不安障害でも保護者同伴で情動処理に関与する脳の活動が低下 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクト(要旨)だけ読んだ、不安(障害)に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが、最新の研究成果です。

*ただし、本論文に関してはさらっと全文読みました。

なぜ、不安(障害)なのかというと、場面緘黙症児は不安が高いか、もしくは不安障害を合併していることが多いという知見があるからです。

今回は不安障害の子どもは保護者同伴でfMRI(機能的磁気共鳴画像)をすると、情動処理や情動制御に関与する脳活動が低下するというお話です。

なお、不安(障害)以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最新記事⇒恋人・同棲者・配偶者の浮気・不倫に対する嫉妬レベルは遺伝する

最新記事⇒最適なカウンセリングルームの色を科学的に検証した研究

Conner, O. L., Siegle, G. J., McFarland, A. M., Silk, J. S., Ladouceur, C. D., Dahl, R. E., Coan, J. A., & Ryan, N. D. (2012). Mom-it helps when you're right here! Attenuation of neural stress markers in anxious youths whose caregivers are present during fMRI. PLoS ONE, 7(12):e50680. doi:10.1371/journal.pone.0050680.

ピッツバーグ大学医学センター、ピッツバーグ大学医学部、カリフォルニア大学、バージニア大学の研究です。

○背景(PLoS ONE掲載の本論文から孫引き)

先行研究では夫の手を握り締めている妻はfMRIスキャン中に電気ショックに対する情動制御ネットワーク(腹側前帯状皮質、縁上回)と情動制御、知覚、辺縁系領域(背外側前頭前野、尾状核、上丘)の活動が低下することを発見しています。視床下部、上前頭回、右島皮質前部の活動低下は夫婦関係の質に敏感です。

*先行研究とは以下の論文のこと

Coan, J. A., Schaefer, H. S., & Davidson, R. J. (2006). Lending a hand:social regulation of the neural response to threat. Psychological Science, 17(12), 1032-1039. doi:10.1111/j.1467-9280.2006.01832.x.

また、愛情を感じる人物(attachment figure:恋人・同棲者・配偶者のこと)を見ながら身体的痛み(熱痛)を引き起こす刺激を受けると、痛覚が減少し、痛みに関わる神経ネットワーク(背側前帯状皮質、島皮質前部)の活動も低下、腹内側前頭前野の活動が増加するとされます(Eisenberger et al., 2011)。Eisenberger et al.(2011)の実験では交際開始からの期間が長いほど、またパートナーからのサポートが強いと感じているほど、痛覚や痛覚関連の脳活動が減少しているほど、腹内側前頭前野の活動が高まっていました。

*腹内側前頭前野は恐怖条件付けパラダイムで安心シグナルに対して活動が増加することが分かっている脳領域です。また、扁桃体等の辺縁系を抑制する働きを持っていると考えられています。

Eisenberger et al.(2011)⇒Eisenberger, N. I., Master, S. L., Inagaki, T. K., Taylor, S. E., Shirinyan, D., Lieberman, M. D., & Naliboff, B. D. (2011). Attachment figures activate a safety signal-related neural region and reduce pain experience. Proceedings of the National Academy of Sciences, 108(28), 11721-11726. doi:10.1073/pnas.1108239108.

愛は脳以外にも影響します。驚愕性瞬目反応を防御反応の指標としたGuerra et al.(2012)によると、愛情を感じる写真を見ると、その後生じる驚愕音、ホワイトノイズに対する驚愕性瞬目反応が弱まります。これは男性よりも女性で顕著です。なお、ここでの愛情を感じる人物とは恋人/同棲者、父親、母親、無二の親友(ベストフレンド)のことです。

Guerra et al.(2012)⇒Guerra, P., Sánchez-Adam, A., Anllo-Vento, L., Ramírez, I., & Vila, J. (2012). Viewing loved faces inhibits defense reactions: a health-promotion mechanism?. PloS one, 7(7), e41631. doi:10.1371/journal.pone.0041631.

