乳幼児期に抑制的気質だと青少年期に社会的な報酬系が異常 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

行動抑制(behavioral inhibition)が強い子供は新規で馴れていない物や人、状況に対して接近しようとせず、傍観する傾向にあります。メタ分析研究によれば、行動抑制は社会不安障害(社交不安障害,社交不安症)のリスクを7.59倍高めます(Clauss et al., 2012)。また、行動抑制は過剰不安障害(全般性不安障害)や恐怖症、回避性障害、分離不安障害、うつ病、自殺企図、アルコール問題、薬物使用問題、PTSD(心的外傷後ストレス障害)のリスクであるという研究もあります。

*行動抑制(抑制的気質)とはハーバード大学のJerome Kagan名誉教授が発見した気質のことです。詳しくはこちらをご覧ください⇒行動抑制の概念 by Jerome Kagan

*Clauss et al.(2012)とは以下の文献のことです。

Clauss, J. A., & Blackford, J. U. (2012). Behavioral inhibition and risk for developing social anxiety disorder: a meta-analytic study. Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 51(10), 1066-1075. doi:10.1016/j.jaac.2012.08.002.

先行研究は乳幼児期に抑制的気質だと成長してから、金銭的な報酬課題で脳の報酬系(線条体)の活動が普通とは異なるということを示していました。それは特に自身の行為が報酬獲得の結果を左右すると思い込まされていた時に顕著(Bar-Haim et al., 2009)です。それだけでなく、乳幼児期の行動抑制と成長後の線条体の異常が合わさると、物質使用問題(薬物使用問題)が重篤になりやすく(Lahat et al., 2012)不安(親が評価)が高くなる(Pérez-Edgar et al., 2014)というように、近年は線条体の活動異常と精神的・行動的問題がつながっている可能性を示す研究がでてきました。

しかし、脳の報酬系は社会的交流・社会的相互作用にも関与しています。たとえば、マウスを被験体とした光遺伝学(オプトジェネティクス)の実験により、脳の報酬系(腹側被蓋野-側坐核)が社会的交流に因果的に関与していること(Gunaydin et al., 2014)が示されました。特に側坐核の、ドーパミン受容体であるD1受容体が重要で、この受容体を刺激すると社会的行動が増加するそうです(Gunaydin et al., 2014)。

しかし、先行研究では、金銭的報酬・罰に対する脳活動の異常性を調べたものばかりで、過去に抑制的気質だった人の脳が社会的報酬・罰に対する活動で異常を示すかどうかは調査されていませんでした。今回の論文はその問題に取り組んだ初めての研究になります。

Guyer, A. E., Benson, B., Choate, V. R., Bar-Haim, Y., Perez-Edgar, K., Jarcho, J. M., Pine, D, S., Ernst, M., Fox, N. A., & Nelson, E. E. (2014). Lasting associations between early-childhood temperament and late-adolescent reward-circuitry response to peer feedback. Development & Psychopathology, 26(1), 229-243. doi:10.1017/S0954579413000941.

★概要

○実験手続き

最終的に39人のデータが分析されました。そのうち、乳幼児期に行動抑制が高かった人は18人(男性9人)、行動抑制が低かった人は21人(男性8人)でした。平均年齢はいずれも18歳前後でした。なお、行動抑制の評価手続きについては「ドーパミン受容体遺伝子多型と尾状核が不安の発現に関与」の実験手続きを参照してください。ただし、本研究では中央値で行動抑制の高い群と低い群に分けた(離散変量・離散変数)のに対し、リンク先の研究では行動抑制得点を連続変量・連続変数として扱っている点に注意してください。これが結果に影響した可能性があります。

実験課題はチャットルーム課題(Chatroom task)を用いました。チャットルーム課題中の脳活動をfMRI(機能的磁気共鳴画像法)で計測しました。

・チャットルーム課題の手続き1:始めに被験者の写真を撮り、個人的な情報を提出してもらいました。これらの写真・情報は他の被験者に公開されると信じ込ませました。そして60人の青少年(peers)の顔写真を見せ、2週間後にもう一度実験室に来た時にオンラインでチャットをしたい人30人としたくない人30人に分けさせました。判断材料は写真に写っている顔だけでした。被験者自身が用いた選択基準も尋ねました(年齢、性別、フレンドリーさ、魅力度、好感度、面白さ)。

・チャットルーム課題の手続き2:それから2週間後、fMRI実験をしました。以前見せた顔写真をランダムに見せ、相手が自分とチャットしたいと思っているかどうか評価させる課題と、実際に相手からの受容/拒否のフィードバックを受ける課題を実施しました。その後、デブリーフィング(debriefing)を行いました。デブリーフィングとは実験の本当の目的などを教えることです。

fMRIの手続き:予期段階(3秒)→注視点の呈示(0~8秒)→フィードバック段階(2秒)→評価段階(3~5秒)

