認知行動療法や薬物療法の効果を脳イメージングで予測できる時代へ | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

以前、精神疾患はMRI(核磁気共鳴画像)やfMRI(機能的MRI)、EEG(脳波)などの脳イメージング技術で診断できるということを具体的な研究事例をもとにお話ししました。ただし、まだ実用段階ではありません。

参考記事⇒精神疾患を脳イメージングで診断できる時代へ(海外の研究)

参考記事⇒精神疾患を脳イメージングで診断できる時代へ(日本の研究)

今回は脳イメージング技術で認知行動療法や薬物療法の効果を予測できるとの研究をとりあげます。いずれ場面緘黙症の予後も神経科学的に予測できるようになるかもしれませんからね。

ほとんどが大うつ病で、その他は統合失調症や初回精神病エピソード、物資乱用障害です。

*本記事で扱うのは個人レベルでの予測であり、集団レベルでの予測ではありません。集団レベルの予測ならば社交不安障害(社会不安障害)や全般性不安障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、強迫性障害等でも多くの研究が蓄積されています。

追記(2014年10月5日):個人レベルでパニック障害・全般性不安障害への認知行動療法の効果を予測できたという報告⇒認知行動療法の効果はfMRIで予測可能

○治療抵抗性うつ病と治療敏感性うつ病の識別

薬物療法や認知行動療法の効果を脳イメージングで予測できるということを示す前に、治療抵抗性うつ病と治療敏感性うつ病の識別の話をしましょう。

うつ病には治療のし易さに応じて治療抵抗性うつ病(treatment-resistant depression:treatment-refractory depression)と治療敏感性うつ病(treatment-sensitive depression)という区別があります。

治療抵抗性うつ病とは抗うつ薬が効かないうつ病のことで、治療敏感性うつ病とは抗うつ薬が効くうつ病のことです。

治療抵抗性うつ病はうつ病の30%ほどを占め、難治性うつ病といわれることもあります。

MRIによって健常者とうつ病患者を82%~91%の精度で識別した研究があります(Liu et al., 2012)。それによると、識別に役立ったのは前頭葉、側頭葉、頭頂葉、後頭葉、小脳の灰白質、白質構造でした。しかし、治療抵抗性うつ病と治療敏感性うつ病の鑑別診断は有意ではありませんでした。

しかし、治療抵抗性うつ病と治療敏感性うつ病の鑑別診断が半球間調整の指標で可能です(Guo et al., 2013)。半球間調整の指標として用いたのが、voxel-mirrored homotopic connectivity(VMHC:ボクセルミラードホモトープ結合)でした。

voxel-mirrored homotopic connectivityとは左右両半球の同じ脳部位の結合のことです。

治療抵抗性うつ病患者は精神疾病がない人や治療敏感性うつ病患者と比較して,鳥距皮質のVMHC値が低い結果となりました。そして、鳥距皮質のVMHC値で治療抵抗性うつ病患者と健常者だけでなく、抵抗性うつ病患者と治療敏感性うつ病患者の鑑別診断も可能でした。

Guo et al.(2013)には感度(sensitivity)や特異度(specificity)の記述はないのですが、受信者操作特性(Receiver operating characteristic)曲線により、鑑別精度を表現しています。

受信者操作特性曲線とはROC曲線といわれるもので、検査精度や予測精度の評価に用いられます。

ROC曲線では、ROC曲線下面積(area under the curve:AUC)の値により診断能や予測能を判断することができます。

治療抵抗性うつ病と治療敏感性うつ病の鑑別診断が小脳におけるCohe-ReHo値でも可能です(Guo et al., 2012)。Guo et al.(2012)での感度は83%、特異度は86%でした。

*感度とは標的疾患患者を正しく見分けること、特異度とは標的でない疾患患者(または健康人)を正しく見分けることです。

Cohe-ReHoとはcoherence-based ReHoの略語で安静時機能的結合の局所同期の指標として使用されます。

○大うつ病(major depressive disorder)の予後の予測

★抗うつ薬の効果の予測

薬物療法前のMRIで難治性うつ病か非難治性うつ病かを65%~85%の精度で予測できます(Gong et al., 2011)。

治療前のMRIスキャンにより抗うつ薬で大うつ病の症状が改善するかどうか、89%の精度(感度89%、特異度89%)で予測できたとの報告があります(Costafreda et al., 2009)。

