家で緘黙児の言語能力を評価するのは適切か? | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

場面緘黙症不安研究治療センター(Selective Mutism Anxiety Research & Treatment Center:SMart Center)のElisa Shipon-Blum(エリザ・シポンブラム)所長らによる以下の文献は場面緘黙児の表出言語能力と受容言語能力を親を検査者として評価したものです。

*エリザ・シポンブラム博士以外の他の2名はアメリカにあるラサール大学のEvelyn R. Klein(イーブン R. クライン)氏、同大学のSharon Lee Armstrong(シャロン・リー・アームストロング)氏です。クライン氏は言語聴覚士(speech-language pathologist:SLP)の資格をお持ちのようです。両者ともに社会コミュニケーション不安治療(Social Communication Anxiety Treatment:S-CAT®)というエリザ・シポンブラム博士の開発した場面緘黙症の治療研究に携わっています。ただし、S-CAT®はSMart Centerでしか受けられないようです。

Klein, E. R., Armstrong, S. L., & Shipon-Blum, E. (2013). Assessing Spoken Language Competence in Children With Selective Mutism Using Parents as Test Presenters. Communication Disorders Quarterly, 34(3), 184-195. doi:10.1177/1525740112455053.

これによると、親に標準化された検査を実施する訓練をし、緘黙児の言語能力を評定しても、場面緘黙児の表出語彙能力は低く、物語る力も弱いとのことでした。専門家が緘黙児の言語能力を評価するよりも親が評価する方が成績は良いようです。しかし、親が評価したとしても場面緘黙児の42%は表出性言語能力が低いとのことです。

しかし、本当にそうでしょうか?実は子どもの表出語彙能力の検査は家で行うよりも学校で行った方が成績が良くなるという研究があります。

*Klein et al.(2013)で親が緘黙児の言語能力を評価した場所が要約だけでは分からないのですが、議論をややこしくしないために、評定場所を家としておきます。同様に専門家が緘黙児の言語検査を行ったのはクリニックなどの専門機関としておきます。間違っていたらご指摘ください。

*追記(2014年12月1日):Klein et al.(2013)は全てマジックミラー付きの検査室で行っていたことが判明しました。したがって、親の検査場所は家ではありません。詳細はKlein et al.(2013)を解説した「場面緘黙児は自分で物語を語るのが苦手な子が多い」をご覧ください。

Spere, K. A., Evans, M. A., Hendry, C. A., & Mansell, J. (2009). Language skills in shy and non-shy preschoolers and the effects of assessment context. Journal of Child Language, 36(1), 53-71. doi:10.1017/S0305000908008842.

この論文はカナダのオンタリオ州にあるグエルフ大学の研究者によるものです。これは表出語彙能力と受容語彙能力を馴染みのない検査者によって学校でテストする場合と親が家で同じようなテストをした場合とを比較した研究です。家では子供と親の会話も記録しました。シャイネスの影響も調べています。

その結果、シャイな子供はシャイでない子供よりも家での発話が少なくなりました。これは絵本を見せながら場面緘黙児に物語を聞かせ、それを語ってもらった研究(McInnes et al., 2004)と一致します。ただし、リンク先の場面緘黙児に関する研究とは違って本論文ではシャイネスの強さによって言語能力が異なるということはありませんでした(厳密にいえば場面緘黙症とシャイネスは異なるかもしれませんが、悪しからず)。

また、シャイな子どもの親はシャイでない子どもの親よりも喋らないという結果が得られました。さらに、シャイネスの高低に関わらず、表出語彙能力は家で検査するよりも学校で検査した方が成績が高くなりました。

この結果は心理学での文脈効果(context effect)を彷彿とさせますね。文脈効果とはたとえば、記憶に関するものですと記銘時と再生時の環境が同じ方が記憶項目を思い出しやすいという現象が知られています。例としては水中で覚えたことは同じ水中という環境で思い出しやすいという実験があげられます(記憶研究における文脈効果は知覚心理学における文脈効果とは若干意味が異なることに注意)。

もしこの結果が確からしいのならば、場面緘黙児の表出語彙能力は家で評価すると過小評価されてしまう危険性があります。ただ、緘黙児の表出性言語能力を学校やクリニックで評価することは難しいので、親が家で評定するのは仕方ないかもしれません。しかし、その結果はもしかしたら緘黙児の最高のパフォーマンスではない可能性を肝に銘ずるべきです。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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