神経成長因子NGF遺伝子多型が認知行動療法の予後を予測する | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

近年、セラピー遺伝学・心理療法遺伝学(Therapygenetics)といって、心理療法の効果を遺伝子マーカーで予測する研究が進展しています。遺伝子情報に基づく医療の個別化、心理療法の個別化というわけです。今回の論文もその1つで、不安障害児への認知行動療法の効果はNGF(Nerve growth factor)という神経成長因子の遺伝子型で予測できるというものです。

Lester, K. J., Hudson, J. L., Tropeano, M., Creswell, C., Collier, D. A., Farmer, A., Lyneham, H. J., Rapee, R. M., & Eley, T. C. (2012). Neurotrophic gene polymorphisms and response to psychological therapy. Translational Psychiatry, 2, e108. doi:10.1038/tp.2012.33.

★概要

○研究手続き

374人の不安障害児(年齢6~13歳)とその親が協力しました。彼らの内359人はセロトニントランスポーター遺伝子多型(5HTTLPR)が認知行動療法の効果に与える影響を調べた先行研究(Eley et al., 2012)とサンプルが重なっていました。しかし、以下の結果は5HTTLPRを統制しても変わりませんでした。

不安障害の内訳(括弧内は副診断を含む数字)は分離不安障害が18.7%(48.5%)、社会不安障害(社交不安障害,社会恐怖症,社交恐怖症)が20.9%(62.5%)、全般性不安障害が44.7%(79.9%)、特定恐怖症が9.4%(56.7%)、パニック障害/広場恐怖症が0.8%(3.0%)、強迫性障害が3.5%(10.5%)、PTSD(心的外傷後ストレス障害)が0.3%(0.8%)、特定不能の不安障害が1.9%(2.1%)でした。また、うつ病併発者が3.5%で、気分変調性障害・気分変調症(dysthymia)併発児が6.7%、AD/HD(注意欠陥/多動性障害)児が11.5%、反抗挑戦性障害が12.1%でした。

不安障害児はマニュアル化された認知行動療法(Cool Kids Program)を受けました。認知行動療法の効果は治療期間終了後と各追跡期間に心理尺度で評価しました。追跡期間は3ヶ月・6ヶ月・12ヶ月で人によって違いましたが、6カ月後が一番多くなりました。

DNAを口腔粘膜から採取し、遺伝子情報を分析しました。注目したのは神経成長因子NGF rs6330(Ala35Val:104C>T)と脳由来神経栄養因子BDNF rs6265(Val66Met:G196A:バリン/メチオニン)の2つでした。これらはSNP(一塩基多型)でした。

*一塩基多型とはDNA塩基配列の内、1つの塩基だけが他人とは異なっている遺伝子多型のことです。

なぜ、この2つなのかというとNGFとBDNFはともに神経栄養因子だからです。神経栄養因子とは脳細胞の生存に必要な物質のことで、神経細胞の発生、分化、再生に関与するとされています。神経栄養因子は神経可塑性に関わっているとされるので、学習に依拠する認知行動療法の効果は神経栄養因子遺伝子多型の種類によって異なることが理論的に予測されます。ちなみに、本論文によれば、NGF遺伝子多型は不安や感情障害と関係するようです。BDNF遺伝子多型と不安(神経質傾向や損害回避等を含む)については一貫した結果が得られていないようです。

○結果(特に断りがない限り、異なる追跡期間を一緒くたにした分析)

認知行動療法終了後に不安障害が寛解した子どもは336人(90%)でした。追跡期間後でも不安障害がなかった子どもは278人(74%)でした。

NGFが認知行動療法の予後を予測しました。具体的にはNGFがCC型の不安障害児の53.2%が、NGFがCT型の不安障害児の63.5%が、NGFがTT型の不安障害児の76.7%が追跡期間後に不安障害が寛解していました。NGFアレルがCCの不安障害児と比較して、NGFアレルがCTかTTだと追跡期間後に不安障害が寛解していることが多くなりました(オッズ比は0.60(CI:0.42-0.85))。

この結果は他の要因を統制しても変わりませんでした(オッズ比:0.58(0.40-0.84))。その他の要因として統制したものは追跡期間、年齢、性別、治療場所(オーストラリアのシドニー・イギリスのレディング)でした。また、白人以外のデータを投入しても有意なままでした。

以上の結果は主診断が不安障害の場合に限った分析で、副診断も含めると有意傾向になりました(オッズ比は0.73(CI:0.52-1.02))。他の要因を統制しても有意傾向のままでした。