カナダのマックマスター大学は治療前のEEGにより大うつ病患者へのSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)に対する効果を88%の精度(感度95%、特異度81%)で予測できました(Khodayari-Rostamabad et al., 2013)。

老年期うつ病でも治療前のMRIとミニメンタルステート検査(Mini Mental State Examination)で抗うつ薬の効果を77%の精度で予測することが可能です(Ribeiz et al., 2013)。ただし、MRIといっても全脳体積ではなく、左上外側眼窩前頭皮質体積のデータが最も鑑別精度の高い指標となりました。

ミニメンタルステート検査とは認知症のスクリーニングに使われる検査のことです。米国のフォルスタイン夫妻が考案した、世界的に有名な認知症のスクリーニング法です。

★認知行動療法の効果の予測

治療前のfMRIで、認知行動療法による大うつ病急性エピソードからの回復を予測できるとの論文があります(Costafreda et al., 2009)。感度は71%、特異度は86%でした。fMRIは悲しみの表情を意識下で見ている時に計測しました。

ただし、Costafreda et al.(2009)は患者数が少ないのが欠点です(寛解者が9人、非寛解者が7人)。

★rTMSの効果の予測

マックマスター大学の研究チームは反復経頭蓋磁気刺激法(rTMS)の前のEEGで大うつ病に対するrTMSの効果を80%の精度(感度78%、特異度83%)で予測できました(Khodayari-Rostamabad et al., 2011)。

反復経頭蓋磁気刺激法とは8の字コイルによる磁場の変化で脳内に電流を生じさせることで、脳活動に影響を与える方法です。ファラデーの電磁誘導の法則を応用した脳刺激法です。

○初回精神病エピソード患者の予後の予測

初回精神病エピソード時のMRIで予後を予測できるとの研究があります(Mourao-Miranda et al., 2012)。その研究によると、継続的精神病患者とエピソード精神病患者を感度71%、特異度68%の精度で識別できます。6.2年後の予測です。健康人との区別も可能です(感度71%、特異度61%)。

ただし、エピソード精神病患者と健常者の区分はできませんでした。中間型精神病の区別では他の精神病エピソードに発展しなかった患者の74%をエピソード精神病患者、さらなる精神病エピソードを示した患者の65%を継続的精神病患者とMRIは分類しました。

○統合失調症の薬物療法の効果の予測

薬物療法前のfMRIで初回エピソード統合失調症の陰性症状の寛解を79%の精度で予測できた研究があります(Sundermann et al., 2013)。この研究では抗精神病薬はセロクエル(クエチアピン)を使用していました。fMRIは言語的n-back課題(verbal n-back task)中に計測していました。

クロザピン(クロザリル)とは非定型抗精神病薬の統合失調症治療薬のことです。

言語的n-back課題とはワーキングメモリ課題の1つで、心理学や神経科学の研究でも利用頻度が高い課題です。

特に、前頭葉-頭頂葉内の脳活動とデォルトモードネットワーク内の活動が予後の予測に役立ちました。

ただし、Sundermann et al.(2013)はサンプル(患者)数が少ないのが難点です(寛解者が6人、非寛解者が8人)。

マックマスター大学と聖ジョセフ病院マウンテンヘルスサービスセンターの研究チームは治療前のEEGで慢性統合失調症のクロザピン療法の効果を85%の精度で予測できました(Khodayari-Rostamabad et al., 2010)。

○物質乱用障害の認知行動療法の完遂の予測

ニューメキシコ大学等の研究チームはGo/NoGo課題中の事象関連電位のP2(エラー関連陰性電位)とPe(エラー陽性電位)で83%の精度で治療断念者を同定することに成功しました(Steele et al., in press)。

Go/NoGo課題とは被験者にGo信号を出した時には何らかの反応を行わせ、NoGo信号を出した時には反応を行わせない課題のことです。Go/NoGo課題は反応抑制を定量化する際に使用されます。

○引用文献(要約だけ読みました)

Costafreda, S. G., Chu, C., Ashburner, J., & Fu, C. H. (2009). Prognostic and diagnostic potential of the structural neuroanatomy of depression. PLoS ONE, 4(7), e6353. doi:10.1371/journal.pone.0006353.

Costafreda, S. G., Khanna, A., Mourao-Miranda, J., & Fu, C. H. (2009). Neural correlates of sad faces predict clinical remission to cognitive behavioural therapy in depression. Neuroreport, 20(7), 637-641. doi: 10.1097/WNR.0b013e3283294159.

