緘黙児・緘黙者は褒められることが怖いか? | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

従来、社会不安障害(社交不安障害)の認知行動モデルでは否定的な評価(ネガティブ評価)への恐怖が注目されてきました。ネガティブ評価の恐怖が高い人は他人が批判的に見え、他者を否定的に考える傾向が強いとされます。

しかしながら、近年の研究では社会不安が高い人は肯定的な評価(ポジティブ評価)も恐れることが示されています。テンプル大学成人不安クリニック、ワシントン大学 (セントルイス)心理学部の研究者らがポジティブ評価の恐怖と社会不安の関係について初めて定量的に検討した論文を公刊したのが2008年のことです。

一方、場面緘黙症患者は社会不安障害を合併しているか、もしくは社会不安が高いという理解が主流です。したがって、場面緘黙症の特徴の1つにポジティブ評価の恐怖があると考えことも可能です。

というわけで、社会不安(障害)とポジティブ評価の恐怖の関係に関して、先行研究をまとめてみました。と、偉そうなことを言ってもほとんどアブストラクト(要旨)しか読んでいませんが(一部例外を除く)。

記事の後半にはポジティブ評価の恐怖の高さをチェックできる質問項目を用意しましたので、チェックしてみてください。

○概要

テンプル大学成人不安クリニック、ワシントン大学 (セントルイス)心理学部、ヒューストン大学心理学部のレビュー論文(Weeks et al., 2008b)によると、ポジティブ評価の恐怖が高いと、ポジティブな社会的フィードバック(賞賛など)に対して不快感・違和感・居心地の悪さ(discomfort)が強まります。また、肯定的な評価が怖い人は相手の評価は的確でないと主観的に感じます(Weeks et al., 2008b)。

たしかに、ポジティブ評価の恐怖とネガティブ評価の恐怖はともに社会不安と関係します(Weeks et al., 2010)。しかし、両者は別個の構成概念(Rodebaugh et al., 2012; Weeks et al., 2010)で、その他の社会不安関連の構成概念と独自の関係を持っています(Weeks et al., 2010)。

ポジティブ評価の恐怖は社会的交流の不安(social interaction anxiety)に特有の因子で、うつ症状にはみられないものです(Wang et al., 2012)。先のレビュー論文(Weeks et al., 2008b)によると、ポジティブ評価恐怖得点が高いほど、社会不安が高いことや他の心理尺度との相関が低いことが示されています。

ネガティブ評価の恐怖よりもポジティブ評価の恐怖の方が好印象による社会的報復の懸念、ネガティブ感情特性、ネガティブな自動思考(automatic thoughts)、ポジティブな社会的帰結の不認定?(disqualification of positive social outcomes)と関連し、ポジティブ感情特性やポジティブな自動思考と負の相関を示します(Weeks et al., 2012b)。

自動思考とは勝手に浮かんでくる思考のことで、考えのゆがみ(認知バイアス)の1つです。

ただし、社会不安やネガティブ評価の恐怖もネガティブ感情特性、ネガティブな自動思考、ポジティブな社会的帰結の不認定?と正の相関を示します(Weeks et al., 2012b)。

社会不安が高い学生はネガティブ評価よりポジティブ評価を恐れるという研究もあります(Niquee et al., 2013)。

ただし、ポジティブ評価恐怖尺度得点とネガティブ評価恐怖尺度得点の相関係数が0.74*と高いという研究成果もあります(Weeks et al., 2008a)。また、ネガティブ評価の恐怖とポジティブ評価の恐怖をひっくるめて、評価一般の恐怖(fear of evaluation in general)という表現がされることがあります。

*注釈:誤差分散を修正した場合の相関係数が0.74で、修正しなかった場合は0.45(それでも統計的に有意)。

○ポジティブ評価恐怖尺度(FPES)の信頼性と妥当性

テンプル大学心理学部・成人不安クリニック、ワシントン大学 (セントルイス)心理学部の研究チームはポジティブ評価恐怖尺度(Fear of Positive Evaluation Scale:FPES)を開発しました(Weeks et al., 2008a)。

FPESは内的整合性(internal consistency)が良く、5週間の検査再検査信頼性(test–retest reliability)、交差妥当性(cross-validation)、構成概念妥当性(construct validity)も保証されています。

内的整合性とは検査表にある複数の質問が同じことを測っているかどうかということで、検査再検査信頼性とは時間的間隔を置いても同じ結果がでるかどうかということ、交差妥当性とは別のサンプルでも同じ結果がでるかどうかということ、構成概念妥当性とは尺度得点と理論モデルとの整合性のことです。

