大うつ病と不安障害に共通する脳変性と特異的な脳変性 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

精神医学界ではうつ病と不安障害は合併しやすいとの見解で一致しています。

中でも、先に不安障害を発症し、後にうつ病になる事例が多いとされています。事実、以下の研究でも不安障害が初回うつエピソードに先行した事例が多くなりました(不安障害と大うつ病合併群の話です)。

過去の記事『ギャンブル依存症、拒食症、非行等は不安障害と遺伝的基盤が同じ』でも述べたように、大うつ病、パニック障害、広場恐怖症、社交不安障害(社会恐怖症)は部分的にせよ同じ遺伝子がリスクとなります。

では、うつ病と不安障害の脳構造はどの程度類似しているのでしょうか?

今回はうつ病と不安障害で脳構造に共通点と相違点があるというお話です。

van Tol, M. J., van der Wee, N. J., van den Heuvel, O. A., Nielen, M., Demenescu, L. R., Aleman, A., Renken, R., van Buchem, M. A., Zitman, F. G., & Veltman, D. J. (2010). Regional brain volume in depression and anxiety disorders. Archives of General Psychiatry, 67(10), 1002-1011.

★概要

オランダうつ・不安研究(Netherlands Study of Depression and Anxiety)から協力者を募集しました、データ分析が有効になったのは289人でした。平均年齢は36~41歳です。

被験者を以下の4群に分けました。

・不安障害を併発していない大うつ病(Major Depressive Disorder:MDD)患者:68人(MDD群)

・大うつ病と不安障害の合併(Comorbid condition of Depression and Anxiety:CDA)患者:88人(CDA群)

・大うつ病を併発していない不安障害(Anxiety disorders without comorbid MDD:ANX)患者:68人(ANX群)

・健康な対照群65人。

ここでいう不安障害とはパニック障害、社交不安障害、全般性不安障害のことです。パニック障害患者には広場恐怖症を合併している者も含んでいます。

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を定期的に使用している患者やベンゾジアゼピン系抗不安薬を使用している患者もデータ分析に入れました。

核磁気共鳴画像法、MRI(Magnetic Resonance Imaging)で局所脳体積を計測しました。

○結果(すべて健常対照群との比較)

MDD群、CDA群、ANX群は前帯状回吻側部(情動領域)から背側前帯状回(認知領域)の灰白質体積、白質体積が減少していました。これは重症度や性別、SSRI使用の有無に関係なく発見されました。CDA群で特に顕著でした。

⇒解釈:うつ病と不安障害は部分的に原因(障害への脆弱性)が共通する。

*重症度は寛解状態から重篤な状態までを含む。

MDD群だけに認められた特徴は右下前頭回の灰白質体積、白質体積の低下でした。

⇒解釈:大うつ病のバイオマーカー(生物学的指標)

ANX群だけに認められた特徴は左中側頭回、左上側頭回の灰白質体積、白質体積の低下でした。

⇒解釈:大うつ病がない不安障害のバイオマーカー

18歳未満に大うつ病を発症した患者(MDD群・CDA群)に認められた特徴は前帯状皮質膝下野から内側眼窩前頭回の領域での灰白質体積低下でした。18歳以降に大うつ病を発症した患者群では健常統制群との違いはありませんでした。

⇒解釈:18歳未満の発症者は大うつ病への脆弱性を示す

対照的に、不安障害では18歳未満に発症したかどうかの影響はありませんでした(ANX群・CDA群)。

MDD群・CDA群では、単一エピソードうつ病か再発する反復性うつ病かどうかの影響もありませんでした。

★コメント

灰白質体積、白質体積の減少が不安障害、大うつ病の両者に認められた前帯状回吻側部は情動領域で、扁桃体、眼窩前頭前野など情動との関わりが深い脳領域と神経連絡があります。

一方、前帯状回背側部は認知領域です。

左中側頭回、左上側頭回はパニック障害で異常が認められてきた領域です。

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の一種、エスシタロプラム(レクサプロ)の服用で社交不安障害患者の両側上側頭皮質体積が低下したとの研究(Cassimjee et al., 2010)もあります(ただし、二重盲検法ではない)。

Cassimjee et al.(2010)⇒12週間のSSRI服用で上側頭皮質と小脳が委縮

全般性社交不安障害に関しては扁桃体は約13%、海馬は約8%委縮しているとの研究(Irle et al., 2010)もあります(ただし、扁桃体の委縮は男性だけ)。

特に右海馬が委縮しているほど社会不安が高いようです(Irle et al., 2010)。

今回の研究では患者群で局所的な灰白質体積の低下が生じていましたが、総灰白質、白質体積には群間の違いがありませんでした。もしかしたら、患者群で体積が増加している脳部位があるのかもしれません。

本知見が原因なのか結果なのかという視点で見ると、脳の委縮が重症度とは相関しないことから、少なくとも大うつ病、不安障害の結果ではないようです。

いずれにしろ、本研究成果は大うつ病とパニック障害、社交不安障害、全般性不安障害の鑑別診断の発展に貢献するものです。脳画像技術による「精神疾患の鑑別診断」が大うつ病と不安障害でも行われる日も近いでしょう。

参考記事1⇒精神疾患を脳イメージングで診断できる時代へ(海外の研究)

参考記事2⇒精神疾患を脳イメージングで診断できる時代へ(日本の研究)

○限界(懸念事項)

不安障害がない大うつ病群でも、これまでに不安障害を罹患したことがある患者が21人いたことが気がかりです。同様に大うつ病がない不安障害群でも、これまでに大うつ病を罹患したことのある患者が37人いました。

不安障害を併発している大うつ病群は大うつ病群、不安障害群と比べてSSRIの使用者が多くなっています。

これらの結果はあくまで局所脳体積の話で、脳活動ではどうなのかという問題が未解決です。

平均年齢は30代後半ですから、これらの局所脳体積の差がいつ生じるのか、調査しなければなりません。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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