一人称代名詞を使わなければ、異性に与える第一印象が良い? | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクト(要旨)、実験の目的、方法、結果だけ読んだ、社会不安(障害)に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが最新の研究成果です。

*今回は社会不安そのものの研究とは少し違います。しかし、非常に示唆的ですので、取り上げることにしました。

なぜ社会不安なのかというと、場面緘黙症児は社会不安が高いか、もしくは社会不安障害(社交不安障害,社交不安症)を合併していることが多いという知見があるからです。

今回は自分のことを私ではなく、自分の名前など第一人称以外の方法で呼ぶと異性とのやりとりの質が向上したり、スピーチ前後のネガティブ感情(不安や恥など)が弱くなる等様々な効用が期待できるという研究です。

なお、社会不安以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒散らかった環境は確証バイアスを弱める

↑整理整頓が苦手な人に朗報ですね。散らかった部屋にいれば合理的な判断が得意になるかもしれません。

Kross, E., Bruehlman-Senecal, E., Park, J., Burson, A., Dougherty, A., Shablack, H., Bremner, R., Moser, J., & Ayduk, O.(2014). Self-talk as a regulatory mechanism: How you do it matters. Journal of Personality & Social Psychology, 106(2), 304-324. doi:10.1037/a0035173.

ミシガン大学心理学部、ミシガン州立大学心理学部、カリフォルニア大学心理学部の研究者の論文です。

研究1はproof of principle(POP;概念実証)実験でした。 proof of principleとは新しいアイディアが実現できるかどうかを試す簡単な試験のことです。研究1で内観(introspection)中に一人称代名詞(私、僕、俺など)を用いるよりもそうではない代名詞(you)や自分の名前を用いた方が観察者視点に立つこと(self distance)ができることが示されました。怒った経験を思い出しても(研究1a)、不安を感じた経験を思い出しても(研究1b)、同じ結果が得られました。

論文著者によれば、この結果は心理学の解釈レベル理論(construal level theory)と一致するそうです。解釈レベル理論とは心理的距離感が近いほど具体的な解釈を、心理的距離感が遠いほど抽象的な解釈をするという理論です。解釈レベル理論にしたがえば、人には時間的に近い出来事を具体的に、時間的に遠い出来事を抽象的に考える癖があります。時間だけでなく、空間の遠近も人間の解釈レベルに影響します。

なお、研究1bではAmazon Mechanical Turkを利用して被験者を募集していました。Amazon Mechanical Turkとは低価格で多くの被験者を募集できるAmazonのウェブサービスのことです。近年心理学の実験でAmazon Mechanical Turkを使用することが多くなってきているようです。

研究2では異性と会話してもらい、第一印象を良くするように教示しました。研究2と後に述べる研究3はともに内観は過去経験ではなく、後の課題のことに関して行われました。 その結果、一人称代名詞を使った群と比較して、使用しなかった(自分の名前を使用した)群は異性との社会的交流の後に不安が減少しやすくなりました。さらに一人称代名詞を使用しなかった(自分の名前を使用した)群は成績が良くなりました。ここでの成績とは神経質傾向やアイコンタクト、声の質、発話の長さ、言語的不安・非言語的不安のことで、観察者が評価しました。

研究3ではスピーチという社会的ストレス課題(Trier Social Stress Task:TSST)の前に実施した内観で一人称代名詞ではない代名詞や自分自身の名前を使用する影響を調査しました。その結果、一人称代名詞を使った群はスピーチ後にネガティブ感情が強まったのに対し、使用しなかった(自分の名前を使用した)群はネガティブ感情が増加しませんでした。一人称代名詞を使った群と比較して、使用しなかった(自分の名前を使用した)群は恥が少なくなり、成績が良くなりました。ここでの成績とはスピーチから窺える自信や神経質傾向、全体的なパフォーマンスのことです。成績は観察者が評価していました。また、一人称代名詞を使わなかった群はスピーチ後にくよくよ考える傾向が低くなりました(使用群との比較)。

*くよくよ考える傾向はRecounting得点-Reconstruing得点(再話得点-再構築得点)や反すう質問紙(Rumination Questionnaire:RQ)で定量化していました。再話とはTSST後にスピーチ中に感じた思考や感情をリハーサルすることで、再構築とは「準備時間が短かったからナーバスになっても仕方ないさ」というふうに、物事を再び捉えなおすことです。恥は状態恥辱罪悪感尺度(State Shame and Guilt Scale:SSGS)で定量化しました。

研究4と研究5では一人称代名詞の使用の有無が未来の社会的不安状況の評価に与える影響を調査しました。その結果、一人称代名詞を使用しなかった(自分の名前を使用した)方が、一人称代名詞を使用した場合よりも将来の社会的不安状況に対応できると感じ、脅威が減少しました。

具体的に書くと研究4では、研究3と同じくTSSTを用いていました。そして、一人称代名詞を使用しなかった(自分の名前を使用した)方が、使用した場合よりもスピーチの予期不安が低い結果になりました。

具体的な手続きを申しますと研究5ではAmazon’s Mechanical Turkを用いて参加者を募集していました。採用面接やホームレスになること、借金をすることなど社会的不安の源を考えてもらいました(内容の教示はなく、被験者の自由に任せました)。研究5が他の実験と最も異なる点は一人称代名詞の使用の有無を被験者に思考を実際に書かせることで操作している点にありました。

研究6では研究2~研究5までの実験を一緒に分析しました(メタ分析)。その結果、調整変数として社会的特性不安の影響がないことが分かりました。つまり、特性としての社会不安が高い人でも低い人でも一人称代名詞を使わなければ、異性に対する初対面の印象を良くしたり、スピーチをすることに心理的ストレスを感じにくくすることができるというわけです。

*社会不安レベルは社会恐怖質問票(Social Phobia Inventory:SPIN)やネガティブ評価恐怖尺度短縮版(Brief Fear of Negative Evaluation Scale:BFNE)で評定。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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