緘黙人の緘動-フリージングの心理学研究より | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

場面緘黙症は緘黙症状ばかりに注目しがちですが、緘動という現象も生じることがあることを忘れてはなりません。緘動とは身体が固まって動けなくなることをいいます。普通、緘動の原因は緊張や不安だとされますが主観的な表現ですし、実際に「動けない」かどうかは分かりませんので、ここでは「身体が硬直し動かなくなること」とでも定義しておきましょう。

しかし、この緘動、場面緘黙症で系統的に調査した研究や実験的に検証した論文は見たことがありません。欧米の研究が中心の英語文献でもそうです。一方、心理学の世界では動物と同じように人間でもフリージング(freezing)が起きることが知られています。そこで、フリージングに関する先行研究をまとめてみました。ついで、緘動を場面緘黙症の人で実験的に検証する場合に立ちふさがる障壁について言及します。

*フリージングとは防衛反応の1種で、脅威にさらされると生じる身体が硬直し、動かなくなる反応のことです。フリージングで心拍数も低下します。人間でのフリージング実験の詳細は「不安が強い人ほど怒った顔を見るとフリーズする」をご覧ください。

以下、身体動揺という表現を用いますが、身体動揺が低下=フリージングと解釈してください。

○人間でのフリージング全般

切断された身体を見るとフリーズし、身体が硬直、心拍数(徐脈)が低下します(Facchinetti et al., 2006)。これは左右方向のフリージングで、笑顔の赤ちゃんや家族を見ると、前後方向にフリーズします。

ただし、切断された身体の写真を見ると身体動揺が減少しますが、それは片足立ちの時だけという研究もあります(Stins et al., 2007)。

自転車エルゴメーターでの実験でも、快適な写真と比較して不愉快な写真を見ると、心拍数が低下したり力がでなかったりします(Coudrat et al., 2014)。エルゴメーターとはスポーツで体力測定やトレーニングのために使われる器具のことです。

蜘蛛や蛇が接近する刺激を潜在的に見ると、後退する刺激と比較してフリージング様反応が生じます(Sagliano et al., 2014)。ここでのフリージング様反応とは反応時間の増加のことです。状態不安が高い人ほどフリージング様反応が起きます。ただし、脅威刺激の大きさや場所はフリージング様反応に影響しません。

不快な映画の鑑賞でも身体動揺が減少、心拍数が低下します(Hagenaars et al., 2014)。身体動揺の減少は不快な映画の1シーンが始まってから1、2秒後に生じ、不快な映画を観ている時だけ心拍数と身体動揺が相関します。

歩行板上でのステップを指標とした研究によれば、不愉快な画像でフリーズ反応が起こり、次に刺激から遠ざかる動きをします(Stins et al., 2011)。

20%の二酸化炭素吸引で健康な人の13%にフリーズが生じ、不安やパニックと相関します(Schmidt et al., 2008)。

*二酸化炭素吸引は不安や恐怖、パニックを引き起こすことが知られています。詳しくは「CO2吸引によるパニック発作、恐怖に扁桃体は必要ない」や「二酸化炭素吸引による不安の高まりで話し言葉の知覚が苦手になる」、「7.5%濃度の二酸化炭素を吸い不安になると、ネガティブ写真に敏感になる」を参照して下さい。

○トラウマの影響

Hagenaars et al.(2012)によると、

1.健康な女性でも嫌悪的ライフイベント(トラウマ)を経験したことがあると、そうでない人と比較して不快な写真で心拍数が低下しやすい

2.トラウマを経験したことのない人と比べて、1回経験したことのある女性は不快写真に対して身体の揺れが小さい

3.複数回、トラウマを経験した女性は不快写真だけでなく、中性写真、快適な写真に対しても身体の揺れが小さい

そうです。

○パニック障害でフリージング

健常群と比較して、パニック障害患者群は力台に乗って写真を見る実験を通して身体動揺が小さく、硬直します(Lopes et al., 2009)。皮膚コンダクタンス反応(ガルバニック皮膚反応)も高くなります。パニック障害患者は予期不安が高ければ高いほど、身体振動が少なくなります。ただし、不安惹起写真、切断身体写真、中性写真の影響はありません。

○人間でも扁桃体と中脳水道周囲灰白質が重要

ネガティブ写真で心拍数が低下し、瞳孔が拡張し、扁桃体や中脳水道周囲灰白質(中脳中心灰白質)が活性化します(Hermans et al., 2013)。また、ネガティブ写真を見ると扁桃体と中脳水道周囲灰白質も同時に活動するようになります。ネガティブ写真に対する中脳水道周囲灰白質の活動が心拍数の低下と相関します。

*フリージングには扁桃体と中脳水道周囲灰白質が重要であることが動物実験で分かっています。

○脅威刺激がない場合は逆に不安が高いと身体動揺が大きい!

