二酸化炭素吸引による不安の高まりで話し言葉の知覚が苦手になる | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

心理言語学ではGanong effect(ギャノング効果)という現象が知られています。

Ganong effectとはシラブル(音節)の語彙知識が音素の知覚に影響することです。たとえば、gift-kiftの連続体ならgと聞こえやすく、giss-kissの連続体ならkと聞こえやすいのです。連続体とは、はっきりしたgの発音とはっきりしたkの発音の間にいくつかの段階を設けて、明瞭な発音と曖昧な発音の両方を刺激としたもののことです。

Ganong effectにより、lexical driftという現象が生じます。lexical driftとは聞き手が話し言葉の音響的特性を無視し、スピーチの内容から聞こえてきた単語を語彙知識から推測する傾向のことです。先行研究では注意の分散でlexical driftが生じることが示されています。

*注意:私には音韻と音素の違いが分かりませんから、同義として扱います。

ところで、7.5%のCO2(二酸化炭素)を吸引すると、健常者でも不安が高まることが知られています。7.5%のCO2吸引は全般性不安障害のモデルとして抗不安薬の効果の検証のために、使用されることもあります。また、7.5%のCO2吸引はネガティブ写真への注意に影響します。

参考記事⇒7.5%濃度の二酸化炭素を吸い不安になると、ネガティブ写真に敏感になる

そして、7.5%のCO2を吸引し、不安を高めると、音素の弁別が苦手になり、Ganong effectが生じやすいという論文が2013年に公刊されました。つまり、CO2による不安の高まりで話し言葉を直に理解することが苦手になり、辞書的知識を用いる傾向が強まるというのです。

*注意:35%のCO2吸引でパニック状態が健常者でも生じることが知られていますが、これは7.5%のCO2吸引による不安とは異なります。35%のCO2吸引実験に関しては以下の参考記事をご覧ください。

参考記事⇒CO2吸引によるパニック発作、恐怖に扁桃体は必要ない

Mattys, S. L., Seymour, F., Attwood, A. S., & Munafò, M. R. (2013). Effects of acute anxiety induction on speech perception: Are anxious listeners distracted listeners? Psychological Science. 24(8), 1606-1608. doi:10.1177/0956797612474323.

★概要

被験者30名。

刺激は2組のシラブル(giss-kissのペアとgift-kiftのペア)。

課題は音韻カテゴリー化課題(phoneme categorization task)と音韻弁別課題(phoneme discrimination)。

○音韻カテゴリー化課題

音韻カテゴリー化課題では、被験者に1つのシラブルを聞かせ、gから始まったのかkから始まったのか回答してもらいました。

シラブルはgissからkiss、giftからkiftに段階的に聞こえるように変化させました。全部で8段階でした(4・5段階目はgかkか曖昧で、よく聞き取れません)。

もし、giss-kissのペアの方が、gift-kiftのペアよりも早い段階からシラブルの最初がkと聞こえたのならそれは言語知識に頼っていると判断できるわけです(Ganong effect:ギャノング効果)。

○音韻弁別課題

音韻弁別課題では被験者に2つのシラブルを聞かせました。同時ではなく、500msの間隔をおいて聞かせました。2つのシラブルが同じ音から始まったのか違う音から始まったのか回答してもらいました。

シラブルとして音韻カテゴリー化課題と同じ2組の刺激を用いました。各シラブルに8段階ある聞こえ方の内、1段階置きに刺激ペアを組みました(例:2段回目と4段階目)

○二酸化炭素吸引による不安の誘発

7.5%濃度のCO2を被験者に吸わせながら実験を行う条件と大気を吸わせながら実験を行う条件の2種類を設定しました。つまり、実験は課題(音韻カテゴリー化課題・音韻弁別課題)×吸引条件(CO2・大気)の4種類実施しました。

○結果

空気吸引条件よりもCO2吸引条件の方が状態不安、収縮期血圧、心拍数が高くなりました。

*不安レベルは状態-特性不安尺度(State-Trait Anxiety Inventory)の状態不安サブスケールで評価。

空気吸引条件よりもCO2吸引条件の方が音韻弁別課題の成績が悪くなり、音韻カテゴリー化課題でGanong effect(ギャノング効果)が大きくなりました。

★コメント

本論文はヨーク大学とブリストル大学の行った研究のまとめなのですが、以前、注意分散条件(divided attention condition)で同じ結果を得ていました。注意分散条件では視覚探索課題(visual search task)と音韻カテゴリー化課題・音韻弁別課題を同時に行わせていました。

不安は注意制御不良や無関連刺激に注意を取られてしまうといった心理状態と関連しています。なので、注意分散条件で音素弁別が苦手になり、Ganong effectが強まるならば、不安が高い状態でも同じ結果が得られると予想したわけです。そして、結果は予想が的中した格好となっています。

○不安が強い場面緘黙症の人も音韻弁別が苦手?

アメリカ精神医学会が発行する精神障害の診断と統計の手引き第5版(DSM-5)によれば、場面緘黙症は不安障害だとされます。もしも本当に場面緘黙症が不安障害ならば、緘黙児・人はスピーチがはっきり聞こえなくてもおかしくありません。また、緘黙児・人はスピーチを聞く際に、聴覚能力を補うために語彙知識に頼っている可能性が示唆されます(Ganong effect:ギャノング効果)。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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