予期段階で写真と以前の被験者自身の選択(チャットしたいかどうか)の両方を呈示。フィードバック段階で写真と相手の選択を呈示。評価段階で相手の選択がどの程度予想通りであったかどうか100件法で質問。

○結果

行動抑制群は非行動抑制群と比較して、フレンドリーに見えない・楽しそうに見えないをチャット相手の拒絶の理由にあげることが多くなりました。行動抑制の高低(群)に関わらず、チャットしたいという選択をした相手から良い評価(=相手も私とチャットしたいのだ)、チャットしたくないという選択をした相手から悪い評価(=相手は私とチャットしたくないのだ)を受けることを予想していました。

・予期段階の脳活動:行動抑制群はチャットしたい人からのフィードバックを予期している時に右被殻が興奮(チャットしたくない人との比較)。一方、非行動抑制群はチャットしたくない人からのフィードバックを予期している時に右被殻が活性化(チャットしたい人との比較)。また、右中心前回についても有意性が検出されましたが、詳しく書かれていませんでした。

・フィードバックを得た時の脳活動:非行動抑制群はチャットしたい相手から受け入れられた(=チャットしたいという返事をもらった)時に尾状核が興奮(チャットしたい相手から拒絶された時との比較)。一方、行動抑制群はチャットしたい相手からのフィードバックの種類(許容 VS. 拒絶)で線条体活動に有意差なし(というか、どちらの条件でも活動が全くない)。ただし、行動抑制群はチャットしたくない人からの許容で尾状核が活動(チャットしたくない人からの拒絶との比較,有意傾向だが、d=1.23と効果量が大きい)。

行動抑制群はフィードバックを得た時に左紡錘状回の活動が高まりましたが、これはチャットしたいかどうかの選択や相手からのフィードバックの種類に関係しませんでした(非行動抑制群との比較)。

行動抑制群はチャットしたい人からの拒絶で左上側頭回が興奮しましたが、チャットしたくない人からの拒絶に対しては左上側頭回の活動が低くなりました(非行動抑制群との比較)。非行動抑制群ではチャットしたい人から受容されると左上側頭回が活動した(チャットしたくない人からの受容/チャットしたい人からの拒絶との比較)のに対し、行動抑制群ではチャットしたい人からの拒絶で左上側頭回が活性化しました(チャットしたくない人からの拒絶/チャットしたい人からの受容との比較)。また、行動抑制群でチャットしたくない人からの受容で左上側頭回が活動しました(チャットしたくない人からの拒絶との比較)。

★コメント

以上をまとめると、

乳幼児期に抑制的気質だと青少年になった時にチャットしたい人からの反応を予期している時に右被殻が興奮しやすい。しかし、乳幼児期に抑制的気質のレベルが低かったら、青少年になった時にチャットしたくない人からの反応を予期している時に右被殻が興奮する

フィードバック時の脳活動では、子供時代に抑制的気質でなかったら青少年になった時にチャットしたい相手から受け入れられたら尾状核が興奮するが、行動抑制レベルが高かったらチャットしたい相手から良い返事をもらえても尾状核が活性化しない(本論文によると、非行動抑制群の結果は健常発達人が参加した先行研究と一致するそうです。なお行動抑制群については先行研究がないので、直接比較できる論文がありません)

行動抑制群はチャットしたくない人からの許容で尾状核が活動するかもしれない(チャットしたくない人からの拒絶との比較)

行動抑制群はフィードバックを得た時に左紡錘状回(顔の認識に関与する脳部位)が活動しやすい

非行動抑制群ではチャットしたい人からの受容で左上側頭回が活動しやすいが、行動抑制群はチャットしたい人からの拒絶で左上側頭回が活動しやすい

行動抑制群はチャットしたくない人からの受容で左上側頭回が興奮する

ということになります。つまり、行動抑制群は交流したいと思っている相手からの反応を予期している時には右被殻が活性化するのに、交流したい相手から良いフィードバックを得ても尾状核が活動しないのです。

また、社会的認知に関わる脳領域(上側頭回)の活動は、相手から予想通りの反応が返ってきた時に活動するのが非行動抑制群の特徴ですが、行動抑制群では予想外の反応が返ってきた時に左上側頭回が活動するということです(これは行動抑制群で予想通りの反応が返ってきた時の上側頭回の活動が低いという解釈も可能)。


行動抑制群はチャットしたい相手からポジティブフィードバックを得ても尾状核が活動しませんでした(非行動抑制群では活動する)。また、行動抑制群はチャットしたくない人からの許容で尾状核が活動しました(ただし、有意傾向)。これは社会不安障害で信頼ゲームの実験を行った先行研究(Sripada et al., 2013)と一致します。この信頼ゲームの研究では社会不安の症状が重いほど協力的な相手の互恵的行動に対する腹側線条体の活動が低い一方で、非協力的な相手の互恵的行動に対しては普通なら起きないはずの腹側線条体の興奮が生じました。

