都会生活者はストレスで扁桃体が興奮しやすい | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

今回のテーマはズバリ「都会生活・都会育ちはなぜ精神障害のリスクを高めるのか?」です。その答えとして以下の論文の研究チームは「都会→脳→精神障害」という論考を提示しています。なお、今回取り上げる論文は、都会居住者は不安障害のリスクが21%高まり、気分障害のリスクも39%高まる、都会生まれ+都会育ちで統合失調症のリスクが倍増するという文献を引用しています(ただし、成人後の都会生活は統合失調症リスクとして小さい)。

Lederbogen, F., Kirsch, P., Haddad, L., Streit, F., Tost, H., Schuch, P., Wüst, S., Pruessner, J. C., Rietschel, M., Deuschle, M., & Meyer-Lindenberg, A. (2011). City living and urban upbringing affect neural social stress processing in humans. Nature, 474(7352), 498-501. doi:10.1038/nature10190.

★概要

○実験手続き

健康な大人の被験者32名。

実験課題としてモントリオールイメージングストレス課題(Montreal Imaging Stress Task:MIST)を用いました。MISTとは時間制限がある中で計算を行う社会的ストレス課題のことです。正解率を25~40%に固定するため、難易度を調整しました。嘘で低い成績を伝えたり、ヘッドフォンを通して被験者に否定的なコメント(フィードバック)を与えたりしました。

MIST前後に主観的ストレスレベルを視覚的アナログ尺度(Visual Analogue Scale:VAS)で評定し、唾液中コルチゾール濃度、心拍数、血圧も計測しました。

MIST中にfMRI(機能的磁気共鳴画像法)で脳活動を計測しました。脳活動の対比は【MISTの脳活動-社会的ストレスがない統制課題の脳活動】で行いました。

都会レベルの定義は以下の通りです。

都会レベル1:田舎
都会レベル2:人口1万人以上の町
都会レベル3:人口10万人以上の都市

○結果

モントリオールイメージングストレス課題(MIST)により唾液中コルチゾール濃度、心拍数、血圧反応が高まりました(→ストレスの誘発に成功)。MISTで活動が高まった脳部位は右側頭頭頂接合部、前帯状皮質、後帯状皮質、両側島皮質、両側視床下部でした。MISTによってコルチゾール濃度が高まるほど、両側海馬、両側扁桃体の活動が低くなりました。

本論文のポイント1:現在都会生活している人はMISTで扁桃体の活動が高くなりました。グラフを見ると、田舎の人は社会的ストレス課題に対する扁桃体の活動はマイナスで一番低く、次の町生活者は扁桃体活動にほとんど変化がなく、最後の都市生活者は一番扁桃体が活性化していました。

本論文のポイント2:都会育ち年数が高いほどMISTで前帯状皮質脳梁膝周囲部の活動が高まりました(r=.56)。なお、前帯状皮質脳梁膝周囲部は扁桃体を鎮める脳領域です。

*都会育ち年数とは15歳までの都会生活年数のことです。具体的には各都会レベルの数字(1~3)に居住年をかけて、それらを足し算することで算出しました。

補足分析では、都会育ち年数が高いほど、MISTでの扁桃体と前帯状皮質脳梁膝周囲部の機能的連関(functional connectivity)が弱まっていました(現在の都会生活の影響は有意ではない)。

○再現実験

これらの結果は23名の参加者(健康な大学生)からなる別のコホート研究でも再現されました。ただし、MISTではなく、別の社会的ストレス課題を実施しました。算術課題と心的回転課題の両方を行ったのですが、その際に被験者は時間制限に加えてビデオを通して実験者からネガティブフィードバックを受け続けました。

また、町居住者、田舎居住者24人を追加して同じ実験をしても結果が再現されました。

○単なる認知課題では都会の影響がない

MISTなどの社会的ストレス試験では計算課題を実施していたので、上の実験結果は社会的ストレスそのもののが関係しているのかそれとも単に認知課題が関係しているだけなのか分かりませんでした。そこで、37人の健康な大人を対象に以下の統制実験を行いました。両方ともストレス負荷なしで行った点がポイントになります。

・n-back課題:n-back課題とはワーキングメモリ課題(working memory task)の1種で、n個前の刺激を記憶・回答する実験課題です。ワーキングメモリとは頭の中に情報を一時的に保持し、それを操作する能力のことです。短期記憶は保持するだけですが、情報操作を含めるとワーキングメモリになります。ワーキングメモリモデルといえばAlan Baddeley(アラン・バドリー)さんですね。彼を知らない心理学専攻生は勉強しなおした方が良いですよ。

