矯正施設にいる少年の13%が場面緘黙症 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

反社会性が高い行為を繰り返す行為障害者などに犯罪者が多いことは想像に難くありません。しかし、うつ病や不安障害など反社会性が高くないはずの精神疾患を罹患している少年でも犯罪者・非行者が多いことが統計的に明らかにされています(ただし、海外の研究)。

では、米国精神医学会が発行するDSM-5で不安障害となった場面緘黙症(選択性緘黙症)の人の犯罪率・非行率はどうでしょうか?そのヒントになる文献を読んでみました。

Stevens, J., Kelleher, K., & Hayes, J. (2007). Aftercare Services for Juvenile Parolees with Mental Disorders A Collaboration Between the Ohio Department of Youth Services (DYS) and Columbus Children’s Research Institute. 1-40.

○背景

少年が矯正施設から釈放された後、コミュニィティサービスに連結することが難しいという状況が本研究の背景にあります。特に少年司法制度(Juvenile Justice System)のお世話になっている若者は精神的問題を抱える人が多いという統計的データがあり、釈放後でも地域に根差した支援を受けることは再犯・再非行を予防する上でも重要です。しかし、メディケイドによる健康保障が制約されている等、釈放後の支援にはいろいろと壁(バリアー)があるようです(詳しくは本文参照のこと)。

○目的

精神疾患のある少年が矯正施設から出所した後に受けたアフターケアサービスを調査すること。ただし、釈放前は精神疾患がない収容者のデータも含む。なお、ここでいう矯正施設が少年院のことを指すのかどうか、アメリカの司法制度に詳しくない私にはよく分かりません。日本には少年刑務所というのもあるのですが、やはりこれもここでの矯正施設と似たような施設なのか分かりません。

○方法

矯正施設から釈放された若者162人(平均年齢17歳、90%が男性、白人が66%、アフリカ系アメリカ人が27%)を対象としてインタビューを追跡的に行った研究です(ただし、追跡期間が長くなるにつれて、再逮捕などによりインタビューを受けた人は減少)。

サンプル者の逮捕歴は平均して12回、矯正施設の入所期間は平均して16カ月間。

前向きコホート研究(Prospective Cohort Study)デザインを用いました。前向きコホート研究とは追跡前の因子が後の結果を予測するかどうか調べる追跡調査(縦断的調査)のことです。

サンプルはオハイオ州若年者サービス部門(Ohio Department of Youth Services:DYS)から得ました。DYSとは矯正施設に入所している少年のリハビリやケア等を実施している州政府機関のことです。

●組み入れたサンプルの特徴

・12~19歳
・2カ月以内に釈放される予定がある
・メンタルヘルスの取扱い件数に含まれている(精神疾病の診断がある)人が釈放された後を追跡

*重要なのでもう一度繰り返しますが、釈放前は精神疾患がない収容者のデータも含みます。

●データ収集方法

本人に対する釈放前後の電話インタビュー。釈放後は保護者に対するインタビューも実施(AD/HD・反抗挑戦性障害の評価のみ)。

精神疾患の調査は音声による児童精神医学的診断面接法第4版(Voice Diagnostic Interview Schedule for Children-IV:Voice DISC-IV)による構造化面接(コンピュータを使用)で実施。ただし、精神病理の判断の参考にするため、DYS管轄に入った時にマサチューセッツ若年スクリーニング第2版(Massachusetts Youth Screening Instrument:MAYSI-2)に回答しているので、それも参考にしました。

釈放後の内在化問題行動(不安や抑うつなど)やAD/HD(注意欠陥・多動性障害)の症状は面接で子どもの強さと困難さアンケート(Strengths and Difficulties Questionnaire:SDQ)を実施して評価。

●データ収集時期

・出所の1カ月前
・出所の1カ月後、3カ月後、6カ月後

○結果(の一部)

その結果、釈放前では67%の収容者が精神疾病を患っていました(ただし、行為障害、物質使用障害の診断は行わず。軽度精神遅滞・重度精神遅滞の人は除外)。釈放されてから6カ月以内に再逮捕または執行猶予・仮釈放・仮出所の取り消し?(absence from parole)を受けたのが40%でした。釈放後1カ月以内にメンタルヘルスサービスを受けた人が63%(60人中37人)でした(釈放後1カ月以内のメンタルサービスの利用回数の中央値は5回:利用者のみのデータ)。

釈放直前にVoice DISC-IVによって精神医学的診断を実施した結果が表2(Table 2)にまとめられています。それによると、場面緘黙症の診断基準に該当する収容者が157人中21人(13%)いました。一番多いのが分離不安障害で161人中64人(40%)、2番目が特定恐怖症で162人中28人(17%)、3番目が強迫性障害で162人中26人(16%)、4番目が反抗挑戦性障害で162人中23人(14%)、5番目が社会恐怖症(社会不安障害)で162人中23人(14%)、そして6番目に場面緘黙症がきています(以下省略)。

*複数の精神障害を合併していた人が41%いたため、各疾患の100分率を合計すると100%を超えます。

釈放後1カ月後の内在化問題行動(不安・うつ等)が強いと釈放後6カ月後の再逮捕や執行猶予・仮釈放・仮出所の取り消し?(absence from parole)にあうことが多くなりました(正の相関関係)。仮釈放後の健康保健の保障がない人が25%~39%いました。