さらに、社会的交流の不安やネガティブ評価の恐怖との相関もあり、収束的妥当性(convergent validity)が確認されています。収束的妥当性とは他の似たような心理尺度との相関のことです。

*社会的交流の不安は直接的社会的相互作用不安尺度(Social Interaction Anxiety Scale—Straightforward:SIAS-S)、ネガティブ評価の恐怖は直接的ネガティブ評価恐怖尺度短縮版(Brief Fear of Negative Evaluation scale-Straightforward:BFNE-S)で評価。

また、ネガティブ評価の恐怖とは別にポジティブ評価の恐怖が社会的交流の不安(social interaction anxiety)を説明します(Weeks et al., 2008a)から、両者ともに社会的不安と関係しているといえます。

FPESとSIAS-Sとの相関はFPESと全般性不安障害の症状や状態心配、うつ症状との相関よりも強いことから、弁別的妥当性(discriminant validity)も保証されています。弁別的妥当性とは他の関係の薄そうな心理尺度との相関が弱いことです。

*全般性不安障害の症状はDSM-IV用全般性不安障害質問紙(Generalized Anxiety Disorder Questionnaire for DSM-IV:GAD-Q-IV)、状態心配はペン状態心配質問紙(Penn State Worry Questionnaire:PSWQ)、うつ症状はベック抑うつ質問票Ⅱ(Beck Depression Inventory-II:BDI-II)で評定。

○ポジティブ評価恐怖尺度(FPES)の具体的な質問項目

ポジティブ評価恐怖尺度(FPES)は質問が10項目のリッカート尺度(Likert scale)です。それぞれの質問に対する回答は0(まったくあてはまらない)~9(全く当てはまる)の範囲で行う10件法です。

*リッカート尺度とは皆さんが目にする5段階評定みたいなものです。

具体的な質問項目は以下の通りです。*注意:私以外の人はあまり知らない人を想定してください。

1.たとえ私の才能が相手に好印象を与えるのだとしても、それを見せるのは居心地が悪い。(I am uncomfortable exhibiting my talents to others, even if I think my talents will impress them.)

2.魅力的だと感じている人から賞賛を受けると不安になりそうだ。(It would make me anxious to receive a compliment from someone that I am attracted to.)

3.人に印象を与えないような服を選ぼうとする。(I try to choose clothes that will give people little impression of what I am like.)

4.偉い人から褒められると、落ち着かない。(I feel uneasy when I receive praise from authority figures.)

5.グループの人たちが興味を持ってくれそうなことがある時、たいていそれを言う。(If I have something to say that I think a group will find interesting, I typically say it.)

6.褒められるのなら、他の人がいる時より2人の時が良い。(I would rather receive a compliment from someone when that person and I were alone than when in the presence of others.)

7.人の前で上手くできたら、「上手過ぎる」かどうか気になる。(If I was doing something well in front of others, I would wonder whether I was doing "too well.")

8.私は普通、賞賛を受けると、居心地が悪くなる。(I generally feel uncomfortable when people give me compliments.)

9.たとえ褒められるのだとしても、公の場で目立ちたくない。(I don’t like to be noticed when I am in public places, even if I feel as though I am being admired.)

10.しばしば正当な評価を受けていないと感じ、私の長所について何か言ってもらいたいと思う。(I often feel under-appreciated, and wish people would comment more on my positive qualities.)

質問5と質問10は逆転項目(reverse-scored items)です。FPES得点の算出には使用しません(ただし、逆転項目を得点に換算する質問紙もある)。大学生がサンプルとなったWeeks et al.(2008a)での平均値は23.36でした。

*逆転項目とは質問したいことと逆のことを尋ねる質問のこと。

ポジティブ評価恐怖尺度(FPES)は大学生を対象に開発された質問紙ですが、社会不安障害に対しても適用できます(Fergus et al., 2009; Weeks et al., 2012a)。

*もちろん、大学生にもポジティブ評価の恐怖だけでなく、ネガティブ評価の恐怖(fear of negative evaluation)もあります(Weeks et al., 2009)。

クリニックに訪問した思春期の少年・少女でも内的整合性が高いとの研究もあります(Lipton et al., in press) 少年・少女の親がFPESに回答しても内的整合性が高くなります。Lipton et al.(in press)によれば、FPES得点が社会不安だけでなく、安全確保行動(safety-seeking behaviors,safety behaviors)と正の相関を示します。

安全確保行動とは不安が高い状況で不安を低減させようとする行動のことです。安全確保行動は不安を維持することが数々の研究で示されています。

他の不安障害患者より社会不安障害患者の方がFPES得点が高く、治療感度も良いという研究もあります(Fergus et al., 2009)