Gong, Q., Wu, Q., Scarpazza, C., Lui, S., Jia, Z., Marquand, A., Huang, X., McGuire, P., & Mechelli, A. (2011). Prognostic prediction of therapeutic response in depression using high-field MR imaging. Neuroimage, 55(4), 1497-1503. doi:10.1016/j.neuroimage.2010.11.079.

Guo, W. B., Liu, F., Chen, J. D., Gao, K., Xue, Z. M., Xu, X. J., Wu, R. R., Tan, C. L., Sun, X. L., Liu, Z. N., Chen, H. F., & Zhao, J. P. (2012). Abnormal neural activity of brain regions in treatment-resistant and treatment-sensitive major depressive disorder: A resting-state fMRI study. Journal of Psychiatric Research, 46(10), 1366-1373. doi:10.1016/j.jpsychires.2012.07.003.

Guo, W., Liu, F., Xue, Z., Gao, K., Liu, Z., Xiao, C., Chen, H., & Zhao, J. (2013). Decreased interhemispheric coordination in treatment-resistant depression: a resting-state FMRI study. PLoS ONE, 8(8), e71368. doi:10.1371/journal.pone.0071368.

Khodayari-Rostamabad, A., Hasey, G. M., MacCrimmon, D. J., Reilly, J. P., & Bruin, H. D. (2010). A pilot study to determine whether machine learning methodologies using pre-treatment electroencephalography can predict the symptomatic response to clozapine therapy. Clinical Neurophysiology, 121(12), 1998-2006. doi:10.1016/j.clinph.2010.05.009.

Khodayari-Rostamabad, A., Reilly, J. P., Hasey, G. M., de Bruin, H., & MacCrimmon, D. (2011, August). Using pre-treatment electroencephalography data to predict response to transcranial magnetic stimulation therapy for major depression. In Engineering in Medicine and Biology Society, EMBC, 2011 Annual International Conference of the IEEE, 6418-6421. Boston, MA. DOI:10.1109/IEMBS.2011.6091584.

Khodayari-Rostamabad, A., Reilly, J. P., Hasey, G. M., de Bruin, H., & MacCrimmon, D. J. (2013). A machine learning approach using EEG data to predict response to SSRI treatment for major depressive disorder. Clinical Neurophysiology, 124(10), 1975-1985. doi:10.1016/j.clinph.2013.04.010.

Liu, F., Guo, W., Yu, D., Gao, Q., Gao, K., Xue, Z., Du, H., Zhang, J., Tan, C., Liu, Z., Zhao, J., & Chen, H. (2012). Classification of different therapeutic responses of major depressive disorder with multivariate pattern analysis method based on structural MR scans. PLoS ONE, 7(7), e40968. doi:10.1371/journal.pone.0040968.

Mourao-Miranda, J., Reinders, A. A. T. S., Rocha-Rego, V., Lappin, J., Rondina, J., Morgan, C., Morgan, K. D., Fearon, P., Jones, P. B., Doody, G. A., Murray, R. M., Kapur, S., & Dazzan, P. (2012). Individualized prediction of illness course at the first psychotic episode: a support vector machine MRI study. Psychological Medicine, 42(5), 1037-1047. doi:10.1017/S0033291711002005.

Ribeiz, S. R., Duran, F., Oliveira, M. C., Bezerra, D., Castro, C. C., Steffens, D. C., Busatto Filho, G., & Bottino, C. M. (2013). Structural Brain Changes as Biomarkers and Outcome Predictors in Patients with Late-Life Depression: A Cross-Sectional and Prospective Study. PLoS ONE, 8(11), e80049. doi:10.1371/journal.pone.0080049.

Steele, V. R., Fink, B. C., Maurer, J. M., Arbshirani, M. R., Wilber, C. H., Jaffe, A. J., Sidz, A., Pearlson, G. D., Calhoun, V. D., Clark, V. P., & Kiehl, K. A. (in press). Brain Potentials Measured During a Go/NoGo Task Predict Completion of Substance Abuse Treatment. Biological Psychiatry, doi:10.1016/j.biopsych.2013.09.030.

Sundermann, B., Herr, D., Schwindt, W., & Pfleiderer, B. (2013). Neural markers of negative symptom outcomes in distributed working memory brain activity of antipsychotic-naive schizophrenia patients. American Journal of Neuroradiology, 16(6), 1195-1204. doi:10.1017/S1461145712001253.

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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