オキシトシン鼻腔投与で怒り表情に対する接近が増加するが… | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

オキシトシンは自閉症患者に鼻腔投与する研究報道が盛んにおこなわれています(あくまでも私の印象)。たとえば、東京大学の山末英典准教授、渡部喬光特任助教授(当時)、桑原斉助教授、八幡憲明特任助教授、高野陽介氏、岩白訓周氏、 夏堀龍暢氏、青木悠太氏、高尾英正特任講師、川久保友紀助教授、宮下保司教授、笠井清登教授、国立精神・神経センター精神保健研究所児童・思春期精神保健部の神尾陽子氏、日本大学の加藤進昌教授、阿部修教授による以下の論文がNHKで「東大のグループ 自閉症にホルモン投与で改善」、「鼻からオキシトシンをスプレー 自閉症がよくなった」、マイナビニュースで「自閉症の対人コミュニケーション障害はホルモン投与で改善できる!?」と盛んに報道されました。

Watanabe, T., Abe, O., Kuwabara, H., Yahata, N., Takano, Y., Iwashiro, N., Natsubori, T., Aoki, Y., Takao, H., Kawakubo, Y., Kamio, Y., Kato, N., Miyashita, Y., Kasai, K., & Yamasue, H. (2013). Mitigation of sociocommunicational deficits of autism through oxytocin-induced recovery of medial prefrontal activity: A randomized trial. JAMA Psychiatry. 71(2), 166-175. doi:10.1001/jamapsychiatry.2013.3181.

メディアで報道されたかどうかは知りませんが、福井大学子どものこころの発達研究センターの小坂浩隆特命准教授、佐藤真特任教授、友田明美教授、和田有司教授、福井大学医学部神経科精神科の石飛信助教授、浅野みずき特命准教授、福井県立大学の大森晶夫教授、金沢大学の棟居俊夫特任教授は自閉症スペクトラム障害患者の長期的なオキシトシン療法を事例として報告しています。

Kosaka, H., Munesue, T., Ishitobi, M., Asano, M., Omori, M., Sato, M., Tomoda, A., & Wada, Y. (2012). Long-term oxytocin administration improves social behaviors in a girl with autistic disorder. BMC Psychiatry, 12(110). doi:10.1186/1471-244X-12-110.

しかし、実際には自閉症だけオキシトシン服用が研究されているわけではありません。社会不安障害や統合失調症、境界性人格障害の患者へオキシトシン投与を実施した研究もあります(面倒なので実際の論文は示しません)。

今回はオキシトシン投与が幸福表情や怒り表情に対する接近行動を高めるかどうか検証した研究です。社会不安の高低による効果の違いも検証しています。

Radke, S., Roelofs, K., & De Bruijn, E. R. (2013). Acting on anger: Social anxiety modulates approach-avoidance tendencies after oxytocin administration. Psychological Science, 1573-1578. doi:10.1177/0956797612472682.

★概要

参加者:健康な男子大学生24名(平均年齢21.46歳±1.93)。

各被験者に生理食塩水または24IUのオキシトシンを鼻腔投与しました(被験者内計画:within-subjects design)。被験者内計画とは実験参加者が複数の実験条件を体験する実験構成のことです。本実験では、全員が生理食塩水投与とオキシトシン投与を体験しました。二重盲検法でした。

*IUとは薬理学で用いられる国際単位のことです。また、鼻腔経由のオキシトシン投与はシントシノン点鼻薬を用いることが一般的です。

実験では接近-回避課題(approach-avoidance task:AAT)を実施しました。

接近-回避課題とは、表情への接近の指示の下では操作レバー(joystick)を引き、表情からの回避の指示のもとでは操作レバーを押す課題のことです。引き(pull)が接近、押し(push)が回避に相当します。

表情刺激には怒り、幸福、中性表情の3種類を用い、この内2種類に操作レバーを引くか押すかのいずれかの教示をしました。また、視線は直視(direct gaze)と逸れた視線(averted gaze)の2種類を用意しました。3種類の表情×2種類の視線、つまり6種類の顔刺激を被験者に呈示しました。

指標としてAAT得点(操作レバーを押す条件の反応時間ー操作レバーを引く条件の反応時間)を用いました。AAT得点が正の値になれば接近傾向を、負の値になれば回避傾向を示します。

社会不安はリーボウィッツ社会不安尺度(Liebowitz Social Anxiety Scale:LSAS)で評定しました。

○結果

以下、特に断りがない限り、全て直視表情の結果です。

怒った表情よりも幸福表情に対する反応が早くなりました。ただし、レバーを引く条件(接近条件)でのみ有意でした。

プラセボ投与条件では幸福表情でAAT得点が正の値を示し、怒りの表情でAAT得点が負の値を示し、その差は有意なものでした⇒解釈:偽薬条件下では幸福表情に接近し、怒り表情を回避する。

しかし、オキシトシン投与条件では幸福表情と怒り表情でAAT得点に有意差が検出されませんでした。また、怒り表情のAAT得点が正の値を示し、薬物と表情の交互作用が有意でした⇒解釈:オキシトシンは怒り表情に対する接近を高めるが、幸せ表情に対する効果はない(天井効果:ceiling effect?)。

*天井効果とは反応の限界まで来てしまっているので、それ以上実験的な操作(ここではオキシトシン投与)をしても効果が現れないこと。

社会不安が高いほど、オキシトシン投与後の怒り表情に対するAAT得点が低いことが分かりました(負の相関関係)。プラセボ投与条件では相関は有意ではありませんでした⇒解釈:オキシトシンは社会不安が高い人より社会不安が低い人の方が怒り表情に対する接近行動を強める。

一方、オキシトシン/プラセボ投与条件に関わらず、社会不安と幸せ表情のAAT得点では有意な相関を得られませんでした。

逸れた視線ではオキシトシンの有意な効果は得られませんでした。

★コメント

本論文によれば、オキシトシンが表情の認識に影響するのは、社会的シグナルの顕著性が強まったことが原因なのか、それとも社会的交流のへ接近動機づけが高まったことが原因なのか不明でした。本実験でオキシトシン投与による怒り表情への接近が直視表情でのみ認められたことから、接近動機づけという解釈は捨てることになります。というのも、もしオキシトシン投与により社会的交流の動機づけが高まったとしたら、逸れた視線でも接近傾向が強まるはずだからです。

臨床閾値以上では、男性の全般性社交不安障害(全般性社会不安障害)患者にオキシトシンスプレーを鼻腔投与すると、恐れの表情に対する扁桃体の活動が正常化します(Labuschagne et al., 2010)

今回はfMRI(機能的磁気共鳴画像)等で神経活動(脳活動)を計測していませんでしたが、オキシトシンの怒り表情に対する接近の促進効果が社会不安の高い人で生じにくいのはどのような神経科学的メカニズムが働いているのか解明しなければなりません。

Labuschagne et al.(2010)と同様に被験者は男性だけでした。しかし、女性にオキシトシンを鼻腔投与すると産気づくらしいので、本人が妊娠していることを知らない可能性を考えると、実験には一手間かかります。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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