EEGバイオフィードバックで特性不安と注意バイアスが低下 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
HOME   »   不安と注意バイアス  »  EEGバイオフィードバックで特性不安と注意バイアスが低下

問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

注意バイアス(attentional bias,attention bias)は不安の維持、形成に重要な役割を果たしているとされています。

参考記事⇒不安の一因は選択的注意の歪み

また、注意バイアスは修正可能で、認知行動療法が有効なのは注意バイアスが変化することが一因である可能性も指摘されています。

参考記事⇒注意バイアスはトップダウンで修正可能

参考記事⇒認知行動療法が効くのは注意バイアスが変化するから?

ネガティブ表情から笑顔を見つける注意バイアスの修正訓練が社会恐怖を低下させたとの報告もあります。

参考記事⇒ネガティブ表情から笑顔を見つける訓練で社会恐怖が低下

今回は笑顔を見つけるのではなく、EEGバイオフィードバック(脳波バイオフィードバック)で特性不安や注意バイアスが改善したというお話です。

特性不安とはパーソナリティ(性格)として個人が持つ不安のことです。一方、状態不安とはある一定の状況や場面で感じる不安のことです。バイオフィードバックとは無意識的な生物的情報を意識的に与えることで、自らの体内状態を把握し、それを修正しようとする科学技術のことです。

Wang, S., Zhao, Y., Chen, S., Lin, G., Sun, P., & Wang, T. (2013). EEG biofeedback improves attentional bias in high trait anxiety individuals. BMC Neuroscience, 14(115), 1-8. doi:10.1186/1471-2202-14-115.

★概要

特性不安が高い高不安群(24人:女性14人)と不安が正常な非不安群(21人:女性11人)が実験に参加しました。成人した大学生です。

*特性不安の強さは中国語版の状態-特性不安尺度(State-Trait Anxiety Inventory:S-TAI)で計測。

注意バイアス課題として情動ストループ課題(emotional stroop task)を用いました。

情動ストループ課題では情動語に色を付けて被験者に見せました。情動語の意味を無視し、その色をできるだけ早く回答させました。訓練は正解率が85%に達するまで行いました。データ分析には正解した試行の反応時間や脳波しか用いませんでした。

情動語の種類はポジティブ語、ネガティブ語、中立語の3種類でした。用いた色は赤、緑、青の3種類でした。情動語の呈示時間は1,500ms(ミリ秒)でした。

情動ストループ課題での注意バイアスの定義は単語の色を回答するまでに要した時間としました。中立語と比較して、ポジティブ語・ネガティブ語に対する反応時間が異なれば、無視すべき情動語の意味にとらわれていると判断できますからね。

情動ストループ課題中に脳に置いた電極からEEG(脳波)を計測しました。特に、P300という脳波に焦点を当てました。

P300とは事象関連電位(ERP:event-related potential)の1つで、注意の指標として使われます。本研究では注意刺激が呈示されてから250~400ms以内に起こった最も高い陽性電位をP300としていました(電極の場所は頭部の中心、頭頂部、後頭部)。

情動ストループ課題中にEEGを計測し、バイオフィードバックする実験も実施しました。EEGバイオフィードバックの実験では高不安群の被験者だけ参加しました(8-13Hzのα波訓練群12名、偽バイオフィードバック群11名)。

*α波(アルファ波)とはリラックスした状態や閉眼時に発生しやすい脳波のことです。

本物のEEGバイオフィードバックではα波がでると、背景音として海のさざ波を流し、閾値以上のα波が出ると、鳥のさえずり声(≒報酬)を流しました。被験者にはできるだけさえずり声(=閾値以上のα波)を出すように教示しました。α波が強ければ強いほど、鳥のさえずり声が大きくなるようにしました。

偽バイオフィードバック群の被験者には海のさざ波音しか聞かせませんでした。

EEGバイオフィードバックの訓練は1週間に2回の頻度で、8週間行いました。

●情動ストループ課題で生じる注意バイアスの結果

高不安群はネガティブ語に対する反応時間(反応潜時)が長くなりました(低不安群との比較)。

高不安群では中立語と比較してネガティブ語に対する反応時間が長かったのに対し、低不安群では有意差が検出されませんでした。

高不安群のP300の振幅は脳のP3という領域で大きくなりました(低不安群との比較)。

P3とは脳波計測の際の電極の配置位置のことで、特別な脳部位をしめすものではありません。脳波計測の電極は国際10-20法(ten-twenty electrode system)に則って配置するのが一般的で、P3は頭頂部(parietal site)に位置します。脳波計測における電極の配置(国際10-20法)