○場面緘黙症とポジティブ評価の恐怖

さて、場面緘黙症の原因は社会不安だという説が有力視されています(ただし、まだ議論の最中)。したがって、社会不安とポジティブ評価の恐怖が関係する以上は、場面緘黙症とポジティブ評価の恐怖も関連しそうです。ただし、これはあくまでもあまり親しくない人からの賞賛の場合です。緘黙児・者が安心できる環境で家族などが褒めるケースは分かりません。

もっとも、たとえ家族が賞賛したとしてもその方法が才能を褒め称えるものだった場合、後の失敗に弱くなることが心理学の研究で示されているため、褒め方には注意が必要です(以下の参考記事参照)。

参考記事⇒子どものほめ方:方法によっては逆効果になるので要注意

社会不安とポジティブ恐怖の関係をテンプル大学成人不安クリニックとワシントン大学 (セントルイス)心理学部の研究者らが中心となって、本格的に調査し始めたのは2008年からで、よく分からないことが多いのが現状です。ましてや場面緘黙症患者や緘黙経験者がポジティブ評価恐怖尺度(FPES)に回答する日はまだまだ先になりそうです。

関連記事⇒日本語版Fear of Positive Evaluation Scale(FPES)が出版されました

○引用文献:Weeks et al.(2008a)は全文読みましたが、後は要約だけ読みました

Fergus, T. A., Valentiner, D. P., McGrath, P. B., Stephenson, K., Gier, S., & Jencius, S. (2009). The Fear of Positive Evaluation Scale: Psychometric properties in a clinical sample. Journal of Anxiety Disorders, 23(8), 1177-1183. doi:10.1016/j.janxdis.2009.07.024.

Lipton, M. F., Augenstein, T. M., Weeks, J. W., & De Los Reyes, A. (in press). A multi-informant approach to assessing fear of positive evaluation in socially anxious adolescents. Journal of Child & Family Studies, DOI:10.1007/s10826-013-9785-3.

Niquee, F., & Samadi, A. (2013). Fear of negative evaluation and fear of positive evaluation in social anxiety. Nationalpark-Forschung in der Schweiz(Switzerland Research Park Journal), 102(7), 550-557.

Rodebaugh, T. L., Weeks, J. W., Gordon, E. A., Langer, J. K., & Heimberg, R. G. (2012). The longitudinal relationship between fear of positive evaluation and fear of negative evaluation. Anxiety, Stress & Coping, 25(2), 167-182. DOI:10.1080/10615806.2011.569709.

Wang, W. T., Hsu, W. Y., Chiu, Y. C., & Liang, C. W. (2012). The hierarchical model of social interaction anxiety and depression: The critical roles of fears of evaluation. Journal of Anxiety Disorders, 26(1), 215-224. doi:10.1016/j.janxdis.2011.11.004.

Weeks, J. W., Heimberg, R. G., & Rodebaugh, T. L. (2008a). The Fear of Positive Evaluation Scale: Assessing a proposed cognitive component of social anxiety. Journal of Anxiety Disorders, 22(1), 44-55. doi:10.1016/j.janxdis.2007.08.002.

Weeks, J. W., Heimberg, R. G., Rodebaugh, T. L., Goldin, P. R., & Gross, J. J. (2012a). Psychometric evaluation of the Fear of Positive Evaluation Scale in patients with social anxiety disorder. Psychological Assessment, 24(2), 301-312. doi:10.1037/a0025723.

Weeks, J. W., Heimberg, R. G., Rodebaugh, T. L., & Norton, P. J. (2008b). Exploring the relationship between fear of positive evaluation and social anxiety. Journal of Anxiety Disorders, 22(3), 386-400. doi:10.1016/j.janxdis.2007.04.009.

Weeks, J. W., & Howell, A. N. (2012b). The bivalent fear of evaluation model of social anxiety: Further integrating findings on fears of positive and negative evaluation. Cognitive Behaviour Therapy, 41(2), 83-95. DOI:10.1080/16506073.2012.661452.

Weeks, J. W., Jakatdar, T. A., & Heimberg, R. G. (2010). Comparing and contrasting fears of positive and negative evaluation as facets of social anxiety. Journal of Social & Clinical Psychology, 29(1), 68-94. doi:10.1521/jscp.2010.29.1.68.

Weeks, J. W., Norton, P. J., & Heimberg, R. G. (2009). Exploring the latent structure of two cognitive components of social anxiety: Taxometric analyses of fears of negative and positive evaluation. Depression & Anxiety, 26(2), E40–E48. DOI:10.1002/da.20414.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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