かんもくネットの場面緘黙の診断基準は誤訳? | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

DSMの場面緘黙の診断基準の最後、もしかしてかんもくネット(Knet)が誤訳されているんではないかという疑念が浮かび上がってきました。「DSM-5での選択性緘黙(場面緘黙症)の詳細」という記事を執筆中に浮かび上がってきた疑惑です。まずかんもくネットの翻訳を見てみましょう(太字は私の勝手な脚色です)。なお、翻訳はかんもくネットHPの「場面緘黙とは」というページの「診断基準は?」というところから取ってきています。

*DSMとは米国精神医学会が発行する「精神疾患の診断・統計マニュアル」のこと。英語名は「Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders」です。また、DSMにならって選択性緘黙といえばいいのか、それともかんもくネットの流儀に従って場面緘黙といえばいいのか迷うところですが、ここでは場面緘黙としておきます。

かんもくネットの翻訳:コミュニケーション障害(例えば、吃音症)ではうまく説明できない,また,広汎性発達障害、統合失調症またはその他の精神病性障害の経過中以外に起こるものである

次に原文です。かんもくネットのDSMの翻訳は第何版のものから取ってきたのか不明ですが、ここではDSM-IV-TR(DSM第4版改訂版)のものを載せておきます。

原文(DSM-IV-TR):The disturbance is not better accounted for by a Communication Disorder (e.g., stuttering) and does not occur exclusively during the course of a Pervasive Developmental Disorder, Schizophrenia, or other Psychotic Disorder.

これをよく読むと、DSM-IV-TRでは広汎性発達障害、統合失調症またはその他の精神病性障害の経過中の場面緘黙も許容していることが分かります。これはexclusivelyがduring the course of a Pervasive Developmental Disorder~にかかっており、それをdoes notで否定しているためです。したがって、私の日本語訳は以下の通りです。

私の日本語訳(DSM-IV-TR):この疾患はコミュニケーション障害(例:吃音症)ではうまく説明できず、広汎性発達障害や統合失調症、その他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではない

ちなみに、DSM-5(DSM第5版)の該当箇所は以下のものです。吃音症が小児発症流暢性障害に、広汎性発達障害が自閉症スペクトラム障害(自閉症スペクトラム症)になっていることを除き、DSM-IV-TRとあまり違いはありませんね。問題のdoes not occur exclusively during the course ofの表現も同じですし。

DSM-5:The disturbance is not better explained by a communication disorder (e.g., childhood-onset fluency disorder) and does not occur exclusively during the course of autism spectrum disorder, schizophrenia, or another psychotic disorder.

私の日本語訳(DSM-5):この疾患はコミュニケーション障害(例:小児発症流暢性障害)ではうまく説明できず、自閉症スペクトラム障害や統合失調症、その他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではない。

ちなみに、日本の2大緘黙団体のもう片方であるかんもくの会HPの「場面緘黙症(選択性緘黙)の概説」では「この障害はコミュニケーション障害(例:吃音症)ではうまく説明されないし、また、広汎性発達障害、統合失調症またはその他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではない」という翻訳を採用しています。これは独立行政法人国立特別支援教育総合研究所の「障害のある子どもの教育について学ぶ」の「情緒障害教育」の「緘黙について」というページとほとんど同じです。

インターネットの無料百科事典であるウィキペディア(Wikipedia)でも「場面緘黙症」のページで「コミュニケーション障害(例えば、吃音症)では説明がつかず、また、広汎性発達障害、統合失調症またはその他の精神病性障害の経過中以外にも起こるものである」としています。どれもかんもくネットの翻訳よりは私の翻訳の方に近いですね。

Twitter上では「とある精神科医(@Psycho_Noteアカウント)」と名乗っている精神科医の方はご自身のブログ「ぷしこノート」にて、いち早くDSM-5の翻訳案を公開されていました。この方の翻訳でも「この障害はコミュニケーション障害(例、childhood-onset fluency disorder)ではうまく説明されず、自閉症スペクトラム障害、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではない」となっています。

以上の調査結果を踏まえると、かんもくネットのDSMの翻訳で最後の項目は誤訳かもしれません。

○かんもくネットの誤訳?が与える影響

いずれの翻訳でも広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害・自閉症スペクトラム症)、統合失調症またはその他の精神病性障害の経過中以外において場面緘黙という症状が生じることが要件なのは変わりありません。

しかし、かんもくネットの翻訳ですと、広汎性発達障害、統合失調症またはその他の精神病性障害の経過中の場面緘黙は許容しないぞという姿勢を感じるのに対して、私やかんもくの会、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所、ウィキペディア、とある精神科医さんの日本語訳では広汎性発達障害や統合失調症、その他の精神病性障害の経過中の場面緘黙も許容しますよという姿勢の違いを感じてしまいます。気のせいでしょうか?

誤訳?のままだと、幼稚園・保育園・小学校からずっと場面緘黙で思春期以降に統合失調症を発症した場合どうなるのか疑問が残ります。特に子供のころに場面緘黙の診断が下りて、それがずっと継続した人の場合、統合失調症になったから場面緘黙の診断を取り消すという処置になるのでしょうか?

もし場面緘黙の診断を取り消さないということであれば、「(場面緘黙は)広汎性発達障害、統合失調症またはその他の精神病性障害の経過中以外に起こるものである」よりも「(場面緘黙は)自閉症スペクトラム障害や統合失調症、その他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではない」という翻訳の方が適切だと思われます。

まあ、思春期以降に発症することの多い統合失調症はともかくとして、子供の頃から症状が現れる自閉症に関しては議論の余地がありますけどね。ただ、「(場面緘黙は)自閉症スペクトラム障害の経過中にのみ起こるものではない」という表現の方が適切であった場合、少なくともDSMの診断基準だけでは「自閉症が場面緘黙の上位の診断となる」、「場面緘黙の診断より自閉症の診断の方が優先される」という主張の説得力が低下します。

*「自閉症が場面緘黙の上位の診断となる」という判断がなされるのは、おそらく自閉症児・者の緘黙と純粋な緘黙児・者の緘黙とではその背景が異なることが要因の1つであろうと思われます。しかし、機械的に自閉症だから普通の緘黙とは異なると判断するのは危険です。というのも、自閉症児・者の緘黙のすべてが普通の緘黙とは異なることを証明するのは不可能だからです。

○参考URL(2014年7月10日現在)
不安障害の診断基準 DSM-5 ぷしこノート
http://psychonote.seesaa.net/article/367513105.html

*かんもくネット、かんもくの会、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所、ウィキペディアに関しては調べればすぐに分かるため、わざわざURLを明示しませんが、2014年7月10日現在のものとみなしてください。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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