社会不安が高いと顔のアイデンティティを再認するのが苦手 | 緘黙ブログー不安の心理学、脳科学的知見からー
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問題を起こさない緘黙児は放置されるか?」という記事に追記をしました。3歳で「かん黙」があった園児5名の内60%が5歳までに「かん黙」を克服したという研究です。日本の調査になります。

興味深い研究成果をすべてネタにできればいいのですが、生憎そうもいきません。そこで、アブストラクト(要旨)と実験方法、実験結果それから考察の一部を読んだ、社会不安(障害)に関する興味深い論文を取り上げます。ほとんどが最新の研究成果です。

なぜ、社会不安なのかというと、場面緘黙症児(選択性緘黙症児)は社会不安が高いか、もしくは社会不安障害(社交不安障害,社交不安症)を合併していることが多いという知見があるからです。

今回は社会不安が高い人ほど顔のアイデンティティを再認するのが苦手という研究です。

なお、社会不安以外の興味深い(面白い)研究については『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』をご覧ください。

最近の記事⇒胸に手を当てると誠実に見え、実際に行動が誠実になる(たとえ失礼でも)

↑手を胸にあてている人は誠実に見え、本人自身も誠実になるそうです。手に胸をあてると、採用面接で誇張表現をしても信頼できると感じる、ブサイクな女性にお世辞を言わなくなる(失礼でも誠実になる)、嘘をつかなくなるという実験です。

Davis, J. M., McKone, E., Dennett, H., O'Connor, K. B., O'Kearney, R., & Palermo, R. (2011). Individual differences in the ability to recognise facial identity are associated with social anxiety. PLoS ONE, 6(12): e28800. doi:10.1371/journal.pone.0028800.

オーストラリアの首都のキャンベラにあるオーストラリア国立大学心理学部と西オーストラリアのパースにあるアーストラリア認知的卓越・認知障害研究会議センター(Australian Research Council Centre of Excellence in Cognition and Its Disorders:CCD)の研究者たちによる論文です。

○背景

社会不安と表情認識能力については研究が盛んに行われています。社会不安そのものではありませんが、このブログだと「不安の高低によって恐怖、幸福の表情の認識に違いがある」という記事が参考になりそうです。

しかし、顔のアイデンティティ(正体)を認識する能力自体に関しては研究がほとんどありません。したがって、本論文では社会不安と顔のアイデンティティを認識する能力(ここでは再認記憶)の関係を調べました。

*再認とは今見ている刺激が以前見た刺激と同じかどうかを判断することです。

○実験手続き

実験データは互いに異なる3つの研究から抽出。被験者は白人で、138人(男性54人)。平均年齢は22歳(範囲は18~36歳)。不安障害患者は除く。

ケンブリッジ顔記憶検査(Cambridge Face Memory Test:CFMT)で顔アイデンティティの再認スキルを調べました。CFMTとは相貌失認の検査にも使用されることがある顔の再認テストのことです。相貌失認とは人の顔が分からないことを主症状とする病気(または障害)のことです。詳しくは上にご紹介したブログ『心と脳の探求-心理学、神経科学の面白い研究』の記事「後天的相貌失認患者は声による人物認識が得意」等をご覧ください。

CFMTの手続きは学習フェイズとテストフェイズに分かれます。用いた顔は全て無表情でした。学習フェイズで顔刺激を6つ記憶してもらいました。顔の呈示期間は3,000msでした。テストフェイズでは学習フェイズで呈示された顔の内1つとその他の新しい顔刺激(妨害刺激)の両方を見せ、以前記憶した顔を回答してもらいました。これを他の5つの顔刺激でも繰り返しました。

実はこれはまだ序の口でCFMTではさらにCFMT-novelとCFMT-noiseの2種類の改変版を利用しています。CFMT-novelは記憶した顔が別の場所・別の照明条件で出てきて、妨害刺激となる顔が以前記憶した顔が出現したのと同じ場所・同じ照明条件で出現するものです。CFMT-noiseは鼻や口等の形状を変えて、難易度を高くしたものです。

社会不安は社会的交流不安尺度(Social Interaction Anxiety Scale:SIAS)で評定しました。また、状態-特性不安質問紙の特性不安項目(State-Trait Anxiety Inventory:STAI-T)で一般的不安を評価しました。

○実験結果

社会不安が高いほど、顔のアイデンティティを再認する能力が低くなりました。これは3つのCFMTを合わせたCFMT-total得点との相関を求めた結果です。また、CFMT得点から判断して相貌失認だと思われる人を除いても結果に変わりはありませんでした。さらに、特性不安と顔のアイデンティティの再認能力には有意な相関関係が検出されなかったことから、これは社会的不安にだけ当てはまることだと考えられました。

非言語的IQ(知能指数)はCFMT得点・SIAS得点と相関せず、SIAS得点(社会不安)と視覚記憶の成績も相関しませんでした。これらを根拠に研究チームは、社会不安と顔再認成績の関係は非言語的IQや視覚記憶の影響を受けていないと主張しています。

*非言語的IQはキャッテル文化フェア知能検査尺度3(Cattell's Culture Fair Intelligence Test Scale 3:CFIT III)で、視覚記憶はケンブリッジ車記憶検査(Cambridge Car Memory Task:CCMT)で評価。

ただし、社会不安と顔の再認成績が負の相関関係を示したとしても、それは弱いものでした。具体的な数字を書くと、ケンドールの順位相関係数(ケンドールのτ)でτ(B)=−.128、スピアマンの順位相関係数(スピアマンのρ) でr=−.177でした。相関が最も強く出たCFMT-novelでもτ(B)=−.159、r=−.226でした。

○コメント

論文著者は社会不安が高いと人の顔を見る機会が減ったり、たとえ機会があったとしても顔に視線を向けなかったりするので、顔の認識能力の発達に悪影響がでると推論しています。また、発達性相貌失認が社会不安障害の症状の内、社会的交流不安のリスクになると主張する研究者もいることから、顔の認識能力の低さから社会的不安に至ることもあるかもしれないと述べています。

しかし、本実験結果だけでは社会不安の結果、顔の再認成績が低くなったのかそれとも顔の再認成績が低いから社会不安が高くなったのか、それとも両方で双方向性があるのか、不明のままです。あるいは非言語的IQ・視覚記憶以外の第三因子が関与している可能性もあります。

今回の調査だけでは、顔の知覚段階から異常なのか、それとも顔の符号化、保持、想起のいずれの記憶段階からおかしいのか不明です。今後の研究に期待したいところですね。

また、今回は精神疾患でない人での実験なので、社会不安障害等の不安障害患者でもテストしてみる価値があります。

関連記事⇒暗闇で状態不安が高い人は怒り顔の再認記憶が苦手になる

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ある特定の場面(例.学校)でしゃべれなくなってしまう症状を場面緘黙症といいます。言語能力や知能には問題がないにもかかわらず、話せないのです。一般的に場面緘黙症の人は自らの意思で口を閉ざしているのではなく、不安や恐怖のために話せないとされます。中にはあらゆる場面で話せない全緘黙症になる事例もあります。
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マーキュリー2世

Author:マーキュリー2世
性別:男
緘黙経験者で、バリバリの現役緘黙だったのは小学4年?大学1年。ただし、小学4年以前はほとんど記憶喪失気味なのでそれ以前も緘黙だった可能性あり。現在も場合によっては緘黙/緘動が発動します。種々の研究に言及していますが、私は専門家ではありません。ひきこもり/自称SNEP(孤立無業者)です。

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