社会不安障害の中学生はお金の金額に敏感 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

社会不安障害(社交不安障害,社交不安症.社交恐怖症,社会恐怖症)のリスクである行動抑制についての研究では、乳幼児期に行動抑制傾向のあった人は青年期になると、自らの行為が金銭報酬の獲得を左右すると思っている時に側坐核が活性化する(Bar-Haim et al., 2009)乳幼児期に抑制的気質であった人が思春期になってから実施した金銭報酬遅延課題(Monetary Incentive Delay task:MID)で線条体が活発であると、成人後に物質使用問題(薬物使用問題)が重篤になる(Lahat et al., 2012)というように、21世紀に入ってから線条体が注目されるようになってきました。

*行動抑制については行動抑制の概念 by Jerome Kaganを参照のこと。

しかし、社会不安障害の線条体機能に関しては潜在系列学習で左尾状核頭の活動が低いという論文(Sareen et al., 2007)があるばかりで、後続する研究はほとんど報告されていませんでした。

今回の論文は潜在学習とは違って、報酬課題を用いて社会不安障害の線条体機能を調査したものです。社会不安障害のリスク因子の1つは報酬課題での線条体活動の異常性が指摘されている行動抑制です。したがって、社会不安障害患者でも報酬課題で線条体活動が通常とは異なる可能性があり、それを調べました。

*今回の論文では全般性不安障害との比較があるため、以下社会不安障害と書かずに社会恐怖症と書きます。これは同じ不安障害という文字が重なると視覚的に区別がつきにくいためです。

Guyer, A. E., Choate, V. R., Detloff, A., Benson, B., Nelson, E. E., Perez-Edgar, K., Fox, N. A., Pine, D. S., & Ernst, M. (2012). Striatal functional alteration during incentive anticipation in pediatric anxiety disorders. American Journal of Psychiatry, 169(2), 205-212. doi:10.1176/appi.ajp.2011.11010006.

★概要

○実験手続き

健常者26人(女性11人)、社会恐怖症を罹患していない全般性不安障害患者18人(女性10人)、社会恐怖症患者14人(全般性不安障害の合併者3人,女性9人)が参加しました。平均年齢は大体13歳から14歳くらいです。

*全般性不安障害患者群と社会恐怖症患者群の不安レベルに有意差なし(健常者群とは有意差あり)。なお、不安ㇾベルは小児不安関連情動障害尺度(Screen for Child Anxiety Related Emotional Disorders scale:SCARED)で評価。

Monetary Incentive Delay(MID:金銭報酬遅延)課題中の脳活動をfMRI(機能的磁気共鳴画像法)で計測しました。Monetary Incentive Delay taskとは報酬獲得や報酬損失(の予期)に関与する脳部位の同定などに使用される課題のことです。

MID課題の実験手順:手がかり刺激の呈示(250ms)→注視点(2,000~2,500ms)→標的刺激の呈示&反応(160~250ms)→フィードバック(1,650ms)

被験者にはできるだけ素早く標的刺激に反応することを求めました。制限時間内に反応すると、お金をもらえたり、金銭の損失を回避することができました。

制限時間内に反応したらお金がもらえることを丸い刺激で、反応できなかったら金銭が損失することを四角い刺激で示しました。三角の刺激は金銭獲得・金銭損失とは関係ありませんでした(統制手がかり)。報酬または損失の大きさを手がかり刺激の内に描かれた線の数で表しました。なお、個々人の正解率が66%になるように調整したので、人によって課題の難易度が異なりました。

最初の手がかり呈示段階である予期フェイズでの脳活動を統計的分析にかけました。

○実験結果(少額=0.2$、中額=1.0$、多額=5.0$)

反応時間と正確性に群間の有意差なし(反応時間は正解した場合のデータのみ分析)。

fMRIスキャン後に手がかり刺激に対する選好を訊ねていましたが、被験者全員のデータをまとめて分析すると、獲得金額が高くなればなるほどその手がかりを選好し、損失金額が高くなればなるほどその手がかりに対する好感度が下がりました。全般性不安障害群は大きな損失額・獲得額を好むことが分かりました(健常者群・社会恐怖症群との比較)。これは特に損失が多い時に顕著でした(Figure 1)。