他の予測因子を統制してもNGF遺伝子型は不安障害の寛解を予測しました(オッズ比は0.62(CI:0.41-0.92))。統制した他の予測因子は気分障害の合併、心理治療前の症状の重さ、母親の精神病理でした。また、不安障害の副診断も含めて予測要因を統制しても、有意傾向は変わりませんでした。

*治療開始前の両親の精神病理(うつ症状、不安症状、ストレスレベル)は抑うつ不安ストレス尺度21(Depression Anxiety Stress Scales-21:DASS-21)で評価。DASS-21の3つの下位尺度の平均を算出し、1つの得点に集約。

一方、BDNFアレル(GG・GA・AA)と認知行動療法の効果は関係しませんでした。認知行動療法終了直後ではNGF rs6330・BDNF rs6265ともに有意な影響は検出されず、追跡期間後だけNGF遺伝子多型で認知行動療法の効果を予測できました。

NGFと5HTTLPRの交互作用、BDNFと5HTTLPRの交互作用による予測は有意でありませんでした。NGF遺伝子型、BDNF遺伝子型を考慮しても5HTTLPRの予測能力は有意なままでした(5HTTLPRの予測能力については「5HTTLPRが認知行動療法の予後を予測する」をご参照ください)。5HTTLPR遺伝子型を考慮してもNGFの予測能力は保持されたままでした。他の臨床的因子を統制しても、5HTTLPRとNGFはともに認知行動療法の予後を予測しました。

★コメント

NGF遺伝子多型で認知行動療法の予後を予測できたのは追跡期間後だけで、治療終了直後の効果は予測できませんでした。これは5HTTLPRによる認知行動療法の効果の予測を報告した先行研究(Eley et al., 2012)と一致します。したがって、5HTTLPRと同様にNGFは認知行動療法の効果そのものではなく、その持続を調整する遺伝子といえます。

ただ、5HTTLPRやNGFが認知行動療法の予後に影響する詳細なメカニズムは不明です。候補の1つとしては、認知行動療法で学習したスキルを日常生活で持続的に実践する動機づけが考えられますが、5HTTLPRやNGFが動機づけと関係しているという話は聞いたことがありません。だとすると、学習と関連しているのかもしれません。NGFは学習や神経可塑性と関連しますし、5HTTLPRは恐怖条件づけの学習等との関係性が指摘されているからです。

書きませんでしたが、フォローアップできた人とフォローアップできなかった人がいました。フォローアップできなかった人は気分障害の合併者が多く、年長で、治療前の不安障害が重症ではありませんでした。つまり、フォローアップによってサンプルが歪んでしまっているので、この影響が気になります。うがった見方をすれば、NGFのSNPで認知行動療法の予後が予測できる人だけが(平均的に)フォローアップできたと考えることも可能です。

機能的磁気共鳴画像法(fMRI)での認知行動療法が効くかどうかの予測(Ball et al., 2014)は個人レベルで非常に強いのですが、これはあくまでも薬物の摂取等の他の要因を統制した上での識別です。SNP等の遺伝子多型は滅多に変わることはありませんが、脳活動は薬の服用状況等に左右されるので、このあたりがfMRIの欠点なのかもしれません(ただし、厳密に言うと検証されていないだけなので、fMRIの弱点かどうかは不明)。また、遺伝子マーカーも複数組み合わせるとfMRI同様に個人ごとの予測ができるのかもしれません。

書きませんでしたが、5HTTLPRで認知行動療法の予後を予測した先行研究(Eley et al., 2012)と同様に遺伝子型頻度に不安障害群と統制群で有意差はありませんでした。精神障害の遺伝子研究においてはサンプルを多く集めないと有意性が検出されないので、もしかしたらサンプルサイズが小さかったことが遺伝子型の頻度分布の違いで有意差がなかったことの原因かもしれません。しかし、それでも認知行動療法の効果を予測できたということは、遺伝子型頻度そのものの違いよりも遺伝的因子が心理療法の予後に及ぼす効果の方が大きいことが示唆されます。ただし、薬を服用していない不安障害児の認知行動療法の効果をNGF遺伝子型で予測できたのはこれが初めてであり、効果量が過大に評価されている可能性もあります。

BDNF遺伝子多型と認知行動療法の効果の関係は有意ではありませんでした。しかし、ただ単に効果量が小さいので、有意性が検出できなかっただけかもしれません。サンプルサイズを増やして検討してみる価値はまだ残されています。

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場面緘(かん)黙症とは?
ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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