健常者と社交不安障害の鑑別診断がMRI、fMRIで可能 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

社交不安障害(社会不安障害)患者と健常者をMRI(磁気共鳴画像)とfMRI(機能的MRI)で鑑別診断できるとの論文を読みました。2013年にオンラインで公開された論文で、社交不安障害の「脳科学的診断」を報告した研究は3本でしたが、そのうちの1つです。

なお、社交不安障害の「脳科学的診断」に関する研究はその他の精神疾患、発達障害に関する研究と比較して遅れており、2013年になって初めてこの種の論文が公刊されました。

*あくまでもオンライン上の公開が2013年ということです。正式な論文自体は2014年公刊ということになります。

その他の精神疾患、発達障害の「脳科学的診断」に関しては以下の参考記事をご参照ください。

参考記事⇒精神疾患を脳イメージングで診断できる時代へ(海外の研究)

参考記事⇒精神疾患を脳イメージングで診断できる時代へ(日本の研究)

*参考記事をご覧になれば分かりますように、大うつ病は2008年、自閉症スペクトラム障害や注意欠陥/多動性障害などの発達障害は2011年、2012年にはすでに論文が公刊されています。ゆえに、2013年から論文が公表された社交不安障害の「脳科学的診断」は遅れています。

Frick, A., Gingnell, M., Marquand, A. F., Howner, K., Fischer, H., Kristiansson, M., Williams, S. C., Fredrikson, M., & Furmark, T. (2014). Classifying social anxiety disorder using multivoxel pattern analyses of brain function and structure. Behavioural Brain Research, 259(1), 330-335. doi:10.1016/j.bbr.2013.11.003.

★概要

社交不安障害患者14人(平均年齢:32.4±8.8歳)、健康人12人(平均年齢28.0±8.2歳)が参加しました。診断の有無に関わらず、全員、右利きの男性でした。

安静時ではなく、表情課題(emotional face paradigm)中にfMRIで脳活動(BOLD活動)を計測しました。

表情課題では恐怖の表情と無表情を用いました。顔から性別を判断するよう求めました。

注視点となるバツ印も用いました。

MRIでは灰白質体積を計測しました。

脳画像はマルチボクセルパターン分析(Multi-voxel pattern analysis:MVPA)にかけました。

マルチボクセルパターン分析とは複数のボクセルを同時に分析する手法のことで、「脳の状態から被験者の心を読む」(例:脳活動から夢の内容を解読する等)実験で使用される分析方法です。

鑑別診断はパターン認識(pattern recognition)で行いました。

パターン認識とはある対象をその特徴に基づいて分類する処理のことです。本研究でいうと、脳構造や脳活動から精神疾患の有無を判断することです。

パターン認識アルゴリズムにはサポートベクターマシン(support vector machine)を用いました。

サポートベクターマシンとは教師付き学習(supervised learning)の1種で、機械学習で使用されます。

教師付き学習とは例題を手本に学習する機械学習のことです。

結果、【恐れの表情ー注視点(バツ印)】の脳活動で社交不安障害患者と健康人を72.6%(感度78.6%、特異度66.7%)の精度で鑑別できました。これは恐怖ネットワーク(扁桃体、前帯状皮質、海馬、島皮質、頭頂葉)の脳活動だけを利用した結果でした。全脳の活動を活用すると、鑑別精度が68.5%(感度78.6%、特異度58.3%)に下がりました。

*感度(sensitivity)とは患者を患者と正しく識別できる割合のことで、特異度(specificity)とは健常者を健常者と正しく判断できる割合のことです。

頭頂葉の脳活動だけでは鑑別診断できませんでした(精度:45.8%)。

【恐れの表情ー無表情】ではどの脳活動を用いても鑑別診断できませんでした。

一方、MRIによる鑑別診断の精度は84.5%(感度85.7%、特異度83.3%)でした。これは全脳の灰白質体積を用いた場合で、恐怖ネットワーク(扁桃体、前帯状皮質、海馬、島皮質、頭頂葉)に限定すると、鑑別精度は50.0%に低下しました。

