不安障害の児童や青少年、場面緘黙児は運動が苦手 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

場面緘黙児の約50%に運動発達の遅れや運動機能の未熟さがあります(Kristensen, 2002)。運動機能の未熟さを排除すると、場面緘黙児の18%に運動発達の遅れがあるとされています(Steinhausen et al., 1996)。

スイスのチューリッヒ大学のSteinhausen et al.(1996)がいう運動発達の遅れとは、10ヶ月までに座らなかったり、18ヶ月までに歩かなかったという意味です。

一方、場面緘黙症の主な原因は(社会)不安であるとされています。事実、2013年公刊のDSM-5から場面緘黙症が不安障害となりました。

DSM-5とは米国精神医学会が発行している精神疾患の診断・統計マニュアル第5版のことです。

そこで、不安障害と運動スキルの未熟さとの関連を指摘した研究を調べてみました。

○不安障害児には運動が苦手な子が多い

ノルウェーのベルゲン大学の調査(Ekornås et al., 2010)によれば、不安障害児は運動スキルが低く、仲間からの受容度を低く感じます(精神疾患がない児童との比較)。この調査では、不安障害がある男児の3分の2以上に運動技能の未熟さが認められました。

8~11歳の子どもが参加した研究です。

ノルウェーの小児青年メンタルヘルスセンターの調査(Skirbekk et al., 2012)では、不安障害の子どもは健常対照群よりも運動技能が悪く、AD/HD児やAD/HD・不安障害合併児と同じ程度でした。

この研究では発達性協調運動障害の標準化された検査であるMovement Assessment Battery for Children(M-ABC)が運動技能の指標でした。

AD/HDとは注意欠陥多動性障害のことで、神経発達障害の一種です。

○運動スキルと情動を媒介するものは?

豪カーティン大学の研究報告(Rigoli et al., 2012)によれば、運動調整スキル→自己感覚→情動機能(不安やうつ等)という経路があります。

つまり、運動調整スキルが低いからといって、それがすぐに不安やうつにつながるのではなく、自己感覚に媒介されるのです。

12~16歳の思春期の青少年が参加した研究です。

発達性協調運動障害の検査法であるMovement Assessment Battery for Children–2を用いています。自己感覚は自己記述質問票(Self-Description Questionnaire)、情動機能はMood and Feelings QuestionnaireやSpence Children’s Anxiety Scaleで評価しています。

豪カーティン大学の研究(Wilson et al., 2012)によれば、就学前期の運動能力→社会的技能(ソーシャルスキル)→内在化症状(不安や抑うつなど)というパス(経路)もあります(横断研究)。

つまり、運動が苦手でも社会的スキルがあれば、内在化症状が強まらないというわけです。

○不安や不注意・多動性と不器用(不器用)さが関連するのは共通の遺伝的基盤が一因

イタリアのVita-Salute San Raffaele大学の双生児研究(Moruzzi et al., 2010)によると、不注意・多動性だけでなく、不安も不器用さと相関します。この相関関係は他の問題を統制しても生じます。ただし、両者に因果関係はなく、不注意・多動性/不安と不器用さに共通の遺伝的因子によって説明できます。

なぜ、不安と不器用さに共通の遺伝的基盤があると分かるのかというと、双生児法で遺伝相関(Genetic Correlation)という値を算出できるからです。

行動遺伝学で双生児をサンプルにして、個々の特性の遺伝率を推定したり、遺伝相関や環境相関、遺伝環境相関を推定したりできるのです。

環境相関とは2つの環境が共に出現する傾向のことです。遺伝環境相関とは遺伝子が環境を決定するという考えのことです。

遺伝環境相関には3タイプあります。受動型、能動型、誘導型です。詳しくは参考記事をご覧ください。

参考記事⇒緘黙を行動遺伝学で分析 

ちなみに、上の双生児研究は子供の行動チェックリスト(CBCL)やDSM(精神障害の診断と統計の手引き)志向の尺度が指標となっております。

○場面緘黙児には運動発達の遅れがある子が多い

冒頭で述べた場面緘黙症の研究内容を詳しく書いておきましょう。

ノルウェーのHanne Kristensen氏は場面緘黙児54名と対照児108名を比較し、場面緘黙児の半数程度に運動発達の遅れが認められるのに対し、健常対照児では7.4%しかないという結果を発表しました(Kristensen, 2002)。ただし、ここでの運動発達の遅れは重度なレベルではありませんでした。

なお、運動発達の遅れは親の報告に基づくもので、緊張による緘動で動けなかったことが原因という解釈は排除できます。もちろん、運動スキルの正式な評価も実施しています。

Kristensen氏は同論文で場面緘黙児の17%に発達性協調運動障害の合併を見出していますが、合併者を除いても場面緘黙児の運動スキルの未熟さに変わりはありませんでした。

ただし、この研究はクリニックや学校の心理相談サービスから直接参加者を募集しており、運動技能の遅れが過剰に報告されている可能性があります。

○引用文献:Kristensen.(2002)とSteinhausen & Juzi.(1996)以外は要約だけ読みました

Ekornås, B., Lundervold, A. J., Tjus, T., & Heimann, M. (2010). Anxiety disorders in 8–11‐year‐old children: Motor skill performance and self‐perception of competence. Scandinavian Journal of Psychology, 51(3), 271-277.

Kristensen, H. (2002). Non-specific markers of neurodevelopmental disorder/delay in Selective Mutism. European Child & Adolescent Psychiatry, 11(2), 71-78.

Moruzzi, S., Pesenti-Gritti, P., Brescianini, S., Salemi, M., Battaglia, M., & Ogliari, A. (2010). Clumsiness and psychopathology: Causation or shared etiology? A twin study with the CBCL 6–18 questionnaire in a general school-age population sample. Human Movement Science, 29(2), 326-338.

Rigoli, D., Piek, J. P., & Kane, R. (2012). Motor coordination and psychosocial correlates in a normative adolescent sample. Pediatrics, 129(4), e892-e900.

Skirbekk, B., Hansen, B. H., Oerbeck, B., Wentzel-Larsen, T., & Kristensen, H. (2012). Motor impairment in children with anxiety disorders. Psychiatry Research, 198(1), 135-139.

Steinhausen, H. C., & Juzi, C. (1996). Elective mutism: an analysis of 100 cases. Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 35(5), 606-614.

Wilson, A., Piek, J. P., & Kane, R. (2012). The Mediating Role of Social Skills in the Relationship between Motor Ability and Internalizing Symptoms in Pre‐primary Children. Infant & Child Development, 22(2), 151–164.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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