN):中心前回、中心後回、第一次感覚野、第一次運動野、補足運動野。

・視覚ネットワーク(visual network:VN):下後頭回、中後頭回、上後頭回、上頭頂回、側頭葉-後頭葉。

・聴覚ネットワーク(auditory network:AN):両側中側頭回、上側頭回、ヘッシェル回(横側頭回)、側頭極。

結果、対照群と比較して社交不安障害患者は、体性運動ネットワーク内の機能的結合が低下していました。視覚ネットワーク内の結合も低下していました。対して聴覚ネットワークでは群間の差が認められませんでした。

逆に社交不安障害で機能的結合が増加していたのは自己参照ネットワーク内の結合でした。患者群では自己参照ネットワークの腹内側前頭前野との結合が増加していました(★コメント参照)。

社交不安障害(vs. 健常者)で機能的結合が増加と減少の両方を示していたネットワークもありました。それは背側注意ネットワークや中央実行ネットワーク、デフォルト・モード・ネットワーク、コアネットワークでした。

特に、社交不安障害患者群のコアネットワークでは島皮質との結合が低下、背側前帯状回、中帯状回との結合が増加していました。患者群のデフォルト・モード・ネットワークでは右喫前部との結合が低下、背内側前頭前野との結合が増強されていました。

○症状強度との相関

社交不安障害の重症度測定に使用されるLiebowitz Social Anxiety Scale(LSAS)で恐怖因子得点や総得点を算出し、安静時機能的結合との相関を求めた結果は以下の通りです(健常者のデータは用いず)。

背側注意ネットワークの右下前頭回眼窩部やデフォルト・モード・ネットワークの左上側頭回内側部、コアネットワークの右前帯状回との結合がLSASの恐怖因子と正の相関を示しました。相関係数(R)はそれぞれ、0.618、0.447、0.444と中強度でした。

逆にLSASの恐怖因子と負の相関を示した領域もあって、それらは背側注意ネットワークの左上頭頂回、中央実行ネットワークの左上前頭回、視覚ネットワークの左下後頭回でした。相関係数(R)はそれぞれ、-0.639、-0.488、-0.562と中強度の相関でした。

LSASの恐怖因子(恐怖項目)ではなく、総得点と負の相関を示した領域は中央実行ネットワークの左上前頭回と視覚ネットワークの左下後頭回でした。相関係数(R)はそれぞれ、-0.694、-0.621と強い相関を示しました。

★コメント

顔刺激を用いた機能的結合の研究(Danti et al., 2010)では、社交不安障害患者で扁桃体との機能的結合の異常性が感覚運動皮質や下前頭回、下頭頂葉、上側頭溝、内側前頭葉前部で見出されています。

表情認識に対する扁桃体活動と社会不安の関係は紡錘状回からの影響も受けます(Pujol et al., 2009)

このように、社会不安が高いのは扁桃体が興奮しやすいからだと単純に考えるのではなく、他の脳部位との関係も考える必要があります。

Blair et al.(2008)Amir et al.(2005)Labuschagne et al.(2010)Evans et al.(2008)Blair et al.(2010)Veit et al.(2002)Blair et al.(2008)Goldin et al.(2009)Goldin et al.(2009)のように課題関連の脳活動にも異常が認められますが、それはネットワークの異常の一部として理解する必要があります。さらに、課題による脳活動の変化は、安静時の脳活動自体に異常があるから生じるのかもしれません。

ただし、同じ社交不安障害でもセロトニントランスポーター(5-HTT)遺伝子の型によって脳血流量が異なるとの報告もあります(Furmark et al., 2004)。5-HTT遺伝子が短い型だとスピーチ課題で扁桃体の血流が増加しやすいのです。

なお、セロトニントランスポーター(5-HTT)遺伝子が長いと、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)で社交不安障害全般型の症状が改善しやすい(Stein et al., 2006)、プラシーボ(偽薬)でも扁桃体活動が減少しやすい(Furmark et al., 2008)といった効果が期待できます。

○シャイネス(内気さ?)との比較

年齢、性別、社会不安、特性不安の影響を取り除けば、シャイであればあるほど、

1.左小脳後葉と右喫前部

2.右上側頭回と右上前頭回

3.左偏桃体と左中前頭回/内側前頭回

4.右扁桃体と左右の中前頭回/左下頭頂葉/左内側前頭回

の機能的結合が強く、シャイでないほど右扁桃体と左下頭頂葉/右上側頭回の機能的結合が強いとの研究があります(Yang et al., 2013)

シャイネスでは小脳や扁桃体など今回の社交不安障害の研究とは違った領域の関与が示されています。しかし、今回の実験ではそもそも小脳や扁桃体は分析の範囲外だったので、関与の有無は不明です。

○社交不安障害患者は自意識過剰?ー腹内側前頭前野ー

患者群では自己参照ネットワーク内で腹内側前頭前野との結合が増加しており、安静時でも自意識過剰っぷりが示唆されています。

なお、課題時の自意識過剰についてはこちらを参考にしてください⇒悪気がない他者の行動を自分と関連付ける社交不安障害

Blair et al.(2008)によれば、「あなたは馬鹿だ」など自分が否定されるような文を読むと全般性社交不安障害の人は自意識過剰になるようです(内側前頭前野と扁桃体が賦活)⇒自分が非難される文を読むと…

○限界

社交不安障害患者、健常者ともに男性が14名と多く、女性が5、6名でした。これが結果に何らかの影響を与えた可能性があります。

うつも社交不安障害患者の方が重篤で、結果への影響が懸念されます(うつ症状はHamilton Depression Rating Scaleで得点化)。

○社交不安障害患者と健常者の鑑別をfMRIで

冒頭で述べたLiu et al.(in press)は社交不安障害患者と健常者を82.5%の精度で鑑別しました。この時に重要だった機能的結合はデフォルト・モード・ネットワーク、視覚ネットワーク、感覚運動ネットワーク、感情ネットワーク、小脳領域でした。最も役立ったのは右眼窩前頭葉でした。

今回の研究でも背側注意ネットワークの右下前頭回眼窩部がLSASの恐怖因子と強い相関を示していましたね。

「脳の安静時機能的結合による診断」が「精神医学的診断」と合致するのは何も社交不安障害だけではありません。大うつ病患者と健常者の鑑別診断も安静時機能的結合で可能です。現在では90%以上の精度で脳科学的診断が精神医学的診断と一致するという結果まででてきています。

参考記事⇒精神疾患を脳イメージングで診断できる時代へ(海外の研究)

○引用文献(要約だけ読みました)

Liu, F., Guo, W., Fouche, J. P., Wang, Y., Wang, W., Ding, J., Zeng, L., Qiu, C., Gong, Q., Zhang, W., & Chen, H. (in press). Multivariate classification of social anxiety disorder using whole brain functional connectivity. Brain Structure & Function, DOI:10.1007/s00429-013-0641-4.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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