5HTTLPRが認知行動療法の予後を予測する | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

今回は不安障害児に対する認知行動療法の効果はセロトニン関連遺伝子のタイプで予測できるという研究です。これが、認知行動療法の効果が遺伝子多型と関係していることを薬物療法をしていない不安障害の児童で示した初めての論文になります。

近年、セラピー遺伝学・心理療法遺伝学(Therapygenetics)といって遺伝子マーカーで心理療法の効果を予測し、治療の個別化をはかる動きが活発になってきています。本論文はこの流れにそったものです。ちなみに、遺伝子型により薬の効果を予測し、薬物療法の個別化を目指すのは薬理遺伝学(Pharmacogenetics)で、これは以前から精神医学の分野でも行われていました。

*遺伝子とゲノムは違いますが、薬理遺伝学と薬理ゲノム学(Pharmacogenomics)にも違いがあるそうです。本稿ではそんなに厳密に区別せず、論文中で用いられていた表現をそのまま借用しました。

Eley, T. C., Hudson, J. L., Creswell, C., Tropeano, M., Lester, K. J., Cooper, P., Farmer, A., Lewis, C. M., Lyneham, H. J., Rapee, R. M., Uher, R., Zavos, H. M., & Collier, D. A. (2012). Therapygenetics: the 5HTTLPR and response to psychological therapy. Molecular Psychiatry, 17(3), 236-237. doi:10.1038/mp.2011.

★概要

○研究手続き

359人の子どものデータを分析しました。彼らは不安障害児(年齢6~13歳)でした。彼らからDNAを採取し、セロトニントランスポーター遺伝子多型(5HTTLPR)を調べました。5HTTLPRは2種類(短いS型、長いL型)の遺伝子型の組み合わせで、SS・SL・LLの3種類を調べました。

不安障害児は認知行動療法(CBT)を受けました。追跡期間は6カ月間としました。

○結果

5HTTLPRがSS型の子どもの方がSL/LL型の子どもよりも、CBTによる不安障害の寛解(回復)率が追跡後で高くなりました。具体的な数字でいうと、5HTTLPRがSS型では78.4%の不安障害児に寛解(回復)が生じたのに対し、5HTTLPRがSL/LL型の不安障害児では58.4%でした(オッズ比は0.39)。また、CBT開始前の重症度から追跡後の重症度への変化も5HTTLPRで予測できました。

*上の数字は主診断の値で、副診断の不安障害も含めるとCBTの効果が持続したのはSS型が60.8%、SL/LL型が42.0%でした(オッズ比は0.44)。

これらの結果は他の予測因子を統制しても有意でした。他の予測因子として統制したものは気分障害、治療開始前の症状の重篤度、母親の精神病理、追跡期間、年齢、性別、治療場所(オーストラリアのシドニー or イギリスのレディング)でした。

ただし、5HTTLPRの効果があったのは6か月の追跡期間後のことで、CBT治療の直後では影響は認められませんでした。

★コメント

5HTTLPRがSL/LL型の子どもよりも、SS型の子どもの方が認知行動療法の効果が持続しました。これはS型が環境要因に敏感で、ストレスが低い場合には心理的健康が良く、ストレスが高くなると心理的健康が悪いという近年の仮説と一致すると論文著者は考えています。

この結果はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)による全般型社会不安障害(全般型社交不安障害,全般型社交不安症)の治療で5HTTLPRがLL型の人の方が効果がでるという先行研究(Stein et al., 2006)とは逆です。これは少なくとも5HTTLPRが関わるメカニズムではSSRIと認知行動療法の効き方が異なることを示唆しています(ただし、5HTTLPR以外の要素も異なるメカニズムであるかどうかは不明)。また、SL/LL型の人にSSRI(+心理療法)を、SS型の人に認知行動療法を、という医療の個別化ができる可能性も示しています。ただし、SSRIの研究は大人を対象としたものだったので、子どもでも同じ結果が得られるかどうかは分かりませんが。

5HTTLPRは認知行動療法直後の成果に影響せず、6か月後に差がでました。これは5HTTLPRは認知行動療法の効果そのものではなく、その持続に影響している可能性を示唆します。実際、グラフを見ると、5HTTLPRがSL/LL型の不安障害群でも認知行動療法直後と追跡後で不安症状の重さはそんなに変化していませんが、5HTTLPRがSS型の不安障害群では、認知行動療法直後から追跡後で不安症状が軽快しています。5HTTLPRがSS型だと認知行動療法が継続的に不安を低減させる可能性が示唆されます。

全般性不安障害・パニック障害でfMRI(機能的磁気共鳴画像法)により認知行動療法の効果を予測できるとの研究(Ball et al., 2014)は個人ごとの予測でした。一方、本研究では認知行動療法の予後が悪いはずのSL/LL型の子どもでも40~60%に効果が確認されていました。ゆえに、fMRIの方が強いのかもしれませんが、両者を組み合わせるとどうなるのか学術的な関心がでてきます。ただし、実際の臨床現場では検査費用の問題もあり、実行は難しいかもしれまん。

論文中には不安障害の具体的な内訳が示されていませんでした。これはletter論文(Letter to the Editor論文)のためだと考えられます。しかし、NatureのHPのSupplementary Information(補足情報)というページを見れば内訳が分かります。それによると、分離不安障害を主診断とする患者が17.8%(副診断も含めると47.4%:以下同様)、社会不安障害を主診断とする患者が21.4%(63.2%)、全般性不安障害を主診断とする患者が45.1%(80.2%)、特定恐怖症を主診断とする患者が9.2%(57.1%)、パニック障害/広場恐怖症を主診断とする患者が0.8%(3.1%)、強迫性障害を主診断とする患者が3.6%(10.3%)、PTSDを主診断とする患者が0.3%(0.6%)、特定不能の不安障害を主診断とする患者が1.7%(1.9%)いました。うつ病患者は3.4%で、Dysthymia(気分変調性障害,気分変調症)は6.7%でした。

*NatureのSupplementary Informationによれば、追跡期間が3カ月で終わっている患者もいました。

子どもでは認知行動療法の副作用があると考える研究者もいるので、注意が必要です。また、5HTTLPRはL型をLa(rs25531A)とLg(rs25531G)に分けて、Lg型をS型とみなす分析も必要となります。これはLg型が機能的にS型と変わらないからです。ちなみに全般型社会不安障害に対するSSRIの効果は5HTTLPRで予測できるとの研究(Stein et al., 2006)では、La/La型の80%、La/S・La/Lg型の74%、S/S・ Lg/S・Lg/Lg型の38%にSSRI(パキシル・デプロメール)が効果的でした。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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