ただし、脅威刺激がない状態では不安が高まると身体動揺が大きくなるようです(Ohno et al., 2004)。しかし、Ohno et al. (2004)によれば、目を閉じると不安と身体動揺の相関が消失します。つまり、視覚情報が重要因子というわけです。複雑ですね。

子どもでも不安が高いと姿勢動揺が大きく、その動きは複雑ではありません(Stins et al., 2009)。特に不安が高い子どもが眼を閉じて、泡のような突起が出ているプラットフォーム(foam surface)に乗ると、身体の動いた外周面積が大きくなるようです。

○フリージングには別表現がある?

ただし、PTSD(心的外傷後ストレス障害)研究ではTonic immobility(持続性不動状態)という表現があり、フリージングと同義なのかどうか私には分かりません。なお、Tonic immobilityは擬死(死んだふり)とほとんど同じ意味です。

○場面緘黙症の人で実験する場合

場面緘黙症の人で上に記載したのと同じような実験をする場合は緘黙の専門家だけでは不可能です。これらの研究は重心動揺検査・姿勢動揺検査(posturography)ができる専門知識・専門スキルがないとできない実験ですからね。

日本でいうと文教大学で客員研究員や非常勤講師を務めたことのある野瀬出氏が『スピーチ不安が重心動揺に及ぼす効果』という論文を執筆されています。野瀬出氏はスピーチの予期不安で外周面積が減少する(身体動揺の範囲が狭い)などの結果を報告しています。

もし場面緘黙症の緘動という症状を実験的に検証したいという方がおられて、なおかつお知り合いに適切な知識・スキルを持った専門家がいない&自分にも技能がない場合は、研究者検索サイトのReaD & Researchmapや研究者人材データベースのJREC-INなどで重心動揺検査・姿勢動揺検査に習熟している専門家を見つけるしかありません。

○引用文献(ほとんどの文献は要約だけ読みました)

Coudrat, L., Rouis, M., Jaafar, H., Attiogbé, E., Gélat, T., & Driss, T. (2014). Emotional pictures impact repetitive sprint ability test on cycle ergometre. Journal of Sports Sciences, 32(9), 892-900. DOI:10.1080/02640414.2013.865253.

Facchinetti, L. D., Imbiriba, L. A., Azevedo, T. M., Vargas, C. D., & Volchan, E. (2006). Postural modulation induced by pictures depicting prosocial or dangerous contexts. Neuroscience Letters, 410(1), 52-56. doi:10.1016/j.neulet.2006.09.063.

Hagenaars, M. A., Roelofs, K., & Stins, J. F. (2014). Human freezing in response to affective films. Anxiety, Stress & Coping, 27(1), 27-37. DOI:10.1080/10615806.2013.809420.

Hagenaars, M. A., Stins, J. F., & Roelofs, K. (2012). Aversive life events enhance human freezing responses. Journal of Experimental Psychology: General, 141(1), 98-105. doi:10.1037/a0024211.

Hermans, E. J., Henckens, M. J., Roelofs, K., & Fernández, G. (2013). Fear bradycardia and activation of the human periaqueductal grey. NeuroImage, 66(1), 278-287. doi:10.1016/j.neuroimage.2012.10.063.

Lopes, F. L., Azevedo, T. M., Imbiriba, L. A., Freire, R. C., Valença, A. M., Caldirola, D., Perna, G., Volchan, E., & Nardi, A. E. (2009). Freezing reaction in panic disorder patients associated with anticipatory anxiety. Depression & Anxiety, 26(10), 917-921. doi:10.1002/da.20593.

Ohno, H., Wada, M., Saitoh, J., Sunaga, N., & Nagai, M. (2004). The effect of anxiety on postural control in humans depends on visual information processing. Neuroscience Letters, 364(1), 37-39. doi:org/10.1016/j.neulet.2004.04.014.

Sagliano, L., Cappuccio, A., Trojano, L., & Conson, M. (2014). Approaching threats elicit a freeze-like response in humans. Neuroscience Letters, 561(21), 35-40. doi:10.1016/j.neulet.2013.12.038.

Schmidt, N. B., Richey, J. A., Zvolensky, M. J., & Maner, J. K. (2008). Exploring human freeze responses to a threat stressor. Journal of Behavior Therapy & Experimental Psychiatry, 39(3), 292-304. doi:10.1016/j.jbtep.2007.08.002.

Stins, J. F., & Beek, P. J. (2007). Effects of affective picture viewing on postural control. BMC Neuroscience, 8:83. doi:10.1186/1471-2202-8-83.

Stins, J. F., & Beek, P. J. (2011). Organization of voluntary stepping in response to emotion-inducing pictures. Gait & posture, 34(2), 164-168. doi:10.1016/j.gaitpost.2011.04.002.

Stins, J. F., Ledebt, A., Emck, C., van Dokkum, E. H., & Beek, P. J. (2009). Patterns of postural sway in high anxious children. Behavioral & Brain Functions, 5(42). doi:10.1186/1744-9081-5-42.

野瀬出(2006). スピーチ不安が重心動揺に及ぼす効果 生活科学研究, 28, 7-12.
http://sucra.saitama-u.ac.jp/modules/xoonips/download.php/BKK0001983.pdf?file_id=28262(2014年3月14日現在)

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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