チャットルーム課題は社会不安のfMRI研究でも用いられたことがあります(Guyer et al., 2008)。小学生・中学生ぐらいの子で社会的不安が高い群(全般性不安障害・分離不安障害・社会不安障害患者の混合群)は2週間前にチャットしたくないと分類した相手からの評価を予期すると、左右の扁桃体が興奮し、右扁桃体と左腹外側前頭前野の機能的結合(functional connectivity)が高まりました。しかも、不安症状と扁桃体活動、右扁桃体と左腹外側前頭前野の機能的結合が正の相関を示し、自尊心と右扁桃体と左腹外側前頭前野の機能的結合が負の相関を示しました。この研究でも、今回の論文と同様に、2週間前の自分の評価が相手に開示されていると被験者は思わされていました。

しかし、本論文ではチャットルーム課題でチャットしたくない相手からの評価を予期している時に社会不安高群の両側扁桃体が活動した先行研究(Guyer et al., 2008)とは違い、扁桃体活動に有意差は見出されませんでした。本論文にそのことについての考察が書かれているのですが、ここで詳述することは控えます。

○乳幼児期の抑制的気質の痕跡が脳にある

行動抑制群と非行動抑制群で現在の不安レベル・社会不安強度に有意差がないにも関わらず、相手からのフィードバックの予期時や実際の受容・拒否フィードバックに対する脳活動が両群で異なっていました。これは幼いころの気質が青少年の脳に与える影響は青少年期の不安レベルを超えた次元であるということを意味します(私はこのことを表現するのに「痕跡」という言葉を使うのが好きです)。ちなみに行動抑制の専門家にはこの「痕跡」が社会不安障害の潜在的リスク因子だと考えていて、抑制的気質であっても精神障害にならない人がいるのは環境のおかげだと主張する人もいます。もしかしたら、この「痕跡」が場面緘黙症(選択性緘黙症)のリスク要因なのかもしれませんが、発症年齢のピークが違う両者を同列に論じるのは少し無理があります。

*不安レベルは小児不安関連情動障害尺度(Screen for Child Anxiety Related Emotional Disorders:SCARED)で評価。SCAREDでは親と子ども本人の回答を平均化。また、社会不安は同年齢の青少年(peers)との関係におけるもので、自己報告質問紙である青少年社会不安尺度(Social Anxiety Scale for Adolescents:SAS-A)で評定。

○限界

どの群でも平均IQ(知能指数)が110以上と高かったので、IQがそれよりも低い群で同じ結果がでるかどうかは分かりません。

*IQはウェクスラー知能検査短縮版の全尺度(Wechsler Abbreviated Scale of Intelligence full-scale:WASI)で評価。

フィードバックを得た段階における脳活動では尾状核や左紡錘状回、左上側頭回以外にも左喫前部や右視床、左後帯状皮質、両側後頭回、右中側頭回において行動抑制タイプと実験条件の交互作用が認められたのですが、詳しく書かれていませんでした。せめてグラフぐらいは欲しかったです。

顔写真は馴染みのない他者のものを使用しました。したがって、日常的に接している人からの社会的評価を予期している時の脳活動や社会的評価を受けた時の脳活動については不明のままです。また、本実験はあくまでも過去に抑制的気質だった人が他者からの評価を予期・受理している時の脳活動を調べたものであり、たとえば、行動抑制が強い(と思い込まされている)相手から評価された時の脳活動については不明です。

本論文にはMID課題(Monetary Incentive Delay task)を用いた行動抑制の研究と本実験結果が似ていると書かれていますが、本当にそうなのか疑問です。というのも、MID課題を用いた行動抑制の研究は金銭獲得手がかりと金銭損失手がかりに対する脳の報酬系の活動を一緒くたにまとめている(Pérez-Edgar et al., 2014)のに対し、今回はチャットしたい人からのフィードバック(≒社会的報酬?)を予期している時の脳活動とチャットしたくない人からのフィードバック(≒社会的罰?)を予期している時の脳活動で有意差が検出されているからです。ちなみに、行動抑制だけでなく、社会不安障害のMID課題実験でも尾状核と被殻の活動が予期する金銭額の増加に応じて高まるのは、その試行が金銭損失であるか金銭獲得であるかを問いません(Guyer et al., 2012)

様々な限界があるにせよ、金銭報酬課題であるMID課題で示されていた行動抑制群の脳の報酬系(線条体)の異常が社会的報酬課題でも見出されたという本知見は非常に意義深いものです。ところで、社会不安障害の中学生でもMID課題で脳の線条体がお金の獲得・損失手がかりの金額に敏感に反応します(Guyer et al., 2012)。したがって、社会不安障害でもチャットルーム課題で線条体活動の異常が認められるか検証の余地があります。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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