緘黙研究会の限界 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

かんもくの会のHPによれば、日本緘黙研究会(仮称)が2013年9月1日の特殊教育学会で開催された自主シンポジウムの後、発足したそうです。長野大学の高木潤野講師が長野大学紀要に寄稿した論文でも「緘黙研究に関心を寄せる全国の研究者や臨床家の集まり」として「緘黙研究会(仮称)」を発足させ「年次大会や論文集の発行を計画」しているとのことです。

しかし、緘黙研究会で場面緘黙症(選択性緘黙症)の専門家しか集まらず、他の分野を専門とした研究者・臨床家が参加しなかった場合、疫学的な調査やアンケート調査ならまだしも、他の専門家を必要とするような実験はできないことになります。これが私が密かに危惧している緘黙研究会の弱点の1つです(ただし、構成メンバーの専門分野が不明なので杞憂の可能性あり)。

もっとも私の勝手な印象ですが日本の緘黙専門家、緘黙研究者はどちらかというと、現状の理解や支援方法を探るという方向に傾きがちだと思いますので、緘黙以外の専門家が必要になるのは10年、20年先になる可能性が高いように感じますが。

以下、場面緘黙症の理解、研究のためにはどれだけ、緘黙以外の知識・スキルが必要かということを論じていきます。この議論を通じて緘黙研究会に場面緘黙症の専門家しか集まらなった場合の欠点が見えてくるはずです。緘黙研究会を酷評していると誤解される方がいらっしゃるかもしれませんが、緘黙研究会の設立自体は嬉しいニュースですし、応援しています。しかし、以下に述べる限界を念頭に置いておけば、より良い研究ができるはずです。

○場面緘黙症の研究やその理解のためには緘黙以外の知識が必要

逆説的になりますが、(場面)緘黙症の研究のためには緘黙以外の研究、特に不安研究についての知識が必要です。というのも、これは私の持論ですが創造的な研究のためには既存の要素を組み合わせて研究計画を立てると良いからです。また、その成果が論文となって現れた場合に備えて、研究はしないけど論文は読みたい方にも緘黙以外の知識が必要になってきます。

事実、米欧などの英語文献では場面緘黙症児に対してTrail Making Test(TMT)による注意の測定や共同注意の定量化など、明らかに緘黙とは別の分野の知識がなければ読めない論文が増えてきています。また、研究者の立場に立てばこのような研究をするためには当然のことながら、共同注意やTMT検査についての事前知識が必要となります(もっともこの2つは心理学や精神医学の世界では良く知られていると思いますが)。

特にイスラエルにあるテルアビブ大学のヤィール・バーハイム(Yair Bar-Haim)教授らの研究は場面緘黙症児の中耳音響反射(middle-ear acoustic reflex:MEAR)と内側オリーブ蝸牛束反射(medial olivocochlear bundle (MOCB) reflex)の検査を行っており、付け焼刃の知識では太刀打ちできない生物学的なものです。

ただし、これは場面緘黙症の実験的研究の場合のみ当てはまることで、疫学的調査の段階では当てはまりません。場面緘黙症の疫学的調査は、種々の統計学的知識・スキルを別として、緘黙以外の専門的知識がなくてもできるものです。しかし、実験スキル等が必要な実験的研究に関しては緘黙の専門家だけ集まってもできません。緘黙以外の知識・スキルを持つ人が必要です。もっとも日本で緘黙症の人を被験者とした実験が行われるかどうかは分かりませんが。

○お宝論文を見逃す危険性

場面緘黙症以外の論文を完全に無視してしまった場合、緘黙の研究に役立つ「お宝研究」をみすみす見逃してしまうことになります。たとえば、不安が強い人は言葉の選択が苦手であるというような研究を「かんもくネットの角田圭子氏らの問答を支持する研究」で紹介しました。これは場面緘黙症の研究だけに注目しているだけでは、決して探せない論文になります。

その他にも「不安が強い人ほど怒った顔を見るとフリーズする」や「緘黙人の緘動-フリージングの心理学研究より」で紹介したような研究が場面緘黙症の研究に貢献する可能性があります。

*フリージング(freezing)とは防衛反応の1種で、脅威にさらされると起こる身体が硬直する反応のことです。心拍数も低下します。フリージングは場面緘黙症の緘動症状とかかわりがあると思われます。

また、仮に場面緘黙症児・人の社会不安が高かった場合、緘黙児・人は褒められることが怖い可能性がありますが、これも場面緘黙症の研究ばかり注目しているとみすみす見逃してしまう研究です。

フリージング等の研究を事前に知っておくことにより、同じ実験を場面緘黙症児と健常発達児の比較で行うという発想が生まれます(多少用いる刺激や実験条件を変更する必要がでるかもしれません)。逆にいうと、知らなければ、実験計画の立案にまごつくことになります。 

○緘黙以外の不安障害に詳しくなければ、誤った理解が生まれる恐れ

緘黙以外の不安障害にも詳しくなければなりません。さもないと、Kristensen(2002)のように場面緘黙児は運動が苦手なことが多いという研究結果がでたとすると、その結果を過大視することになりかねません。実際には場面緘黙児以外の不安障害児でも運動が苦手だということが示されており、もし緘黙と運動の未熟さの関係を重要視しすぎてしまったとしたら誤った考察がなされる可能性が高まります。

○余談:緘黙サイトの弱点

これらは既存の緘黙サイトにも当てはまる弱点です。かんもくの会やかんもくネット、筑波大学の園山繁樹教授の園山研究室選択性緘黙HPなど公式団体・機関のサイトでさえ、場面緘黙症に関する情報に終始しており、視野が狭い状態です。もっとも大手の緘黙サイトが緘黙以外の情報を載せると訪問者が混乱するため、当然と言えば当然ですし、場面緘黙症の情報だけを載せるのが定石であり、強みでもあります。

それに、私のブログのように緘黙以外の研究から緘黙に関する考察をすると、妄想や想像でしか語ることができません。しかし、本ブログは既存の緘黙研究と同じ結果が他の不安障害でも得られているかどうかの検討もしているので、他サイトとは違って緘黙症の人にはこれこれこういう特徴があるということを重要視しすぎないことができています。また、場面緘黙症以外の研究分野から緘黙の研究に関する今後の方向性やヒントを見出すこともできます。

○引用文献

高木潤野(2013). 長野県における緘黙の当事者・保護者・支援者ネットワークの構築 長野大学紀要 35(2), 63-64. Permalink:http://id.nii.ac.jp/1025/00001081/.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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