社会恐怖症の少年・少女は金銭損失でも金銭獲得でもそれを予期する額が大きくなればなるほど、尾状核と被殻が興奮しました(健常者群・全般性不安障害群との比較)。

健常者群や全般性不安障害群では金額の大きさによる尾状核・被殻の活動の変化は認められませんでした。また、健常者群や全般性不安障害群ではどの金額の手がかりであろうと、中性手がかりと比較して尾状核の活動が高くなりました。

ただし、全般性不安障害群でだけ金銭獲得手がかりに対して被殻が活性化しました(金銭損失手がかりとの比較)。

全般性不安障害群は少額の金銭獲得手がかりに対して側坐核が活性化しました(社会恐怖症群との比較)。

社会恐怖症患者群の側坐核活動:大>小
・少額の損失手がかり>中額の損失手がかり
・多額の獲得手がかり>少額の獲得手がかり
・中額の獲得手がかり>中額の損失手がかり

全般性不安障害群の側坐核活動:大>小
・中額の獲得手がかり>中額の損失手がかり
・多額の獲得手がかり>多額の損失手がかり

*健常者群は手がかりが報酬獲得であろうと、報酬損失であろうと、獲得金額・損失金額の大きさがなんであろうと側坐核活動に有意差なし。

★コメント

以上をまとめると、

1.健常中学生:金銭獲得手がかりや金銭損失手がかり、それらの大きさによる線条体活動の差が認められない

2.社会恐怖症の中学生:獲得金額・損失金額が多くなればなるほど、金銭手がかり段階で尾状核と被殻が活動する。側坐核は手がかりの種類(金銭獲得・金銭損失)とその大きさに敏感で、報酬が大きいか、または損失が小さい方が側坐核が活動しやすい。

3.全般性不安障害の中学生:尾状核は健常者群と有意差なし。被殻は金銭獲得手がかりで興奮(金銭損失手がかりとの比較)。少額の金銭獲得手がかりに対して側坐核が活性化(社会恐怖症群との比較)。側坐核の活動は金額が中額・多額ならば、金銭獲得手がかりで高い(金銭損失手がかりとの比較)


ということになります。いやあ、尾状核と被殻はともかく、側坐核は複雑ですね。いったいこれが何を意味しているのやら、解釈が大変です。もっとも本ブログはよっぽど確かな根拠がない限り、できるだけ脳活動や脳構造の(臨床)心理学的解釈はしない方針ですので、「そんなの関係ねえ!」と叫ぶことができます(同時にこれが本ブログを読むのが難しくなる理由でもありますが、単純化して、○○なのだ!と断言するよりははるかに害が少ない記述方法です)。

どの群でも平均IQが110以上と、頭の切れる人が多かったので、他の人で同じ結果が得られるかどうかは分かりません。

*IQはウェクスラー知能検査短縮版(Wechsler Abbreviated Scale of Intelligence:WASI)で計測。

社会恐怖症患者、全般性不安障害患者の両方で、大うつ病性障害や分離不安(障害)、特定恐怖症を合併している人達がいました。これが実験結果に影響した可能性があります。もっとも大うつ病性障害については併発患者を除外しても結果が変わらなかったようですが。

最初から線条体活動に焦点を絞って、分析していたのでそれ以外の脳部位の活動に差があるのかどうか不明です。また、あくまでも手がかり刺激の呈示期間(予期フェイズ)中の脳活動を分析していたので、金銭獲得時や金銭損失時の脳活動は分かりません。

社会恐怖症患者群で報酬獲得金額・報酬損失金額の大きさに依存した活動の変化が線条体で認められました。これは報酬金額の大きさの違いを度外視した分析をした行動抑制に関する先行研究(Bar-Haim et al., 2009)の妥当性を問う内容となっています。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
プロフィール

マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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