頭頂葉だけだと鑑別精度は57.1%でした。

★コメント

本研究から社交不安障害は【恐れの表情ー無表情】よりも【恐れの表情ー注視点(バツ印)】の方が鑑別精度が高いことが判明しました。

今後、恐れの表情以外や【無表情ー注視点(バツ印)】で鑑別できるかどうか検証しなければなりません。

また、表情課題以外の課題を用いると、恐怖ネットワーク以外にも鑑別診断に重要な脳部位や神経ネットワークが同定できるかもしれません。

サポートベクターマシンは鑑別に関係のない情報が混入していると、精度が低下します。したがって、表情課題中の全脳の活動には余計な情報が含まれていると考えられます。

逆に、MRIで計測した灰白質体積は恐怖ネットワークに限定するよりも、全脳のデータを用いる方が、鑑別精度が高い結果となりました。このことは社交不安障害で脳構造の異常が特定の領域だけでなく、全領域に渡っていることを示唆しています(白質は不明)。

○限界

右利きの男性で実施した鑑別診断ですから、左利きの人や女性にも適用できるとは限りません。年齢も平均して30歳前後ですから、子どもや高齢者に適用できるかは分かりません。

そして、なにより参加者(サンプル)数が少ないことが一番の問題です。

社交不安障害患者に強迫性障害や蜘蛛恐怖症、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)のベンラファキシン(エフェクサー)や禁煙補助剤のバレニクリン(チャンピックス)を服用していた患者がいました。

また、健康統制群には、甲状腺ホルモン薬のレボチロキシン(甲状腺機能低下症の治療薬)を服用していた人がいました。

これらの影響が気になりますが、現実には合併症や服用薬があります。併発障害や薬物の影響に強靭なバイオマーカー(生物学的指標)が必要です。

当然、現時点での精度では臨床現場に(f)MRIによる診断を導入することは困難です。

本研究は診断ありきですから、あくまでも精神医学的診断と神経科学的診断の一致しか扱えません。

○先行研究との比較

今回は表情課題中に行ったfMRIで鑑別診断を実施しましたが、安静時脳活動でも社交不安障害患者と健常者を鑑別診断できます。

参考記事⇒社交不安障害と健常者を鑑別診断できる安静時機能的結合

中国の電子科技大学が社交不安障害患者と健康人を安静時機能的結合で鑑別できるとの論文を発表しています(Liu et al., in press)。精度は82.5%(感度85.0 %、特異度80.0%)でした。

この時に重要だった機能的結合はデフォルト・モード・ネットワーク、視覚ネットワーク、感覚運動ネットワーク、感情ネットワーク、小脳領域でした。最も役立ったのは右眼窩前頭葉でした。

○MRIの磁力を強めると鑑別精度が上がる?

今回の鑑別診断は1.5テスラMRIスキャナーを用いて実施されました。

*テスラとは磁束密度の単位のことで、、磁束の単位面積当たりの面密度のことです。通常T(1.5Tや3T等)と表現します。

統合失調症と健常者の鑑別診断は3TMRIよりも7TMRIの方が正確性が増します(Iwabuchi et al., 2013)。これはテスラ値が大きいほど鮮明な画像が得られるからと考えられます(テスラ値が大きいと磁力線が密集し、磁力が強いため)。

今回は、1.5TMRIスキャナーを使用していましたが、もしかすると、3TMRIや7TMRIを使えば鑑別精度が上がるかもしれません。

追記(2014年1月9日):社交不安障害とパニック障害の鑑別診断がfMRIでできるとの論文が発表されています。詳しくは以下の参考記事をご覧ください。

参考記事⇒社交不安障害とパニック障害の鑑別診断がfMRIで可能

○引用文献(要約だけ読みました)

Iwabuchi, S., Liddle, P. F., & Palaniyappan, L. (2013). Clinical utility of machine learning approaches in schizophrenia: Improving diagnostic confidence for translational neuroimaging. Frontiers in Psychiatry, 4(95), doi:10.3389/fpsyt.2013.00095.

Liu, F., Guo, W., Fouche, J. P., Wang, Y., Wang, W., Ding, J., Zeng, L., Qiu, C., Gong, Q., Zhang, W., & Chen, H. (in press). Multivariate classification of social anxiety disorder using whole brain functional connectivity. Brain Structure & Function, DOI:10.1007/s00429-013-0641-4.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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