・表情マッチング課題(emotional face matching task):概要が知りたい方は全般性社会不安障害(全般性社交不安障害)で恐怖表情に対する扁桃体活動の亢進をオキシトシンスプレー(シントシノン点鼻薬)の投与で弱めたという研究(Labuschagne et al., 2010)も表情マッチング課題を使用していましたので、リンク先のオキシトシン研究を参考にしてください。

統制実験の結果、現在の都会生活、都会育ち年数ともに両課題での扁桃体・前帯状皮質の活動と相関しないことが分かりました。これはサンプルサイズを80に増やしても変わりませんでした。

★コメント

以上をまとめると

時間制限がある中で計算や心的回転を行う社会的ストレス課題における扁桃体の活動は現在都会に住んでいる人で高くなり、同じ課題における前帯状皮質脳梁膝周囲部の活動は都会生活歴が長くなればなるほど、高くなる

ストレスなしのワーキングメモリ課題(n-back課題)や表情マッチング課題では現在の都会生活や都会育ち年数と前帯状皮質、扁桃体の活動に何の関係もなかったことから、上の結果はストレス課題にだけ当てはまる現象である


ということになります。疫学研究では現在の都会生活が不安障害や気分障害のリスク因子で、過去の都会生まれ・都会生活が統合失調症のリスクであることが示されていたので、疫学研究とfMRI研究の結果が一致していると論文の筆者は書いています(不安障害・気分障害と扁桃体、統合失調症と前帯状皮質脳梁膝周囲部の関係について、本論文中で議論されていますが、省略します)。

書きませんでしたが、少なくとも最初の実験では主観的健康、抑うつムード、社会的サポート(ソーシャルサポート)、性格は都会レベルによって違うことはありませんでした(ベースラインのコルチゾール濃度も普通)。また、都会と脳活動の関係は人口統計学的要因では説明できませんでした。さらに、被験者はすべて健康な人です。したがって、精神疾患の結果であるという解釈もできません。

*主観的健康は健康関連QOL尺度、SF-36(Short Form-36)の12項目版で評価。抑うつムードはハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton Depression Scale:HMD)で、ソーシャルサポートはベルリンソーシャルサポート尺度(Berlin Social Support Scale:BSSS)で、性格はビッグファイブ質問紙-10(Big Five Inventory-10)で評定。

いずれも都会成育歴または現在の都会生活と他の脳領域の活動は相関しませんでした。これは多重比較の補正をしないでも有意でありませんでしたから、説得力のある「領域特異性の都会効果」となっています。ただし、相関が小さいから有意性が検出できなかった脳領域の存在も否定できません。

*多重比較の補正とは統計的分析を複数実施することによって増加する第一種の過誤(タイプ1エラー)が起こる確率を適正な値に補正する方法のことです。第一種の過誤とは本来なら差がないのに誤って差があると判断することです。

これはドイツの研究なので、日本で同様の結果が出るかは分かりません。

「都会→脳→精神障害」の3者関係の内、都会→脳しか示されていません。したがって、1つの研究の中でこの3者関係を示すことが必要です。また、今回示された「都会→脳」でも因果関係の証明にまでは至っておらず、追跡研究(縦断的研究)が望まれます。あるいは、田舎や都会に引っ越すランダム化比較試験(RCT,Randomized Controlled Trial)で脳活動に変化があれば、因果関係を立証できます。ただ、前帯状皮質脳梁膝周囲部の場合は子供に引っ越してもらわないと意味がないのですが。

*引っ越しの実験だと!と驚かれるかもしれませんが、たしかお金あげるから(または支払いを免除するから)引っ越してねみたいな研究があったような、なかったような。あやふやな記憶ですみません。私のブログ『心理学、脳科学の最新研究ニュース』のどこかに類似する研究を取り上げているかも?

また、都会生活の何が脳に影響したり、精神障害の発症リスクを高めたりするのかを明らかにすることも必要です。たとえば、都会に緑が少ないことが原因の1つだということが分かれば、都会に緑を増やす臨床試験で何らかの効果がでることが期待されます。人口の密集が原因だと分かれば、過疎地域での生活を応援する根拠になります(ちなみに論文中では都会生活での社会的ストレスを推しています)。

一口に扁桃体といっても場所によって機能が異なります。一般に扁桃体は不安・恐怖の中枢だと考えられていますが、扁桃体の中でも基底外側部は脅威刺激に対する警戒を弱める働きをしているという研究(Terburg et al., 2012)もあり、そう単純ではありません。また、扁桃体には不安・恐怖を抑制する領域や神経連絡もあります。したがって、扁桃体の下位領域ごとの分析が必要です。

ただ、本論文のデータは結構綺麗で、これが本当ならば説得力を感じます。不安障害でも都会生活が脳に影響し、その効果が不安症状まで波及するかどうか調査する必要があります。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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