定時制高校の緘黙生徒への進路支援 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

定時制高校の緘黙生徒に対してキャリアカウンセリングを行った事例研究があります。キャリア発達課題を抱える定時制の緘黙高校生と支援員やクラス担任との具体的なカウンセリング場面を通じて、キャリア発達を促す要因を分析した研究です。これは全日制の高校生と比較して、定時制の高校生は特別な教育支援が必要な人が多いということが背景にあります。

福本啓介(2012). 定時制高校におけるキャリア・カウンセリングの在り方についての一考察 ー事例研究を通してー 川崎市総合教育センター研究紀要 26, 125-130.

この事例研究は緘黙そのものに関する文献ではないのですが、緘黙の高校生に対する進路支援事例ということで特筆に値すると思い、取り上げることにします。

○入学直後から緘黙のことを担任に伝えた保護者

保護者は入学直後から面談でクラス担任に緘黙のことを伝えていました。保護者は緘黙の我が子を支援する方法の1つとして筆談での対話もできるよう配慮を求めました。しかし、担任と保護者のどちらが先に面談をしようと言い出したのかは、本文からは判断できませんでした。あるいは学校の恒例行事として面談を実施したのかもしれません。

○緘黙が改善

NPO法人教育活動総合サポートセンターの支援員とのカウンセリングは定時制高校への入学後から行っていました。この段階でも緘黙症状が生じていました。しかし、2年生になり「おしゃべりタイム」の時間を設けるなどした効果かどうかはわかりませんが、3年生になると、悩みや将来のことについて打ち明けるようになりました。自分から喋れるようになるまで1~2年かかった計算になります(ただし、留年しているともうちょっと延びる)。これは33歳の社会不安障害(社交不安障害,社交不安症)の女性の場面緘黙症状が数年で改善した事例研究(ただし、統合失調症の既往歴あり)と一致します。もしかしたらよっぽど重症でない限り、少なくとも一部の人に対する緘黙は1年か2年で改善することが多いのかもしれません。

○高校でアルバイトを開始

事例として取り上げられている緘黙の人は定時制高校入学後にアルバイトを開始しました。ただし、定時制だからこそ高校でもアルバイトが許可されているかもしれず、これをそのまま全日制の緘黙生徒に当てはめることは困難です。また、緘黙状態とアルバイト開始との時間的関係を知りたいのですが、文献だけではよくわかりません。

○全般的コメント

教育活動総合サポートセンターは神奈川県川崎市にあることから、神奈川県での緘黙高校生への支援の報告書ということになるのかもしれません。筆者の福本啓介さんは川崎市立高津高等学校の専門研究員であることからも神奈川県での実践報告であることが窺われます。

さすが、来談者中心カウンセリング(来談者中心療法)を主としているだけあって、教育活動総合サポートセンターの支援員は傾聴が基本的な姿勢です。臨床心理学者のカール・ロジャースが考案した来談者中心カウンセリングは非指示的カウンセリングの分類に入ります。緘黙のカウンセリング事例となる今回の文献は非指示的カウンセリングを主としながらも、指示的カウンセリングも織り交ぜた折衷的カウンセリングという技法を用いた事例ということになっています。

定時制高校を卒業したら就職したいという緘黙当人の意思により、就職活動を始めたのですが、その際のカウンセリング場面(高校4年生)も記載されています。これはサポートセンター支援員ではなく、担任教師によるカウンセリングですが、担任が緘黙高校生とやりとりするなかで、アルバイトで培った選択基準としての勤労観・職業観が進路選択に活かされるようになったと考察されています(その前にあるp.128の考察は辛口批評です)。

それにしても、高校入学から教育活動総合サポートセンターでのカウンセリングを受け、アルバイトの面接試験にも合格し、様々なバイトをこなしたとしても、緘黙の後遺症(バイト先での雑談が苦手、学校の友人との会話が苦手等)が生じるとは。緘黙の影響ははかりしれません。ただし、この緘黙高校生が緘黙でなかった場合をシュミレーションするのは困難であるため、厳密に言うと雑談が苦手なのは緘黙の後遺症かどうかは分かりません。

2012年にミスハートフォードシャーに、2013年にミスイングランドになったミスイギリス(ミス英国)のカースティー・ヘイズルウッド/ヘィズルウッド(Kirsty Heslewood)さんは幼少期の頃から場面緘黙(選択性緘黙)の症状が寛解し始めたのですが、成人してもなお緘黙を意識することがあるそうです。場面緘黙症そのものの調査と比較して、緘黙症を克服した後の調査は比較的少ないと思われますので、緘黙回復後のQOL(生活の質)や社会的機能に関する研究も必要なのかもしれません。

なお、この緘黙高校生の就職活動は実を結び、志望通りにものづくりの仕事につけたとのことです。

○参考URL(2014年8月29日現在)
福本啓介(2012). 定時制高校におけるキャリア・カウンセリングの在り方についての一考察 ー事例研究を通してー 川崎市総合教育センター研究紀要 26, 125-130.
http://hawk02.keins.city.kawasaki.jp/kiyou/kiyou26/26-125-130.pdf

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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