*図は無料百科事典ウィキペディアに掲載されている国際10-20法での電極配置:このウィキペディアの画像はパブリックドメインですので、誰でも自由に利用することができます。

高不安群はネガティブ語に対するP300潜時が長くなりました(低不安群との比較)。高不安群は、特に脳電極の配置のPzとOzでP300潜時が長くなりました(低不安群との比較,ネガティブ語条件)。ただし、ポジティブ語や中立語では有意差が検出されませんでした。

潜時とはある出来事(ここではERPの出現)が発生するまでにかかる時間のことで、心理学で頻繁に登場する単語の1つです。

●EEGバイオフィードバックの結果

性別、年齢、ベースラインでの特性不安、情動ストループ課題の反応時間・P300振幅、P300潜時に有意差はありませんでした。

α波訓練群は特性不安スコアが有意に減少しました(バイオフィードバック前のα波訓練群及びバイオフィードバック後の偽訓練群との比較)。バイオフィードバック前と比較して、バイオフィードバック後にα波訓練群はネガティブ語に対する反応潜時(反応時間)が短縮しました(偽訓練群では変化なし)。

EEGバイオフィードバックの訓練前と比較して、訓練後にα波訓練群はα波の振幅が増加しました。一方、偽訓練群は有意なα波の変化が認められませんでした。

訓練前後を比較すると、P300振幅へのバイオフィードバックへの影響は有意ではありませんでした。

しかし、α波訓練群でネガティブ語に対するP300潜時が短くなりました(訓練前後の比較)。P300潜時の減少が認められた脳部位はPzとOzでした。ポジティブ語、中立語ではP300潜時にバイオフィードバックによる変化はありませんでした(訓練前後の比較)。

また、偽訓練群ではP300潜時の有意な変化はありませんでした(訓練前後の比較)。

★コメント

リラックスするときに出るアルファ波をバイオフィードバックで強めることで、特性不安や注意バイアスが減少することを示したのが本研究です。P300は注意機能と関連していますから、事象関連電位でも注意への影響が裏付けられています。注意バイアスの治療にバイオフィードバックを用いた研究は私の知る限りほとんどなく、希少な研究です。

バイオフィードバックによるP300潜時の短縮が見られた脳部位はPzとOzでした。Pは頭頂葉のParietal、Oは後頭葉のoccipitalの略です。ゆえに、バイオフィードバックによる注意への影響は特に頭頂葉や後頭葉で生じたことになります。

○本当に脳波バイオフィードバックの効果か?

今回の脳波フィードバックの偽対照群には単に海のさざ波の音を聞かせているだけでした。一方、本物のバイオフィードバック群では海のさざ波音を背景として、アルファ波が高まると鳥のさえずり声が聞こえる仕掛けになっていました。

このように本物群は被験者の努力次第で結果が出る実験設定になっており、課題への集中力や努力が異なる可能性があります。よって、特性不安や注意バイアスの減少はバイオフィードバックの結果ではなく、単に被験者が課題に集中した結果であるとの解釈を排除できません。この可能性を排除するためには別の脳波でバイオフィードバックをする等する対照群を設ける必要があります。

○子どもに脳波バイオフィードバックは可能か?

本研究は大学生での結果ですが、子どもでもできるのかどうかが気になります。もし可能であれば、行動療法や心理療法の補助として薬物療法ではなく、バイオフィードバックを用いることも将来的には選択肢になるかもしれません。スマートフォンの脳波アプリ等を活用すれば、練習するだけで誰でもバイオフィードバックができる時代が到来するかもしれません。

ただ、場面緘黙症にEEGバイオフィードバックを用いた研究が行われるのはもっと遠い未来の話になりそうです。

スポンサードリンク

Comment

スポンサードリンク

Trackback
Comment form
カテゴリ
ランキング
Twitter
スマートフォンサイト
Amazon書籍
場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

リンクについて
このサイトはリンクフリーです。リンクの取り外しはご自由になさって下さい。個別ページのSNSでの共有やブログ、サイトへのリンクも自由です。
プライバシーポリシー
当ブログはGoogle Adsense広告を掲載しています。Google Adsenseでは広告の適切な配信のためにcookie(クッキー)を使用しています。ユーザーはcookieを無効にすることができます。

なお、Google Adsenseで上げた収益は将来のホームレス生活を見越し、すべて貯金にまわしています。
免責事項
ブログ記事の内容には万全の注意を払っていますが、管理人はその内容の正確さについて責任を負うものではありません。

PAGE TOP