その他、コミュニィティでのメンタルヘルスケアは再犯・再非行を予測しない(抑制しない)という結果や出所後の薬物療法の継続性の問題が浮かび上がっています。

○コメント

場面緘黙症の少年にどうやって電話インタビューしたのかよく分かりませんでしたが、それはさておき、考察を始めます。

矯正施設に入所している少年で場面緘黙症の人が13%(21/157人)となっていました。これは幼稚園児~小学2年生での場面緘黙症の有病率を調べたアメリカ(ロサンゼルス)の研究で0.71%ほどが場面緘黙症だという結果(Bergman et al., 2002)と比較して多いです。日本でも刑務所の緘黙者、少年刑務所や少年院の緘黙者がどれぐらいいるのか知りたいところです。

*Bergman et al.(2002)とは以下の文献のこと。

Bergman, R. L., Piacentini, J., & McCracken, J. T. (2002). Prevalence and description of selective mutism in a school-based sample. Journal of American Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 41(8), 938-946.

アメリカでの反社会性人格障害(ASPD;AntiSocial Personality Disorder)の有病率には0.6%という推計値があります。一方、社会不安障害(社交不安障害,社交不安症)患者でASPDを併発している人は10.6%という研究があります(詳しくは「反社会性人格障害と社会不安障害の合併患者は多い」参照のこと)。社会不安障害とASPDは別の精神障害ですが、どうやら何らかの関係がありそうです。場面緘黙児の多くが社会不安障害を合併していることも考えると、矯正施設に入所している場面緘黙症の少年が13%だったという本研究の結果はさほど驚くに値しません。もっとも本文献では場面緘黙症の少年が反社会性人格障害や反抗挑戦性障害、行為障害を合併している割合が分からないのですが。

不安障害でも反抗挑戦性障害との併発があることもあるし、思春期の内在化問題行動(不安やうつ等)と外在化問題行動(非行、攻撃行動、注意の問題など)に共通の遺伝的因子・非共有環境因子があるとの研究もあるので、不安障害と反抗挑戦性障害や行為障害などの反社会的精神障害を合併していた人の割合が知りたいですね。

現在、場面緘黙症の人は反抗的だという意見とそれに反対する意見とが混在している状況です。全ての緘黙の人が反社会的精神障害を患っているというのはほぼありえないと思いますが、案外一部の緘黙人は反抗挑戦性障害や行為障害、反社会性人格障害などの反社会的精神障害を合併しているのかもしれません。緘黙症のサブタイプに反社会的性質が高いものがあるなら意見の矛盾を解消できます。

矯正施設にいた知的障害や自閉症の人が場面緘黙症と診断された可能性もあり、本研究だけでは場面緘黙症そのものが矯正施設への入所リスクになるかどうかは分かりません。それにもしかしたら、単に警察の取り調べの時から緘黙が始まっていたり、あるいは矯正施設で交友関係を持ちたくないから緘黙していた可能性もありますしね。ただし、少なくとも自閉症スペクトラム障害(自閉症スペクトラム症)に関しては社会不安が高いと攻撃性が高くなるという報告(Pugliese et al., 2012; White et al., 2012)があり、自閉症の人が緘黙を併発していても社会不安が高いならば攻撃的な可能性があります(ただし、攻撃性が高い=矯正施設に入る可能性が高いかどうかは私には分かりません)。

本文献によれば、釈放後1カ月後の内在化問題行動(不安・ひきこもり傾向・抑うつなど)が強いと釈放後6カ月後の再逮捕や執行猶予・仮釈放・仮出所の取り消し?リスクが高まるという結果は先行研究と一致しているそうです。このことは場面緘黙症の少年が再犯・再非行するリスクが高いということを示唆します。内在化問題行動といわずに、場面緘黙症の少年だけで分析したらどのような結果になるのか今後の研究が待たれます。

ところで、2007年4月16日にアメリカで起こったバージニア工科大学銃乱射事件の犯人はチョ・スンヒ(조승희)容疑者でした。彼を含めると33人が死亡した史上最悪の銃乱射事件でした。チョ・スンヒ容疑者は場面緘黙症だったという報道がアメリカでありました。本研究結果と合わせるとチョ・スンヒ容疑者は氷山の一角で、もしかしたら場面緘黙症の人は犯罪に加担して矯正施設・刑務者に入れられることが多いのかもしれません(もっとも成人後の緘黙人の犯罪調査は私の知る限りありませんが)。

ただ、少なくとも殺人に関しては精神疾患のある人は犯罪の犠牲者になって死にやすいというスウェーデンのコホート研究(Crump et al., 2013)があります。 Crump et al.(2013)によると、一番殺人で死亡するリスクの高い精神疾患は物質使用障害(薬物乱用や薬物依存)で9倍です。しかし、不安障害でも殺人事件の犠牲になるリスクが2.2倍高いという結果が得られています。

参考記事(私のブログ「心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究」より)⇒精神疾患患者は殺人の犠牲になりやすい

○参考URL(2014年7月4日現在)
Stevens, J., Kelleher, K., & Hayes, J. (2007). Aftercare Services for Juvenile Parolees with Mental Disorders A Collaboration Between the Ohio Department of Youth Services (DYS) and Columbus Children’s Research Institute. 1-40.
https://www.ncjrs.gov/pdffiles1/nij/grants/245574.pdf

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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