また、Lungwitz et al.(2013)によると、ラットでも「知人(友達?)」がいると不安様行動が低下し、それに前頭前野が関与します。というのも、ムシモールを両側前頭前野に投与し活動を抑制すると、知人の存在による抗不安作用が消失するからです。ムシモールとは抑制系神経伝達物質のGABA(γアミノ酪酸)と構造が似ているため、GABAAの選択的アゴニスト(作動薬)として使用される化学物質のことです。

さらに知人のラットと触れ合うセッションでD-サイクロセリンを投与すると、知人の存在による抗不安作用の獲得が早まります。D-サイクロセリンとは行動療法や認知行動療法、暴露療法の効果を増進させる効果を持つお薬のことで、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や社会不安障害(社交不安障害)、パニック障害等でその効果が様々な研究で検証されています。

Lungwitz et al.(2013)⇒Lungwitz, E. A., Stuber, G. D., Johnson, P. L., Dietrich, A. D., Schartz, N., Hanrahan, B., Shekhar, A., & Truitt, W. A. (2013). The role of the medial prefrontal cortex in regulating social familiarity-induced anxiolysis. Neuropsychopharmacology, 39(4), 1009-1019. doi:10.1038/npp.2013.302.

○本題に戻って…実験手続き

不安障害の少年少女(平均年齢9.5歳)10名(男女半々)とその保護者、年齢、性別、診断をマッチングさせた不安障害の子ども、年齢をマッチングさせた健康な少年少女が研究に協力しました。

ここでいう不安障害とは、全般性不安障害、分離不安障害、社会恐怖症(社会不安障害、社交不安障害)あるいはこれらの合併障害のことです。

保護者はfMRIのscanner room(検査室)の隅に待機していました。これは子ども自身が保護者にそばにいてほしいとリクエストした場合で、リクエストしなかった不安障害児は保護者の同伴がありませんでした。いずれの条件でも子どもは保護者と身体的接触を図ることができない状況でした。

保護者の内訳は母親が8名、父親が1名、祖母が1名でした。

fMRI課題は単語価同定課題(Word Valence Identification task)を用いました。単語価同定課題とは身体的脅威に関する単語(幽霊等)、社会的脅威に関する単語(当惑、困惑等)、ポジティブ語(笑い等)、中性語(グレープ等)の情動価(emotional valence)をできるだけ早く判断し、回答する課題のことです。

○実験結果

保護者がfMRIスキャナーの部屋で待機している不安障害の少年少女は視床下部、左腹外側前頭前野、腹内側前頭前野の活動が低下しました(保護者の同伴がない不安障害の少年少女との比較)。彼らは視床下部、左腹外側前頭前野、腹内側前頭前野の活動が低下した結果、健康な少年少女と同レベルの脳活動(平均)になりました。

○考察

これらの結果は保護者が身近にいると、不安障害の子どもで情動処理や情動制御に関わる神経系の活動の必要性が弱まることを示唆しています。

ただし、不安障害がない子どもで保護者同伴条件を設定していないのが難点で、これは論文の著者自身も認めています。また、保護者同伴は子どものリクエストに合わせており、ランダムに割り当てていません。これも著者自ら認めている研究の欠点です。また、単語刺激の種類ごとの分析が書かれていません。

被験者の年齢や障害の有無、実験デザインが全く異なる研究を直接比較するわけにもいかないのですが、恋人・同棲者・配偶者の写真を見ながら痛み刺激を受けたEisenberger et al.(2011)では腹内側前頭前野の活動が高まっていたのに、不安障害の子どもが保護者同伴でfMRIすると活動が低下していたというのは一見すると矛盾しそうです。しかし、痛みと単語では全く脅威度が異なると考えられますから、そこら辺が鍵になりそうな感じがします。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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