河井らの緘黙本にある「行動の三つの水準」は間違っている? | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

場面緘黙児の心理と指導―担任と父母の協力のために1994年に田研出版から公刊された河井芳文・河井英子『場面緘黙児の心理と指導―担任と父母の協力のために』は「行動の三つの水準」を提案したとされています。こんな曖昧な言い方をしているのは実際に読んだことがないからで、情報源は場面緘黙症Journal(The Selective Mutism Journal:SMJ)の用語集です。

場面緘黙症Journal用語集「行動の三つの水準」⇒http://smjournal.com/glossary-koudounomittsunosuijun.html

○行動の三つの水準とは何ぞや?

場面緘黙症Journal用語集によると、河井・河井(1994)は第一の水準に動作・態度表出、第二の水準に他者との感情・非言語表出、第三の水準に言語表出を仮定しています。これら三つの水準は階層構造を形成し、一番下に「動作・態度表出」、中間部に「感情・非言語表出」、最上層に「言語表出」があるとしています。そして緊張すると「言語表出」、「感情・非言語表出」、「動作・態度表出」の順に機能しなくなるとされています。

つまり、(私の理解に間違いがなければ)話せなくなるのが最初で、緊張が極度に達すると動けなくなるということになります。

○行動の三つの水準への反証

しかし、実験的な心理学の研究(Roelofs et al., 2010)によれば、普通の健常者でも怒りの表情を見ると身体動揺が減少、心拍数も低下し、まるでフリージングしているかのような状態に陥ります。フリージングは状態不安が高い人で顕著です。

*フリージングの特徴には身体の硬直以外にも心拍数の低下があります。

参考記事(Roelofs et al., 2010)⇒不安が強い人ほど怒った顔を見るとフリーズする

先行記事「緘黙人の緘動-フリージングの心理学研究より」で書いたように、不快な映画の鑑賞でも身体動揺が減少、心拍数が低下します。健常者群と比較して、パニック障害患者群は身体動揺が小さく、身体が固まっています。また、自転車に乗りながら不快感を催す写真を見ても心拍数が低下したり、力がでなかったりします。

以上の研究は全く動けなくなるわけではないので、緘動とは少し違いますが、しかし、これは行動の三つの水準とは相反する実験結果といえます。行動の三つの水準では段階的に話せなくなる、感情・非言語表出(ジェスチャー)ができなくなるなどの状態が生じるとしていますが、実際には単に怒りの表情を見ただけでも、身体がフリーズしたかのような反応がみられます。つまり、上から順に段階的に崩壊するのではなく、最下層部分も初期段階から影響されるのです。

以下の記述、『河井・河井(1994)の「行動の三つの水準」は思弁的な仮説』だとする推測は誤りです。「行動の三つの水準」は学校での行動観察に基づいた結果です。詳しくは、「河井夫妻の緘黙研究とフリージング研究の統合」をご覧ください(追記:2014年4月15日)。

推測するしかないのですがおそらく、河井・河井(1994)は実験的に検証した結果、「行動の三つの水準」を提案したわけではないでしょう。思弁的な仮説だと思います。心理学や精神医学が実験科学、実験医学の道を歩んでいる以上、「行動の三つの水準」が正しいという根拠は強いものではありません。どうやら河井芳文氏と河井英子氏の説には実験的検証が必要なようです。

*臨床心理学はどうだか知りませんが、私は大学で心理学を実験科学であると教えられたので哲学的な思弁よりも実験的に検証した研究の方を重視してしまう性質があります。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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